【コラム】
槿と桜(61)
「朝」と「夕方」(1)
私はこの8月末に半年ぶりに韓国の親元に帰省しました。この間に韓国と日本はさらに険悪な情勢になっていて、日本のテレビなどマスコミが伝える情報には、針小棒大というか、一面的というか、情報が正確に伝えられていないようでした。両国とも「嫌韓」「嫌日」を煽るかのように、日本の安倍政権と韓国の文在寅政権の対立だけが浮き彫りにされ、韓国人はすべて日本を敵視しているような映像ばかりがテレビやネット上に流されていました。
韓国でもそれは同様の状況で、母からは日本で私に嫌がらせや危害が及んでいるのではないかと心配する電話が何度かありました。もちろん母の杞憂であったことはいうまでもありません。
実は私はユーチューブでこの間、韓国情勢を直接、見ていましたから、韓国内の政治情勢が大きく二分され、対立しているのを知っていました。日本ではなぜか文在寅批判勢力の動きはあまり報道されていませんでしたが。ですから金浦空港から乗ったタクシーの運転手の口からいきなり文在寅大統領批判が飛び出してきても、私は驚きませんでした。
また私の手荷物から日本から来たのがわかったのでしょう、その運転手は日本で3年ほど働いていたことがあったそうで、「日本とは仲良くしないといけない」「日本のビールは美味い」「日が落ちるのが早くて一日が短く感じた」などと私に話しかけていました。
「日が落ちるのが早い」と言われて、私はふと1年前におこなった調査について思い出していました。それは「日本語の表現と韓国人の理解度――その差異から日本人の思考様式を探る基礎的研究」というもので、大学の研究助成を受けての調査でした。
この研究ではいくつかの日本語の表現(主に曖昧な表現)を韓国の大学の日本語学科で学んでいる学生にその意味を質問し、どのように理解しているのか調査するのが第一段階でした。次に同じ表現を日本の学生に質問し、やはりどのように理解しているのか調査するのが第二段階で、その両者の理解の差異から、韓国人ではなく日本人の思考様式を知ろうとする、少々ねじれた研究をするための入り口の調査でした。
この調査の中に〝「明日の朝、行きます」「今日の夕方、行きます」という表現から「朝」と「夕方」はそれぞれ、何時頃から何時頃まで〟と思うかを訊ねる項目がありました。
調査した対象人数が韓国、日本いずれも、それぞれ150人ほどで、しかも正解があるわけではありませんから、〝一つの傾向が窺える〟といった結果になるのは仕方ないところでしょう。ただ調査対象人数が増えてもおそらく傾向としては変わらないだろうと予想しています。今回はこの調査について少し書くことにします。
この調査結果は以下のようでした。
韓国人学生
「朝」
4時~10時 1,5%、
6時~ 1,5%、 6時~7時 1,5%、 6時~8時 4,6%、
6時~10時 4,6%、 6時~12時 3,3%
7時~ 7,6%、 7時~8時 4,6%、 7時~9時 1,5%、
7時~10時 7,6%、 7時~12時 3,0%
8時~ 7,6%、 8時~9時 4,6%、 8時~10時 7,6%
9時~ 3,0%、 9時~11時 1,5%
それでは日本人学生の「朝」はどうであったのかと言いますと、
4時~11時 1,2%
5時~10時 6,4%、 5時~11時 2,5%
6時~9時 2,5%、 6時~10時 5,1%、 6時~11時 1,2%
7時~ 2,5%、 7時~8時 2,5%、 7時~8:30 1,2%、
7時~9時 6,4%、 7時~10時 11,5%、 7時~11時 3,8%、
7時~12時 1,2% 7:30~11:30 1,2%
8時~10時 7,6%、 8時~11時 5,1%
9時~ 3,8%、 9時~11時 7,6%
10時~ 2,5%
このほかに、「朝」の始まり時間が記されずに、終わりの時間を、9時まで 1,2%、10時まで 5,1%、11時まで 1,2%、としている学生もいました。
以上の数字をまとめてみますと、
「朝の始まり」
・4時から「朝」と見る学生が韓国、日本両国に少数ですがいました。
・5時から「朝」とする学生が韓国無し。日本では8,9%。
・6時から「朝」とする。 韓国15,5%。日本 8,8%。
・7時から「朝」とする。 韓国24,3%。日本29,1%。
・8時から「朝」とする。 韓国19,8%。日本12,7%。
・9時から「朝」とする。 韓国 4,5%。日本11,4%。
・10時から「朝」とする。韓国無し。 日本 2.5%。
6時~8時までの3時間のいずれかを〝朝〟の始まりと捉えていた日本の学生は50,6%、韓国の学生は59,6%でした。日本では5時からを「朝」とする学生が8,9%いましたから、この数字を加えますと、韓国と日本の学生の約60%は6時から8時までのいずれかを〝朝〟の始まりとしていて、ほぼ相似形であることがわかります。
しかし、もう少し細かく数字を比較しますと、韓国の学生は〝9時〟からを「朝の始まり」とするのは4,5%で、〝10時〟以降はいませんでした。
ところが日本の学生では〝9時〟からが11,4%、〝10時〟からが2,5%と、韓国の学生とはかなり異なる時間感覚を持っていることがわかります。
このことは「朝の終わり」の時間帯を見ますと、いっそうはっきりしてきます。
「朝の終わり」
・7時まで。 韓国 1,5%。日本無し。
・8時まで。 韓国 9,2%。日本3,7%(8時30分も含む)。
・9時まで。 韓国 6,1%。日本8,9%。
・10時まで。韓国19,8%。日本30,6%。
・11時まで。韓国 1,5%。日本21,4%。
・12時まで。韓国 6,3%。日本2,4%。
「朝」の終わりを10時までとする学生が両国とも一番多い傾向にあるようですが、日本の学生は韓国の学生より10ポイント以上も多くなっています。しかも際立っているのは「朝」を11時までとする学生が韓国では極めて少数なのに対して、日本では圧倒的に高い数字を示しています。
これは「朝の始まり」感覚が日本人学生の方が遅いのと関連していると同時に、1日の生活スタイルが韓国と日本では異なっていることも関わっているのではないかと推測されます。私がこのように推測をするのは、韓国では「朝の始まり」を5時からとした学生がいなかったこと、韓国人学生の「朝の始まり」に「太陽が昇った時」という回答があった、などからなのですが、こうした推測はまだまだ出てきそうです。(つづく)
<おことわり>
今回は紙幅の関係から「朝」についてだけ、触れました。「夕方」については次回にします。
(大妻女子大学准教授)
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