【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(51)

「文化理解・比較」外国人目線で日本語テキストを読む①

坪野 和子

 寒い暖かいが繰り返されている東京近郊。今年の雪は氷のような雪と粉雪の2回の雪。昭和時代、団地の自宅から雪景色を楽しみました。先日、悪寒を感じたのですが、風邪でもコロナでもなく、前日の気温との差で強い肌寒さを感じたのが原因でした。当日オンライン生徒さんも「コロナだったらどうしよう」と思ったそうです。読者のみなさまも似たような思いをされたかもしれませんね。ここまでくると「お気をつけて」では済まない状況なので、油断なき外出をなさってください、としか申し上げられなくなりました。

 今回および何回か、もしくはずっと中心に言葉が文化の思考を象徴していることがわかる例を挙げていく。途中また何かあればトピックを変更していくことになりそうだが、大きなことがなければ、このテーマをメインにしていく予定だ。
 社会人生徒とオンライン授業で使っている日本語テキストのトピックやフレーズについて、日本人が「当たり前」と思っていることが、「これは日本文化です」と説明して、楽しく笑える雑談に広がる例を幾つか挙げようと思っている。また日本での生活の一面や異国で暮らす彼ら彼女らの興味も伺いしれた例も挙げよう。

 実は、この元原稿は昨年2021年6月に手がけはじめたのだが、出校している高校が登校授業で外国出身の生徒の様々なケアに追われ、7月号に原稿が間に合わなかったものである。当時、隔離措置、現地からの近親者の濃厚接触者(本人陰性)、日本に戻るためのビザ問い合わせ、保護者現地からの日本帰還への家族負担、さらに現地日本大使館が閉まっていて日本に戻れず、現地に連絡と絶やせない状況を持っていた生徒…実に多様に水面下で辛い思いをしていたのである。
 社会人オンライン生徒たちは当時7月の日本語能力試験を頑張っていた。結果、ある生徒は合格、しかし、現地から戻れないなどの理由で受験できなかった生徒も少なくなかった。これは12月の試験でも同じだった。では、言葉と文化についての話しを始めよう。

 ◆ 0-1.バルト三国の元王族の同僚☆外国語を学ぶ必然性を語る

 埼玉大学で非常勤講師をしていたころ、親しく話しをしていた先生がいらした。先生は実は日本語がペラペラなのだが、学内での日本語を禁止されていた。彼だけではなく、学生が聞こえる場所での日本語は、すべての外国出身の英語の先生に対して禁止していたのである。彼は講師室では英語と日本語を混ぜて私と話しをしていた。
 奥さまは日本人だ。奥さまはどういうかたか(お仕事・年齢・国籍・以前の出身など)伺ったことはなかった。今、思うともっと奥さまのことを訊けばよかったと思う。そのころの私は自分からプライバシーを訊くという習慣がなかったからだ。彼には息子がいて「きかんしゃトーマス」が大好き、彼の一家は町内会の当番をやっているなど、家族の話しや世間話をよくしていたのだが。

 「きかんしゃトーマス」は私が自分の息子のために買った英語絵本数冊を彼にあげた。彼は喜んでくれた。彼は特別な日に息子にプレゼントする為に自分の部屋の高い棚に置いた。だが、息子は彼の棚のトップを見つけて「パパ。トーマスの本がたくさんある! これ、ボクのだよね!!」そう、彼は特別な日のプレゼントとして棚の上に保管していたのだ。特別なイベントでプレゼントするのが彼の常識だった。
 また休日はテーマパークやショッピングモールではなく、自然がある公園などで家族と過ごしていると言っていた。お金もかからないし、生きていることを子どもに実感させたいからだと。

 アメリカ出身なのだが、バルト三国がソ連になった頃、アメリカに移住した子孫だと言っていた。ひいおじいさんの代なのだろうか? アメリカと日本のスポーツ少年団の違いも話したことがある。日本では野球なら野球だけ、サッカーならサッカーだけ、習い事も武道ならその武道、そしてお母さんたちは遠征の付き添いや炊き出しなどもやっている。アメリカは季節ごとに競技を変えているそうだ。春または秋は屋外球技、夏は水泳やビーチバレー、冬はバスケットボールなどの屋内スポーツやスケートなど、そして、お母さんは一切ノータッチだそうだ。家でガーデニングをするか、ショッピングに出かけるとか。お母さんを1人にしてゆっくりさせる、お父さんが子どもと過ごす、だからそうなんだと。「お昼ご飯はどうしているの?」「その場でBBQ、男だって料理もするから。ファストフードにみんなで行ってハンバーガー」

 ◆ 0-2.外国語を学ぶ必然性がわかる

 そんな先生に「日本人って英語はいらない、どうせ外国に行かないからって言う人がいるし、それどころか学生までそう思っていることがあるのよね」と私の授業の後、学生に言われてがっかりしていたことを話した。「外国の音楽は歌詞がわからないから、つまらない」という意見に端を発してのことだ。即座に「言葉は言葉を覚えることに意味があるんじゃなくって、考え方の違いや考え方の道筋、そう、まず文法などの違いだね。そして言葉の感覚や文化。外国語を勉強することで思考が広がるんだよ」…なるほどね。

 この先生はその翌年、女子高校の専任が決まり、大学の仕事をお辞めになった。今、なぜこれを思い出したかというと、先日、高校の授業補助で英語の時間に入り込みをした時、日本人の女の子が「おかあさんの夕飯」を mother's dinner と訳していたのを見たからだ。My mother cocked dinner となっていない。お母さんはこの年代ではお母さんでいいが、自分の親は「母」「父」である。また「お母さんが作った夕飯」という回りくどい言い方を思いつかないのだろう。これこそ、外国語のみならず日本語も理解する意義だろう。これは時として、街の中で英語表示している注意書きなどでも見かけるパターンだ。

画像の説明
  「ふんべつ」と「ぶんべつ」

 ◆ 1.外国人目線で日本語テキストを読む①

 では本題。以下は、すべてインド人のオンライン授業でのことである。

●穴埋め問題
【1】このお茶は熱い(    )で入れると、おいしいですよ。
 生徒の答え→「ミルク」
 私「あはは。間違っていませんが、日本人が作った文です」
 生徒「ああ、インドね」
 修正解答→お湯

【2】このカレーは (    )からいですよ。
 生徒の答え→「たいてい」
 模範解答「なかなか」
 「この」がなければ正解。日本ではカレーが辛くないことがあるからなのだろう。

●文法・作文
【1】「見るにつけ」
 生徒の作文「インドの生徒を見るにつけ、日本の生徒は楽だと思う」
 私「なぜですか?」
 生徒「宿題少ない、塾でもう一度習いに行っています。インドでは自分で勉強しないとなりません」
 私「ああ、わかります。私の中国籍の友人は(老華僑5世)子どもが3人います。一番大きな子(※私の日本語がインド化していました。上の子です)を中華学校に入れたら授業時間は長いし、宿題が多いし、厳しいらしい。真ん中の子を日本の公立に入れたら宿題は少ないし、ぜんぜん勉強しない。一番小さな子をインターナショナルスクールに入れました」
 生徒「わかります」

 この生徒は、かけ算は九九までどころではない。これは有名な話しだが、インドでは文系は12×12まで、理系は20×20まで暗記している。いや、17×17で挫折することが多いようなのだが。しかし彼は学校の勉強より上で、24×24まで暗記している。私は歌を作ってかけ算九九を覚えたが、彼は丸暗記して覚えた。ところが「上には上が」いた。27×27まで暗記しているという生徒が現れた。自律した学びができる人間が1,000人に1人の「高度人材」として日本の企業に選ばれるのだ。なるほど厳しい。

【2】「のみならず」
 「新幹線は日本のみならずシンガポールでも有名です」
 シンガポールとマレーシアで新幹線を走らせる計画が中国製から日本製になりそうだったこと、インドも同じく、中国製から日本製を採用することになっている。だから、これ、喋らせると、外交の話しをいっぱいされそうなので突っ込まなかった。この話しを突っ込むと間違いなく日本語の勉強からどんどんズレていくことになりそうだ。そのまま先に進めた。

【3-1】「安いわりにおいしい」
 文例 フリートークをさせた。
 「Pさんはどこかこういうお店がありますか?」
 Pさん「大阪王将です。餃子が安いわりにおいしいです」
 Nさん「餃子はおいしいです。私はショッピングモールのフードコートで食べます」
 Pさん「Nさんはどこですか?」
 Nさん「私はサイゼリヤです。家族4人で食べても10,000円どころか5,000円くらいです」(※「どころか」は補充)
 二人ともヴェジタリアンではない。Nさんはハラルなので餃子は豚ではなく大豆・鶏・牛肉と思っているものを食べているのだろうか?

【3-2】「安くておいしい」
 彼はこちらから訊くまでもなく、「鶏のジョージのラーメンです」
 え? 居酒屋でラーメン? 検索したら\328だった。彼はノンヴェジタリアンであるが、豚と牛は敬遠している。

【4】文例「溶けないうちに早くこのアイスクリームを食べましょう」
 瞬間、生徒さんは「…」
 日本語の意味はわかっていたのに何を言いたいのかというか、え? 何で? と思ったことを雰囲気で察した。
 私「ああ、これは日本人の考えかたです。外国人の中には溶け始めてから食べるほうが美味しいという人もいます」
 生徒「私も、です。私も溶けてから食べます」
 …そういえば、パキスタン人の友人は「アイスクリーム溶けてから」が多数で、親切にも溶けるまで待ってから私に渡してくれる。またマンゴーは皮の上から揉んでチューチューというのもパキスタン人だ。南インドの生徒と身近なパキスタン人との共通な「トロトロのおいしさ」を確認した。

画像の説明
  オーストラリアの外交官がパキスタン・スタイルの
  マンゴーの食べ方を披露し、驚かせた

【5】文例「お店でガムをもらいました」
 私が「…おつりですね」と言ったらニヤニヤした。
 インド周辺諸国では、小銭の代りにおつりとして飴・ガムなどが出てくるのだ。以前も同じ文例をネパール人生徒が「あれ、イヤです。日本に来ておつりを貰ったのが嬉しかった」と言ったことがある。私は現地だけのことだと思っていたら、日本国内のハラル食材屋さんでスパイスを買ったら、ガムがおつりとして出てきて驚いたことがあったと話したことがある。 (続く)

画像の説明
  こういうのが、小銭変わりに

 (東京ベイインターナショナルスクール顧問)

(2022.2.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧