【視点】

「政治とカネ」にガバナンスン改革が急務

―多すぎる政治家の「恩典」
栗原 猛

 最新の共同通信の世論調査で岸田内閣の支持率が20%台前半にとどまった。米国訪問を反転攻勢のきっかけにしたいとの意気込みは、厳しい現実に砕かれた感じだ。裏金問題では「まだ実態が十分解明されていない」が、自民党支持層でも88%に達し、また首相自身が処分されなかったことについても78%が納得できないだった。国民の怒りは止まずというところである。
 
 支持率低迷は国民の怒りが背景
 
 国民の怒りの原因は2つあるように思える。1は岸田首相は裏金事件の徹底解明や政治資金改革の議論をする前に唐突に、「派閥解散」を打ち上げたことだ。岸田氏はここで政治の主導権の回復を目指したと思われるが、事件の解明が深まっていない時点での唐突な派閥解散表明は、事件を解明する本気度が薄いと見抜かれたのではないか。 
 2は政治のトップの責任という点で、不公平感が浮き彫りになった。岸田首相が会長だった宏池会でも会計責任者が起訴されたが、その派閥の会長は直近まで岸田氏その人だった。たとえ政治とカネの問題に直接かかわりがなかったとしても、事の重大性から見ると政治的責任も道義的責任もあるはずだ。       
 非議員の会計責任者が責任を取って、政治家の事務総長はおとがめなしというのはいかにも公平さを欠く。派閥解消は1990年代の政治改革でも大きなテーマになったが、結局解消は、言うは易く行うは難しで、人間社会では派閥の存在はある程度やむを得ない。むしろ政治は、国民のためにやるべきことはやるということが大事だということで、それ以上議論は進まなかった。
 90年代との大きな違いは国民生活にある。驚異的な物価高、中産階級の没落、ゼロ金利政策、消費税10%など、国民への負担は厳格だ。ところが、政界や経済界には税制上の恩典が多く、政治資金規正に対する処分も甘い。国民の怒りの背景にはこの不公平感が大きい。
 裏金問題の核心は、パーティー券は販売ノルマがあり、これを超えて販売するとキックバックされる。このノルマを超えた部分は、派閥の収支報告書には記載せず、議員へのキックバックも支出に書かれず、議員への収支報告書にも収入として記載されていなかった。つまり「出」も「入」も記録されずに裏金化している。自民党のある長老は「『政治資金には民主主義を支える浄財』という考えから、税務当局は、非課税としてきた」と言っている。しかも日本の政治家は世界一優遇されているといわれて久しい。国会議員は議員会館、議員宿舎、陸海空の交通機関利用など配慮されている。         
 非議員である会計責任者は、政治資金規正法の虚偽記載容疑とされたが、国会議員である事務総長はおとがめなしだ。会計責任者が大事なカネの管理を、派閥の事務総長に報告しないということはまず考えられない。また長い間、報告を受けていなかったとしたら、職務怠慢である。政治家は無罪放免で、会計責任者だけの処分については、自民党内からも「政治家と秘書は運命共同体といいながら、これでは事務総長の人柱ではないか」との不満が聞かれる。
  
 深まる不公正感
 
 繰り返しになるが90年代の政治とカネの問題の時に比べると、現在はもっと厳しい政治経済環境の中にいる。少子高齢化社会、人口減、異常な物価高、消費税10%、中間層の貧困化、ゼロ金利、日本の財政政策は早晩いき詰まるとの議論もある。国民は厳しく法や制度を順守しているにもかかわらず、政治の不公平感はまかり通っている感じである。最近のSNSには「財政赤字を作った政治家や財務省がだれも責任を取らず行政改革もしないで、国民にだけ増税を押し付けるのはおかしい」というものもあった。    
 90年代の政治改革では、自民党内の若手、中堅議員に再発防止や政治改革に向けた議論が活発だった。当時は、参院では与野党が逆転し衆院でも変化の兆しがあり、自民党内には緊張感があった。パーティー収入の還流と政治資金収支報告書の不記載をいつから誰が、どんな経緯で始め、2022年にいったんやめた資金還流をどういう経緯で復活させたのか、前任会長の森喜朗元首相の説明を聞きたいところだ。                                
 政治改革に向けた与野党の議論は、自民党は派閥のパーティー禁止、外部監査義務付け、政治資金の公開性の向上、抜本的な罰則強化を提案。一方、立憲、日本維新の会、公明党、国民民主党は「連座制」の導入で足並みをそろえているが、会計責任者だけでなく、政治家本人も責任を負うようにする法改正は不可欠だ。共産党は政党交付金の廃止を提案し、政党交付金を拒否している。そのお金は国庫に返還されずに、各党で分けられているとされるが、膨大な財政赤字がある中でこの処理も不自然だ。
 裏金事件は、政治資金改革に特化しているが、政治を少し広い視点から見直すことも大事だ。女性議員枠だけでなく、例えば身障者代表の議席や若者の枠の制定、サラリーマンや女性が選挙に出られるように、国会審議の時間の多様化も欠かせない。フランスでは女性議員の少ない政党は、政党助成金を減らすなどをしているという。裏金事件は政治とカネの問題だけなく、野党も含めて政治全体のガバナンスを前進させる議論を期待したい。以上

(2024.4.20)
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