■ 書評 『中国への日本人の貢献―中国人は日系企業をどう見ているか―』

       段躍中編 日本僑報社刊・1900円
                        貴志 八郎
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  私が手にした『中国への日本人の貢献』と銘うたれた第5回中国人の日本語作
文コンクール受賞作品を時には胸をドキドキさせながら、時にはウルウルと胸を
熱くして一気に読み終えた。
  よくぞ、日本の言葉をここまで、理解し、伝えたい心を文字にして表現してく
れたものと感動をさえ覚えた。半世紀にわたって日中友好運動にたずさわってき
た私にとって、中国の広い地域から若者が持つさまざまな「日本観」、それも官
製でない草の根の声として聞かせて貰えて嬉しく思った。
 
唯、少し天邪鬼な私の意見を歯に衣を着せずに述べて見たい。
  この作品集に登場する殆どの作文には、日本人や日系企業、あるいは日本政府
に対する批判が目につかない。大方の内容は褒め言葉の洪水である。褒められて
悪い気持ちになる者もなかろうが、選者の立場を意識すればこのような一面を強
調することも止むを得ないとは思うが。さて作文者の方々は本当にこんな素晴ら
しい企業哲学を持ち主ばかりに出会ってくれたのだろうか。金儲けに血眼で、環
境や労働者の生活に目もくれず、採算ばかりを追い続ける経営者と接触する機会
がなかったのか、私は胸に手を当てて中国に進出した企業の人々の顔を思い浮か
べて見るのである。
 
それだけに善意と好意に満ちたこの作文集を、中国進出の経営者諸君にこそ広
く熟読玩味して貰いたいと強く思う。中国の若者たちは、これ程までに日本企業
を評価し、学ぶべきだと主張してくれている。
  だからこそ、日本からの進出企業やスタッフが、お世辞ではない筈のこの作文
に応えられるようにしなければ、落胆が続き、賛辞がいつ罵声にとって変わるか
判らないと自覚すべきである。
 
ただ、志を持って、中国に渡り、日本語の教師や技術指導に当たり、中国の方
々と心を通う交流を続ける人々や、文中にある優れた企業スタッフの活動が、日
中友好にどれだけ多くの貢献をしているか、多くの作文で語られた草の根の活動
には私も拍手を送りたい。
 
兵法に「敵を知り、己を知れば百戦危ふからず」とある。できれば機会を見て
辛口の日本観、それも進出企業の在り方や、労務管理や企業理念、対人関係や賃
金など、あらゆる分野での不満や批判を中国青年の目線で率直に述べ、併せて、
希望や期待、提言を寄せて 頂き、そして日本には無い、中国の良さも是非紹介
して欲しい。 このような配慮が実現すれば、第6回作文集は、ぐっと立体的に
なるし、対話、討論の立派なテキストになると思う。
  何はともあれ、この文集をまとめてくれた日中交流研究所に敬意を表し、今後
のご活躍を期待したい。
           (評者は山東省栄誉公民・前和歌山県日中友好協会会長)

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