【コラム】大原雄の『流儀』

★「武器輸出」と「防衛装備移転」との違いなど、あるものか?

大原 雄

★「武器輸出」と「防衛装備移転」との違いなど、あるものか?
 
 「政府は3月26日の国家安全保障会議(NSC)で武器輸出を制限している防衛装備移転三原則の運用指針を改定し、英伊両国と国際共同開発中の次期戦闘機の第三国への輸出を解禁した。」という(朝日新聞3月27日付朝刊一面記事参照一部引用)。
 
 「政府はこの日の指針改定に先立つ閣議決定で、(略)個別案件ごとに閣議決定することを定めた」という。国会で議論をせず、閣議決定だけで個別にどんどん進めるということらしい。
 いや、いや。平和憲法がありながら、100%殺人兵器である戦闘機の輸出が認められてしまった。安倍政権の置き土産。死せる安倍政権はモタモタ岸田政権を走らせる。
 戦後政治のターニングポイントには、ある時期、安倍晋三の名前は金太郎飴のように個別に出てくるということになるのか。
 
 「こんな馬鹿なことが通用するのか」、「もう、いい加減にしてほしい」。
 日本のマスメディアは、こうした事態の中で何を伝えているのか。政治の「訂正」には呆れかえる。おわびすれば済むのか。
 
 と、本気で声を出してしまった。もっと、瑣末なことでも、この大手全国紙の紙面を度々飾る「訂正記事」にも呆れてしまった。全国紙ほどではないが、NHKニュースでも、最近は、訂正が目につくのではないか。裏金処分問題で自民党の「党紀」委員会が「党規」委員会になっていて、先日も訂正していた。党紀と党規。担当者なら、人一倍注意力を注ぐケースだろう。権力もメディアも、「まったく、もう」である。
 
 朝日新聞の2024年度、つまり新年度初日4月1日社会面夕刊記事には、早速「訂正して、おわびします」登場だ。よその会社ながら、ミスは見たくない、と思っていると、向こうから目に飛び込んでくる。
 
 記事は、以下の通り。
 
 「3月30日付「朝日新聞写真館 新入社員」の右下写真につく年号が、一部地域で「1989(昭和元年)」とあるのは「1989年(平成元年)の誤りでした。」という。
 
 これは、世相特集の写真のキャプションを書いた人が勘違いして通してしまった上に、校閲担当者もチェック漏れで、気付かずに通してしまったゆえの単純な間違いだろうが、なぜ防げなかったかという疑問は、単純なケアレスミスゆえ意外と根深く、深刻な気がする。
 
 長寿のお年寄りならば、(明治、)大正、昭和、平成、令和と幾つもの元号を貫いて生きてこられた。私は、普通は西暦で生活しているので、元号換算は苦手であるが、自分の生きてきた時代の元号に関わることを書くときは、己の生年の、例えば、私の場合、1947年=昭和22年を起点として昭和20年ならば、西暦はマイナス2で、1945年と子どものような簡単な換算式を引き出してきて確認している。自分の人生の時代感覚が、勘違いしていれば、違和感を感じさせるからである。ただし、明治、大正どころか、平成、令和とくれば、逆に時代感覚が区別できないから調べる。換算式など使わずにきちんと辞書などで調べて引用している。
 
 なぜ当該記事では、昭和元年を1989年などという架空の年数に「くっつけた」のだろうか。新聞掲載の写真は、東京のデパートの新入社員のお辞儀の角度の練習風景。「1989(昭和元年)」とある。そして、同じ誌面直ぐ上隣りの写真では、「1986(昭和61年)」とあるのに、なぜ、間違えたのか。
 昭和から平成に元号が代わったゆえの混乱であったのだろうか。
 
 しかし、次期戦闘機輸出の解禁問題は、この種の「混乱」では、通らない。確信的に国民を騙している。意図的に本来の「国禁」を犯している。ここには、自民党の裏金問題に繋がる「騙しの論理」があるように見受けられる。政治家は国民を騙しても良いのだ!
 
 一方、単なるケアレスミスも、目立つ。
 前掲同紙4月4日付夕刊社会面に訂正記事。
 以下、引用。
 
 「3日付社会総合面『米中首脳が(略)の記事で、『ブリンケン財務長官』とあるのは『ブリンケン国務長官』の誤りでした」。「訂正して、おわびします」。
 
 これで通用するなら、
 自民党の裏金つくりの後始末処理のゴタゴタも「数字を訂正して、お詫びします」で、済ませてどこが悪いとでもいう声が聞こえてきそうである。国民は、逆に憎まれ口を叩かれて、党の要職組(有力政治家)を逃してしまうのではないか?
 
 もう、メンタルな面で新聞社の業務点検手順の確認システムに誤りがあるとしか言いようがない。これは、深刻なのではないか。
 
★★ 地球は、「裏事情」で廻っている?
 
 「AI(人工知能)、フェイクニュースなどの偽情報が、民主主義の根幹たる選挙を脅かしている」(3月20日「民主主義サミット第3回首脳会議開催)
 
 11月のアメリカ大統領選挙で共和党のトランプ候補(前大統領)が、当選すれば、アメリカは、民主主義を前面に掲げなくなるかもしれないという観測情報が流れている。その場合、アメリカは、ドラスティックに変貌して、「トランプ連邦」にでもなるのだろうか。移民に門戸を閉ざし、トランプアメリカは、孤立志向のプーチンロシアのような強制権威主義の国家になるのだろうか。プーチンの国家とトランプの国家、本当にそういう二つに分断された巨大国家の覇権争いのような国際社会が出現しても良いのだろうか。悪夢でしかない。プーチンを選んでいるロシアのインテリたち、トランプを支持しているアメリカの保守層たち。2025年以降の国際社会をどのように描いているのだろうか。
 
 この間、日本では、自民党に所属する議員たちの中には、政権の役職も、組織(党)の力関係も、皆、全開し、l全力をあげて、密かになにごとかフル稼働していたのだろうか。裏事情(本音)で再構築しないと地球は、もう、理解できなくなっているようだ。
 
 意図的に無視され、実はこの稼働に取り残されていたのは、有権者たる「国民」ではないのか。国民は、「美味しい」(はずの)裏(組織)からとりのこされ、馬鹿にされているのではないか。その間、ざっと20年以上という。組織(党)は、トップに総裁(首相)を選び、長期政権を演出し、ごく限られた政治家(ステイツマン)ならぬ「政治屋」(ポリティシャン)たちで、仲間の輪を作り、順繰りに「おともだち政権」や「おともだち政党」を作り上げて、美味しい果実をそれぞれ裏スペースに蓄え続けてきたと言えるだろう。彼らが作った「裏事情」。
 
 「どいつもこいつも」(普段使わない言葉を低い声で呟いてしまう。腹立ち紛れなので、一度くらい言わせてくれ)「どなたも彼方も」、裏の政治を力の限りフル稼働させてきたようだ。いまや地球は、「裏事情」で、廻っているのか?
 
 権力者には、裏表がある。表は掃除も済ませて、店を開ける。裏は、散らかしたまま、本音で言いたい放題。国是も、建前も、言いたい放題。
 
 例えば、アトランダムにあげてみよう。
 ロシアでは、裏票を活用(悪用?)して圧勝!当選を演出する権力者。
 アメリカでは、世論操作と資金力で大鉈を振るう大統領候補がトップを走っている。
 アメリカもロシアも、国連安全保障理事会では、お互いの事情優先で拒否権を使い分ける。
 
 日本では、
 平和国家が国是の日本の政党政治家たちが、
 国民が納得するような議論を国会で十分にしないために「閣議決定」優先で国会軽視。
 閣議、閣議を連発(乱発?)して、国是を変えてしまうなど裏事情を優先して、外交も防衛も廻して行くようである。戦後日本は、すでに否定されている。
 
 日本の政権与党の力の源泉も、次第に、そのカラクリの実相の姿を現し始めてきたようである。
 
 自民党の要職に長い間、居座っていた(いや、いや、余人を持って代え難い実力ある有力政治家だから、思う存分、力を発揮していただいたのかもしれない)政治家の、花の引き際記者会見の様子を画像や活字で拝見した。記者会見は、3月25日に自民党本部4階の会見場で行われた。
 
 この場面、前掲同紙3月26日付朝刊総合二面記事を含め参照、一部引用。ほかのメディアの情報も参照。
 
★ 有力政治家の「言葉遣い」
 
 どの政治家も、同じような言辞を弄する訳ではなかろうが、例えば、有力な実力者の政治屋さんは次のような「言葉」を使ったらしい。メディアの記録を活用させてもらう。
 以下、列挙する。
 
 (低姿勢で、用意した紙を読み上げる)「政治責任は私にある」。(記者の声は、筆者の呟き声:以下同じ/だから、詳細を説明するということか)
 「党総裁に対し、次期選挙に出馬しない、と伝えた」。(/出馬しない。つまり、不祥事の後始末に自分は参加しない。この問題に自分は責任を取らずに、「逃げる」ということか。責任放棄ではないのか)。
 「自民党の再起を願う」。(/他人事とみたいなことを言ってて、大丈夫なのか)。
 (質疑応答になると、自分では答えず。同席した派閥幹部に任せる、親分肌)。
 (陰の声・無派閥のベテラン議員の声/説明もできない、追及されるのも嫌。投げ出しただけ、ということかと批判している)
 (陰の声・同じ派閥の閣僚経験者の声/実際は、何の反省も謝罪もしていないよ)
 (下世話では、有力政治家の処分=非公認、党員資格停止。離党、引退などのシナリオも囁かれているらしい。引退:」息子に禅譲など。参院 → 衆院への鞍替えを狙っていた有力参院議員の思惑を(これ幸いと、ついでに)阻止して、意中の後継者を準備することができるのだから『ベストなタイミング』という便乗論のような声さえ周りからはあがっているという。転んでも、ただじゃ起きないということか。何というセンスの持ち主たちか。不出馬宣言により、無罪放免、処分も見送られる可能性もあり、という(実際、そうなりそう)。何というセンスの政治集団か。不出馬こそ、最高の処分、という訳らしい。自分たちの価値観しか頭に入っていない。どうしようもないほど、時代遅れな政治センスではないのか。不出馬表明=処分回避=後継優位という「政治的技術」について、逆に称賛する声が出ているという。実際、そのシナリオ通りにことは運んでいるのだから、笑っちゃうよ。
 
 さすが、長老。長い間、政界で独特の味のあるメシを食ってきただけあるよ、ということか。内輪優先の自民党?、政権与党?も極まれりというわけか。国民もたまったものではない。国民も怒らなければならないのではないか。案の定。4月5日付紙面。長老は新聞社が誌面に掲げた「裏金関連リスト」のトップに名前を明記されながら、「3526(万円)」の次の欄(処分の種類)には、『処分なし』と、堂々と、高らかに、掲げられている。事態を見越して仕掛けた面々は、思う壺と胸を撫で下ろしているのではないか。
 金はたっぷり受け取り(裏金は、返したのでしたっけ?)、後継問題は、上手く行きそうだし、これぞ我が世の春か?
 
 その前の、3月26日付紙面の記者会見に戻ろう。
 有力政治家は、会見に出席した(若い)記者に立候補見送りの理由は、「高齢か」と、問われると、急に怒り出したものだ。
 
 「お前もその年、くるんだよ。ばかやろう」。
 
 会見は10分間で打ち切られた」という。
 
 打ち切り会見で、思うこと。
 これを仕掛けたのは、誰だろう、という疑問?
 
 ①政治家が仕掛けた。
 有力政治家は、語彙が少ないね。言葉を工夫表現するよりも感情の方が溢れ出てしまうのだろうね。それとも、有力政治家の記者会見の終わりを告げるキーワードが、「ばかやろう」だったのか。この言葉が出たら、会見打ち切り、とする。事前に記者クラブの幹事社と打ち合わせて約束していたか。都合が悪くなって、当事者が逃げたという邪推をされずに済むものね。鬱憤処理で、ストレス解消。ドロを被った若手の記者さん、ご苦労さん。
 
 ②あるいは、メディアが仕掛けた。
 相手を怒らせて、本音を引き出す。常套手段のひとつ。ベテラン記者の手の内、みごと。
 
 ならば、これは、「ばかやろう会見」として、記者クラブの語りぐさに。
 
 そう言えば、昔、「ばかやろう解散」というのがあったね。1953年(昭和28年)3月14日の衆議院解散の際の、政治史の俗称。解散のきっかけとなったのは、先立つ2月28日の衆議院予算委員会で当時の吉田茂首相が社会党右派の西村栄一議員との質疑応答中、吉田が西村の発言に腹を立て、「ばかやろう」と囁いた声をマスクが拾ってしまったのだ。それを聞き咎めた西村が「ばかやろうとは何事だ。取り消しなさい。(略)無礼だ」云々。このシーン、歴史に残った。閑話休題。
 
 さて、マスメディアの報道するところによると、
 有力議員が党の処分の前に、記者会見を開き不出馬表明をしたのだから、ある派閥からの「安倍派もしっかり処分せよ」という党内や派閥へのメッセージを出したことになるという理屈。これに対して、野党は「全容が解明されない中での処分はあり得ない」としており、まだ、時間がかかりそうだという。やれやれ、政界とは、何という不思議な世界。政治部ではなく、政界部か?
 
★ 思惑の政治術 効果はあるのか
 
 自民党の処分の種類一覧表が何度も全国紙に掲載されている。
 それによると、「処分は8段階に分かれているという。以下、重い順に。
 
 除名、離党勧告、党員資格の停止、選挙における非公認、国会および政府の役職の辞任勧告、党の役職停止、戒告、党則の順守勧告。
 
 党の執行部が決められるもの。
 「勧告」は、執行部も決められず、党の意向に従うように本人にお勧めするもの(本人が拒否したら、粘り強く説得するしかないのか)。実際、離党勧告された2人のうちの1人は、抵抗。
 
 以下、前掲同紙4月5日付朝刊記事参照、一部引用。
 
 離党勧告:2人。党員資格の停止1年:2人。党員資格の停止6ヶ月:1人。党の役職停止1年:9人。党の役職停止6ヶ月:8人。
 
 ★ 「処分」の疑問点
 
 「処分」は裏金つくりの実態とは、合っていまい。裏金の使途は、もっと透明度が低い。使途不明なままではないのか。
 調査は、「氷山の一角だけを見て処分」(専門家の判断)をしているのが実状だ。真相解明にはほど遠かろう。案の定、離党勧告処分という、今回、最も重い処分となった塩谷氏(自民党安倍派座長)は、「事実誤認の中で処分が下された」などとして「再審査の請求を検討する」(前掲同紙4月6日付朝刊記事参照、一部引用)という。「執行部への不信」を剥き出しにしたといえる。
 
 
 ★★ 「裏金」も、プーチンも、米大統領選挙も、「根」は皆、同じ
 
 「裏金」事件は、自民党の裏金つくりから綻び始めたようだ。自民党の派閥が主催する政党のパーティという一見華やかな舞台では、そのかげで、フェイクな筋書きで芝居が進行しているんでしょうね。
 
 パーティ会場入り口で参加者は受付に「入場料」を支払う。あるいは、「ノルマ」と称する称する「チケットの強制買い上げ」レシート提示で、事前に買わされた「入場券、10枚分」「50枚分」などを支払ったという手続きの証拠のチケット半券(昭和時代の映画館のもぎりじゃあるまいし、そんな手順を踏むかな。まあ、踏まないな)を受付に見せて、会場に入るか、欠席をする。この種のパーティでは、金を支払って、さらに会場参加を欠席する客が最も上客なのかもしれない。パーティ券の売り上げ総額から、会場費、飲み物・食べ物などの経費、人件費などなど党に入金する、いわゆる経費を差し引いて浮いた金額を「派閥」(党と政治家個人との間にある「浮き島」のような存在の「装置」に「浮いた金額」を溜め込むシステムらしい。
 
 自民党の「裏金」術(中間搾取)、プーチンの「裏票」術(他人の票用紙を盗み取り、こちらの票に加える)、トランプの「世論誘導」術(データの誤魔化し)。共通点は、表では、有権者に知られないようにしながら、裏では、知る人は知っているからと、いずれも、長年、堂々と強引にやってきたということか。
 
 「術」という言葉で括ってみたら、何か共通するものが浮かんできそうな気がし始めたから不思議だ。ほかにも戦前の敵国、鬼畜米英など。戦後の進駐軍、駐留軍、在日米軍などなど、顔を替えながら、居座っている「敵」がいる。
 
 日本、ロシア、アメリカという言葉で共通されてくるものなどあるのかな。「同盟国」、「敵国」、おっとと、敵対なぞしたくない。「友好国」などという言葉が浮かんできたが、語彙が乏しいね。恥ずかしい。まあ、ふだんから、国家レベルの格調のあることを考えたりしていないから、無理もないか。
 
 ★ 用語説明
 裏金:
 ①「うらきん。江戸時代に藩札(藩発行の貨幣)。藩札を発行する際に、兌換準備とされた」という。
 ②商取引を有利に進めるため、正式の取引金額以外に、かげで相手に掴ませる金額。賄賂。「うらかね」。「裏金」が動いたなどという。
 ③「雪駄」の裏側の後部に打ち付けられた鉄片。裏鉄(うらがね)。減りどめ。
 
 蛇足:そう言えば、以前、金権政治の千葉で、「金権政治の実態」を取材していて、地元・千葉の選挙通に聞いた話を思い出した。
 選挙が佳境に入ってくると、地元で囁かれる台詞があるという。
 
 「今度の選挙は、雪駄か、煙管か?」
 
 聞かれた方は、「まだだ」とか、「雪駄だ」、「煙管だ」とか、答えるらしい。
 
 「まだだ」という答えは、「まだ、金はばら撒かれていない」という意味だという。
 
 「今回は、雪駄だ」という答えは、「票は集められているが、謝礼の金はまだ、後になるらしい」ということだ」という意味だという。だから、「後金」。
 
 ならば、「煙管だ」という答えは、何かというと、「煙管の雁首(がんくび)に付いている刻みタバコを入れる金具。先に金(鉄)が来た。金を受け取った以上、投票しないわけにはいかない」ということになるというわけだ。だから、「先金」。
 
 ★★ プーチン:コワモテの「選挙怪人」
 
 ロシアでは、大統領選挙が終わった直後、3月22日夜、武装グループによるコンサート
 会場襲撃事件が起きた。犯行グループは、会場で無差別に銃を乱射したという。開幕直前の会場内だけでなく、通路やロビーでも銃声が聞こえたという。犯行グループは、ガソリンの入った容器を持ち込み、火を放ったという。ロシアでは、ウクライナやウクライナ側で戦うロシア人グループからの攻撃が激しくなり、結果的にロシアの世論を引き締め、政権への求心力を高めてきた(朝日新聞3月24日付朝刊総合二面記事参照。一部引用)。
 
 2024年は、世界的に選挙の多い年と言われる。3月には、ロシアで大統領選挙が行われた。予想どおりプーチン圧勝の「茶番選挙」が演じられたばかりだ。
 
 ロシアでは、プーチンが、通算5回目の当選が伝えられたが、「不正選挙」という情報も、併せて世界を駆け巡った。以下は、朝日新聞3月23日付朝刊国際面の記事を参照しながら伝えたい。
 
 ロシアの独立系メディア「ソタ」が19日にSNSに投稿した動画。それによると、ロシア北西部レニングラード州の投票所では、集計作業中、責任者が別の候補者に印がついた投票用紙を、プーチン氏の票に積んでいた」と報じた。ドアの隙間から作業中の様子らしき場面が隠し撮りの感覚で撮影されている。事実の取材だろうと思うが、隙間の間隔が広いので、どちらかの「やらせ」感(意図的な感じ)が、しないでもない。これは、同業者の勘である。
 
 見出しは、「他候補の票プーチン氏に? ロシア大統領選で不正疑惑」と疑問を提起するヨコ組み。本記は5段の記事になっている。不正してでも、選挙結果らしく見せる。形骸化された開票光景。この光景のシステムも、いずれデジタル化されてしまうだろうな。
 
 記事の後半では、以下のような記述が続く。
 「ロシアの選挙監視団体『ロゴス』は、専門家による選挙データの分析から、プーチン氏が獲得した7628万票のうち、約2200万票が不正に上乗せされたと指摘。『史上最大の選挙不正』と批判する」という。不正選挙なら、人の手で不正を行なうのもいつまでか?
 いずれ、昔語りか。
 
 ロシアのプーチン選挙は、いかがわしい想定外のイメージはすぐに浮かんでくるし、情報の受け手である私たちも事実の証拠を確かに、しっかりと確保できるわけではないので、後味が悪い。疑わしさまではメディアと共有できるとしても、プーチン怪人の不気味な笑い声が
 残響して気分が悪くなる。プーチンは、そんな思いをしてでも、権力者の座をほかの人物に譲り渡したくないのだろう。あるいは、大統領の椅子にしがみついていないと逆に自分が殺されると心底思っているのかもしれない。
 
  ★★ トランプ流選挙術
 
 以下は、前掲同紙3月22付朝刊一面記事参照、一部引用から。
 
 「元民主党議長のスマートフォン」「アメリカ大統領選の予備選2日前」「見覚えのない番号の着信」などと記事は、新聞記事の書き方を超えて、ミステリアスな調子を重ねる。元議長が電話に出ると、「バイデン氏とみられる声の録音が流れ、『11月の(大統領)選挙のために、(略)予備選の投票を控えるよう促す内容だった。(略)「本選で起きていたら、選挙結果に影響を与えていたかもしれない」という。
 
 「なりすまし音声」について、「アメリカメディアは生成AI (人工知能)が悪用された初の本格事例と報道」したという。州の司法当局も捜査を始めたという。
 こちらは、民主党の大統領候補バイデン氏に対抗する共和党の大統領候補トランプ氏が想定されているのだろう。こちらの候補も、前回大統領選挙を巡り、いろいろ取り沙汰されている人物だけに、やはり、プーチン同様選挙の「怪人」として、記憶されていることだろう。
 
 ★ ディープフェイク
 
 「なりすまし音声」:本物そっくりの動画や音声(ディープフェイク)。
 現在の段階では、100パーセントの確度で真偽判定できる技術的なツールがないという。
 ということは、現状では、政治的意図を持った(ご承知のように、プーチンもトランプも、明確な政治的意図を持って大統領選挙に介入する意志を潜めて臨んでいる)偽物の情報が民主主義を脅かしかねない事態(あるいは、意図的目的)に対処しなければならない状況に、人類はすでに入っているのかもしれない。
 
 ★★『一歩も下がるな!』 
 味方も銃殺〜プーチンの異様な「世界観」・「戦争観」
 
 独ソ戦のスターリングラード攻防戦の最中、1942年7月28日。独裁的指導者の名前をつけた戦場の死守を命じたスターリンの命令文には、『一歩も下がるな』という文言があったという。
 指揮官の許可なく後退する赤軍の将兵は、後ろから射殺されたという。
 
 戦線から勝手に離脱した赤軍の将兵は敵前逃亡したと判定されて、「督戦隊」という自軍の部隊に殺されるか、逮捕され、のちに銃殺に処せられたという。
 
 ある調査によると、このような理由で銃殺に処せられた赤軍の兵士は、独ソ戦全体で約15万8000人にものぼると推計されるという。
 
 ソビエトでは、第二次世界大戦中にスターリングラードの戦いを図案化して発行された郵便切手に、戦う兵士の姿とともに、「一歩も下がるな」というスローガン文字を入れさせている。大戦中の国民向けの郵便切手の図案になるくらいだから、スターリンの標語集の一つとしてロシアでは、皆によく知られているエピソードだと容易に想像ができる。
 
 大木毅『独ソ戦』は、2019年に刊行された岩波新書という250ページ足らずの新書版だが、ドイツ戦史の専門家の概説書だから判りやすいとして、発刊以降ベストセラーズになったからよく知られているだろう。大木の学説については、岩波新書に加えて2024年3月6日付朝日新聞オピニオンの「交論」(ロシアの戦争観」)も参照、一部引用した。
 
 大木は世界観戦争について、次のような説明をする。
 
 「独ソともに、互いを妥協の余地のない、滅ぼされるべき敵とみなすイデオロギーを戦争遂行の根幹に据え、それがために惨酷な闘争を徹底して遂行した点に、この戦争の本質がある。(略)ナチス・ドイツとソ連のあいだでは、ジェノサイドや捕虜虐殺など、近代以降の軍事的合理性からは説明できない、無意味であるとさえ思われる蛮行がいくども繰り返されたのである。」
 
 このような世界観は、ロシアでは、スターリンから何処へ流れたのか。近代のロシアでは、
 エリツインによる政治的混乱があり、反面教師的にエリツインを利用したプーチンへとそのまま引き継がれたように思える。この小文では、プーチンへ流れ込む世界観、戦争観をスケッチしてみたい。
 
 ロシアの世界観の根底にあるのは、「階級」だろうか。これに対してナチスの世界観の根底は、「人種」だろうか。あるいは、「スラブ主義」と「西欧主義」との対立だろうか。
 
 ナチス・ドイツとソ連の間の戦争観をウクライナとロシアの間に組み入れてみると、きっと違和感なく収まるに違いないものがあるのではないか。
 
 プーチンの戦争哲学とは、権力に『まつろわぬ民』は、自国民であっても壊滅させるという戦争哲学だ。ナチスのヒトラーを源流として流れ出し、スターリンからエリツイン、プーチンに至る戦争観。さて、今回はどうなるか。
 
 ウクライナ戦争は、ロシアから兄弟視されたことから、兄に従わない弟を切り捨てたように見える。プーチンから見れば、まつろわぬ「他人」は、戦場で攻め滅ぼそうとするが、いうことを聞かぬ弟は、攻めるまでもなく抹殺するというところなのだろうか。
 
 近親憎悪の「世界観」とでも言おうか。
 
 ★ プーチンの「世界観」への系譜
 
 国際政治。私の脳裏には、一つの系譜が連想される。
 
 ヒトラー(絶滅戦争、皆殺しの闘争) → スターリン(大祖国戦争) → ゴルバチョフ(ソ連邦崩壊)→ エリツイン(ロシア共和国復活)→ プーチン(ロシア連邦復活闘争)
 
 ヒトラーの絶滅戦争とは、ソ連邦の打倒、ゲルマン民族による東方植民地帝国の建設、ナチズムに基づく欧州の「人種的再編成」が目標と言われる。かつてのような強国を取り戻す。
 
 ヒトラーが獄中で書いた「わが闘争」、対話の記録「ヒトラーとの対話」(但し、対話は、偽書、記録者が書いたもの)、食卓などでのヒトラーの談話の速記録「食卓談話」の三書に基づく。軍備も、軍需経済も、という欲張りな政策を掲げていたヒトラーは、どちらもコントロール不能になると、他国との併合による資源や外貨の獲得(帝国主義的収奪)占領した他国の住民への強制労働により、自国のドイツ国民には負担をかけないというご都合主義的な政策の維持へと突き進んでいった。戦争への突入である。
 イデオロギーに支配された「世界観戦争」、皆殺しの「絶滅戦争」。
 
 スターリンの「大祖国戦争」とは、1920年代末から形成され、1930年代に完成されたスターリン独裁体制をベースにしている。個人崇拝、秘密警察による統制とそれを前提にした恐怖政治、体制にとって不都合な者の粛清・追放など。処刑されたり、シベリアの労働収容所に入れられたりした。スターリニズムと呼ばれた。その根底には、ナショナリズムと
 共産主義体制を合一させたスターリンの知恵がある。
 
 ゴルバチョフ(旧体制の改革)。エリツイン ソ連邦崩壊から民主化、ロシア共和国の構築。
 エリツイン(民主化の失敗)。プーチン ロシア連邦の構築。
 あるいは、プーチン政権は、現在のロシアの中で、独裁ゆえの「作られた安定」のシンボルとなっている。安定とは、プーチン流の、強権国家体制であるようだ。
 
 ★ ★ ★ トランプの「世界観」/藤原帰一教授
 
 このテーマのコラムとしては、藤原帰一の「時事小言」(前掲同紙3月13日付夕刊コラム参照、一部引用)がコンパクトによくまとまっているので、これを紹介したい。
 
 国際政治専攻の藤原教授は、トランプの人間性については、さりげなく取り上げる。バイデン大統領が、子どもの頃から吃音で苦しんできたのを承知で、演説の中でトランプは、吃音を再現し、「子どもが吃音者をいじめるように、大げさに演じたのである。(略)人の苦しみに寄り添うのではなく嘲りの対象とする人間が再びアメリカ大統領になる可能性を考えると、胸が苦しくなった」という。
 
 藤原教授には、メンバー限定の小さな講演会で話を聞いたことがあり、講演後のパーティで立ち話をしたことがあるが、爽やかな人柄に感心した。
 
 2016年の大統領選挙のときは、教授はカリフォルニア大学で授業をしていた。このときに、学生に大統領選挙のことを聞いたことがあるという。トランプ大統領の誕生を白人の学生は、「こんなことが起こるはずがない。理解できないと繰り返した」という。ラテン系の学生は、「これがアメリカだ、恐れていたことが起こったと冷静だった」という。
 アメリカ内外の若い層がトランプに対して冷静な判断をしているというのに、白人の労働者は、トランプへの熱病に侵されている。
 
 「アメリカのデモクラシーはこれで終わりだという学生の言葉が心に残った」という藤原教授の心象。こうしたアメリカの学生たちの思いが、日本にちゃんと届いていないのではないか。
 
 学者が情報を発信しているのに、マスメディアは、何をしているのか。トランプの強権的な部分が、あたかもアメリカ国民に好意的に受け入れられているような印象操作をしていないか。政権交代の可能性を強調し過ぎていないか。マスメディアの報道姿勢に疑問を感じる。日本のマスメディアは、何をしているのか。
 マスメディアの役割りは、こういうときこそ、政治権力の世論誘導に乗せられないようにしなければならない。
 
 教授は、「安倍政治とは、なにか」まで講義の筆を伸ばす。
 
 安倍政治では、「日米関係の方がデモクラシーの行方よりも大事にされていた」と、藤原教授は書く。自民党の裏金つくり。裏金問題が発覚した後の関係議員の言い逃れ、言い訳の数々、それが国会や委員会で議論される。テレビで中継される、動画が放送される。
 
 トランプの興奮ぶり、はしゃぎ過ぎなどを真似ずに、税金で政治を進める政治家らしく、むしろ政治家の気概を見せられるような人物は日本にはいないのか。さて、この項の最後に、藤原教授の講義風景に想いを馳せながら紹介しておこう。大学の講義らしい雰囲気を出そう。パワーポイントを思い起こしてください。以下、レジュメ。
 
 タイトル:仮)民主主義の中の強権支配
 
 民主主義と呼ぶ秩序:①法の支配を基礎とする自由主義
           ②市民の政治参加を基礎とする民主主義
 二つの主義が互いに緊張をはらみつつ結びついた政治秩序
 
 選挙で選ばれた政治指導者が、選挙による授権によって法による拘束を取り払って
 政治権力の集中を試みた場合 →
 自由主義と法の支配は退き、民主主義の名の下で強権的支配が生まれてしまう
 
 立憲的秩序の中核は法の支配と政治権力の規制
 その秩序が民族優位を基礎とするものに変われば権力制限が弱まることは避けられない
 ここに民主政治が独裁に転換する危機がうまれる
 
 (以下、略)
 
 ★★★ 民主主義と相対主義 
 
 民主主義は、相対主義だから、「使える」という。本当か?
 
 暴力的に権力を振るって見せる、強権的なプーチンも民主主義を否定しない。民主主義を装おう。アメリカの大統領選挙では、バイデンもトランプも、お互いにフェイク合戦をしているようだ。合戦で奪い合うのは、デモクラシーの旗。
 
 バイデンは、司法機関をうまく使って、政治的な圧力をトランプにかける。相撲取りの太っ腹のように、ぐいぐい押し込む。「圧力をかける」というのだそうな。トランプに対して直接手を出さずに司法に手を出させる。
 一方、トランプは、マスメディアのさまざまな批判や司法の嫌疑をかわして、それを逆手に使ってその都度、復活してくるように見える。
 
 ★★ 「トランプ現象と民主主義」/佐伯啓思教授
 
 (以下、前掲同紙3月30日付朝刊「オピニオン面」佐伯啓思京都大学名誉教授
 /「異論のススメ・スペシャル」参照、一部引用)。
 
 ★ トランプの「事実」→ 主観がつくる価値:反トランプ派から見れば「捏造(フェイク)」。捏造されたバーチャルな事実こそが、現実。
 
 民主主義は、最初からフェイクを内蔵している。
 投票によってことを決する民主主義とは、絶対的な真理は存在しない、もしくは誰にもわからないという前提である。
 
 誰の意見も、全面的に確かなものだとはいえない。(略)民主主義が最終的に数による意思決定だとすれば、(略)多数の支持を得るために、できるだけ効果的なフェイクが使われるだろう。
 
 (略)民主主義は、価値についての相対主義を前提としており、そうする限り、民主的な論議は多かれ少なかれ、フェイク合戦となる。こうして、政治家は、(略)デマゴーグになるか、(略)ポピュリストになる公算が大きい」。
 
 (略)ソクラテスの批判は、意見は違っても(略)熟慮と節度をもった議論がなければならない、というものであった。(以下、略)
 
 人類は、とうの昔に模範解答に巡り合っていた。そうだとすれば、正解が分かっているのに、それが実現できないならば、これは厄介な重症ではないか。こっちの方が、難病だな。
 
 
 自由主義を排除すれば民主主義は自滅する。
 民主主義は、熟議である。熟議なき民主主義は、不寛容な正義の絶対化になる。
 
 さて、どうやって、皆にやってもらおうか?
 (了)
ジャーナリスト

(2024.4.20)
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