【コラム】大原雄の『流儀』

★★「コロナ残影」で、大丈夫なのか?

大原 雄

★「コロナ残影」で、大丈夫なのか?
   ★★ 四代目市川猿之助のことはこちらへ

 新型コロナウイルスに感染する。それも何度も感染する人もいるという。何度も感染するということは、どういうリスクがあるのか? ないのか?
いや、ないことはないのではないか。いや、あるだろう。あるとすれば、どのようなリスクなのか。

 世の中の人々は、新型コロナ感染症に対する警戒感のハードルをグーッと大きく下げ、行楽地や繁華街では、マスクをしないで、平気で「顔を晒して」歩き回る人々が増えてきている。職場に出てきた人々は、仕事を終えたら、早速仲間を誘い合って、繁華街に繰り出す。飲食店や居酒屋は息を吹き返し、新聞を始めマスメディアやソーシャルメディアは、そういう巷の人々を「軽薄なんだから」とバカにし、斜めに見下ろしているようなスタンスに立ちながら、嬉々としてそういう現象を「飯の種」にしているのではないのか。
 「コロナウイルスなんて、もう残影よ」。巷では、囁かれている。果たして、本当にそうなのだろうか?

 オンライン会議やリモート会議で業務を進める方法を新たに覚え、つい、先頃まで「新しい働き方」の先駆だともてはやされていたはずの「リモートワーク」論が、いつの間にか縮小し、マスメディアが世論調査などをしても、「新しい働き方」は、既に物置に放り込まれ、新しい埃がリモートワークやテレワークの上にも積もり始めているらしい。「コロナ禍前」にほぼ戻ったと言われる所以だ。

 例えば、朝日新聞の紙面でいうなら、35面の右下という新聞記事群の端っこに追いやられた新型コロナウイルスによる感染症の記事を見つけたので、読んでみた。

 本記記事は、3段で、見出しは2段。
「新規感染者 前週比1・4倍に 穏やかな拡大傾向続く」が、その見出し。本記は、「厚生労働省は26日、定点あたりの新型コロナウイルス新規感染者が、15日〜21日は全国で3・56人だったと発表した。前週の2・63人から約1・4倍に増えた。4月上旬から穏やかな感染拡大が続いている。」と書いている。

 「穏やかな感染拡大」って、どういう意味だろうか。感染拡大しても、大丈夫ということなのだろうか。感染拡大し、二度も三度も感染する人が増えているのではないのか。一度目の感染の後遺症があるうちに二度目の感染をする人もいるのではないのか。記事のこの部分だけで、見出しがつけられているように思えるのだが、読者は、「穏やかで」良いのか。コロナ禍蔓延の頃ならば、大騒ぎだったことだろう。5月8日にコロナは、感染症法上の分類で言えば、「5類」(5番目の分類グループ)に下げられ、定点監視する医療機関からの報告は、この時が2回目。全国に約5000あると言われる「定点」で継続的に把握することで、感染者数の増加や減少の変化をつかもうという手法だが、新聞が書いているように「増加・減少の傾向をつかむことができるのか。今、記事を読み返してみても、都道府県が掴んだ実数が公表されていたのと比べれば、「迫力」が違う。なんとも存在感がないのだ。新型コロナウイルスそのものの存在感が薄いなら歓迎できるが、データのインパクトの存在感が薄いのでは、よほど熱心にコロナ禍の記事を持続的に読み続けようという熱心な読者でなければ、見つけ出せないだろう。記事の新規感染者数が実数の時代には、二社面の下段ながら、ほぼ真ん中の定位置があった。

 「42都道府県で感染者が前週から増えた。最多は沖縄の10・80人で、石川6・38人、岩手6・32と続く。東京3・53人、(略)全国の新規入院患者数は3215人で、前週の約1・3倍に。」とあり、記事の下に「定点あたりの新型コロナウイルス 感染者数」の一覧表がついているというスタイルだ。私も記者出身だから、余計に感じるのかもしれないが、こういう書き方の記事では、いずれ、前の記事の数字欄を空白にした原稿用紙でも作って、資料の数字と空欄の数字を間違えずに転記するようにしない限り、記入間違いを起こしそうな気がする。感動のない数字を転記するような記事を書き続けさせられると、例えば、朝日新聞の紙面で言えば、二社面の右下の「訂正記事」コーナーがある。

 「訂正して、おわびします」というタイトルの囲み記事。例えば、6月4日付朝刊記事引用。
 「(略)長野4人殺害事件の記事で、2丁の銃が発見された場所を取り違えました。正しくは、容疑者が銃撃に使用したとみられる銃が自宅の室内、自殺を図ろうとした際に使ったとみられる銃が屋外でした。取材時の確認が不十分でした」。
 また、6月6日付朝刊「社会・総合」面記事引用。
 「(略)男性の定年退職の時期が『2020年8月』とあるのは『2019年8月』の誤りでした。取材時の確認が不十分でした」。
 小さな過ちでも、きちんと訂正する姿勢には、敬意を表するが、取材・編集の職場で確認不十分が日常的に起きていることも事実だ。

 コロナ記事も数字ばかりの記事が増えると「資料の読み違いで間違えました、訂正して、おわびしますます」などという文言が増えて来るのではないかと懸念もする。私も、フリーでジャーナリストをしているので、自戒としたい。

 5月28日付の朝日新聞朝刊記事に以下のような見出しを見つけた。

★ 中国 コロナ再拡大 専門家「6月末ピーク」説

 「中国で新型コロナウイルス感染症が再拡大の様相を見せている。専門家は『6月末にピークを迎え、1週間当たりの感染者が6500万人になる』との予測を示した。(略)中国疾病予防コントロールセンターは、(略)2月上旬までに人口の82・4%がコロナに感染したとの推計を明らかにしている。人口約14億人のうち、11億人以上が感染した計算になる(略)」(という。)

 なにせ、「白髪三千丈」のお国柄だけに、話が大きい。だからと言って、馬鹿にはできない。なにせ、コロナ禍の全ては中国・武漢から始まったのだから。中国の大風呂敷方程式を解き明かすためには「引き算」が必要かもしれないが、日本社会のように、コロナ禍なんて何に? と忘れてしまったような対応も問題だ。コロナウイルスと人類は、今のところでは、「共存共栄」というか、「飼い馴らす」というか、逆に「飼い馴らされている」というか。ウイルスから隔離された人類だけが生き残る道しかないのだろうから、そのつもりで生きて行くしかないだろう。国際社会の現況を見ていると、そういう時代に人類同士で殺しあったりしていてどうするつもりなのか。

 人類が生き延びるために一つしかない必要な道といえば、反核兵器の道も同じことだろうに、この自明な道さえも知らぬげに反対車線から走ってくるのが、ロシアであろうか。ロシアは、いま、ウクライナという一方通行の道を逆走している。ルールを守って走っている周りから何か言われても聞く耳を持たない。本当に困ったやつだ。周りに混じって、ロシアの言い分を聞いていたのが中国だ。黙って、聞いていたか。その中国が積極的にロシアに近づこうとしているように見える。人類の世界では、コロナウイルスと戦う人々も核兵器をチラつかせて周りを威嚇する人々も共存混在しているからやっかいなのだ。

★北朝鮮の「偵察衛星」打ち上げ失敗・落下

 北朝鮮は、5月31日、軍事偵察衛星(いわゆる「宇宙発射体」。何、これは?)を積んだロケットを午前6時27分に北西部、平安北道(ピョンアンプクト)の西海衛星発射場から打ち上げたが、飛行途中、異常となり朝鮮半島西側の黄海に落下したと伝え、失敗を認めたという。韓国軍は発射体が黄海上の西方沖上空を通過し、韓国中西部沖の於青島(オチョンド)西方約200キロの海上に「非正常な飛行をして落下した」としている。以上、朝日新聞5月31日付夕刊記事を参照し、概略引用したが、「宇宙発射体」とか、「非正常な飛行」とか、初めてお目にかかる表現が不気味だ。言葉というものは、意味を伝えなければならない。それができない言葉は、言葉ではない。

 日本政府は、事前に示唆されたように北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射されたことを受け、31日朝から対応に追われた。その後、松野博一官房長官が記者会見で「このような弾道ミサイル発射は関連する安保理決議に違反するものだ」と北朝鮮を避難した。北京の大使館ルートを通じ、北朝鮮に厳重に抗議したことも明らかにした。自衛隊に出したミサイルの破壊措置命令について、北朝鮮が「人工衛星」を打ち上げる期間として通告した6月11日までは継続する考えを示したという。

★ロシア・ウクライナ攻防続く

 ロシア軍が、ウクライナの首都キーウに対する攻撃を強めている。5月からの攻撃は約20回に上り、6月1日未明も続いた。アメリカのバイデン政権は5月31日、ウクライナへの3億ドル(約420億円)相当の追加の軍事支援を発表。(略)ロシア国内への攻撃は支持しない、(略)キーウは1日未明、短距離弾道ミサイル「イスカンデル」など計10発の攻撃を受けた。いずれも迎撃され、残骸が病院や住宅に落ちた。地元当局によると少なくとも3人が死亡し、11人が負傷した。死者3人のうち1人は子どもという。(略)」(朝日新聞6月2日付朝刊記事より概略引用)

 日々の戦争被害は続いている。キーウに撃ち込まれた短距離弾道ミサイルは、いずれも迎撃されているそうだが、実は残骸が、悪さをしている。病院や住宅に上空から落ちてきた残骸が無差別に人殺しをするのである。残骸は、無差別に落下するので、非戦闘員の子どもが犠牲になったりする。「ミサイルが○発撃ち込まれた、△発迎撃した」というニュース。1、2発は撃ち漏らしたりしているようだが、全てを撃ち落としたとしても、残骸は、撃ち落せない。残骸は次の標的を狙って落ちてくる。戦争だから、兵器の残骸が、平気で落ちてくる。そして、非戦闘員が殺されている。犠牲になる人々が毎日のように増え続けている。数字中心に報道される記事では、なかなか判りにくい。戦場で取材する記者たちが工夫して報道するしかない。読者も記者やデスクの工夫した記事を読んで紙面の向こうにあるファクトの実相を見逃さないようにしなければならないだろう。

 街全体が廃墟と化したウクライナの町々は、原爆を落とされた広島の廃墟と光景が似ている。戦争が引き起こすことは、何十年経っても変わらない、ということだ。先日開かれたG7広島サミットで岸田首相の発した空疎な言葉は、私の脳裏からは消え去ってしまったようで、彼が世界に向けて何を言ったのか、ということは、思い出せないが、ウクライナの街が、原爆を落とされた広島の廃墟と光景が似ているという印象は、生涯忘れられないだろうと思う。サミットに参加した各国の首脳たちも忘れまい。

 ウクライナに軍事侵攻しているロシア。ロシアに対して砲弾などを供与していると言われる北朝鮮。ロシアへの接近度合いを高めているとみられる中国。
北朝鮮は、今回の打ち上げは失敗したが、ロシア側からミサイルや人工衛星の技術支援などを受ける可能性もある。北朝鮮は、戦略核兵器開発にあたって、新たな核実験の準備を進めているとみられる。北朝鮮が核実験再開に踏み切れば、アジアの状況も大きく変わってくることだろう。
 さて、今月は、次のニュースが私のメイン・リポートだ。まだ、事態は解明しきれていないので、今後、変わってくる可能性がある。その部分は、次号以降でお伝えしたいが、とりあえずは書き留めておこう。

★なぜ、歌舞伎の澤瀉屋で「悲劇」が起きたのか?
          〜四代目市川段四郎さんの逝去を悼むは別ページへ。

ジャーナリスト(元NHK社会部記者)
(2023.6.20)
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