【コラム】大原雄の『流儀』

★★ 国連安保理拒否権に「待った」権!

大原 雄

 前号で書いた。探していた。そのテーマの方が、待ち伏せしていた。国連の機能不全は、指摘されて久しい。安全保障理事会の改革。宿痾の「拒否権」(戦勝国の我は、いつまで続くのか?)。「拒否権」に「待った」。まずは行使抑止への、初めの一歩になるか。
 
 現状:国連の安全保障理事会では、永久特権は限定された常任理事国のみ=5ヶ国。任期(期限)のある非常任理事国は、交代制=10ヶ国。
 
 常任理事国は、第2次世界大戦の戦勝国(アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア)だけが「拒否権」を行使できる。1ヶ国でも行使したら、拒否権が何より優先されて、安保理事会で議論したことは、チャラにされてしまう。
 
 新しいシステムは、以下のようなものである。
 
 改革:安保理事会で拒否権を使った常任理事国に対しては、総会での説明を求める、という。2022年4月26日、国連総会で採択された決議である。
 国連安保理で拒否権が使われた場合は10日以内に総会を開き、拒否の理由の説明を求める。安保理は、総会の72時間前までに特別報告書を提出することになる。
 
 総会決議後、拒否権が使われたのは4件(ロシア、中国の2ヶ国で複数行使)で、総会では、多くの加盟国が参加し、拒否権を使った国に対して意見を述べたが、意見を述べることしかできないのだ。意見の内容が熟議されて、「コモンセンス」形成となれば良いのだが……。
 
 この結果、今回は安保理での拒否権行使に「一定の抑止効果が生まれたのではないか」(リヒテンシュタインの国連大使・ウェナウェザー氏)と見ているという。
 
 安保理の拒否権抑止(「待った」権)の成果をメディアは継続して見守って、報道してほしい。リヒテンシュタインという国は、スイスとオーストリアに挟まれた、日本で言えば、香川県の小豆島くらいの面積の国だという。小国のアイディアが、「大国」(米英仏中露/第2次世界大戦の戦勝国で安保理の常任理事国)に、いわば「技」を仕掛けたということになる。小柄な力士が大型力士と優勝争いをする相撲のように、「待った」を積極的に仕掛けて、国連正常化へ一歩でも二歩でも近づいてほしい(この情報は、7月19日付朝日新聞朝刊記事を参照してまとめた)。
 
 
  ★ ネットのニュースサイト「不振」
 
 21世紀のメディア。インターネットで存在感を強めてきたニュースサイトが不振だという。まず、アメリカのネットメディアの「バズフィード」だ。
 2006年に創業した「バズフィード」の最高経営責任者のジョナ・ぺレッティ氏は、2023年4月20日の会見で、「バズフィード・ニュースを維持できない」ので、閉鎖したいと言った。2021年に株式上場したが、その後、株価が急落し、投資家からニュース部門の閉鎖を求められていた。上場後2年余りでこういう事態になった。「バズフィード」のバズとは、「ざわめき」。フィードは、元の意味は「餌」など。ここでは、ネットで伝えられる画像や記事(コンテンツ)のことを言う。最新のコンテンツをおもしろく、楽しく伝えるというのが、最初に描かれた企業イメージであった。ジャーナリズムの精神が無いメディアは、ダメだということか。日本支社開設などでは、日本の大手新聞社から記者の引き抜きも派手にやっていたようだったが…。
 
 バズフィードは、創業当初は、エンターテインメントな、コンテンツがネタ(種)であったが、2011年以降、ニュース部門も開設し、ジャーナリズムやルポルタージュへと守備範囲を拡げた。今では、政治、経済、社会、動物など幅広いトピックスを網羅し、グローバルなメディアになり、SNSでコンテンツを拡散する戦略を打ち出し、既成メディアのデスクや記者などの経験者を積極的に採用して意欲的な報道に取り組んでいたが、2016年のアメリカ大統領選挙(共和党候補のトランプ当選、民主党候補のクリントン落選)での、フェイクニュースの大波が転換点となり株価下落、広告収入の減少(前年同期の30%減)による赤字の結果、バズフィードは、路線変更を迫られた。ニュース部門の撤退である。
 
 ニュースサイトの不振は、バズフィードだけの事情ではない。アメリカの若い世代への情報発信を狙っているヴァイス・メディアも負債が膨らみ、2023年5月15日、裁判所に破産を申し立てた。選挙予測報道で定評のあった「538」でも、4月に大規模なリストラを余儀なくされた。このほか、VOXメディアやビジネス・インサイダーなどでもリストラが続いているという。不振のインターネットメディアに共通するのは、ソーシャルメディアを通じて読者に記事を送っていた手法に原因があると見ている。無料で配信するSNSの危うさを読者層は見抜いている。メディアがその存在理由としてジャーナリズムを標榜する以上、情報に対する受け手の信頼感の醸成は、何よりも必要である。こうした現実を認識し、私たちはシステムを再構築しなければならないのではないか。日本でも、こうした現状は、アメリカと変わらない。読者の動画へのシフト、伸びない広告収入などで、悩んでいるからだ(以上、朝日新聞7月7日付朝刊記事参照・引用)。
 
 グーグルとメタという広告収入依存資本がジャーナリズムの資本(デモクラシー)を食いつぶそうとしているのではないか。この問題は、強大な上、表現の自由という熟議デモクラシーにとって、死活となるツボを隠しているので、いずれ、じっくり解き明かしてみたいと思っている。
 
 ★ NATO「加盟」とウクライナ「支援」の方程式
 
 NATO(北大西洋条約機構)首脳会議が11日、リトアニアの首都ビリニュスで開幕した。ロシアが侵攻するウクライナを、複数年にわたって支援する方針などを盛り込んだ宣言を発表した。首脳宣言では、「独立は『ロシアの完全で無条件の撤退をなくしては実現しないなど』とした。
 (以上、朝日新聞7月12日付夕刊記事などより、概要参照・引用)
 
 これでは、ウクライナは、本心では承知できないだろう。NATOは、複数年ウクライナを支援するというが、これは、裏返せば、ウクライナのNATO加盟は、時期を具体的に明示できないということだろう。ゼレンスキーは、怒っているね。「最善の安全保障はNATOに加盟することだと理解している」と早期加盟を訴えているではないか。
 
 NATOとは別にG7は、長期的な安全保障を約束する共同宣言を発表している。
 つまり、NATOとG7を使い分けた「継ぎ接ぎ」宣言という苦肉の策ということだろう。これをプーチンは、どう読むか。NATOの世界大戦回避策として内心安堵するか、NATOの弱気策と見て、攻め込んでくるか。
 
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、この日、「NATO首脳会議に合わせて初めて開かれた『NATO・ウクライナ理事会』に参加。加盟国と対等な立場で協議するこの会合で『30ヶ国以上から強い支援を受けた』という」。その上で、ゼレンスキー大統領は、「戦争が終われば、間違いなく同盟の一員になるということだ」と語った」という。会見は、首脳会議の閉幕後に行われた(以上、前掲同紙7月13日、14日の夕刊記事などの概要を参照・引用)。
 
 この記事は、NATO首脳会議(首脳宣言)+理事会(新設・初会合)+G7(共同宣言)+参加国の思惑=結果、とでもいうような方程式を解くことになる。
 
 答えは? それぞれ、試算してみてください。まず、私の解答は。
 
 NATO首脳会議では、ウクライナが希望するNATOへの加盟については、正式な「招待」も「時期」も、示されなかった。ゼレンスキー大統領は、本音は怒っているが(ツイッターに不満の投稿)、理事会の新設という形で、NATOへのウクライナ加盟問題の「基盤を強化」したという理屈で「納得」し、抽象的な発言でグッと「忍耐」したのだと思うが。どうだろうか。
 
 また、同時に開かれたG7の共同宣言(長期的な安全保障を提供するなど)が、かろうじて後ろからつっかえ棒の役割を果たしたと思う。このつっかえ棒は、その後、波紋を呼んだようだ。この共同宣言にチェコやデンマークなど6ヶ国が新たに加わったというのだ。ウクライナのゼレンスキー大統領が、13日夜のビデオ演説で伝えたという。
 
 アメリカは、とりあえず第三次世界大戦への懸念は、回避したと思っているのだろう。ロシアのウクライナへの侵攻(侵略)には対抗しながら、当初からプーチンがちらつかせている「核大国ロシア」という旗を横目で見ながらロシアとNATO+アメリカの全面戦争にならないようにハンドルを切って、衝突を避けたという形になった、ということだろう。最終的にアメリカの意向が優先されたというわけだ。
 
 ★ 核抑止論を否定する
 
 広島の松井市長が、8月6日の平和記念式典で読み上げる「平和宣言」で「核抑止論の否定」を盛り込む方針だと明らかにしたという。やっと、まともなことをいう政治家が現れたというものだ。「現に核による威嚇を行う為政者がいる以上、核抑止論は成り立たない」という当たり前の論理にたどり着いたというわけだ。先に広島で開かれたG7サミットの「広島ビジョン」では、核抑止論の必要性を説いていて、被爆者らが反発していた。
 
 「核抑止」というのは、関係国の片方が核兵器などを背後に控えさせて、その「威嚇力」つまり、「戦力」としての核兵器をバックにもう片方の国の言動を抑止するというもので、核抑止とは、核戦力そのものであることは明らかなのに、そうではないとフェイクを押し付ける論法だから、論理が破綻するのは当然のことだ。何十年も前に破綻している論理を先のG7サミットの「広島ビジョン」でも、埃を叩いて、店先に飾って置くだけという判断の方がおかしいのでは無いか。ジャーナリズムは、宿屋の軒に吊り下げられた「草鞋」(偽旗か?)ではないのだから。核抑止=核戦力ときちんと認識すべきである。
 
 7月12日のNATOとは別に、G7の共同宣言では、「将来の侵略を抑止する軍事力」という表現を使っているが、「抑止する軍事力」とは、まさに、「戦力」そのものではないか。使い分けで逃げてばかりいると、使い分けも曖昧になってくることになるだろう。
 
 ★ アメリカのクラスター弾供与に反対する
 
 クラスター弾といえば、無差別に人を殺す兵器として知られる。いわば、悲惨な被害をもたらす核兵器に次ぐ、非人道的な兵器として位置づけられている。アメリカのバイデン大統領は、この兵器をウクライナに提供するという。ウクライナの反転攻勢が停滞し、「手間取る」中で、ウクライナ側の弾薬不足が深刻になってきたのだという。
 
 クラスター爆弾は、「親・爆弾」の中に、多数の「子・爆弾」を含み込み、飛散させる。不発になった多くの爆弾が残る。戦争が終わっても、不発弾放置という状況が長く続くという。戦争終結後も子どもを含む不特定の民間人(非戦闘員)を死傷させる恐れがある恐ろしい爆弾だ。日本やNATOの主軸である英独仏を含む100ヶ国以上が使用や製造を禁止する「クラスター弾に関する条約」の締結国になっている。ロシアやウクライナ、アメリカなどは、締結国に参加していない。ただし、アメリカは、参加してはいないが、クラスター弾の危険性を認識して、近年は自主的に使用を控えてきたという。控えた分だけ、アメリカにはクラスター弾の在庫があるという。この在庫のクラスター弾を活用し、ウクライナの「当座の砲弾不足を乗り切(る)」という作戦らしい。
 
 ロシアのクラスター弾使用疑惑が持ち上がった際、当時のアメリカの大統領報道官は、クラスター弾の使用は、「戦争犯罪になる可能性がある」と言っていたはずだ。ウクライナのゼレンスキーも、アメリカのバイデンも。クラスター弾使用を強行した場合、プーチンのクラスター弾使用の道を開くことになるし、あるいは核兵器使用の口実にさえ使われる恐れがあるのではないのか。
 
 だから、政治家は胸の内に悪魔の心を秘め、嘘をつくというのだ。
 
 続報。アメリカ国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は、7月20日、アメリカがウクライナ軍に提供したクラスター弾が、「適切に、効果的に」使われているとコメントしたという。
 
 繰り返すが、クラスター弾は、民間人(非戦闘員)を死傷させる恐れがあるとして、日本などは製造や使用を禁止する条約に加盟しているが、ウクライナやアメリカ、ロシアは加盟していない。この記事で、気になったことがある。
 
 アメリカは危険性を認めて「クラスター弾」の使用を控えてきたという。このため、「アメリカ軍には一定の在庫があり、砲弾の増産が追いつくまでの一時的な措置として、7月初めに提供を決めていた」という。
 
 この記事には、戦場でクラスター弾が使用される危険性に対する「配慮」が欠けているような気がするが、いかがだろうか。
 商品の「在庫があり」、ほかの商品の「増産」が追いつくまでの「一時的な措置」などと、経済記事のような書き方をしているが、非人間的で問題性のあるクラスター弾についてこういう表現で良いのだろうか。出稿元は「ワシントン」となっているが、国際記者、あるいは経済部所属の記者は、疑問に思わずに、経済記事執筆の調子で、書いているのではないのか。タバコ屋でシガレットを買っているのとわけが違うだろう。デスクの目は、通っていたのだろうか。
 
 高温、熱中症、コロナ禍によるニュースの場合、「命に関わる危険な熱中症」などと何回も強調するマスメディアが、なぜ、「命に関わる危険なクラスター弾」「命に関わる危険な核兵器」などという用語を使う言語感覚が無いのだろうか。
 
 ★ 嘘つきな二人:プーチンとプリゴジン
 
 以下のニュースも、例の、嘘つき二人の関連。プーチンとプリゴジン。メディアでも取り上げているが、これは、簡単にでも記録しておかなければならない。
 「ワグネルの乱」あるいは、「プリゴジンの乱」と言われる。政変事件の話(以下、朝日新聞7月11日付朝刊記事を参照・引用)。
 
 プリゴジンは、ご承知のように、6月23日にプーチン政権への「反乱」を宣言し、24日にはモスクワまで約200キロの地点まで「軍事行動(進軍、あるいはパレード?)を敢行した。反乱「収束」から5日後の6月29日、プーチンは、プリゴジンと密かに「協議」をしていたという。プリゴジンを「裏切り者」と非難をし、今にも「国外追放」か「殺害」をするのかと思わせる激しいもの言いをしていたプーチンがである。このケースについて、この「大原雄の『流儀』」では、前号でも、二人の一連の動きを追いかけながら、もしかするとこの「乱」は、二人の「猿芝居」ではないかという疑問も呈しておいたが、今回の記事でその色合いが濃厚になっているように思われる。記事の概要をまとめておきたい。
 
 これについては、7月10日になって、ペスコフ大統領報道官が、報道陣に「実は……」と、真相を打ち明けたというわけだ。
 
 6月29日、プーチンはプリゴジンをモスクワの大統領府に「招待した」というのだ。それによると、プーチンは、プリゴジンのほかにワグネルの司令官ら35人を招いている。プーチンは、ウクライナ侵攻でのワグネルの貢献や「反乱」についても、「評価」をしたという。「協議」は約3時間に及んだという。その上で、プーチンは、ワグネルの「今後の任務についての選択肢を提案したという」。ワグネルは、プーチンの親衛隊のままなのか?
 
 これに対して、ワグネル側は、「国家元首と最高司令官(プーチン)」とともに祖国のために戦い続ける覚悟を示したという。まさに、親衛隊。これは、仕組まれた猿芝居そのものではないのか?
 朝日新聞の記事では、次のように締めくくられている。
 
 「プリゴジン氏とワグネルの分離が進む一方、プーチン政権とプリゴジン氏との間で、妥協案が協議されている可能性がある」という。何れにせよ、プリゴジンに関する情報は、本人の存否を含めて、部分的で、一方的で、曖昧で、フェイクニュースになっている可能性が高いと思われるので、プーチン情報同様慎重に追跡して行きたい。
 
 ★ プーチン:「ワグネルは、存在しない」
 
 プーチンは、「ロシアの有力紙コメルサントの取材に対し、『民間軍事会社(という組織の)ワグネルは存在しない。ロシアには民間組織に関する法律はない』と述べ、ワグネルが法律の枠組みを超えた存在だと認めた。今後、ワグネルなど非正規部隊への規制を検討する考えも示した」(朝日新聞7月15日朝刊記事を参照・引用)という。
 
 この連載コラムでも以前から、ワグネルは、ロシアの「非合法の民間軍事会社」として、紹介してきたように、メディアでは、とっくに知られていることをロシアの有力紙のインタビューで、わざわざこの時期に改めて宣言するような情報の出し方をするのは、なぜだろう。
 
 一つは、6月の「プリゴジンの乱」を起こしたワグネルの創設者・プリゴジンと組織としてのワグネルを「分離」しようとしているということだろうか。ならば、アフリカなどで展開しているワグネルとプリゴジンの関係などは、どうなるのか。プーチンは、(ウクライナ軍事侵攻で)「ワグネル戦闘員は立派に戦った。(反乱に)引き込まれたのは遺憾だ」と語ったという。プーチンという男は、面の皮を何枚持っているのだろうか。何枚も持っていないと、「面」が、擦り減ってしまうだろう。
 
 プーチンは、「戦場の経験があるワグネル戦闘員のロシア軍への取り込み」を目指し、一方では、プリゴジンへは「裏切り者」などと批判を強めているという。
 プーチンのような御都合主義者を見抜く人はロシアでは出てこないのか。ロシアは、そんな国では無いだろう。権力によって、押し込まれているだけだろう。
 
 ★ ワグネル戦闘員、ベラルーシで訓練を「指導」
 
 「ベラルーシ国防省は14日、ワグネルの戦闘員がベラルーシの部隊に訓練を提供していると明らかにした。SNSに訓練の様子を撮影した動画を投稿した。ベラルーシ当局がワグネルの入国を認めたのは初めて。画像ではワグネルの戦闘員とみられる人物がライフルを構え、兵士を指導しているように見える。「ワグネル戦闘員が軍事訓練で教官を務めている」とベラルーシ国防省は述べたという。
 
 ウクライナもロシアもそれぞれ、着実の戦争段階の2段目へ進んでいるように思える。このニュースは、朝日新聞記事のほかにNHKのニュースでも、画像が放送された。
 
 ★ クリミア橋を爆破したのは、ウクライナ側
 
 もう一つ、嘘の暴露。こちらは、ウクライナ側。前掲同紙7月10日付夕刊記事、及び19日付朝刊記事より参照・引用。
 
 去年10月8日に爆発したクリミア橋の件。「クリミア橋を走行中のトラックが爆発して道路が崩壊し、4人が死亡した。ロシア側は、ウクライナ国防省情報総局が首謀者だと主張し(略)、一方、ウクライナ側は関与を認めていなかった」。
 
 これについて、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官が認めた。「ロシアの兵站を寸断するため、クリミア橋への最初の攻撃が行われた」という。橋爆発へのウクライナ軍の関与を実質的に認めたことになるという。
 
 6月17日未明、ウクライナ南部クリミア半島とロシアを「結ぶ」クリミア橋で爆発があり、一般の民間人男女2人が死亡し、子ども1人が負傷した。若いファミリーで、両親が死亡し、子どもが生き残ったのか。ある家族の悲劇? かもしれない。戦争、防諜活動の果てに。
 
 これについて、ロシアのプーチン大統領が17日、政府のオンライン会議で「もちろんロシアからの報復はある。国防省が準備している」と述べた。ロシア当局は、ウウライナの「水上ドローン(無人艇)」2隻が攻撃したとしている。「プーチン氏は、これは『ウクライナ政府のテロ攻撃だ』と主張。
 
 「ロシア国防省は18日、ウクライナ南部2州の港湾都市に対して報復攻撃をしたとの声明を発表した」、「17日から18日夜にかけて、ウクライナの10州でロシア軍による攻撃があり、少なくとも6人が死亡、25人が負傷した」(前掲同紙より引用)という。
 
 ロシアの報復が始まった。
 
 去年10月8日の橋爆発の際には、否定した「行為」をウクライナは、今回は、認めている。戦争に善者も悪者も区別はいらない。どちらも悪者ばかりだ。
 
 ★ ワグネル、「事実上の武装解除」?
 
 この見出しは、朝日新聞7月13日付夕刊記事である。あれ? って思ったのは、私。朝日新聞は、夕刊の見出しに使っている。朝日の見出しには「?」は付いていない。当該記事によると、以下の通りである。
 
 「ロシア国防省は12日、反乱を起こした(略)ワグネルから戦車やミサイルなど2000を超える兵器や弾薬などをロシア軍が受け取ったと発表した。事実上の武装解除にあたる。(略)ワグネル戦闘員は反乱中止後、(略)今後の見通しは不透明になっている」。
 
 ワグネルは、確かに戦車などの軍列をモスクワに向けて移動させ、「反乱」のようなものを起こしたように見えるが、実際にロシア軍を攻撃したのか?
 あれが「軍事パレードのようなもの」であったとしたら、「反乱」とは言いにくいのではないかと私は考えている。そうだとしたら、もともと「敵国」ウクライナを相手に、ロシア軍とともに侵略行為を押し進めていたワグネルがプーチンとプリゴジンの共演による猿芝居に参加して演技をしていたとしたら、兵器類をロシア軍に返したからといって、「事実上の武装解除」などとは言えないのではないか。芝居でお借りした、いわば「大道具・小道具を返しただけ」なのではないのか。何れにせよ、フェイクニュースの中から、事実に根ざした情報を仕分けるのは、慎重にやらなければならない。
 
 記事の末尾に、以下の文章がさりげなく付いている。
 「すべての装備は後方の拠点で整備した後、再び使用するとしている」という。
 
 ロシア軍が、すべての装備を整備し、再び利用する」というだけの記事か?
 
 ★ 「断章」/反転の反転は?「嘘つき……」
 
 * ウクライナのゼレンスキー大統領が言う。「ウクライナは強くなっている。戦争はロシアの象徴的な中心地や軍事基地に戻りつつある。
 
 *ロシア国防省が言う。(7月)29日夜から30日未明には、モスクワ中心部のほかクリミア半島でもウクライナのドローン(無人機)25機による攻撃があったが、いずれも撃墜された。
 
 ★ 沖縄「南西シフト」と「台湾有事」
 
 5年ほど前、沖縄に行った時、石垣島の人から聞いた話である。
 内地(沖縄を除く本州ほかの地域のこと)の人たちは、沖縄というとアメリカ軍の基地の問題ばかりに関心を寄せてくるが、今、沖縄では、「在日米軍」の駐留のことより、先島諸島への「自衛隊進駐」が問題になっているという話だった。
 
 ロシアが、今、ウクライナを侵攻しているように「仮想敵国」中国が、将来、台湾を侵攻する恐れがあるとして警戒を強めているのが、「台湾有事」である。
 
 台湾有事の際、日本の「国民保護」を担当するのが官房長官。松野官房長官が7月22日から24日にかけて、台湾に近い沖縄県の先島諸島を視察した。
 
 先島諸島は、台湾からはいずれも400キロ圏内、沖縄でも最西端の与那国島は、110キロしか離れていない。圏内には、11万人の島民が暮らしている。日本政府は、2016年に、与那国島、19年に、宮古島、23年(今年)3月に、石垣島に陸上自衛隊の駐屯地を設置した。沖縄の先島諸島では、目下、急激に戦争に備えるという雰囲気が強まっているという。22年2月から始まり、今も続いているロシア軍のウクライナ侵攻は、台湾や日本でも、戦争への傾斜感を一気に強めた。中国の軍備増強に合わせて日本政府は、突然(?)、防衛力の増強に巨額の予算をつけた。防衛力の増強では、沖縄の先島諸島の防衛力を強化する「南西シフト」を進めている一方で、「国民保護の取り組みは遅れている」と政府関係者は言っているという。先島諸島では、滑走路が短い空港や小規模な港などが多い。国民保護は、先島諸島では、住民の迅速な島外避難が大きな課題となる。なかなか、迅速に行けるかどうか心許ないのが実情だろう。そこで、近年、出てきたのが、一時避難用のシェルターの必要性論議であるという。
 
 また、一方、自衛隊配備に伴う別の問題もある。陸上自衛隊の駐屯地のある与那国島では、22年4月から空自のレーダー部隊が常駐している。ミサイル部隊や電子戦部隊の配備計画も後から付け加えられた。22年末に閣議決定された安全保障関連3文書では、「太平洋側の島嶼部等への移動式警戒管制レーダー等の整備」も明記された。中国への警戒感で進められる沖縄の「軍備拡大」は、どうなるのか。日本政府が警戒感を高めて、動き回れば、中国政府も警戒感を高めて対応を急ぐことだろう。先島諸島で自衛隊の部隊が増強されれば、中国や北朝鮮も、反応してくることだろう。実際、刺激された北朝鮮は、近年、ミサイル試射の回数が増えているではないか。刺激すれば、刺激されるというのが国際社会の「常態」である。怖いのは、何かをきっかけに軍事バランスが崩れて、戦争へ一気に傾斜することだ。坂道を転げ落ちるように。先の戦争で、そういう体験をしたばかりの日本には、「また、同じことを繰り返すかもしれない」という危機感を全国民的な共通認識とする必要があると言える。
 
 「今後、与那国島のように自衛隊の部隊が拡大されれば、守る前に、他国から狙われる島になってしまうかもしれない」と与那国島の人たちは、危惧の念を強めているという。「迎撃」が、一歩間違えば、「先制」攻撃となってしまい、仮想敵国家を怒らせ、宣戦布告の戦争になりかねないことを危惧する。
 
 ★ 読者からの暑中見舞い
 
 「今夏は、例年より暑い日が続きます。『オルタ広場』は、知的レベルが高くなっていくので、解読に苦心しています」。
 
 ★ メディア「断章」(新企画の試み)
 
 知的レベルが高くても、読者に判りやすく記事を書く工夫はしなければならない、というご指摘だが、ごもっとも。私がNHKの記者となった頃は、ニュース原稿は、義務教育を終えた年齢(15歳)の人たちでも理解できるように書かなければならない。だから原稿はこう書け、と書くコツを何人ものデスクに指導されたものだ。聞いたり、見たりしただけで理解すべき電波メディアのニュース原稿は、繰り返して読むことができる新聞記事とは違って、耳や目を一瞬で通り過ぎるだけでも聞き漏らさずに、聞き間違えせずに、理解できるように表現しなければならない。
 
 そこで、標記のタイトルを掲げて、読者が解読に苦心しない、判りやすい記事の書き方を放送記者の原点に立ち返って工夫してみよう、と思った。しばらく試行してみたい。まずは、「四代目猿之助」論。両親を「殺さざるを得ないと思い込んだ」歌舞伎役者への哀惜の念を込めて。
 
 ちょーん(柝)。
 
 ★ 「断章」/四代目市川猿之助「再逮捕・起訴・保釈」のこと
 
 地球の気候変動なのだろう、日本列島の上空は近年かつてない異常気象に覆われている。真夏の日中の気温は、連日のように各地で40度直前というような命に関わる「危険な気温」が、記録されている。熱中症で救急搬送される人が相次いでいる。中には、命を落とす人も混じっている。お年寄り(私を含めて私の周りには大勢いる)、既往症のある人は、体温調整、(喉が渇いていなくても)水分補給、室温調整、外出の自粛など、命を失いたくば、自衛せよという「指令」が、電波を使って押し寄せてくる。そうした中、「大原雄の『流儀』」でも、特別版として連載していた「四代目市川猿之助のこと」の続報が、7月18日にNHKニュースを始め、民放のワイドショー番組など電波メディア、朝日新聞など新聞メディアなどで報じられた。司直の捜査結果の「リーク」情報(漏洩情報、「18日にも再逮捕」という書き方で記事の視点、スタンスが判る)なので、ほぼ同じ内容であった。この後、各社警視庁担当記者の続報が続くと思われるので、それらを参照・引用しながら、第一報記事をコンパクトに記録しておきたい。
 
 母親の自殺幇助容疑で逮捕されていた歌舞伎役者の四代目市川猿之助容疑者は、警視庁のその後の捜査で父親(四代目市川段四郎)の自殺も手助けした疑いが強まったとして、「18日にも同容疑で再逮捕する方針を固めた。捜査関係者への取材で分かった」(朝日新聞7月18日付朝刊記事より引用)。各社とも、似たようなパターンの原稿スタイル。そして、猿之助は、「再逮捕」された。
 
 その後の、NHKニュースの「差し替え原稿」では、次のように替えて放送されたので、その部分をここに掲載する。
 
 「捜査関係者によりますと、その結果、母親と同じように自分の薬を手渡し、向精神薬中毒で死亡させた疑いがあることがわかり、18日午前、自殺ほう助の疑いで(猿之助容疑者を)再逮捕しました」という。
 
 「捜査関係者によると、猿之助容疑者は」、自宅で、5月17日〜18日午前、自身に処方されていた薬を段四郎さんらに服用させるなどして、両親の自殺を手助けした疑い。司法解剖の結果、死因は、両親いずれも「向精神薬中毒の疑い」だという。猿之助容疑者は、6月27日に母親の自殺幇助の容疑で逮捕されていて、父親の自殺幇助容疑で再逮捕となった。
 
 (続報・1)その後、7月28日には、東京地検が猿之助容疑者について両親の自殺を手助けした「自殺幇助(ほうじょ)の罪で、起訴し、発表した。認否は明らかにしていない。起訴状によると、猿之助容疑者は5月17日、(略)自宅で、多量の向精神薬の錠剤をすり潰してコップに入れ、水に溶かした。その上で、父親と母親にコップを手渡して服用させ、18日までの間に向精神薬中毒で死亡させて自殺を手助けしたとされる」(朝日新聞7月29日付朝刊記事引用)。
 
 (続報・2)起訴に伴い被告猿之助側の弁護人は、28日に猿之助「被告」の保釈請求をした。これについて、東京地裁は31日に保釈を認める決定を出し、被告側は保釈保証金500万円を納付した。これに対して、東京地検は決定を不服として準抗告したが、棄却された。
 
 その結果、猿之助被告は31日午後8時半ごろ、勾留先の警視庁原宿署から保釈された。テレビのニュース画像で見ると、猿之助被告は職員通用口から黒いスーツに黒っぽいネクタイ姿で現れたが、拘留中に長髪に伸ばしたとみられる頭髪は、これまでの若々しい青年・猿之助より、47歳の実人生の中年・猿之助をリアルに曝しているように私には、感じられた。
 
 猿之助は、顔は正面を向き、まっすぐ前を見据えて歩いてきた。猿之助から見て左横に並んだ百人ほどの報道のカメラマンや記者・リポーターらが作る「通路」の前を歩いてきて、出入口に止めてあった迎えの黒い車(ナンバープレートは、緑色の営業車)の手前で立ち止まった。報道陣側に向き直り無言のまま、6、7秒ほど深々と頭を下げ続けた。両手は、まっすぐズボンの縫い目に合わせられていた。
 
 その後、猿之助は警察の出入口を振り返ると、「世話」になった警察の建物に向けても、さらに無言のまま一礼をした。そして、ゆっくり車に乗り込んだ。乗り込んだ車中では、後部座席に座り、白いマスクをつけると再び、真っ直ぐ正面を向きなおした。やがて報道陣の前を車が静かに走り去って行った(以上は、メディアの新聞記事、オンラインの報道記事・画像、テレビのニュースのコメントと画像などを参考に現場の様子を再現した)。
 
 贅言;上手(かみて)の揚幕(あげまく=建物出入口)から出てきたような猿之助の歩く所作、本舞台(職員通用口)、花道(出入口)、迎えの車のドア(向う揚幕)など、立ち位置のメリハリは、まるで、歌舞伎の本舞台を「観て」いるような印象を私に抱かせた。
 
 私が、いちばん関心のあること。
 猿之助は、両親に決意を伝えた際、「家族3人で次の世界に行こうということになった」というが、誰が決断をしたのかは、これらの情報では、いまだに不明。父親に対する母親の老老介護の実態、寝たきりの父親段四郎さんの意識障害の実相(警視庁の捜査では、段四郎さんは日常生活を送るのに支障はなかったというが本当だろうか。早い段階では、父親は「寝たきり」という情報があった)など、伝えられるべき詳しい情報をまだ私は待たなければならない。
 
 このように原稿を書いていたら、朝日新聞7月19日付朝刊記事の中に次のような記事が載った。18日に警視庁が発表した「再逮捕」記事の本記である。
 
 「父親(市川段四郎——引用者注)の体調は日常生活に支障はなく、要介護認定も受けていなかったといい」(略)猿之助は、『間違いありません』と容疑を認めているという」。「同庁(警視庁——引用者注)は(父親が——引用者注)自殺の意向を同容疑者(市川猿之助——引用者注)らに示したと判断した」という。
 
 ずっと知りたかった父親(段四郎)の介護情報が不十分ながら、やっと出てきた。両親(段四郎夫妻)は、「老老介護」だった可能性があると私は思っている。つまり、高齢の母親が、高齢の父親の介護をもっぱらにしていたのだろうか。段四郎さんの体調は、週刊誌やワイドショーなどが伝えてきたような「寝たきり」ではなかったのかもしれないが、息子の猿之助は、福祉行政の専門家には相談していなかったのではないのか。
 
 「寝たきり」ならば、要介護4か、あるいは5だろうが、行政のルールに基づいて「要介護認定」を受けていなかったとしたら、専門家が認定する客観的な「要介護度」は判らないことになる。猿之助は、福祉行政に頼らずに、息子として、父親の介護をしていたのか。あの忙しい身で父親の介護などほとんどできなかったのではないか。専門医の診察、あるいは、老人ホームなどの施設入居対応もしていなかったとみられることから、母親の苦労は察しても余りあるだろうし、猿之助にも、母親の、その思いが伝播していたのではないかという推測は容易に成り立つ。
 
 40年間、連れ合い(妻)の老老介護をした果てに夫が車椅子ごと連れ合いを海に投げ入れて殺害したとされ、このほど、実刑判決が下された夫の事件を思い浮かべる。女性週刊誌が追っていて、特ダネとして記事にした「猿之助のハラスメント」も、弟子たちへのパワーハラスメントだけなのか、ジャニーズ事務所の元社長のように若い男性のタレントを対象にしたセクシャルハラスメントも、あるのか。猿之助報道では、どこまで伝えられているのか、判らない。5月17日の猿之助の「休日」、その夜の家族会議は、誰の「仕切り」で進められ、誰が「心中」を提案し、決行までリードしたのか。決行までの条件を整えるようなことや決行後の後始末は、今のところ猿之助が引き受けていたようだが、まだまだ、判らないことがいくつもあるように思える。
 
 両親への愛情、歌舞伎への情熱のどちらが重いのか、というような問題ではないであろう。歌舞伎役者は、40歳代から熟成が始まり、60歳代、70歳代が円熟期になるだろうから、本来ならば、猿之助の役者人生は、これから30年くらいが「時分どき」を迎えるのではないか。四代目市川猿之助の円熟期は、歌舞伎界の円熟期にも繋がったであろうに、猿之助がそれを投げ捨てるようなことをしでかしたままであって良いわけはない。本当の理由を探り当てなければならない。
 
 ★ 「断章」/旧・統一教会と自民党の「みそぎ」?
 
 各地の自民党では、次期衆議院選挙に向けて、自民党県連「支部長」人事が進んでいる。
 
 7月29日付朝刊記事によると、「旧・統一教会と過去に接点の議員」「自民、軒並み支部長に」という見出しが躍る。「誓約書を県連に提出」などするとオーケーらしい。キーとなるのは、誓約書だ。「誓約書はそもそも、将来の関係を絶つことを宣言しただけで、過去にどのような関係を持っていたのかという事実確認には触れていない。「党本部は県連の決定を追認しただけで、独自の追認調査なども行なっていない」という。
 
 「教団の関連団体主催の会合に出席したことがある中堅議員は『今度の衆院選に勝てば、みそぎが済む』と述べた」と言っているという。
 こんなこと言われて、それぞれの選挙区の保守層支持の有権者は、平気なのかしら?
 「みそぎ」とは、嫌な言葉だ。全体主義、権威主義、独裁主義などに基づく組織優先主義の匂いがしませんか?
 
 (了)  
ジャーナリスト

(2023.8.20)
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