【ポスト・コロナの時代にむけて】

<続マディソン通信②>

コロナに試されるアメリカ社会の弾力性

石田 奈加子

 5月の半ば頃から少しずつ消費、生産等の経済活動が解禁になって、人々が表にでるようになりましたが、コロナヴィールスは下火になった訳ではなく、ヴィールスと共生の長期戦に入ったかと思われます。

 まだまだヴィールスの危険に日夜憂慮している毎日の最中に、無思慮な警官による黒人市民の殺戮がきっかけで、全国数十の都市で「社会的距離」そっちのけの、人種偏見、白人至上主義、警察権力暴行に対する、大規模な反対デモ、抗議運動が起こって、広がっています。公はデモ集会がヴィールスの広汎な伝染のもとになると気をもんでいますが、毎日のニュースはパンデミックの様子ではなく反対運動の記事でいっぱいです。

 警察が有色人種、殊に黒人を理由無く(黒人だというだけで)摘発、傷つけ、殺害するのは昨日今日に始まったことではなく、殊にこの数年頻繁に起こっているようで、何故、よりにもよってパンデミックの最中に大規模な反対運動が起こっているのかと思われますが、考えてみると、パンデミックが悪化、露出させた不平等、社会的亀裂のなかで、これは単なる偶然の出来事ではないと思われます。現在の抗議/反対運動は人種差別に対するだけでなく、階級闘争だとまで言うむきもあります。実際に黒、白抜きの階級闘争に積極的に発展すると良いと思います―アメリカには信じられないくらい多数の白人貧困者がいます。

 日常社会生活がロックダウンになって、経済活動の一時停止で大量の一般市民が突然収入を無くし、このままでは社会全体の基礎が崩壊する危険だと、連邦政府が一時期の救済に乗り出しました。この事態は現在の、社会保障/福祉の裏付けのない社会経済体制を反映させています。一時的大量の失業で、これから経済活動が少し回復してもすぐさま誰でもが元の仕事に戻れるという保証はなく、一部の中産階級の没落が起こるのではないか。またパンデミックの前からの現象ですが、沢山の有名な企業の破産が相次ぎ、この3ヶ月ばかりの間に殊に顕著になっていて、アメリカ式資本主義が底をついて来ているかと思われます。

 社会変革は、意識的に行われる面とゆっくりと無意識に進行する面があります。こうなってくれればいいのに、と希望する(夢見る)ことは沢山有ります。

 まさかにも資本主義経済体制がすぐさま消滅するとは思えませんが、何らかの調整は必然でしょう。それよりもっと可能性のあるのが民主主義の崩壊です。ある意味では、少なくともアメリカでは半分過程進行している。僅か3年ばかりの間に現政権の行動が冒した損傷には計り知れない物があります。

 パンデミックへの文化、政体、慣習等が様々な世界の各国の対応の優劣が評議されています。これまたまさかにも、ルネッサンスからの西欧文明がすぐさま崩壊するとは思えませんが、その価値観のある種の後退、非西欧的なものに照らし合わせて、「文明の衝突」でなく建設的な「文明の融合」が考えられましょうか。

 白人至上主義、人種差別、偏見を無くすのは(少なくとも観念の上だけ、紙の上だけでは)恐らく第一に挙げられるのではないかと思いますが、これは一番難しいと思います。制度や法律を変えたり設定したりはできても、数百年の間、人の心の中に植え付けられてきたものは簡単にぬぐい去る訳には行かない。ミネアポリスで殺害された男性には申し訳ないけれど、白昼にむき出しで行われる警官の暴力沙汰よりは、これは全く偶然に同じ5月25日にニューヨーク市のセントラルパークで起こった Amy Cooper(白人の女性)と Christian Cooper(黒人の男性)の出会いの事件※の方が、その根本的な陰湿な性質を象徴しています。謎の画家バンクシーが「これは黒人問題ではない。白人問題だ」と言ったのはその通りです。

 ニューイングランドはヴァーモントの一都市(私の隠居所のある所)でコロナヴィールスの多数の感染者が見つかりました。市は市民一般に無料でテストを施行していますが、誰が感染しているのかというと、「移民者」の共同体の中だそうです。ヴァーモントは大勢のソマリアからの避難民を受け入れています。市民は「アア、ソオ」と安堵しているようです。 (2020年6月9日)

 (ウィスコンシン州マディソン在住)

※編集事務局注
エイミー・クーパー(犬をつれた女性)とクリスチャン・クーパー(バードウォッチをしていた男性)の話は次のような概要です。(HUFFPOSTより)
https://bit.ly/3di0KtS

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