【視点】

36,37年前旧統一教会の実態は報道されていた

――政治は黙殺、被害者量産 その責任は
羽原 清雅

 1986(昭和61)年から翌年にかけて、「朝日ジャーナル」誌は、旧統一教会の悪行を10回ほどの連載記事で丹念に暴いていた。
 その内容は、安倍晋三氏の死去ののちに表面化した大量の被害の実態をかなり克明に報道し、今日なお続く問題点を提示していた。今日の論議に供されているほとんどの問題点が取り上げられており、これらを見ても、今も続く政府、与野党間の法律の検討作業が、まだまだ生ぬるいものであることが理解できよう。
 そのころ、一部の弁護士の間で法廷闘争が進められたが、社会を揺るがすまでにはならず、いまも続くほど、社会全体の対応が後手に回ったことは残念に尽きる。警察、司法などが本格的に取り組んでいたら、被害者、犠牲者が大量に長期にわたって出ることはなく、安倍氏もみじめに死ぬことはなかっただろう。
 だが、法制度も司法関係も「現場」の実態を十分には知らず、あるいは知ろうとはせず、宗教への配慮、法制度への過重な信頼、苦しむ人々の境遇への思い、だます側の変幻自在の「知恵」への不信、ひいてはおのれの立場(優位、上位にあると思いがちな)での確信や軽侮感覚などのもとに対応していたのではないか。

 この統一教会のもたらした被害は30余年後の今も続き、その自民党は議員の顔を替えながら今なお教団支援の選挙に甘え、その腐敗的な関わりを切り捨てきれずに、国会では擁護とも受け取られる言動を見せている。この30余年、加害的な教団の性格は変わらず、政権を握る自民党も依存ぶりから抜け切れず、犠牲者はそのままに苦しみ、救済の道はストレートには進まないままである。これでいいのか。
 国会が策定を急ぐ救済新法などの措置は、政治家としての自覚や倫理観、実際の被害状況や苦しむ人たちへの気持ちの乏しいままに進むのであれば、今後も修正強化が必要にならざるを得ないだろう。

 ここに36、7年前の朝日ジャーナル誌が追及した旧統一教会の実態のレポートがある。この報道はその後の今でも、十分には伝わっていない実情が示されている。
 当時の編集長は筑紫哲也、伊藤正孝両氏、記者は藤森研、フリーの有田芳生氏ら、その努力に頭が下がるばかりだ。また、この半年前には「スパイ防止法」審議をめぐる自民党と勝共連合の密着ぶりについて、臼井敏男記者が取り上げた。そのことはすでに、このオルタ誌の「宗教困窮者を見捨て、『票』目当ての『広告塔』でいいのか」(2022年9月)で触れたとおりだ。遅ればせながら、あまり知られていない事実もあり、ここに要約し紹介したい。
 数字は古く、名称、企業状況などの変化も当然あるが、しかし教団の行状、その姿勢、手口などは変わらないところが極めて多い。ぜひ、今日的に読み解いて頂きたい。

*『霊感商法の巨大な被害』 (1986年12月5日号)

 「悪運を払ってやると称して、壺、多宝塔を売りつける霊感商法の被害がふえている。本誌の調べでは、この2年半に1万件、40億円の被害が出た。この数字は82年に国民生活センターが、6年間の被害としてまとめた2600件、17億円をはるかに上回っている。・・・被害者たちは『原理運動系の販売員に騙された』と訴えている。」
 このような同誌の前書きのもとに、「最後の預金まで」、「殉職の夫は地獄で30倍の苦しみといわれ」、「女工哀史の悲運」などの小見出しで、いかにカネを巻き上げられたか、が紹介されている。信者らには抵抗し難い舞台装置が紹介される。手相を見てあげると接近、長時間拘束され、あの手この手のカネがらみの話を聞かされ、「霊場」なる部屋に連れ込まれ、霊能者なる「先生」に水子、病気、家族の不幸などを巧みに聞き出され、その事前情報をもとに「すべてを捧げることが幸福に」などと説得される。「呪術地獄を演出した巫女たちの証言」のルポも。
 そして、冒頭で触れたように、47都道府県の公立消費生活センターによる84―86年度までの総額40億円の被害額を、都道府県ごとに示した表が掲載されている。トップの東京都を見ると、相談・苦情件数3563件、印鑑2027件、壺909件、多宝塔331件、高麗人参類296件だという。被害を食い止めた方の沖縄では、相談・苦情が7123万円の54件、うち解約52件で8割が返還された、という。

*『家・土地にも仮借ない手が伸びる』(1986年12月26日号)

 「がんで死の宣告を受けた人の家に高額領収書が」、「献金のため家を売る姉を弟らが法で阻む」、「資産家10億円の老人と同居する若い女は」、「『神に捧げよ』と父祖の田畑を売る」の4つの事例を、細やかに描く。細部は図書館で読んでみてほしい。
 さらに、暴利商法の印鑑をつくる山梨県を歩き、印鑑原石代3本セットで4500円、彫りは一字500円で3本計9字として4500円、ワニのケースが1本3500円、トカゲで普通3本3000円、桐箱1000円、朱肉300円として、仕入れ値1万5000円ほど。だが、消費者センターによると、教団価格は「象牙で3本30万円、中には70万円台も」という。さらに、平均購入金額は多宝塔911万円、高麗人参615万円、壺147万円、印鑑は54万円、という。まさに、暴利である。脱会信者の話では、全国で月100億円の献金、売り上げが目標だという。

*『水子が畳を這い回る、「悪霊」恐喝の背後捜査書』(1987年1月30日号)

 「1983年、青森県でおどろおどろしい事件が起こった。ある主婦を『亡父の霊』『水子の霊』が出た、と脅した霊感商法の一味が逮捕された。85年、米カリフォルニア州で、日本人の女宣教師が殺された。被害者は名古屋で霊感商法にたずさわっていた。――両事件に共通しているのは統一教会とのかかわりである。
 同教会はこれまで霊感商法とは関係なし、と主張してきた。けれども青森の事件で、警察は『犯人の会社は統一教会の思想教育を受けた者の集まり』と断定した。・・・女宣教師の遺品のなかには、『天のお父さま』への熱い信仰告白と、文鮮明師夫妻の写真があった。
 善良な信徒たちを、組織的悪行へ駆り立てている『見えざる手』は、どの神さまの意志で動いているのか」――長いリードの概要だけではわかりにくい。

 50歳のP子さんは青森の農家に嫁ぎ、2児出産後は貧しく中絶、夫ががんで死に再婚するが、この夫は交通事故にあい働けない。ある日、やってきた男から印鑑3本を仕方なく買うと、男は先生に当たる霊能者に彼女の先祖を拝んでもらったら、悪い霊がいっぱい付き、先祖は成仏できないでいる、といわれ、夫婦で浅虫温泉に先生を訪ねさせられる。
 「全財産を出して、成仏させないと不幸が続く」などと執拗に言われ、帰ろうにも入口に人が立って出られない。一人の男が「前夫が乗り移った」と怒鳴り始め、室内を走り回り、押し倒し、なぐりかかる。堕胎児の霊が乗り移った、という数人の女性が、「どうして生んでくれなかったの」などとにじり寄る。悪霊の場面が終わると、先生なる者が出てきて、「全財産を出しなさい。盆前に子供に大変なことが起こる」などという。疲れ切ったP子さんはなけなしの夫の傷害保険による定期預金1200万円を解約して、例の男らに渡す。
 P子さんは警察に行く。悪質な3人が起訴され、彼らは罪状を認めた。弁護人は「男は救いたい一心だった」などと擁護した。判決は、起訴状通りの犯罪事実を認定し、3被告にそれぞれ懲役2年6月、執行猶予5年を言い渡した。
 捜査では、この男は教団関連のグリーンヘルスなる会社に所属、勝共連合の思想教育を受けていたことが判明、検事の調べには「答えたくない」「知りません」などばかりで、クレーム対応が身についていたようだ。

 もう一つの事件。名古屋の高3の少女は原理運動関係者による宝石などの即売会で原理運動に接近する。信用組合に就職するが、やめて教団の合宿所に入る。霊感商法の店に勤務したあと、84年夏ニューヨークに行き、教会系のホテルに入る。85年4月カリフォルニア州で訪問販売に当たる。ある一軒家を訪ねると、21歳の白人青年がいて、「売りに来た女性をだますために、小切手を書いて買うふりをした」。彼女が寝室に逃げ込んだときに、強姦しようと決意。その後、のろのろしているので、腹が立ち、首を絞めた、という。死んだと思い、埋めようと小型トラックの荷台に乗せ、人気のない場所に向かうが、瀕死の彼女は逃げ出そうとしてトラックから転げ落ち、鼻と口にたまった多量の血で呼吸をふさがれ、生命の灯が消えた。男は第一級殺人で「仮釈放なしの終身刑」で服役した。
 教団側は、いつもは二人一組で行動するが、あの夜だけたまたま一人だったというが、彼女の訪問販売で出会った日本人主婦は単独の販売だったといい、彼女と一緒に行動していた女性は裁判での証言を拒否している。
 なお、名古屋の実家の遺族は、統一教会、霊感商法の商品卸し元のハッピーワールド社、文鮮明、統一教会長久保木修己らに対して3900万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしたが、教会側が2000万円を支払うことで和解が成立した。

 上記2本のレポートとは別に、霊感商法と国際勝共連合に共通する現象を取り上げている。霊感商法などを批判、報道した者に対して、嫌がらせがあったとして、5件を紹介している。
 誌上では「幼稚な脅迫電話」と書くが、その実態は卑劣な悪質な行為、おぞましい品格というしかない。

①北海道消費者協会専務理事が84年、霊感商法を含む悪徳訪問販売についてテレビで話したところ、その夜に自宅に3軒のすし店から頼まない寿司が届いた。さらに、毎日ふたつの観光ホテルから2人分の予約を受けているが、まだ来ない、との連絡。ほかにカラオケ予約、貸衣装店の礼服配達、ガラス屋2店の来訪、生命保険の勧誘など。専務理事が霊感商法関係者による嫌がらせと見たのは、放送直後に局に12、3人の女性が押し掛けたことなどからだった。

②原理運動から子どもを親元に取り戻す運動に取り組む女性には、口汚い脅しの電話、「装甲車を突入させるぞ」などの脅迫電話、勝共連合を名乗る4人の女性の自宅への抗議などがあった。  

③弁護士による悪質開運商法根絶の説明会の神奈川新聞の報道に対して、古い社員名簿を見たためか、元編集局長、元報道部長宅に嫌がらせ電話が各3、40本。新聞社には2日目に無言電話が約7000本。現社長、現編集局長に「子どもに注意しろ」との電話。「暴力電話には屈しない」と紙面で宣言すると、怪電話はぴたりとやんだ。

④朝日新聞が東京・北区議会のスパイ防止法反対の決議の阻止に勝共連合が動いた旨の無党派区議の話をもとに記事を掲載すると、記者宛てに無言電話や「勝共連合だ」などの電話が。

⑤朝日ジャーナル誌が取り上げた霊感商法業者の幹部の名を名乗り、抗議から脅しに変わる電話が。取材記者自宅に嫌がらせ電話が百数十件、次いで頼んでもいない寿司9人分、天重10人前が届く。子どもの名を示す電話があり、黒メガネの男2、3人が自宅前をうろつき、一日中居たり。

*『統一教会の巨大な財産―壺・多宝塔つくりの背後組織を追跡』(1987年3月20日号)

 冒頭のリードに要旨が示される。「霊感商法の首謀者は何者か?壺や高麗人参の輸入の流れをさかのぼって、本誌は韓国に特派員を出した。韓国のマスコミは壺・多宝塔をつくる『一信石材』、高麗人参濃縮液をつくる『一和』の両社は統一教会の会社だと断定していた。
 韓国で統一教会はソウル・ビジネス街の一等地1万4000坪(4万6000平方㍍)をはじめ、全国7ヵ所に800万坪(2640㌶)にのぼる土地を買い占め、話題をまいていた。
 統一教会の会社が霊感商法の商品をつくり、統一教会の信者がそれを売り、統一教会グループが土地を買い占めている。霊感商法の首謀者をめぐる失われた環が見つかりつつある。」

 「統一教 文鮮明その実相と虚相」(86年9月刊)の著者孫忠武さんをインタビューした記事が載る。孫さんは韓国・京郷新聞記者、論説委員を経て、米国で「韓米タイムス」紙を創刊、会長・編集人。長い文章なので、主な点を要約しよう。
:統一教(韓国ではこの名称がよりポピュラーだという)と文鮮明の率いる宗教団体と企業、財団、政治団体などの組織は本質的に一つであり、国際的な組織。人員や資金は国境を越えて、または企業体と非営利団体の間で自由に移動できる。彼は経済的、精神的、政治的活動を実際的に支配する。この組織の目的のひとつは文鮮明と彼の追従者たちが支配する世界政府の樹立だ、とされる。
:(その根拠は)米国のフレーザー委員会の結論でもある。正確には、米下院国際関係委員会国際機関小委員会で、委員長がフレーザー氏。1977年のコリアゲート事件、即ち韓国人ロビイストによる対米議会工作問題をきっかけに、統一教会に関しても実質約1年をかけて調査している。米国帰化の韓国人金昌源ら設立のディプロマット・ナショナル銀行(DNB)の株を統一教会系の組織が買い占め銀行を所有しようとして、同委員会でも調べられた。DNBの教会口座には、75年12月―77年3月までに700万ドルが預けられ、うち600万ドル以上が日本から送金されていた。
:(霊感商法の壺、多宝塔などは「一信石材」、高麗人参濃縮液は「一和」から日本に送られているが、それは)韓国国民にとっては常識だ。会社設立時に文サイドから金が出され、役員は教会の幹部だし、多くの信者が働く。実質的には統一教が全部抑えていると見ていい。
 フレーザー委員会報告書などによると、一信石材の75年の輸出額は60万ドルだが、輸出は日本の統一産業と、ハッピーワールド社を通じて行われる。
:韓国では、統一教は朴正煕政権の時代に頭角を現す。統一教会NO2の朴普煕はかつて軍人で、のち首相になる丁一権が陸軍参謀総長時の中尉、丁が駐米大使時に駐在武官として関係をつくった。
 米国では、ウォーターゲート事件で失意のニクソン大統領のために激励デモ、徹夜の祈祷会を開いてメディアも注目、ニクソンと文鮮明が抱き合う。これで有名になった。民主党のカーターとの関係は冷たかった。レーガンには大統領選で接近、統一教系の新聞でレーガン勝利を大々的に書く。朴普煕がレーガンに会いに飛び、並んで写真を撮る。大統領就任式に文鮮明が招かれ、注目された。だが、関係が近すぎるとして警戒、フレーザー委員会の報告を受けて始まった脱税捜査ではむしろ積極的な態度をとられる。結局、この事件で文鮮明は懲役18ヵ月、2万5000ドルの罰金、文の財政首席補佐役の神山威も懲役、罰金刑の有罪判決が出され、文は刑務所入りしている。
:(米国に大資産が)統一教が世界本部とするニューヨーカー・ホテルだけでも市価50万ドル以上。ハドソン川を見下ろす高級住宅地の文の大邸宅は敷地3万坪、建築面積250坪、100万ドルと言われる。

*「財閥王国『統一教』の資金源は日本だ」(同日号)
 
 韓国の代表的月刊誌「新東亜」(1986年12月号)に特集記事「『財閥王国』統一教財産の内幕」が掲載された。筆者は東亜日報社新東亜部次長の尹在杰記者。その翻訳の抜粋を朝日ジャーナル誌が掲載したものだ。ここでは、要点の一部を紹介しよう。
教団企業 
<株式会社・統一>統一教の企業的ルーツは1959年、鋭和散弾空気銃製作所。最初は売れ行きは芳しくなかったが、高校、大学の軍事訓練が正式科目になって、独占的に訓練用木銃を生産して、活路に。「銃を売る宗教集団」の批判もあった。68年、統一産業と名を変え、政府の配慮もあり、72年に防衛産業体に指定される。各種の火砲など兵器製作に参加しつつ急激に伸びる。75年1万5000坪規模の工場をつくり、78年金属工作機械総合生産体に指定され、同時に自動車産業発展の牽引車的役割を担う。80年、2万7000坪規模の第2工場を稼働、韓国機械工業の先頭グループになる。
 82年に経営難の東洋機械工業を入手、「株式会社・統一」に。この時点で、資本金380億㌆、従業員4500人、昌原工業団地内に4工場、総敷地14万坪、建坪5万余坪で、教会財団の持ち株は48%。

<一信石材工芸>大理石の花瓶(壺)、多宝塔や釈迦塔(仏国寺の縮小再現)などの工芸品をつくる。86年の売り上げは159億5000万㌆、うち127億㌆が輸出。経常利益は70億㌆、純益20億余㌆の優良企業。韓国での内需はほとんどなく、主に日本への輸出。
<株式会社・一和>韓国では親しまれ、知名度がある飲料などの企業。統一グループの代表的企業で、1971年に一和製薬会社として小規模に発足。76年商号を変えて徐々に成長、79年高麗人参製薬社を引き取り、主力商品のドリンク・ジンセンアップを発売。人参加工製品の輸出ランキング1位で、全輸出額の50%以上を手掛ける。

多国籍企業
 統一教の外形的規模は、宗教団体5、教育機関18、言論機関11、社会団体2、文化事業団体8、企業体150など。「その数からだけ見ても巨大財閥をしのぐ財力と勢力を保有」。
 統一教が米国に持つ財産目録トップは、ニューヨーカー・ホテル。76年、米国進出4年目にヒルトン・ホテル社から42階建、2000室のホテルを500余万㌦で購入して、世間を驚かす。NYタイムスによると、80年代南米に進出、土地や銀行、ホテル、印刷所と新聞社を入手。84年のWポスト紙は「統一教の財産は数十億ドル」と報じ「巨額資金の大部分は日本の東京から送られてきたもの」と報じた。統一教東京支部が75-84年の9年間に最低8億ドルをNYの統一教世界本部に送り、各種事業と活動に使ったという。そのカネは主に、神がかり的宣伝される大理石花瓶と石塔、象牙印鑑等を信徒たちが売ったもの、と同紙は報じ、信者たちが毎年出す金は約2000万㌦以上になるだろう、という。

合同結婚式など
 副島嘉和・元世界日報編集局長によると、NY・マジソンスクウェア・ガーデンで2000組の合同結婚式が行われた際、400人の日本人が各自2000㌦ずつ持参、計80万㌦は
「ワシントン・タイムズ」紙(統一教系列)に寄付されたという。
 日本にある統一教の事業体も多く、中でもハッピーワールド(「幸世」)社傘下に150余の群小企業がある。ほかに、日本の事業体は幸世商事、統一産業、世一観光、幸世建設、幸世不動産、幸世自動車、愛美(エミ)書店、などがある。日本の統一教は純収益70億円を毎月米国の本部に送金している、と伝えられる。
 海外を見ると、オーストリア=西洋ろうそく製造工場、ネパール=新世界言語教育院、イタリア=化粧品生産会社、統一産業、ザンビア=農場と企業体、イタリア・フランス=販売会社セイロ、中央アフリカ=農場、ダイヤモンド鉱山、など。
83年ドイツ著名の工作機械会社バンデラ工場(1億2000万㌦)などを買い取り、米英独などの企業と技術導入契約を結ぶ。フランクフルトに近い、工作機械製造のハイリゲン・シュタット工場も3億㌦で買収したという。 

*「中年主婦が狙われる―京都の場合」(1987年4月10日号)

 この号では、伊藤正孝の取材者名で教会側に、事実を示す内容の公開質問状を掲載する。また、女性教師が同誌に寄せた霊感商法被害寸前の体験記を載せている。教会からの回答はなく、また体験談は貴重だが、スペースの都合で割愛する。

 京都弁護士会消費者被害救済センターがこの年3月に取り組んだ「霊感開運商法特別相談」で、相談を受けた202人についてのデータ分析が掲載されている。現場を知り、その物的、心理的被害を理解するうえでの参考材料として紹介したい。

被害者像 相談者202人中で最も多かったのは、40歳代の47人、次いで50歳代の39人、20歳代20人。女性がほぼ8割。被害額は100万円―200万円が最多の49人、1000万円以上が15人。一人での被害最多額は4238万円。
接近方法 自宅への訪問販売が129例で圧倒的。次いで友人、知人の紹介が34例。接近の方法は手相、姓名判断などを口実にするものが大半。
 買わされた商品は「印鑑+壺」が50人、「壺」31人、「印鑑+壺+人参茶」21人、「印鑑」17人。印鑑と多宝塔、念珠などとの組み合わせも目立つ。
価格 購入の最高価格は、印鑑300万円、壺950万円、人参茶1000万円、多宝塔3000万円、念珠250万円、家系図240万円など。
説得 まず、不幸、悩み、不安の最中の訪問で被害にあった人が多い。「祖父の死亡直後」「夫とうまくいかず精神安定剤使用中」「商売の失敗時」「妊娠中」など。
 売り手が言うには「子どものチック症は先祖の祟り。このままでは長男と夫のどちらかが死ぬ」、「単身赴任中の夫や、あなたに悪いことが起こる」、「あなたが幼い時に死んだ父親が暗い所で助けを待っている」、「水子があるのは悪因縁のため」、「手持ちの印鑑では努力しても報われない」、「目の手術をした母親は盲になる。壺を持つと明かりがさす」、「600万円積まないと子供が死ぬ。出家、生命、財産のどれを取るか」、「先祖に人をだました人がいる。供養しないと、あなたが騙される立場になる」など。
強要 「生命保険を解約して支払え」。朝8時から夜8時まで閉じ込められての強要。夜7時から朝6時までの旅館での勧誘。「人に言うな」「40日間口外するな」などのクーリング・オフ権の行使妨害。「ほかに3人勧誘しないと救われない」との販売活用の要求など。
 特別相談中、「最近は絵、毛皮、宝石、呉服、化粧品などで誘い、その後壺や多宝塔を買わせている」との内部情報の提供も。 

<この号発行後の5月3日、朝日新聞阪神支局に「赤報隊」なる暴漢が襲い、小尻知博記者ら2人を殺傷した。朝日新聞社をターゲットとする一連の襲撃が続いており、また竹下登、中曽根康弘首相に脅迫状を送り付けるという事態もあった。このことは、このメールマガジン「オルタの広場」2022年10月『政治家の衰退した倫理観と旧統一教会問題』で触れている。>

*「被害者救済・各地の取り組み」(1987年5月29日号)

 この号の冒頭に「巨利の行方を追う―京都プリンスホテル買収の周辺」という、のちに参院議員になる有田芳生氏のルポがある。これを飛ばして、公立消費者センターや各地で立ち上がった弁護士たちの法廷闘争を紹介したい。
 36、7年前、すでに全国各地で統一教会との闘いは始まっていた。だが、全国的な動きでありながら広がらず、個別孤立の闘いになりがちだった。政治は、何をしていたのか。このころ、統一教会と関連の国際勝共連合は、自民党と組んでスパイ防止法案成立に向けた派手な活動を全国的に展開していた。しかも、この法案を争点とした参院選は自民党の勝利となり、勝共連合の機関紙は凱旋したかのように、130人以上の当選した同調議員の名前を掲げた紙面を作っていた。

5月11日 東京地裁。「霊感商法被害弁連」母体の第1次提訴。原告は不当な商法で多額の壺、多宝塔などを買わされた人々。訴状に「先祖が霊界で苦しんでいる」「このままだと因縁のため、親が交通事故で死ぬ」などの脅しの文句が並ぶ。被告は霊感商法の輸入会社「ハッピーワールド」、各地の卸し会社「世界のしあわせ」、下部の販売店など。輸入会社の通産省などへの文書には「顧客第一。霊界等の無知による一方的偏見。一部左翼勢力の煽り。誤解を生じる物品販売は一切禁止に。」とあった。
5月12日 札幌地裁。霊感訴訟の第1回口頭弁論。出席は原告代理人だけで、被告側は欠席。霊感商法グループが恐喝罪で有罪となった青森地裁弘前支部の刑事確定裁判記録の取り寄せを申し立てたが、裁判官は留保に。
5月13日 東京・大塚のマンションにある「霊場」へ。霊感商法で霊能の「先生」が客に壺などを買わせる現場である。東京地裁の裁判官が証拠保全に来たのだ。被害弁連の弁護士も同行。裁判所書記官がインタホンを数度押すも、中からは言を左右に37分間ドアは開かない。やっと開いたものの、内部に書類はすっかりなかった。
5月14日 大阪の法律事務所。若手弁護士ら10数人の「霊感商法研究会」で3時間にわたり今後の取り組みなどを論議。3月26日から被害相談を始めると、初日に約800本の無言電話。受付弁護士に自宅にも1分に1本という頻度で無言電話が。
5月15日 福井地裁。第1次訴訟の第2回口頭弁論。第2次訴訟もある。豊田商事問題も手掛けた弁護士が「豊田商事も悲惨だが、霊感商法も被害者をどん底に陥れる。陰湿な商売は完全につぶさねば」。
5月16日 第二東京弁護士会館。霊感商法訴訟などに取り組む40余人の弁護士が集結。集計された全国の相談は3500件、総額130億円。この集まりで「全国霊感商法対策弁連」が結成された。日弁連もこのころ、内部に「霊感商法問題対策プロジェクトチーム」を設置して動き出した。

 朝日ジャーナル誌のこのページに、9県を除く38都道府県の弁護士会の取り組み状況が掲載された。常設相談窓口は20都道府県、相談会開催が6都県で、各地で積極的な活動が進む様子がわかる。すでにこのころから、統一教会に対する活動が始まったのだが、「政治」が動き出すことはなかったのだ。

*「ほかにも起きていた『凶弾』発射-長崎狙撃事件を追って」(1987年6月26日号)

 朝日新聞の小尻記者殺害を受けて、一部にこうした事件をめぐって旧統一教会の関与が疑われていた。事実はわからないが、韓国の空気銃製造企業や日本国内銃砲店が同教会に関連のあること、教会関係で射撃の訓練が行われていたこと、狙われた新聞社が教会などの間に問題を抱えていたこと、送られた脅迫状に教会がらみの教祖様、サタンなどの文言が使われていたこと・・・などの疑惑があった。

 そこに出てきたのが、長崎、東京がらみの二つの器物損壊事件だった。
 87年5月3日の小尻記者殺害の前後の事件だった。
①まず5月1日夜、東京・六本木のフランシスコ会日本管区本部のある聖ヨゼフ修道院の4階の大きなガラス窓などが何者かに割られた。発射地点はすぐ近くの4階建てマンションからで、捜査員が人影を見つけたが逃げられた。パチンコ玉が1個落ちており、パチンコ玉を5発、相当威力ある発射器で撃ったよう。麻布署の捜査は、いたずらと見て終わった。この事件後、修道院への嫌がらせ、無言電話が執拗に続いた。
②半月後の5月17日夕刻、長崎市の聖母の騎士修道院の聖堂などの窓ガラス4ヵ所が破壊された。聖堂のガラスが割られ、階下のホールの被害はさらに大きかった。修道院の一角に、月刊誌などの編集、印刷をする「聖母の騎士社」の建物があり、その屋上に20個ほどの小石が投げられていた。
③6月4日未明、長崎市で雑誌発行者の川原博行さんが空気銃のようなもので撃たれた。

 三つの事件の接点はなにか。
 川原さんは、月刊ミニコミ誌「ちゃんぽん」の別冊号を5月9日に発行。統一教会批判の特集号で、壺、多宝塔、高麗人参展に動員する人を見つけ出そうと取材、信者の告白手記、内部資料、写真などを掲載した。神父の協力も得た。その発行の段階の4月24日、統一教会の内部資料などを撮影し、フィルムの現像を写真屋に発注した。その翌日、統一教会の本部長ら4人が地元のカトリック教会にやってきた。そのあと、川原さんの事務所には特定人物が交代で立ち続け、写真を撮ろうとすると逃げ、またやってきた。神父や同カトリック教会、東京の修道院にも、男が女性の声色を使った異様な、嫌がらせ電話が相次いだ。
 その後も、7月16日に「ちゃんぽん」別冊第2号の原稿、取材ノート、写真が盗まれた。事務所の玄関サッシのガラスが割られ、この穴から手を入れてカギを開けたらしい。さらに9月にも、事務所にコンクリート片が投げ込まれたが、原稿の被害はなかった。長崎県警の捜査はほとんど進んでいない、という。
 この事件を含めて、総合的に広域捜査が始まっていたら、一連の「赤報隊」による事件も含めて、真相はつかめていなかったか。36、7年を経た今、すでに時効ではあろうが、惜しまれる捜査ではあった。

*「追い詰められた霊感商法の内情を覗く」(同日号)

 「霊感商法の被害者救済や批判の声が高まるなか、北海道内の卸元や販売店は壺や多宝塔など霊的価値をつけた商品の販売を3月末でやめる、と行政機関に通知した。全国でも最初の動き」――朝日ジャーナル誌はこう書いた。
 だが、36、7年後の今、相も変わらず多数の被害者が現れ、国会の救済新法をめぐる動きももたつきがちだ。統一教会のこの商法は長い経験を持ち、反省を口にしながらも一向に衰えない。口先の反省、形を切り替えた商法技術、時の流れによる世代の忘却などにより、生き延びている。政府はもちろん、国会も法制度も実態を読み切れず、だまされる。言葉だけの改革に行政は甘く、「宗教」名目の悪行が続く。被害者は苦界に身を置き続ける。 
 このジャーナルの記事も、結果として36、7年後の今、だまされ続けたことに気づくに違いない。

 誌上で、退会した信者たちは言う。「霊感商法をはじめ経済活動をさせられた」。
 「『神様の心情に近づくために大切なこと』と、まず珍味売り、次いで印鑑、宝石、化粧品、着物、絵画、壺、多宝塔などへ移りながら売り歩かされる。教会員が集まってする決断式などでも、教会員らの集団生活の場である『ホーム』の長が、販売額の月間目標を強調するし、ホーム内で力をつけると経済店舗、教会、勝共連合などに異動する」。「外部には統一教会と関係あると言うな。自分は個人的に教会に入っており、就職して販売員をやっていると言うように」と指導される。
 朝日ジャーナルに霊感商法の記事が出ると、各書店の開店を待って買いあさった。メディアに「悪質商法」が報道されると、各地のホームで、警察官が来るので夜逃げがあり、手入れがあるからとして教会関連の証拠になる個人メモや講義ノート、コピーなどを処分するなどした、という。集会でのメモも禁じられ、「真の御父母様(文夫妻)」などの写真所持も禁止、壺や多宝塔なども撤去となった。
 会社勤めを辞め「献身者」としてホームに住んだことのある退会者によると「毎月1万1000円の小遣い、食事、交通費、電話代は支給。洋服代は月3000円を別に積み立ててくれた。販売目標に達しないなどのときは、小遣いが1、2割減らされることも」。
 3月末で霊感商法を辞めた北海道。日銭の入る珍味売りを増やし、各地へ行商キャラバンに出、また今後は独立採算で、との指示も出た。北海道消費者センターによると、販売員が客の返金要求に少しでもこたえようとの姿勢もうかがえる、という。化粧品などは利益が薄く、宝石などの展示会を月1回開くなどした。ホームチャーチとして家庭を拠点に知り合いなどを集め、伝導と商品販売をやり、1円募金の缶を置いてもらうなども。
 なぜ、そこまでするのか。「韓国はアダムで、日本はエバ。アメリカはその子、お父さんの韓国は北朝鮮と国境を接して共産主義から守っている。だからお母さんの日本は、経済活動をしてお父さんを支え、子どもの教育に専念しなければいけない」。

*「3年間の苦情・相談1万3000件、金額は183億円」(1987年7月10日号)
 
 朝日新聞社が、全国の公立の消費生活センターに寄せられた霊感商法の苦情・相談のデータをまとめた。84-86年度、87年度の一部集計を合わせた3年余の全国総計は、苦情・相談は1万3429件、その金額は183億3554万円に達した。
 品目別では、①印鑑7037点 ②壺3500点 ③数珠1455点 ④多宝塔1093点
⑥高麗人参1014点など。
 都道府県別では、①東京 51億9230万円(3175件) ②神奈川 22億4000万円(1112件) ③愛知 9億5017万円(809件) ④新潟 6億4491万円(581件) ⑤長野 6億2894万円(438件) ⑥大阪 5億3039万円(338件) ⑦香川 5億1168万円(152件) ⑧岡山 4億9228万円(334件) ⑨千葉 4億7979万円(458件) ⑩北海道 4億5998万円(378件)など。少額だったのは山形(2830万円・56件)、秋田(2836万円・102件)、宮崎(5278万円・125件)、宮城(5577万円・88件)などだった。

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 活字メディアは、その事態の経緯、波紋、背景、見方、影響などを長行にわたって教えてくれる。テレビ、スマホ、ネットなどの見出しや前書き的な短行の伝え方は、速報、要点をつかむうえでは便利だが、いろいろな角度から考え、全体像をつかみ、その意味するところを把握するには活字メディアには及ばない。手間ひまをかけ、時間をかけて、「ほんとう」に接近していき、物事の可否を裁判官的にとらえようとする訓練はどうしても必要だ。
 多忙や無関心、興味なしなどにかこつけて、簡便なメディアに依存するだけでは、社会を正面から見て判断することが難しくなる。その作法が希薄になり、政治、経済、社会などの実情を深く、長い視野で読み取る訓練を失うことは、その国の文化程度を下げて、本質に迫ることのない方向に行かせるのではないか。
 朝日ジャーナル誌をあらためて調べてみて、そのような印象を持った。昨今の政治が、この旧統一教会の長年の所業を寛大に許し、国民である犠牲者たちの救済を手ぬるくしておくような風潮を醸しているのも、ひとり一人の政治家がおのれにとっての「あるべき姿」を身に着けず、ごまかし、流され、筋を見失う方向にあるためではないか。政治家個々の「質」を問うてみたい思いでもある。
 
                         (元朝日新聞政治部長)
(2022.12.20)
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