【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(56)

「カレー屋さん」たち(5) ナワブ・テラスモール松戸で(1)外国人の視点

坪野 和子

 不安定な気候、感染者の増加、あまりいい話しができない昨今。特に感染者はまだ直接近しい人は罹患していないが、見たことがある人、間接的な知り合いが「あの人(私)が感染」というのを見聞きするようになった。さてお盆休みはいかが過ごされたでしょうか。私は8月11日に日本初のチベット寺院落慶法要、8月20日にパキスタン関係のイベントを予定している。あまり外出したいと思わない一方、自粛以前から会っていない旧知の知人に会える機会だし、ご指名でご招待いただいた幸せも感じている。さて、今回から途中他の話題も入れながらパキスタン・インド料理ナワブのテラスモール松戸店でランチタイム限定2時間ヘルプ、パートのおばちゃん経験で知り得た(ゴールデンウイークだけだったが現在日曜日だけヘルプスタッフを続けることになった)技能ビザ(調理)で日本に来て色々な店を渡り歩いたシェフたちから学んだこと、日本人相手のカレーのビジネスなど、意外と知られていないカレーのこと、またお客さまも様々であったことを続けたいと思う。

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このパートを始めるきっかけもまたイベントだ。ナワブ新宿店開店パーティにご招待されたときの社長シャキールさんとの話しである。

0.お客目線でみたナワブ・テラスモール松戸

 2019年10月に開業したテラスモール松戸。テナントにナワブは入っていることを知り、とても楽しみにしていた。住まいの近くにネパール人の店がある。そこには開店当初、数回家族で行ったことがあるが、あまり美味しくない。いや美味しくなくなった。居酒屋と化しているので料理だけとか持ち帰りだとあまりいい顔をしない。少ない料理でお酒をたくさん売りたいのだろうか?ありがちな話しだが売れるメニューが決まっているようで注文した料理は作り置きまたは冷凍加熱。ジャガイモとカリフラワーのマサラ炒めがただのカレーみたいだったし、モモは解凍、ダル(豆)カレーは作り置き。行かなくなった。その後、1回だけ自粛の頃、飲食店が休業していた中、数時間だけ営業していたのでパコラ(カレー味天ぷら)を買いに行った。脂っこいおつまみが食べたかったからだ。話しが横道に逸れた。
 ナワブとのご縁は日本橋に本店があった頃(現在は都市計画により閉店)パキスタン関係のイベントやミーティングが開催され、参加していたことによる。パキスタンメディアが入って下手くそなウルドゥー語でインタビューに答えて、いつのまにやら在日パキスタン人の間で一時的な有名人みたいになってしまったのだ。また地方から東京に来たパキスタン人留学生を連れてナワブ日本橋で故郷の料理を一緒に食べたりもしていた。土地によってはパキスタン料理もハラル料理も外食・食材をみつけられない。ネットで買うには学生には高い。だから東京でちゃんとした自分の国の料理を食べることは楽しみのひとつとなる。「Kazuko Senseiに連れて行ってもらった」同郷若者同士のSNS交換が流れる。ナワブは支店が日本橋閉店後、2022年3月18日に西新宿に大きなレストランを開店した。

 私はオープニングパーティーに招待された。派手なパフォーマンス好きのパキスタン出身経営者らしい店の宣伝動画、入口に手消毒すると空気洗浄の霧が店内の上部に飛ぶ装置。大使(当時)をお招きしてのセレモニー。ビュッフェ形式だけど、パキスタン・インド・ネパール・バングラディシュ人の料理人がそろっていることがわかる人にはわかる料理の数々。看板にハラルとは出ておらず、お酒を提供している。私もハイボールをいただいた。この日、社長のシャキールさんに話した。「ゴールデンウイーク期間、ランチタイムだけ仕事がしたい」と。理由も伝えた。

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 私の話しを訊いてくれた。その1ヵ月後、松戸に社長とマネージャーさんが来た。私の連休ヘルプスタッフの打ち合わせもした。マネージャーさんがスタッフをトレードしていた。小山店から松戸店に入ったスタッフのアリさんはとても良かった。私は連休後も日曜日2時間だけが続いている。

1.店番して気づく日本の経済の今「お客さん、お金ないね」

 テラスモール松戸店はとても広い。4階屋上から地下まで駐車場があり、3階の売り場・レストランと映画館。1階は、スーパーの一角・ドラッグストアーの一角、そしてお惣菜屋さん系のお店とイートインスペースがある一角。パキスタン・インド料理ナワブはこのお惣菜屋さん系の並びにあり、横はイートインだ。だが、お客様がなかなかイートインで食べて貰えない。シェフたちは「店内で」と言うとものすごく嬉しそうにきびきびと料理を作り出す。「店内お召し上がり」は見ているとリピーターさんやインド料理に慣れている人(見た目外国人も含む)、それから何かのプロモーションで仕事に来たと思われる休憩の人など客層がはっきりしている。シェフのアリさんが言う。

 「お客さん、お金ないね。値上げしてから食べていかない」

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 4月くらいから100円くらいずつ高くなっているのは確かだが、サラダが付くようになったし、そんなに影響するものではないと思うが、それは私個人の感想だ。ナワブに限らず、モール内の飲食店やフードコートのお客さんが少なくなっていると感じる。

 アリさんと一緒にじっくりお客様の動きをさりげなく見ていると、必要な日用品としか思えない袋の中身、おうちでご飯1週間分の食材、ぱっと見ただけでも衝動買いや不要だけどなんとなくといった雰囲気のブランドの袋が少ない。衣類や靴もだ。そしてスパイス・コーナーの整理やパック詰めをしながらイートインのコーナーで飲食しているお客さんを背中越しで見ていると…。大抵のお客さんはたこ焼きをテーブルに載せて家族でシェアしながら食べている。また近くのベーカリーのパンをほおばっている。近くのアイスクリーム屋さんのアイスを食べている。スーパーや総菜店の並びのお弁当を食べている。飲み物は冷水器の無料の水かペットボトルのお茶だ。ああ、これは、さきほどのアリさんの「お客さん、お金ないね。値上げしてから食べていかない」がまったくその通りだということを自分の眼で確認したのだ。

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 また1人でお客として歩いているとモールの中を歩いていると日曜日のマッサージ店はどこもお客さんが多いように感じる。よく考えれば、自分自身のこの数か月の消費行動も同じだ。今まで何回も行っていた回転寿司店があったが、「高くなった」と感じてからは、前を通ってもなにも反応しなくなっていた。それだけではなく、食べる目的の外食も減り、冷蔵庫の中の常備菜が増えていた。マスクのせいで化粧もアクセサリーも興味がなくなった。若い頃使っていたコスパの良い基礎化粧品に戻った。衣類に関しては、数年前からほとんど買っていない。日本の同じメーカーで誰でも値段を知っている服は値札をつけて歩いているかの如くだ。世の中の服がまるで制服のようにモノトーンが多い。春先に緑の服が店頭に並んでいいなとは思ったが購入するに至らなかった。いろいろお金を使わなくなった分30年持って壊れた冷蔵庫など昔の家電の入れ替えに問題がなかった。それとまた気づいたのは、世界の消費行動、特に若い世代は日用必需品をネットでまとめ買いしたり、値段を比較したりして買っている。またコロナ自粛で断捨離が再流行し、100円ショップ商品や低コストの有名店などの購入品を工夫して使うことをSNSに投稿している女性が増えている。

 ショッピングモールが遊び半分屋内の家族散歩と外食と普段買わない買い物をする場所ではなくなってきているのではないか。ナワブは飲食・持ち帰りから安くて本場のスパイスを購入し「おうち手作り」に興味があるお客様が徐々に増えている。単価が安いのでそれだけでは商売にならないだろうが。もちろん、シェフたちはイートイン店内お召し上がりが一番嬉しい。

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「勉強ない(学歴が低い)、料理だけ、仕事だけ」

 いやいや、多くの人が高学歴になった日本人よりよっぽど知恵袋が大きい。一緒に仕事をして懐かしい日本の終身雇用時代の良い意味の人間関係、アナログとデジタルが極端とされるインドの本質、信仰があることの良さ、アリさんから学ぶことがたくさんある。私自身も高学歴だが文字情報で得た知識をもとにしていることが多いが経験知の大切さを実感している最中だ。アリさんの識字は問題があるが。

写真上から:ナワブ新宿店・開店イベント、物価高騰で料金改定 ほぼ100円ずつ、ツーカレーセット店内飲食、店内仕込みのチキンティッカ、飲食スペース

(2022.8.20)
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