■【北から南から】

北の大地から             南 忠男

      - 歓迎できない北海道洞爺湖サミット -
      - 防衛省~会場周辺にミサイル配置を検討? -
      - 札幌市~集会・デモを規制 -


◇サミットに道民は無関心


  今年は明治政府に反対し、「蝦夷共和国」の夢をえがいた榎本武揚の没後百
年に当たる。榎本武楊に限らず北海道にさまざまな可能性を求めたて渡来して
来た人々が多数いた。今も、この北の大地に夢と希望をかけて頑張っている人
たちが沢山いるが、国や道の施策・行政には夢も希望もなく、もくもくと頑
張っている人たちの足かせにすらなっている。
 
  いまや、国の機関も道も「北海道洞爺湖サミット」に向けて無我夢中。サミ
ットがあたかも北海道の救世主であるかのごとく、北海道洞爺湖サミットの成
功によって北海道の未来が開けるような宣伝ばかりしているが、道民の多くは
批判的であり、無関心である。今のところは「サミット!・サミット!」とい
う掛け声だけが一人歩きしている。
 
  道の財政は、「財政再建団体」転落の寸前にあってサミットどころの話でな
い実態だ。他方、企業・道民は、ガソリン・灯油の高騰で、経営も生活もたい
へん。先進国首脳が集まるサミットなどは道民の生活にとって無関係の話であ
るとそっぽを向いている。


◇灯油価額の高騰が家計を直撃


  このほど日銀札幌支店が灯油価額の高騰が道内の家計に及ぼす影響について
試算したレポートを発表した。それによると、「昨年11月から今年3月までの
需要期の道内一世帯当たりの灯油支出は前年同期比4割増。収入が伸びないな
かで個人消費が抑制され、低迷を続ける北海道の景気の底割れにつながる恐れ
もある」(1月9日「北海道新聞」)としている。
 


◇大国だけ集まって何を議論するのか?


 
  サミット(先進国首脳会議)で、大国の首脳だけが集まって物事を決めるこ
とに問題がある。とりわけ今回のサミットの議題が「地球温暖化」の問題であ
るが、そもそもこの問題は、先進国の需要を満たすための森林の乱伐から始
まったもので、この被害者である発展途上国の参加を抜きにして議論するのは
僭越至極である。発展途上国の労働力や資源を浪費している消費大国だけが集
まって、有効な議論ができるのだろうか。
 


  ◇開催地決定に道民の意思は反映されていない


 
  日本国内の問題としてもいろいろある。そもそもこのサミットの開催地を北
海道の洞爺湖に決めたのは安倍前首相のトップダウンに過ぎない。
  高橋北海道知事も当初は「サミット誘致より大事なことが沢山ある」と手を
挙げなかった。安倍の要請によりしぶしぶ最後に立候補したのが北海道だっ
た。
 
  「北海道洞爺湖の名を世界に」と理屈をつけては見たものの、前年の開催地
は?と問われても、ドイツ国まではわかるが開催地の「ハイリゲンダム」まで
覚えている人は果たしているのだろうか?北海道洞爺湖の名も7月9日のサミッ
トの閉幕と共に忘れ去られるのは間違いない。
 


  ◇予想される過剰警備がもたらす被害


 
  開催地周辺の住民にとって最も心配されるのは、ものものしい警備により、
観光客の足が遠退くのではないかという懸念である。洞爺湖は2000年の有珠山
噴火からようやく立ち直り、観光客も増えつつあるが、ひところの活況にはま
だまだ届かない状況である。やっと伸びはじめた洞爺湖観光の小さな芽を警備
の警官の土足で踏みにじるようなものである。
 
  沖縄の先例からも、漁船の出漁も規制されることが必至で、「沖縄は年中操
業だから、一時の規制はそんなにこたえないけれど、北海道は夏場が最盛期
で、規制されたら飯が喰えなくなる」と嘆く漁民が多いが、観光産業にも同じ
ことが言える。
 
  近年のサミットは静穏な環境の中で行うリトリート型が主流ということで、
洞爺湖の小高い丘に立つザ・ウインザーホテル洞爺が選ばれたのも、警備優先
との観点からだった。しかし、周辺は陸も広いし、海はもっと広い。警備計画
は無限に拡大する。一日何万食と言われる警備警官のための弁当の委託業社の
選定作業が始まっているが、既存の弁当業者は施設や人員を増やしても一過性
の話では損失の方が大きいと戸惑っている。
 
  「北海道洞爺湖サミット道民会議(会長高橋はるみ知事)」が募集した各国
首脳と道民との交流事業「未来の夢~世界との絆プロジェクト」に事業案を提
案しているのは19市町村・26事業に過ぎないと1月3日の北海道新聞が報じてい
る。しかも、その中味たるや感心されるものがない。例えば、旧産炭地芦別市
のテーマパーク「カナデイアンワールド」にカナダの首脳を招待して公園の記
念植樹をするとか(芦別市)、イギリスの首脳のニッカウヰスキー北海道工場
見学(余市町)、パリで活躍した洋画家・西村計雄の作品鑑賞にフランス首脳
を招待する等々。
 
  芦別市の「カナデイアンワールド」は十勝地方にある「グリニック王国」と
共に一時は歓心を呼んだテーマパークだったが、いまは両者共々閑古鳥が鳴い
ているシロモノである。あまりにも知恵のない話ではないか。
  もっともこの種の事業には国や道の補助金は一銭もつかない。金が入らない
からと云って知恵をしぼらないのは貧すれば鈍するで情けない話である。
 


  ◇防衛省~警備に地対空誘導ミサイルの配備を検討?


 
  国の予算では、警察庁関連の警備費が155億円、外務省関連134億円、防衛省
関連では要人輸送にあたるヘリコプター改修や通信費などに9億4千万円、等々
で総額319億円が今年度予算案に計上されている。「テロ対策特別警戒中」の
看板もあちこちに見られるようになった。
 
  見過ごすことの出来ないのは次の二つの情報である。一つは、「来年の北海
道洞爺湖サミットで空の警備を担う防衛省が、テロ対策の一環として、会場周
辺への地対空誘導弾パトリオット(PAC3)配備の検討に入っている」12月
29日北海道新聞。防衛省は恐ろしい存在になった。そもそも軍隊は仮想敵を勝
手に設定して肥大化するものである。中国大陸から広く太平洋を覆う「アジア
・太平洋戦争」に邁進した旧日本陸海軍。この戦争も一応は「自衛の為」と云
う名目で始まったものであった。
  「専守防衛」のタテマエがここまで拡大されて良いのだろうか。
 


  ◇札幌市~デモ・集会の規制


 
  二つ目は、「札幌市は、北海道洞爺湖サミットの開催中とその前後、大通公
園など市内中心部の三公園について、不特定多数が集まる集会やイベントなど
の開催を原則許可しない方針を決めた」1月5日北海道新聞。これではまさに民
主主義運動に対する弾圧であり、「集会・結社の自由」を保障した日本国憲法
を無視した行為である。
 
  各国から来る要人、警備の人、マスコミ関係者、そして日本の過剰警備と、
それによってもたらされる交通渋滞などは、温暖化ガスの拡散であって、北海
道洞爺湖サミットの議題に反する。
 
  「テロとの戦い」というが、テロリストは貧困と憎悪の中から生まれ続ける
ものであり、地球上から貧困と憎悪をなくす取り組みこそ重要である。
  貧困と憎悪の対象となっている大国の首脳が集まり、ものごとを決めるサミ
ットの本質を批判し議論することまで抑制されてよいのだろうか
 
  「国破れて山河あり」とは杜甫の有名な漢詩であるが「サミット終わって看
板だけ残る~テロ対策特別警戒中~」となるのを懸念するのは筆者だけではな
いだろう。
  しかし、そんな駄洒落を云ってるときではないと叱られるかもしれない。サ
ミットが日本で開かれる年は総選挙が必至と云われている。政権交代のために
戦かわなければならない。(筆者は旭川市在住)

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