【コラム】宗教・民族から見た同時代世界
長引く難民生活に疲弊するロヒンギャの現状
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャが迫害を受けて、大量の難民が隣国バングラデシュへ逃れてから7年を超える。この間、ミャンマーでは軍事クーデターの後、内戦が激化し、バングラデシュでは、ハシナ首相が国外に逃れる政変が起こり、これらの事情がロヒンギャに新たな苦境をもたらしていると報じられている。「第2のジェノサイド」とも評される、ロヒンギャのいまを探ってみよう。
◆歴史を奪われ、存在を否まれ
国民の85%が仏教徒とされるミャンマーでイスラム教徒は少数派だが、とりわけ、ルーツがインドのベンガル地方とされるロヒンギャとよばれる人たちは、ミャンマー西端のラカイン地方に15世紀から居住してきた歴史があるにもかかわらず、独立後続いた、ネウイン以来の、仏教徒ビルマ人を基盤とする軍事政権によって、バングラデシュからの不法移民と扱われ、無国籍状態に置かれてきた。
そのため、軍や仏教徒による理不尽な迫害を、繰り返し受けてきたが、とりわけ、2017年8月、ロヒンギャの武装グループと軍が衝突した事件をきっかけに、国軍と仏教徒ラカイン人による大規模な武力弾圧が行なわれ、罪のない住民が無差別に殺害され、女性が犯され、村々が焼き払われた。
このときのロヒンギャの死者は少なく見積もっても1万人を超え、隣国バングラデシュへの約75万人を含め、100万人に及ぶロヒンギャが難民として国外に逃れた。
その難民の苦境が、懸念されるのだが、ラカイン州の故郷の村にも約60万人のロヒンギャが残っている。まずは、彼らの状況から見ておこう。
◆内戦の両軍から挟撃されて
ラカイン州という州名は、そこに居住する少数民族ラカインに由来する。彼らは仏教徒だが、永年、ミャンマーの支配的民族、多数派の仏教徒ビルマ人に抑圧・搾取されてきた歴史があり、1950年代から自治権獲得をめざす抵抗運動を行なってきた。
2021年の軍事クーデター以降続く国軍と民主派武装勢力「国民防衛隊(PDF)」との内戦で、国軍が苦戦に傾いた23年秋以来、この機に乗じたラカインの武装組織「アラカン軍(AA)」が攻勢を強め、国軍の軍事拠点を次々陥れて、実効支配地域を広げた。
すると、AAの勢力圏に置かれたロヒンギャの村を、国軍が攻撃するようになり、両軍の戦闘に巻き込まれた住民に多くの犠牲者が出た。
国軍が一時的にでも取り戻した村では、ロヒンギャ住民の強制徴兵が行なわれた。連れ去られた住民は、訓練もされず武器もなく前線に回され、国軍の「人間の盾」にされた。すると今度は、AA側から、国軍に加担しているとして、ロヒンギャの村が攻撃され、さらに多くの住民が殺害された。
国軍とAAの両方からの攻撃。こうした状況が、日々繰り返されている。
ラカイン州は、ナフ川ひとつ渡れば対岸はバングラデシュ。堪りかねた住民が川を渡ろうとすると、足元を見た船賃は法外に高く、老朽船は沈没も多く、途中で、国軍の空爆やAAのドローン攻撃に曝されることも稀でなく、強盗に遭う危険も覚悟せねばならず、しかも、対岸では不法入国として扱われる。
では、バングラデシュ側の状況はどうであろうか。
◆民族組織さえ「ならず者」化の、無惨
バングラデシュ南東部コックスバザール県に、切り開いた丘陵地をフェンスや有刺鉄線で囲い、ビニールや廃材で造った簡易な住宅が密集する難民キャンプがある。そこに、100万人に近いロヒンギャ難民が暮らす。
国連機関などの援助で簡易水道や排水路など生活インフラの整備はいくらか進んだが、7年を超えて長引く滞在で、難民にも、周囲の地域住民にも、疲れが溜まってきている、といわれている
バングラデシュ政府は、ロヒンギャ難民の定住を認めず、ミャンマーへの帰還を前提にしているので、彼らに法的地位を与えることはなく、就労や高等教育も認めていない。そのため、することがない若者たちがキャンプにあふれ、一部は、麻薬の密売に手を染めるなど、ギャング化し、抗争も発生して、治安の悪化が進んでいるといわれている。
また、難民への食料などの支援は、1人、月に1000タカ(約1300円)相当にとどまるため、現金を得ようと、難民がキャンプを抜け出して、安い賃金で不法就労したり、支援物資を売却したりするので、地元住民の就労機会が奪われたり物価の不安定化がもたらされているとして、周辺住民に反ロヒンギャ感情が募っているともいわれている。
こうしたなかで最近目立つのが、人身売買や拉致である。とりわけ注目されるのが、ここでも、国軍による強制徴兵である。劣勢で兵力不足に陥った国軍が、国籍も認めていなかったロヒンギャの民を、拉致同然に徴兵しているのである。
そこに暗躍しているのが、なんと、「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」や「ロヒンギャ連帯機構(RSO)」といった、かつてロヒンギャの自治権獲得を掲げて闘ってきた武装組織である。とりわけARSAは、17年8月のロヒンギャ大弾圧の引き金となった、国軍との衝突の当事者である。
それらの、かつて、先鋭的に民族の権利を主張した組織が、いまや、「ならず者」化し、こともあろうに、国軍の手先となって、同胞難民の拉致や誘拐に手を貸している、というのである。しかも、両組織の勢力争いで傷害事件や殺人事件が跡を絶たず、難民キャンプの治安の悪化に拍車をかけている、といわれている。
長引く難民生活に疲れ、ウクライナや中東に国際社会の関心も移って、国連機関などからの援助もジリ貧化している、「忘れられつつある」難民の、絶望的な状況を象徴的に物語る事態であろう。
(2024.11.20)
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