■ 【北から南から】

台湾 花蓮便り(2)                   王 珠 恵

   慈済大学の産学交流と東アジアの介護問題について
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  1994年、尼さんである證厳法師は、台湾の東部に、医学と人文を重視する
慈済医科大学を創設した。学部が増設されると、医科大学は名称を「慈済大学」
に改め、付属中学校と小学校が併設された。今では幼稚園から大学院までの完全
化教育を施す総合大学になり、世界各地に高校まである教育体制である。

 大学は「専門と人文の同時重視」の下に、慈済の「感恩、尊重、愛」の精神と
慈済スローガンの『慈(じ)、悲(ひ)、喜(き)、捨(しゃく)』、を継承し
ている。教育を通して、自律・自愛・他人愛の精神を持ち、人類の福祉に貢献で
きる人材を育成する。
 現在、慈済大学には医学部、生命科学部、人文社会学部およびコミュニケーシ
ョン教育学部に、それぞれ13学科と17研究科(博士前期課程16コース、博
士後期課程4コース)がある。証厳法師は若い芽が慈悲救済の種子になるよう、
教育の使命を明確に指示している。

 大学では、10人の学生に3人の慈誠父(お世話係)と懿徳母(お世話係)が
います。慈誠父と懿徳母は慈済委員の中から選ばれ、学生を我が子のように世話
し、人間菩薩道のノウハウも教える。また、慈済大学だけでなく、台湾を含め世
界中の慈済青年団は、人道救援活動に参加し、教室で学んだ慈済の人文と知識を
生活に生かしつつ、世界中と交流を続けている。

 2007年から慈済大学で教鞭を取ることになった私は、日本語学科と医学部
で日中通訳、医療看護日本語、介護日本語の科目を教えつつ、ILOの労働と正
義や東アジアの労働運動、労働問題を教え、漢字圏における老人介護人材の育成
プログラムを企画し、日本と実質的な交流をしている。

 日本は老人長期介護について豊富な経験を持ち、健康管理である予防医学だけ
でなく、コミュニティ・ケア、ヘルス医療でも、台湾に比べて完備した法制度と
専門の介護技能を持っている。台湾は日本より25年程後から、日本に追いつこ
うという勢いで少子高齢化が進んでいる。

台湾の高齢者のために、質の高いより良い生活介護の環境を作り出すためには、
高齢者の目線に立ったやさしさ、きめ細かさのある生活介護の文化を日本から導
入することで、台湾の高齢者の尊厳ある生活が提供され、社会的な安定が期待で
きると慈済大学の張副学長は報告書で述べている。

 日本を見ると、高齢化社会の介護人材不足に対応しようとして、インドネシア
とフィリピンとEPA協定を結び、英語圏医療看護・介護の専門人材の導入に踏
み切った。しかし、日本語が3級である外国人の専門人材でも、社会生活と文化
習慣の大きなギャップによって、日本での生活介助の機能は潤滑に作動していな
い。

介護は一般的な生活の介助であり、医療上のケアと違うことに、日本の受け入れ
機関である介護施設や政府機関が気づき始めたが、2011年までいた1000
人ほどの外国人候補生は、2012年で急激に減少し、介護施設などは日本語教
育の問題で、受け入れ機関が激減している。

 日本や台湾を含め、中国大陸、韓国、東南アジア各国ともに、少子高齢化が急
激に進み、老人介護に従事する介護人材が大きく不足している。もはや老人介護
の介護人材不足は各国の深刻な問題として無視できない。老人を姥捨て山に捨て
ることもできず、若者は経済的に失業しかけているのが社会的現象である。

 こうなれば、自国だけが助かればよいという考え方ではなく、国際間で手をつ
なぎ、漢字圏介護人材の育成と、日本での介護実習、自国への尊厳ある労働の回
流を企画するなど、全体的なプランを含めた介護におけるディーセントワークの
環境づくり、若者を誘致するための施策、国際的な産官学が一緒になって動くプ
ラットフォームが必要になってくる。

字数の関係上、続きは次回の東アジアの高齢社会における持続繁栄と共存の道―
台日産学協同推進と持続可能なNGO平和運動でお話をさせていただきたいと思
う。

  (筆者は慈済大学副教授)

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