【社会運動】

脱原発とCO2削減に向けた電気の共同購入

半澤 彰浩


 2016年度から始まる電力小売自由化に参入するのは企業だけではない。独自の電力会社を立ち上げ、生協組合員への共同購入を予定している生活クラブ生協の取り組みについて(株)生活クラブエナジー代表取締役生活クラブ生協神奈川専務理事半澤 彰浩氏に聞いた。

◆◆ I エネルギーを市民の手でコントロールする

<Q> 2016年度から生活クラブ生協は、組合員に向けて電気の共同購入を始めると聞きました。どのように進めてきたのですか。

 電気は、これまで全国に10社ある大手電力会社が、各地域で独占的に供給していました。2000年以後、だんだんと自由化されて、PPS=新電力と呼ばれる「特定規模電気事業者」から、大きな事業所や工場などに高圧電力を供給するようになりましたが、そのシェアはまだ3%にも届きません。しかし、2016年4月からは、一般家庭や小さな店舗、事業所などへも電力の小売りが自由化されます。そこで、生活クラブ生協では、電力小売完全自由化に向けて、組合員への電力の共同購入を始めることにしました。

 実は、生活クラブでは、以前から電力事業に取り組んできています。2010年から、東京、神奈川、埼玉、千葉の各生協で、市民が自ら電力を選択して、エネルギーを自治していく、つまり自らの責任で選択して決めていける社会を目指す準備を進めてきました。その第一ステップとして、2012年に生活クラブ風車「夢風」を秋田県にかほ市に建設しました。それは、全国の生協の中でも初めてのことでした。

 その建設中に福島第一原発事故が起きましたので、CO2削減とともに脱原発を明確な目標として、再生可能エネルギーの議論を加速し、その経験をもとに第二ステップとして、生活クラブ風車から生活クラブの事業所に電気の供給を始めました。第三ステップとして、自分たちの電力会社を設立し、電気の共同購入を行うことを構想していましたが、それを実現するのが今回のことなのです。生活クラブ風車の建設が、電気の共同購入につながってきたと言えるでしょう。

<Q> 新しく設立された(株)生活クラブエナジーはどのような会社ですか。電力事業に参入するためには特別な資格が必要なのでしょうか。

 (株)生活クラブエナジーは、生活クラブグループの総合エネルギー政策を具体化するために作った電力会社です。2014年10月に、北海道から兵庫県までのすべての生活クラブ生協と一部の生産者の方々が出資して設立しました。この会社は、第一に電気を仕入れて需給調整をして供給をすることが主な仕事です。第二に、再生可能エネルギーの電源の開発、第三は省エネ推進で、その三つが事業の柱です。

 2015年度の生活クラブ風車の発電量は、ほぼ計画通りに進めることができて、一般家庭の年間の標準電力使用量で1300世帯分を発電しています。各生協の配送センターの屋上にも太陽光発電等を設置していますので、現在、北海道から大阪までを合わせた生活クラブの再生可能エネルギーの発電所全体で、約1万kWを超える発電能力を持っています。北海道には新しい風車を2基建設し、栃木県、群馬県の太陽光発電所は生活クラブの鶏卵生産者の土地を有効活用したもので、発電事業は生産者にも少しずつ広がっています。

 これらの発電所の電気は、すべて(株)生活クラブエナジーを通じて、組合員の家庭に供給する仕組みです。今後、各地の生産者が発電事業に取り組む計画もあります。電力事業に参入するためには、自分たちの電力事業の需給の見通しなどの資料とともに経済産業省に申請書を提出し、審査を通過して、小売電気事業者として登録される必要があります。(株)生活クラブエナジーも小売電気事業者として2月に登録されました。

<Q> 生活クラブによる電気の共同購入の基本的な考え方を教えてください。

 2013年12月に生活クラブ連合会では、「総合エネルギー政策」を決定しました。その基本的な考え方は、「食(Food)とエネルギー(Energy)とたすけあい(Care)は、私たちが生きていく上で不可欠なものであり、利潤追求優先の企業には委ねられない」というものです。F(食)E(エネルギー)C(たすけあい)を自分たちがコントロールできるように、自給できる範囲を広げていこうとするのが「FEC自給圏構想」です。

 「総合エネルギー政策」は、この構想を基本とし、原発に頼らず、「エネルギーの自給とCO2削減」を基本にして、人と自然が共生できる社会を目指して、(1)減らす、(2)つくる、(3)使うの三つの方針を柱とした具体的な計画を立てています。

 「減らす」は、組合員の家庭や、生活クラブの事業所で様々な工夫をしながらエネルギーを使う量を減らしていきます。エネルギーを使う量を減らせばその分、発電所が不要になり、それは観点を変えれば最大の発電とも言えます。あまり我慢をしないでエネルギーを減らす方法はたくさんありますから、いろんな形で省エネを進めます。「つくる」は、再生可能エネルギーを私たちができる範囲でつくっていくということです。そして「使う」は、環境に負荷のかからない再生可能エネルギーを選択して使おうということです。

 電気の共同購入とは、総合エネルギー政策の「使う」を実現することです。「再生可能エネルギーの電力を普及し、その電気を使うことが実質的な脱原発になる」という考え方です。ただし、生活クラブが提供できる再生可能エネルギーは、まだ量が限られています。すべての組合員に対応できるだけの準備はできていないので、再生可能エネルギーの比率30〜60%を基本設計として、まず、その範囲で組合員を限定して取り組む方針です。もちろん今後、電源の開発や連携により、再生可能エネルギーの発電量を増やすことで、契約できる組合員数を増やしていこうと考えています。

 当初は限定的な取り組みですが、開発しながら広げる運動でもあります。生活クラブで行うのは、電気の「供給」ではなく「共同購入」です。共同購入の主役は組合員=電気を使う人であり、組合員が利用し参加しながらつくりあげていく運動です。ですから電気の契約プランも消費材(生活クラブの共同購入で扱う食品など生活材の呼称)の開発・改善と同じように、組合員が参加してつくり変えていくことができますし、価格も同様です。(株)生活クラブエナジーという会社があって供給を受ける組合員が存在しているのではありません。(株)生活クラブエナジーは共同購入のために作った会社だからです。生活クラブの電気を使うことは再生可能エネルギーを応援し、持続可能な未来社会をつくる運動に参加することになります。

 生協をはじめ協同組合は、自分たちに必要なものを自分たちがお金を出し合いつくっていくためのものです。日本では、戦前は水力発電を中心に地域に必要な電力事業を行う協同組合がたくさんありました。自治体に水道局があるのと同じように、電気も自治体ごとに、協同組合や自治体が中心となって各地で事業をしていました。電気は生活に必要で身近なものでしたし、地域に分散化していたのです。しかし、第二次世界大戦が始まり、「大日本発送電」という形で一元化され、戦後、GHQによって解体されたものの、現在の大手電力会社10社による地域独占体制になったのです。本来、エネルギーは生活に身近で、自治できるものだし、自治する必要があるもののはずです。

<Q> 日本のエネルギー政策は海外の先進事例とどう違うのでしょうか。

 3・11後の2012年、民主党政権は、「原発を止めて再生可能エネルギーを増やしていこう」という政策を出していました。ところが自民党に政権交代し、2015年7月に2030年のエネルギー需給計画が発表されました。再生可能エネルギーを22〜24%にするとしています。現在は、ダム水力を入れて12%ですから、あと10%程度増やし、原子力発電を20〜22%にするというのです。

 2015年の川内原発の再稼働後も、どんどん再稼働する計画です。これは、今ある48基の原発を全部再稼働して、さらに、建設計画のある原発はすべて新規建設するというボリュームです。火力発電の割合は56%ですが、火力の中でも石炭火力を増やす計画です。石炭火力の性能が良くなっているという人もいますが、石炭ほどCO2を排出するものはありません。2015年7月に出された日本のCO2削減目標は、先進国では最低です。

 このように2030年の日本のエネルギーは、約80%を火力発電と原発に頼る計画なのです。3・11の福島原発事故の教訓がまったく生かされていません。昔に逆戻りです。これは利益のみを目的とした産業資本と政府が結託している由々しき問題だと思います。「生命」より「特定の企業の利益」を優先していると言わざるをえません。

 世界の再生可能エネルギーによる発電量の割合は、2014年で22.8%です。欧州各国、特にドイツは2020年には40%、デンマークは50%以上にする計画で、フランスやイギリスでも約30%です。ところが日本は2030年になっても再生可能エネルギーは最大で24%にしかせず、一方で原発はすべて動かす方針です。

 原発の問題とともに地球温暖化の問題、CO2の問題も深刻です。地球温暖化の原因は人間の活動によって排出される温室効果ガスで、最も影響の大きいものがCO2です。産業革命前に比べて、気温の上昇を2℃未満にしていかないと地球上の生物が存在できなくなると言われています。すでに日本でも夏の異常な暑さ、冬の異常な寒さや、竜巻や強力な台風の増加など、気候変動が激しくなってきているのが実感できるはずです。

 温暖化対策として重要なのは、省エネと併せてエネルギーを効率的に活用することと、再生可能エネルギーの大幅な活用。そしてCO2吸収源の増大、すなわち森林減少を食い止めることです。それには生活様式を変えることも必要ですが、最も有効な対策は、再生可能エネルギーの活用です。だからこそ、すでに日本を除いた先進各国のエネルギー政策は「再生エネルギーでの発電量の割合を増やす」方向に舵を切っているのです。

 温室効果ガス削減に向け、2015年12月にCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催されました。地球温暖化への対策が遅れると、人間も生物も生存できなくなります。COP21で目標としている2050年はそんなに先ではありません。子どもが生きていく未来を今からどうやってつくるのか、という視点に立つ必要があります。気候変動を防ぐ最大の対策として、再生可能エネルギーの活用を広げれば、化石燃料を使う量も、CO2を排出する量も確実に減ります。

<Q> 生活クラブの発電所は、風車と太陽光など再生可能エネルギーだけですが、再生可能エネルギーだけで安定供給できるのでしょうか。

 「原発をゼロにする」というのが生活クラブの方針です。そのためにも、目標としている「再生可能エネルギー100%」を積極的に進めたいと考えています。

 私たちが目指す持続可能な社会とは、省エネによりエネルギーの使用量を減らし、再生可能エネルギーを増やして化石燃料による発電を減らし、原発もなくして、2050年には「再生可能エネルギー100%の社会」です。デンマークでは実際に、自然エネルギー100%を目標にしています。デンマークにできて日本でできないはずがありません。段階的にどういうシナリオを書いて、進めていくのかが鍵です。ヨーロッパもそのための努力をしています。日本は原発を動かす方向を強めていますが、再生可能エネルギーを効果的に広げていくための施策や技術の強化を進めるべきです。そのように変えることで、原子力発電量ゼロを実現させ、エネルギー自給が可能になる社会ができていくのだと思います。

 すでに、再生可能エネルギーの設備容量はすごく伸びています。特に3・11以降、太陽光発電がかなり広がり、再生可能エネルギーの設備全部で3500万kWという大きな発電能力を持っています。原発は1基100万kWですから、その原発35基分の発電能力があります。しかし、再生可能エネルギーの供給割合は、ダムによる大規模水力を除くと5〜6%程度で、十分普及していません。

 確かに太陽光は、夜は発電できませんし、日射量が少なければ発電量が少なくなるという、変動的な要素があります。しかし2014年の7月、8月には、電力需要のピークを太陽光発電が補ったことが新聞記事になりました。夏場は電気を大量に消費します。特に、お盆前の2、3日の日中は、電気の使用量がピークになりますが、太陽光は夏にたくさん発電します。午後2時頃、太陽が照っていれば大量に発電するので、そのピーク時の需要を補ったわけです。皮肉なことに、実は原発のように常に大量に電気を供給するものは、こうした一時のピークのためにつくられてきたのです。

 海外の例を見ても分かりますが、再生可能エネルギーの発電量が増えれば、安定的な供給は可能です。そうしたことをふまえ、生活クラブでは、さらに再生可能エネルギーの中でも比較的安定して発電できる小水力発電やバイオマス発電の開発も検討していき、その割合を高めていきたいと考えています。また、地域で市民が中心となって「再生可能エネルギー発電」に取り組んでいて私たちと考え方を同じくする団体とも連携を進めていきたいと思っています。

◆◆ II 電気の共同購入はどんな課題を解決するのか

<Q> 生活クラブの電気の特徴はどういう点ですか。通信会社やガスや石油などのエネルギー関連企業が参入し、売ろうとしているものと、何が違うのでしょうか。

 生活クラブのエネルギーの取り組みの第一は、先述のように、「省エネルギーを柱とする」こと、そして、「原発のない社会」、「CO2を減らす社会」をつくることです。そのためには、「電気の価格や送配電の仕組みを明らかにする」ことが重要です。しかし、電気の仕組みは非常に複雑でわかりづらいのが現状です。私たちの日常生活では、コンセントに挿せば電気はすぐに使えますから、なかなか意識はできません。そこで、このわかりづらい仕組みを明らかにしていきたいと考えています。

 (株)生活クラブエナジーは、生活クラブグループが100%出資する会社ですから、電気の共同購入も消費材の共同購入と同じ考え方で取り組みます。その基本的な考え方は、「原料、生産方法、生産者を明らかにして適正価格で」ということです。例えば、供給する風力や太陽光、水力の電気は、どこで、どんな人が、どのようにつくった再生可能エネルギーなのかを明らかにし、発電にかかるコスト、原価も全部公開し、発電源を重視します。

 例えば食品の場合には、遺伝子組み換え作物を使わないことが生活クラブの方針ですので、加工食品などでは一次原料だけでなく、調味料などの二次原料まで遺伝子組み換えを使っていないかどうかも調べ、原料の由来とコストを明らかにしていますが、それと同様です。そして、電気の共同購入も、食べ物と同様に、地球環境や生物への負荷が少ないもの、国産を原則にしていますから、日本では「再生可能エネルギー」しか国産でできるエネルギーはありません。
 こうした電気の共同購入を通じて、再生可能エネルギーを生み出す産地と連携し、組合員が電気を利用することで、その産地を応援する仕組みです。

 生活クラブとして初めて行う事業であることと、事業規模と経営安定を考えて、電気料金は既存の電力会社の料金とほぼ同じ価格でスタートしますが、再生可能エネルギーの電源を明らかにすることが大きな違いです。

 電力の小売自由化でたくさんの企業が参入し、宣伝が開始されていますが、ほとんどが値引きを基本としたもので価格競争になっています。例えば携帯電話やガスとのセット割引き、ポイント制など、電気をたくさん使う人ほど値引きするようです。しかし、電気をたくさん使うように値引きに焦点を当てて誘導することは、原発再稼働につながる危険があります。生活クラブでは省エネを軸にしているので、電気をたくさん使う人ほど高くなる三段階制を電気料金の基本にします。

<Q> 米や農産物などの産地提携はイメージしやすいですが、「電気の産地提携」とはどういうことなのでしょうか。また、「電気の適正価格」とはどういうことですか。

 2012年から秋田県にかほ市で稼働している生活クラブ風車「夢風」では、ただ風車を1基作って発電しているだけではなく、地元の人たちとの交流も行っています。最近では風車の立っている地域で、加工用トマトを栽培して生活クラブのトマトケチャップの原料として出荷するというチャレンジも行われています。風車による発電だけではなくて、人や物の交流にもつながっているのです。生活クラブ風車で生まれた電気事業の剰余金は、産地との交流や、トマトの栽培、特産品の共同購入など、人的交流も含めた費用に充てています。

 秋田県にかほ市と首都圏の4つの生活クラブ生協(東京・神奈川・埼玉・千葉)は、「地域間連携による持続可能な自然エネルギー社会づくりに向けた共同宣言」を締結し、その宣言のもとに、「にかほ市・生活クラブ連携推進協議会」を設置し、様々な相互取り組みを進めています。生活クラブ風車そのものは発電設備にすぎませんが、そのご縁が人の交流、地域間の連携交流、特産品の取り組みなど、地域貢献につながっています。こうした取り組みはとても大切です。

 「再生可能エネルギー」は、太陽、水、風などの自然のエネルギーを利用する仕組みです。水や太陽や森林、風が豊かな地域は、農林水産業が豊かな地域と重なります。土、太陽、水、風がないと農産物も育ちませんから、再生可能エネルギーと農林水産業は似ている面があり親和性が高いのです。ですから、ドイツやデンマークでは、自然の豊かな農村地域で、農家の人が出資した再生可能エネルギーに取り組む協同組合が多数あります。

 生活クラブの米の主産地である山形県遊佐町では、太陽光発電や小水力発電の計画を検討調査中です。食べものの共同購入をしている産地にエネルギーの共同購入が重なることになるので、さらに提携関係が深まります。このように、環境や社会に配慮した品物やサービスを選択するエシカルコンシューマー(倫理的消費者)として、提携生産者が発電した再生可能エネルギーによる電気を共同購入することと、生産から廃棄までトータルに責任を持つことを、私たちは電気の共同購入やエネルギーの取り組みの原則としています。

 今まで、電気の価格は地域を独占していた大手電力会社が決めていたため、原発の費用も含め、まとめて原価として電気料金に反映させていて、その内訳は明らかにされませんでした。しかし、生活クラブの電気の共同購入では、原価を公開することを方針とします。

 今、皆さんの手元に届く電力会社の請求書には、「再エネ発電賦課金」の額は出ていますが、「原発賦課金」という項目はありません。今は管内の原発が稼働していないこともありますが、それでも本当は1kW当たり約0.73円の原発の費用が含まれています。原発が稼働していなくても維持にお金がかかるので電気料金に入っているわけです。「再エネ賦課金」で電気料金が高くなると言う人もいますが、私たちに知らされていないだけで、原発にかかる費用もこれまで相当払っているわけです。このように、既存の電気料金には、隠れて負担させられているものがたくさんあることを、生活クラブの取り組みとともに伝えていきます。

<Q> 生活クラブの電気でどの程度、再生可能エネルギーを手に入れられるのでしょうか。具体的な取り組み予定をお聞かせください。

 スタート段階のメニューでは、再生可能エネルギーの比率30〜60%を基本設計として、開発・調達と合わせて段階的に広げていきます。実際に供給した後でないと太陽光何%、水力何%、という割合はわかりませんので、請求時に表示し公開するようになります。

 2016年10月から電気の共同購入を全国の生活クラブで始めますが、その前段として6月から、1500人の契約に限定し、東京、神奈川、埼玉、千葉で先行実施します。10月からは東京電力管内の組合員の3%、他の電力会社管内の組合員の5%を上限とし、2017年度は10%、2018年度は15%と、段階的に契約する人を増やし、それに合わせて再生可能エネルギーの開発を進めます。

 再生可能エネルギーの比率30〜60%のプランでスタートしますが、30〜60%と差があるのは、電力会社管内の地域によって手配できる再生可能エネルギーの量が違うので、どうしても差が出るためです。供給規模の拡大と事業安定をふまえて、組合員の意見を聞き、メニューの複数化を検討していきます。

<Q> 都市部では再エネ電源開発の適地はなかなかありません。都市部に住んでいる人はただエネルギーを消費するだけでよいのでしょうか。

 (株)生活クラブエナジーでは、「生活クラブ自然エネルギー基金」付きのメニューが選択できます。新たに参入する電力会社は割引を大々的に謳っていますが、(株)生活クラブエナジーは、そういう電力会社とは逆に、再生可能エネルギーのために5%高く払ってもらうメニューです。電気代の5%を基金として積み立てて、再生可能エネルギーを広げていきます。そうすることで、電気の利用者が省エネと再生可能エネルギーの開発に参加できる仕組みなのです。「電気料金の5%なんて高い」と思うかも知れませんが、実は5%の省エネは割と簡単にできるんです。省エネした分を基金に拠出するメニューで、脱原発やCO2削減のために再生可能エネルギーを進めたいという組合員の思いをプラスできるのです。

 生活クラブが開発する再生可能エネルギーを徐々に増やし、利用できる組合員の契約も徐々に増やし、今、パートナーとして提携しているサミットエナジー(株)が行っている需給調整業務を徐々に(株)生活クラブエナジーに移していきます。電気の需給量調整ができない場合、パートナーであるサミットエナジー(株)の所有している火力発電(天然ガス)やバイオマス発電等から電気の補給を受けます。それでも不足する分については電力市場や既存電力会社からの補給を受ける形になりますが、この分はできるだけ少なくするように努力します。

 将来、再生可能エネルギー100%にしていくためにも電源の開発が必要です。現在、生活クラブでは、太陽光や小水力の調査研究をしていますし、東京都内でも市民発電をしている人や団体はたくさんありますので、市民が中心になっている発電所からの調達・連携も図り、ネットワークを広げていきたいと考えています。また将来は、組合員宅の屋根で発電している太陽光発電の電気も(株)生活クラブエナジーで仕入れられるように研究していきたいと考えます。顔の見える電気を広げていきたいからです。

<Q> 将来的な構想をお聞かせください。

 再生可能エネルギーを推進することで「民主的で持続可能な未来社会をつくる」ことが重要です。この共同購入に組合員が参加すること自体が、「再生可能エネルギーを中心とした持続可能な未来社会をつくる運動」なのです。

 今、この国は大きな転換点にあります。エネルギー問題の視点では、「老朽化した原発を動かして、化石燃料を頼りにして温暖化を進める社会」に向かうのか、「戦争をしないと決めた憲法を勝手に解釈を変更して戦争ができる国にするような、安倍首相が進めようとしている独裁的な社会、中央集権的な未来社会」に向かうのか、そうした大きな分岐点、転換点にきています。戦争は極めて中央集権的なものですし、原子力発電も同様に極めて中央集権的な仕組みです。一方、再生可能エネルギーは地方に分散化している電源で、私たちがコントロールできるものですし、発電を通じて人と人との接着剤になり地域社会が豊かになる、国産で安心・安全なエネルギーです。私たちには今、持続可能な民主的な未来社会に向かうのかどうかが問われているのです。

 事業が拡大・安定し、再生可能エネルギーが広がれば、将来的には地域ごとに(株)生活クラブエナジーのような地域の電力会社ができていくでしょう。電気の共同購入は、そういう意味で持続可能な未来社会をつくる取り組みのスタートです。生活クラブは対案を出しながら、それを大勢の参加と知恵と汗をもって具体化し、それがやがて一般化して未来を変え、社会を変えていく運動を続けてきました。エネルギーの共同購入も、その運動の一つです。

 (筆者は(株)生活クラブエナジー代表取締役・生活クラブ生協神奈川専務理事)

※この原稿は市民セクター政策機構(http://cpri.jp/)の発行する季刊『社会運動』422号から許諾を得て転載したものです。


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