■編集後記

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◎メールマガジン「オルタ」は創刊して2年、27号を出すことができました。
まずは、創刊の趣旨にご賛同いただき、御多忙の中を、無償でご協力頂いた
執筆者各位、熱心に読んで下さった読者の方々に深く感謝いたします。

2年前の創刊日04年03月20日はイラク戦争開戦1周年の日でした。イラク

戦争の不条理に、ささやかでも市民の声を上げたいものだと数人が集まって
始めたのが市民の手作りメールマガジン「オルタ」です。

 比較文化論の学者で評論家の柳父章先生はHPで「A国とB国が戦争したと
き、戦争がA国で行われればB国が侵略者、反対にB国でおこなわれればA
国が侵略者である。これに照らせばイラク戦争の侵略者は誰であるか明らか
であり、侵略者と戦う者がテロリスト・犯罪者と呼ばれるのは不条理であろ
う。」と分かりやすく定義されている。同感である。私たちの「オルタ」が
この不条理に立ち向かうには、あまりにも小さく弱く、まるで蟷螂の斧のよ
うではあるが「平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない」と
いう丸山真男先生の言葉に従い、一歩々々、歩み続けて行きたいと思う。

◎まるで「オルタ」の「志」が届いたかのような嬉しいニュースがある。一
つは「オルタ」の新年号(25号)に載った力石定一先生の『エコロジカルな
成長に向けて』の原子力艦船と原発に関する部分について、横須賀の地元の
市民団体である「原子力空母の寄航を考える市民の会」が「オルタ」(25号)
を印刷配布されたこと、そして、さらに、それを読んだ斉藤美智子さんから
投稿があったこと。

二つ目は25号で今井正敏さんが元国分寺町長若林英二さんのことを紹介した
が、その文章に若林英二さんが感激触発され、戦前の斉藤隆夫代議士の『反
戦演説』(抜粋)と「オルタ」(25号)の紹介文全文を大量に印刷配布され
たということ。三つ目は麗澤大学大橋照枝教授が23号(野村かつ子特集臨時
版)を「産業と環境」誌に引用・転載して下さったことなどである。「オル
タ」の配信数はわずかとしても、このように複写印刷して配布され、あるい
は他のメデイアに転載されることは編集・発信者として冥利に尽き、勇気が
湧いてくる。

◎「ユーラシア・ダイナミズム」「アジア・ルネッサンス」ともいわれるほ
ど、今、東アジアを渦の中心とする世紀の大潮流は目を見張るものがある。  
 久保孝雄さんには、この人類文化史上まれに見るアジアの胎動に背を向け、
ひたすらブッシュのアメリカに「盲従」という舵をとる小泉政治を批判し、
アジアに真の連帯を築くためには、市民一人一人が具体的に交流を積み上げ
ることが必要と説かれる「ユーラシア世界から取り残される『小泉日本』」
を巻頭にいただいた。
 長洲一二神奈川県知事のもと副知事として、当時としては画期的な大規模
「国際親善村」を開設し、後にアジア・サイエンスパーク(ベンチャー企業
のインキュベーション機構)会長としてアジア諸国首脳部と親密な交流を重
ねられた実績に裏付けられた主張は、読者に強い説得力を持って迫る。

◎有留修さんには上海から中国を、松田健さんにはムンバイからインドをそ
れぞれ現地で観察していただいた。お二人ともアジアをフィールドとする気
鋭のフリー・ジャーナリストである。今後とも、「オルタ」には、激動する
ユーラシアの鼓動をレギラー執筆者として練達の筆で伝えていただきたいと
思う。

◎「オルタ」としては初めて「映画紹介」を河上民雄先生にお願いし実現し
た。そもそもは、私が先生ご夫妻から、この映画の必見を強く勧められたの
が契機である。

 

 その心は、先生が書かれているように一人でも多くの日本人に、この映画
を観て欲しいからである。『白バラの祈り』はヒットラーに反対し、戦争を
止めようとした兄妹の戦いを描いたものだが、無謀な戦争の継続がいかに無
辜の民に犠牲を強いるものであるかはヒロシマ・長崎は言うまでもなく、無
差別都市空爆で焦土と化した日本もドイツも同じであった。ただ、日本の場
合には、このように個人の決意で戦争継続阻止のために戦って散ったという
史実は伝わっていない。
 
 河上先生が披露された「われら最高のドイツ人」という150万人も参加し
たインターネットによる世論調査結果は実に興味深い。アデナウワー、ルタ
ー、マルクスについでこの兄妹が第四位につけている。もし、今、日本で同
じような調査をしたら戦争の歴史に向き合うドイツと日本の姿勢の違いがど
のように現れるのだろうか。

◎この号では期せずして、レギラー執筆者の西村 徹先生と富田昌宏氏のお
二人が「オルタ」は毎号「硬過ぎる」からと心配され、それぞれ「美人は多
いか少ないか――春さきのざれごと」と「竹林の生命力に励まされて」とい
う「軟らかい」内容のものを書いて下さった。肩の力を抜いてお楽しみいた
だきたい。 

◎連載されている初岡昌一郎さんの「回想のライブラリー」と南忠男さんの
「北のたより」は毎号興味深いテーマで楽しいが、初岡教授は今月末をもっ
て姫路独協大学外国学部長を退任され、15年以上にわたる教職から離れられ
る。在任中には、全国の大学では初めて韓国学科を創設されるなど、国際労
働運動時代に引き続いて、アジアの市民連帯確立のために大きな足跡を残さ
れた。長年のご活躍に心から賛辞をお贈りするとともに、よりフリーなお立
場から「オルタ」に一層のお力添えを頂きたいと思う。
                       (加藤 宣幸記)
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