■【編集後記】

加藤 宣幸


◎北朝鮮のミサイル発射で「Jアラート」なるものが鳴り、地下鉄が一部止まったりしたようだが、隣家も降り注ぐ焼夷弾で焼かれ妹とともに必死に逃げ惑った私には「壁の陰に隠れて」などの呼びかけが何とも空々しい。厳しかった空襲体験からすれば、むしろ信濃毎日新聞編集局長の桐生悠々氏が昭和8年(1933年)に社説コラムで『関東防空演習を嗤う』と書き、それを在郷軍人会に攻撃されて、職を追われたという歴史の記憶に身がつまされる。もっともこの記事は巷間で言われるような単純な反戦論ではなく、東京上空に敵の飛行機が来るようでは負け戦だから別の手だてを考えよ、という論旨なのだが、当時の日本社会にはそれさえも許さない『空気』が政権・軍部・メディアによってつくられていたのだ。

◎先日『そして、メディアは日本を戦争に導いた』半藤一利・保阪正康/著を読んだが、両氏が指摘するように、日清・日露戦争以後、日本の新聞はすべて戦争を煽って部数を伸ばし儲けてきた。朝日新聞も軍用機献納運動の先頭を走っていた。1945年8月15日、むのたけじ氏は朝日新聞に辞表を出し、福岡日日新聞(西日本新聞)が一面を白紙で出した外に、日本の新聞はすべて『平常』で紙面は「鬼畜米英」から「平和と民主主義」に切り替わった。今確かに北東アジア情勢は北朝鮮の核実験・ミサイル射撃で緊張は高まっているが、米国は韓国在留米国人(約20万人)に避難を命じず、韓国人も特別な体制をとっていないようだ。なぜ日本には避難のアナウンスが流れるのか。フイナンシャルタイムスは金正恩委員長・トランプ大統領はともに何をしでかすかわからないから危険だと論評し、戦争は相手の出方を読み違えて起きると歴史が教えるからなのか。

◎広島・長崎で被爆し、戦争の惨禍の上に憲法九条をつくった私たちは何をすべきか。「Jアラート」で壁に隠れるのでなく、核戦争は勿論いかなる戦争にも反対する声をあげ続け、政府に平和外交への注力を要求することだ。私は1954年に設立された『憲法擁護国民連合』の役員だった遠藤三郎元陸軍中将(元軍需省航空兵器総局長・元航空工業会総裁)から日本の地勢は戦争が出来ない国なのだという講演を聞いたことがあり、最近では元防衛官僚で元内閣官房副長官として安保問題に活発な発言をしている柳沢協二さんからも列島に原発が並んだ日本の防衛について遠藤さんとほとんど同じような見解を聞いた。地図を見れば私たち市民でも日本が戦争できない国だということは分かる。

◎オルタはささやかな手づくりの市民メディアだがどのような状況でも東アジアに平和と市民の連帯を求め続けたい。今月号のトップには羽原清雅さん紹介の長野市在住フランス出身俳人マブソン青眼さんの『弾圧された俳人の名誉回復と弾圧に協力した俳人の責任追及を』を載せ、治安維持法が蝕んだ歴史を学び記念碑設立運動に協賛した。オルタは毎号【沖縄の地鳴り】欄を設けて沖縄を訴え続けているが、今号では新外交イニシアティブ(NDの会)の『今こそ辺野古に代わる選択を』(第一回)を載せた。是非注目して頂きたい。この団体はオルタの執筆者である猿田佐世弁護士を事務局長として、沖縄基地・原発問題で原則的な立ち場に立ちつつ、ワシントンでの対米活動や沖縄や全国での集会・活発な出版活動をしている市民団体である。

◎9月3日の東京新聞で、オルタ執筆者山崎雅弘氏の『「天皇機関説」事件』(集英社新書)をオルタ執筆者の三上治氏が書評する珍しい出会いがあった。先日開かれた東京・世田谷美術館・『花森安治の仕事―デザインする手、編集長の眼』展は4万人を集め盛況だったが、そのあと富山・岩手・愛知などを巡回し、オルタ執筆者小榑雅章さんが各会場で講演し熱烈な支持を受けた。オルタ編集委員の朱建栄さん・石郷岡建さんも始終TVのコメンテーターで出演されるなど、各方面でオルタ執筆者が活発に活動されているのは嬉しいニュースだ。

【お詫び】連載中の【宇治万葉版画美術館】は画像処理の技術上の理由により、技術的処置が出来るまで休載しますのでご了解ください。

【日誌】8月22日:九段坂病院・検診。学士会館・小榑雅章・野沢汎雄。23日:稲城・仏教に親しむ会。多摩センター・竹中一雄。26日:日本橋・『沢田教一展―その視線の先に―』。27日:自宅・加藤公男。29日:弁護士会館・『今こそ辺野古に代わる選択を』・新外交イニシアティブ・柳沢協二・屋良朝博・半田滋・猿田佐世。31日:京王多摩センター・荒木重雄。神楽坂・羽原清雅・小林吉雄。

9月3日:出光美術館・『祈りのかたち』仏教美術入門。4日:日本橋・『美の始まりは、旅にあった。』。5日:水道橋・坂井同門会・観能・竹中一雄。6日:自宅・仲井富・浜谷惇。8日~10日:米澤・鶴岡。11日:中野サンプラザ・『フクシマ原発の現状と見通し』・小出裕章。12日:九段・佐々木・初岡・仲井。議員会館・プログレス研究会。14日:自宅・澤口佳代。15日:学士会館・北東アジア動態研究会・菱木一点・元共同論説副委員長。16日:飯田橋・仕事センター・『私たちはなぜ植民地主義者になったのか』・藤岡美恵子・前田朗・宗連玉・新垣毅。

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