【コラム】技術者の視点(11)
福島の復興
●福島原発事故費用
龍谷大学政策学部・大島堅一教授が2017年6月時点で示した福島原発事故費用は下表のとおりです。(金額の欄の数値には、夫々計算の根拠が有りますが、筆者が省略しました。)
福島原発事故費用福島原発事故費用
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項 目 金額(億円) 将来(不確実)
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損害賠償費用 要賠償額 68,982 →7.9兆円
賠償対応費用 777
原状回復費用 除染費用等 42,000 →4.0兆円
中間貯蔵施設 16,000 →1.6兆円
森林除染 82 2兆円?
帰還困難区域の除染 n.a. 増大
事故収束廃止費用 東京電力の対策 21,675 →8兆円以上
国の対策 1,195?
行政による事故対応費用 15,264 増大
(除染を除く)
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合 計 164,348 25兆円以上
これらの内 損害賠償費用負担の仕組みは事故直後に作られ、下図の如くなっています(「朝日新聞」ほかより大島教授が作成)。もとより、法的には汚染者が責任を負うべきものを「電力会社が潰れると賠償を行うものがいなくなる」とのすり替え理論を基に、費用の負担が電気料金を支払う(被害者を含む)国民に負わされています。
◆ 1.発電コスト
福島事故以前には、原子力発電のコスト(総括原価に算入されるもの)が 5.3\/kWhであるとしてその経済性が喧伝されてきました。事故後の見直しで、これまで総括原価に算入されて来なかった関連費用の一部を算定した結果、日本の電気事業における発電コストは、原子力=13.3\/kWh、火力=9.9\/kWh、水力=3.9\/kWh(1970~2010年度実績)とされました。特に原子力については、福島事故の賠償、除染廃棄物や燃料デブリの処理・処分、更に使用済み核燃料の再処理費用などを費用として算入すれば、その発電コストはいっそう大きなものと為ります。
ところが、2015年に国のエネルギー基本計画を受けてコスト検証ワーキンググループが、従来用いられてきた2014年モデルプラントを用いた試算結果を他の発電方式と共に下図のように示しました(出所:大嶋教授)。
これに対する大嶋教授の見解は、①原子力につき、今後の費用増大が見込まれていない。②技術力に優れている筈の日本で、風力や太陽光のコストが欧米に比べ異常に高い。など、極めて意図的な試算であるというものです。
◆ 2.政策意図の検証
日本で原子力産業の中核を為す企業が多大な損失を決算に計上することなく、違法との指摘も論理のすり替えで対処しつつ、非現実的とも言える政策を推進しようとする意図は何処にあるのでしょうか。日本のエネルギー政策をこの意図の検証なしに進めることは、福島の復興に寄与することにならないのみならず、私たち一人ひとりが大きな過ちを改めることなく、自然を破壊しつつ人類破滅への途を盲進する事に為りかねません。
第二次世界大戦以降における原子力開発の歴史を紐解くまでも無く、「原子力平和利用」の美名のもとに推し進められた原子力発電が宿命の如く負わされていた「使命」が、国家安全保障上の核戦略であったことは、日本でもタブーでは無く新聞の論説でも主張されるように為りました。このような意図を覆い隠すうえで不可欠な企業活動が停止されることは、国家安全保障上の核戦略から観て極めて不都合な事実と言えましょう。
日本のみならず、世界各国の原子力政策の展開には、核戦略の展開が自然破壊と人類破滅への途と為る事に伴う此の「矛盾」が見て取れます。この矛盾を秘密として「保護」するための「秘密保護法」や「共謀罪」の制定が意図されていることも一層の危険を示していると言えるでしょう。
隠さむと思へど漂うをけら焚く (青史)
(地球技術研究所 代表)
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