【コラム】

有閑随感録(86)

再び中部電力データ不正操作
矢口 英佑                                   
   
 「林社長は冒頭で『地元のみなさんの信頼を失墜させることは、原子力事業の根幹に関わる極めて深刻な事態だと受け止めている』と陳謝。続けて豊田哲也原子力本部長が、14日の原子力規制委員会の定例会合で決定された報告徴収命令の内容などについて説明した」
 「重く受け止め、おわび」という見出しで中部電力社長が浜岡原発データ不正を行っていた事案を市長に謝罪したという『時事通信』編集局が配信したニュースの一部である。  
 ただしこれは『時事通信』が2026年1月15日に配信したものだ。

 このあたりのことは、すでに『オルタ広場』に書いたことがある(『オルタ広場』第93号 2026年1月 「有閑随感録(81)中部電力データ不正使用から思う」)。そこで私は次のように書いている。
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 「2026年1月7日の原子力規制委員会では中部電力が耐震設計の目安となる最大の揺れを示す基準地震動を決める際に、都合のよいデータを抜き出すなどしていた不正があったと報告された。
 非常に気になるのは、今回の不正が発覚したきっかけが2025年2月に『公益通報』で情報提供があったことだろう。外部からの通報だったということなので、中部電力内部からはこうした不正データによる報告書作成に警鐘を鳴らす者がいなかったことになる。昨年2月に通報を受けた原子力規制庁もにわかには信じられなかった(あるいは信じたくなかった)に違いない。だからこそ、原子力規制庁が情報提供者からの詳細な聞き取りを実施し(偽情報であることを願っていたかもしれない)、その後、中部電力と何度も面談を行ったのだろう。非常に慎重に事実確認作業を進めたことがわかる。結局、2025年12月になって中部電力がようやく公式に原子力規制庁に不正を報告することになった。
 この経緯を見ればわかるように、今回の事案は、すべてが中部電力みずからの動きではなかったことだ。『公益通報』があって、原子力規制庁から指摘を受けて、仕方なく動き出したのである。組織的に起こされた自浄作業の結果ではなかったのだ」
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 ところがこの中部電力はその後、原子力規制委員会の調査が行われているにも拘らず、データ不正が継続して行われていたことが2026年7月1日の調査の中間報告で明らかにされた。2026年1月の時と全く同じことが繰り返されたのだ。中部電力とは一体どんな組織なのかと呆れるばかりで、自浄作業などこの組織にはないことが明らかである。

 日本の原子力発電では耐震設計はきわめて重要な点で、その基準地振動のデータを改ざんしていたというのである。特に浜岡原発は南海トラフ巨大地震の想定震源地域にあり、他の原発よりもさらに厳密、厳正なデータ作成が求められているのだ。
 中部電力のデータ不正は今回の一連の動き以前(2000年代)から行われていたこともすでに記したので繰り返さないが、これほど不正を重ねてもなお不正をやめない中部電力トップの鉄面皮ぶりにはもはや言葉を失う。
 冒頭に示したこの電力会社の社長の「陳謝なるもの」がなんとも白々しく映る。
 ここまで不正を繰り返して地元住民を不安に陥れ、裏切り行為を重ねていたため、中部電力の株主総会では、一部の株主が勝野会長と林社長の2人に対し、「ガバナンス能力の欠如」などを理由に解任を求める議案が提出されたという。至極真っ当と言える。しかし、奇異に映るのは、会社側は再発防止への対応の検討段階だから今解任すべきではない、として2人の続投を決めてしまった。「もの言う株主」は時には嫌われるが、言葉では陳謝を重ねながら実際の行動ではまったく悔い改めていない企業上層部はもはや根が腐っていると言うしかない。
 もっとも株主たちが断固とした姿勢に出られなかったのは、今回の不正が報道される前の6月25日に株主総会が開かれたということも影響しているのかもしれない。ただ新聞報道では、勝野哲会長と林欣吾社長の再任賛成率は前年より30ポイント以上下がったという。 

 だが、待てよ。これほどまでに原子力規制委員会や国民への裏切り行為をやめずに続けられるのには、ガバナンス不全や神経麻痺だけでなく国が進める原子力政策とのもたれ合いがこちとらが考えるより数十倍も強いからではないのか。
 赤沢経産大臣は、「調査が開始された昨年5月以降にも中部電力が不適切なデータの組み替えを実施していたことは、誠に遺憾。原子力の利用の大前提である安全性に対する国民の信頼を大きく損なう、あってはならないとして極めて重く受けとめ、会社側からの報告を待って、厳正に対処する」と語ったという。
 日本の大臣が20年以上も同じ地位についていることなどあり得ない。つまりこの中部電力、そして浜岡原子力発電所がどれだけデータ改竄を行ってきたかなど、失礼を承知で言えば、赤沢大臣が深層にまで入り込んで深く理解しているとは思えない。それだけに上記の赤沢大臣の「誠に遺憾」「重く受けとめる」「厳正に対処」という言葉の羅列が、どこにでも使える非常に軽い響きでしか届いてこないのではないか。
 「もたれ合いが数十倍」などと言う私の勘ぐりが妄想であってくれればいいのだが、国の原子力推進政策がこの中部電力首脳部の鉄面皮と浜岡原発のデータ不正操作を後押ししていたであろうことは容易に想像できる。

元大学教員

(2026.7.20)
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