■【コラム】槿と桜(138)
新たな外国人材受け入れ政策
2026年3月3日に韓国政府は、極端な少子化と急速度の高齢化による労働人口の減少に対応するため、外国人材の受け入れを拡大する新たな政策を発表しました。
「2030年に向けた移民政策の未来戦略」とする政策では、半導体やAIなどの先端産業での人材を誘致し、地域の人手不足の解消も進めるとしています。
これまでは労働力不足を補うことを主眼としてきましたから現場での生産活動に従事する外国人労働者の受け入れに力が注がれていました。今回の政策の違いは、単純な労働の担い手だけでなく高度な技術や知識を持った人材や研究部門での研究者や高等教育機関での教員(大学教授など)にも目が向けられていることが特徴でしょう。
もちろん、農・漁業などの第一次産業部門での労働力不足や製造業での人手不足の解消も含まれていますが、これまでのさまざまな経験から、農繁期など短期間だけ非常に人手が必要な場合の外国人の「季節労働者」にも目が向けられています。それは「農業・漁業」に絞ったビザの発給をし、長期間、韓国に留まって働けるようにするというものです。
農・漁業の現場で繁忙期にだけ必要な人員を短期間受け入れる事業は2015年から試験的に始められ、2017年に本格的実施となっていました。当初、在留期間は90日間でしたが、現在は最長8カ月間まで延長できるようになっています。そして、今回の新たな政策では「農業・漁業」のビザが発給されるようですから、現在よりも滞留期間が延びるのは確実になるのでしょう。
しかし、現場からするとこうした新たな政策を歓迎する人たちばかりではないようです。なぜなら「季節労働者」はあくまでも「季節」に必要な働き手ですから、「農業・漁業」ビザなどでの長期滞留保証はかえって足かせになると見る向きもあります。栽培作物や仕事内容によっては、たとえば、韓国料理に欠かせないニンニクなどは6月の収穫期までの短期間勝負です。この時期に多くの働き手が欲しいわけで、それ以外の時期はそれほど多数の働き手は必要なくなります。このような場合には、むしろ人件費支出などを含めた身分保障の義務が生じる長期滞留の「農業・漁業」ビザは、経営的にはかえってマイナス要因となる可能性があります。
また、2004年から始められた韓国での低熟練外国人労働者の受け入れ制度は、日本のように間に仲介業者の参入を認めず、すべて政府主導で行われています。そのため法外な手数料を取ったり、手続き上の混乱や雇用条件の不明朗さなど、さまざまな不都合な事態が避けられています。しかし、その一方で、手続きが国と国との間で進められますから、希望者は誰でも応募できるとは限りませんし、手続きの段階を踏むのが煩雑で、韓国へ入国するまでにかなりの手間と時間がかかります。その手続きの流れを簡単に記しますと、次のようになります。
就職希望本人
① 本国で基本的な韓国語会話能力試験受験。
→200点満点中80点以上が合格。
② 合格者だけ健康診断。
→健康に問題なし。
③ 本国側の「低熟練外国人労働者の受け入れ制度」に登録。
→本国側で承認。
④ 韓国側に通知、登録される。
韓国の雇用希望者
① 先ず韓国人への求人活動を一定期間行う。
→従事希望者なし。
② 外国人雇用許可申請を行う。
このような手順は、外国人労働者に仕事が奪われているという韓国内の批判をかわすために導入されました。
→許可。
③ 国外からの応募者の書類を審査。
→応募者に仕事の内容など伝える。
④ 応募者の同意を確認。
→契約成立
⑤ 専門分野なしでも働ける「非専門就業ビザ」を政府に申請。
→認可を受けて、初めて外国人労働者の入国可能。
入国後の就職希望本人
① 入国後、約一カ月間の研修期間。この間に銀行口座を作り、携帯電話を購入して通信会社と契約(韓国では携帯電話無しには生活できない)。
② 就業する場所へ。
「低熟練外国人労働者」として韓国に来た外国人労働者の労働期間は3年間。終了時に双方の合意で再雇用可能。その場合は1年10カ月間延長可能。ただし、その際には一度、本国に帰国して再入国する必要あり。
「低熟練外国人労働者」が全て農業や漁業に従事するわけではありませんが、かなり厳密な段階的手続きと窮屈な規則があることがわかると思います。そして、労働期間も最長でも5年に満たず、しかも、1年10カ月再延長するためには、いったん本国に帰国しなければならないのです。
貴重な働き手としてずっと一緒に働いてもらいたいと考えている雇用者側からすると、労働期間が短すぎますし、上述したニンニク栽培農家などからすれば、労働期間が長すぎると思うことになってしまいます。
「低熟練外国人労働者」の申請が煩雑で、利用するにも何かと不都合が多いとなれば、雇用者側に都合良く雇える(すぐに雇えていつでも解雇できる)外国人労働者となれば、たとえ違法であっても不法滞在者に目が向けられるのは避けられなくなっています。
”使い勝手が悪い””手続きが煩雑”といった理由からだと思われますが、2025年の「低熟練外国人労働者」の採用が2024から約21%減の13万人となっていて、目標の半分程度にまで落ち込んでしまっています。一方で、冒頭で記したように政府は新たな「農業・漁業」ビザを設けるなど、就業別のビザを増やすことで労働人口減少に対処していこうとしています。業種の細分化によるビザの発給は悪いことではないと思いますが、重要なことは就業現場の現状をしっかり把握しなければならないことでしょう。
その意味では農業と漁業をひとくくりとするビザで良いのか、農業といってもその就業内容はそれぞれで大きく異なるのではないか、といった素朴な疑問が湧いてきます。これに関連しているのでしょうが、不法滞在者を雇用しているケースが少なくないのも気になります。
韓国の不法滞在者が40万人を超えていて、日本の約5倍に上っている現状に政府はどのように対応していくのか、これまた気になりますが、「不法滞在者」については別稿に譲ることにします。
大妻女子大学教授
(2026.3.20)
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