【コラム】風と土のカルテ(19)

斑点米と農薬とミツバチ大量死

色平 哲郎


 「斑点米(はんてんまい)」という言葉をご存じだろうか。読んで字のごとく、黒っぽい斑点がついた米粒のことである。

 稲穂の実がやわらかいときにカメムシなどが汁を吸うと、そのあとが黒くなって斑点米になる。米に斑点があるからといって、健康に悪いわけでも、味が落ちるわけでもない。安全性には全く問題がないとされている。

 にもかかわらず、米の流通業者や小売店、炊飯業者などは斑点米を目の敵にする。農林水産大臣までが「着色粒(斑点米)の混入が消費者からのクレームの主因になっている」と国会答弁をしている。

 「消費者が嫌う」という理由で、斑点米は徹底的にはじかれる。「農産物検査法」は、米1000粒に対して「着色米(斑点米)」が1粒なら「一等米」、3粒以下なら「二等米」、7粒以下なら「三等米」と格付けている。

 米の流通業者は、一等米と二等米で60キログラム当たり600〜1000円の価格差をつけて買い取る。厳しい経済状況下、少しでも高く売りたい農家は、農薬を使ってでもカメムシ退治をしたくなる。かくして、1990年代からネオニコチノイド系農薬が散布されるようになった。

 その事情が「米の検査規格の見直しを求める会」が出している「知っていますか? 斑点米と農薬とミツバチ大量死」という小冊子に詳しく書かれている。

 小冊子でも触れられているが、ネオニコチノイド系農薬に関しては、近年しばしば報じられるミツバチの大量死にも関連しているとの指摘がある。そうした状況で、米の見た目を保つために散布をし続けてよいのだろうか。

 ちなみに斑点米は色彩選別機で完璧にはじかれるので、私たち消費者に届くときには結果として、ほぼ完全に消えている。だったら途中で中途半端に等級などつけず、色彩選別機にかければよいのだ。

 一方で輸入米には1000粒に10粒(1%)の着色粒が認められている。「貿易自由化」が進めば、斑点米がもっと入ってくることだろう。日本は、安全上問題のない斑点米を忌避し続けていくのだろうか。米の輸入拡大が協議されている今、この問題への議論を深めていく必要があると感じる。

 (筆者は佐久総合病院・医師)

※この記事は著者の承諾を得て日経メディカル7月29日号から転載したものです。


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