【オルタ広場の視点】

岩手県大槌町 台風被災の状況

羽原 清雅

 前号の「オルタ」に、岩手県大槌町の東日本大震災の復旧ぶりのルポを書いた。このとき、ちょうど台風19号が全国的に吹き荒れ、この町にも大きな災害をもたらした。
 9月9日の15号、10月12日の19号、同月25日の21号と、台風は猛威を振るい、自然の激しさをあらためて気付かせることにもなった。
 この大槌町以上の被害を蒙った自治体は少なくない。

 ただ、災害を定点観測で見ると、その被害の大きさと住民の生活への影響が、もう少し奥行きをもって感じられるのではないか――そんな気持ちから、この町に大きな被害をもたらした台風19号の被災ぶりを紹介したい。自治体の仕事は、住民の生活と将来展望に大きな影響をもたらす。しかし、人口の過疎化、高齢化、労働力不足、ライフラインの老朽化、財政の緊迫化などの悪環境の中で、自立復興は容易ではない。

 そのような状況のもと、ふるさと納税、寄附、あるいはボランティアなどの協力は物理的以上に、気持ちを支え、励みにもなる。返礼品期待の納税行為もあるだろうが、無償のこころざしも悪くない。
 問い合わせは
   〒028-1192 岩手県上閉伊郡大槌町上町 1-3
     同町役場 総務課  電話)0193‐42‐2111

気象などの状況 大槌町での最大瞬間風速は30.1メートル。1時間当たりの最大雨量は、地点により57ミリ~40ミリ。10月11日午後8時~13日午前7時では、最大地点で313ミリを観測した。大槌川の水位は、氾濫危険水位2.20メートルに対して3メートルに達した。
 災害警戒本部は、12日午前11時に設置され、その後災害対策本部に切り替えられて、避難勧告が出されピークを迎える。14日未明に波浪警報の解除とともに災害対策、災害警戒の本部が解除されている。
 その間、12日午後から暴風警報、波浪警報が出され、ついで大雨(洪水)、土砂災害警報、高潮などの各種警報が相次いで出されている。そのたびに、町の人たちは厳しくつらい思いを蘇えらせざるを得なかった。

被災状況 死者、行方不明、負傷者が出なかったのは、なによりも不幸中の幸いだった。大震災で多くの犠牲者を出した町では、そのことだけでも、気を休めることができたに違いない。
 13日早朝の時点で、学校や体育館に避難した人は、338世帯、761人。不安な夜は一夜で済んだが、高齢者も多く、8年余前の大震災と津波を思い出したことだろう。
 住宅も全壊、一部損壊などはごくわずかで、床上・床下浸水も当座は9件程度にとどまった。
 ただ、河川や道路などの被害は大きく、河川では11カ所が土砂の流入、護岸の陥没などの被害を受けた。
 道路関係では土砂の流入14、路面の洗掘15、路面の冠水24など計54ヵ所に及んだ。これに伴って、一時通行止めは4ヵ所、長引いたところは5ヵ所だった。
 学校は、ドアガラスの破損、グラウンドの土砂流入、雨漏れなどがあったが、被害は少なかった。

大きかった産業被害 水産関係は概して少なく、カキやホタテの養殖施設のロープが切れるなど、17件ほどの被害を受けた。
 大きかったのは農林関係。農作物では冠水で10ヵ所約40アールが被災。農地の土砂流入が5ヵ所。農業用施設では水路やビニールハウスの損壊など5ヵ所。さらに林道14路線のうち12路線88ヵ所で道路の洗掘、側面の崩壊などが起きた。
 概算で1億円余の被害となった。

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 大震災に比べれば、影響は少ない。だが、個人の復旧への出費、一定期間の収入源の断絶などは、高齢で労力の乏しい家庭などでは極めて大きなダメージだ。
 自然への依存度の高い農山漁村での生活にあっては、その経験的覚悟はあっても、収入源を排除されては生きていけないことにもつながる。
 都会の生活とは異なる自然との関わりの濃い地方では、自然との二人三脚は断ち切ることはできない。
 交通網や建造物等の人工施設に依存する都市型生活では、思いの及ばない事態なのだが、農山漁村あっての食生活などを考えるとき、その共存策は欠かせない。農業主体の長い時代が、機械先行やAI依存の社会になろうとも、人間の「自然界」との付き合いを軽視してはなるまい。
 そのような思いを抱かせる、今秋の台風一過であった。

 (元朝日新聞政治部長)

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