◇孫悟空3世(ネットネーム)

いわゆる「歴史問題」の3層

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 1.燃えている最中のいわば火事場のお尋ねなので、なにかを言うのに必要な最小限の情報も時間もありません。以下はとりあえず自分のための心覚えです。

 2.北京の最初のデモが報道される数日前、私は英誌エコノミスト3・26-4・1号で2本の記事を興味深く読みました。ひとつは巻頭の論説「中国そしてアジア平和の鍵」、もうひとつは特別レポート「中国と日本ー友人たることのなんぞむつかしき」です。日本でもない中国でもない、またアメリカでもないメディアというところに食欲をそそられました。期待にたがわず視野の広い、日本にも中国にも距離をたもちながら日中関係の最新動向を国際関係全体の文脈のなかで扱ったよい記事に思えました。

デモが起きたのはそれから何日も経たないときでした。絶妙のタイミングだと感心しました。事件発生直後のカバースト-リーとしても通用しそうな感じです。中国のことは日本が「いちばんよく知っている」と思っていて大丈夫でしょうか!?

 3.4月17日北京でおこなわれた日中外相会談で李肇星外相は「これからも歴史を鏡として未来に目を向けるという精神にもとづき中日関係を発展させていきたい」と町村外相に述べたそうです(日本側説明による日本の新聞の北京報道)。

李外相はつづけて「いま重要な問題は日本政府が台湾問題,人権問題などの国際問題とくに歴史問題など一連の問題で中国人民の感情を傷つけることをしている」と言いました。この発言からはっきり読み取れることがあります。それは、中国が「歴史問題」と言うとき、たんに「過去」だけでなく「現在」とさらには「未来」も含め、3層通底の考えに立っているということです。

 「現在」は「過去」と「未来」の対話であると言ったイギリスの高名の歴史家がいました。それをここで思い出すのもいいかもしれません。

 4.5月10日、第2次大戦終了60周年記念日の2日後、ドイツの首都ベルリンの中心部、ブランデンブルグ門とポツダム広場の間、国会議事堂の見える一角に「ヨーロッパのユダヤ人虐殺記念碑」が出現し、除幕式がおこなわれるときょう聞きました。

 通称「ホロコースト記念碑」の建つのは広さ1万9千平方米、冷戦時代に「ベルリンの壁」が通っていた場所だそうです。2,711本の石柱が広場に並び、訪れる人はその間を縫う狭い小径をだれとも肩を並べることなくひとりで歩くのです。

 ひとりひとりが「記憶」を蘇らせる場所、「過去」に思いをひそめる孤独の空間。こういう物を戦後60周年に、東京ならさしずめ霞ヶ関か九段にあたりそうな首都のどまんなかに創り出す心の働きに頭が下がります。