【社会運動】

外資系製薬会社の〝実験場〟日本

横田 一

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 アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、2014年5月、
 『日本におけるHPVワクチン接種状況─問題と選択肢』と題するリポートを出した。
 その中でCSISは、厚生労働省がヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン
 (子宮頸がんワクチン)投与に積極的勧奨を中止したことを批判。
 安倍政権に対して、「解決には現政権の首脳陣による政治リーダーシップが不可欠」
 と、強く要求する議論を展開した。
 ヒトパピローマウイルスワクチンの場合ばかりではない。
 外資系製薬会社の日本進出は著しく、今、この国は薬品の〝人体実験場〟に
 なろうとしている。
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◆◆ ヒトパピローマウイルスワクチンの裁判で正当性を主張した製薬会社

 2017年5月10日、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がんワクチン)の東京訴訟第二回口頭弁論(期日)が東京地裁で開かれた。開始前のリレートーク集会には、車椅子の被害者も参加し、弁護団や支援者と共に被害実態や救済への思いを語った。
 15時に開廷した103号法廷では、原告番号43番の女子学生が意見陳述。原因不明の被害に苦しんだ日々、譜面が急に読めなくなってピアノが弾けなくなった悲しみや高校受験断念で浪人を余儀なくされた悔しさを振り返りながら、「普通の生活をしたいだけ」と結んだ。

 その後、ワクチン製造メーカーである被告のグラクソ・スミスクライン社とMSD社が、提出した準備書面の要旨を説明していったが、「子宮頸がんは『マザーキラー』と呼ばれている」と強調しながらワクチン接種の有用性を主張する一方で、何本もの論文内容を一つひとつ紹介することで「被害との因果関係は認められない」と安全宣言。そして最後には、「ワクチン接種をしないことで日本の女性を危険にさらしている」とまで言い切った。
 被害を訴える原告に対して反省や謝罪をするどころか、逆に非があるかのように責め立てる姿勢だった。
 罪悪感のかけらすらない製薬会社2社が自社の正当性を懇切丁寧に説明している間、車椅子の原告2人が体調不良を訴え、途中で退席した。

 しかし法廷終了後の報告集会で、元NHK記者の隅本邦彦・江戸川大学教授は内情をこう暴露した。
 「被告の製薬会社がいくつもの論文を紹介していきましたが、過去に出されたものばかりでした。製薬会社が研究費を出してまとめたものです」

◆◆ 外資系製薬会社の〝人体実験場〟となった日本

 命と健康を前面に押し出すことで異論を封じ、無駄な(費用対効果の乏しい)医療を横行させる─これが日本の医療費増大を招くと同時に、副作用による被害者を急増させる主要因といえる。外資系製薬会社が製造・接種推奨をするヒトパピローマウイルスワクチンもまた、このパターンにぴったりと当てはまるようにみえるのだ。
 交通量の少ない高速道路など無駄な公共事業推進が建設業界に恩恵をもたらすのと同様、費用対効果が疑わしいヒトパピローマウイルスワクチンなどの医薬品への税金投入も、製薬会社への利益供与に他ならない。公共事業の分野でも医薬品業界の分野でも税金を食い物にする基本的な構図はよく似ており、関係者の癒着や天下りが横行するということも瓜二つなのだ。

 国がお墨付きを与えたことから子宮頸がん予防に「有効」と思ってワクチン接種を受けた被害者は少なくないが、実は効果は証明されていない。主原因とされるヒトパピローマウィルスには15種類あり、ワクチンが利くのは日本人の5割から7割程度にすぎない。3分の1以上には予防効果がないため、結局、定期検診や早期治療(経過観察を含む)が欠かせない状況には変わりない。わざわざ重い副反応が生じるリスクを冒してまでワクチン接種する必然性は、皆無に等しいといえるのだ。
 しかも効果が持続するのは10年程度と見られ、それ以上の効果は実証されていない。子宮頸がんで亡くなるのは60歳代から80歳代が多いため、10代でワクチン接種をしても「死亡率減少」効果は微々たるものにすぎないのは明らかだ。そんな効果不明瞭のヒトパピローマウイルスワクチン接種は、日本の女性たちを使った〝人体実験〟と言っても過言ではない。ワクチン接種は「20年後に死亡者が20%減少するかを検証する事業」と位置づけられ、実現可能性が低い上に被害者続出のリスクを伴うワクチン接種に莫大な血税が投入されたのだ。

 「外資系製薬企業のための利権事業」「日本は〝人体実験場〟と化した」と批判されるのはこのためだ。

◆◆ インフルエンザ薬タミフルの背景にある癒着

 服用した少年に異常行動を引き起こすことがあるインフルエンザ薬のタミフルは、世界全体の生産量の約7割が日本で使用されている。
 タミフル服用による異常行動死問題は、05年頃から学会では報告されて因果関係が疑われていた。「薬害タミフル脳症被害者の会」も、「高校生が国道に飛び出してトラックにはねられて死亡した」「中学生がマンションから飛び降りて転落死した」といった被害事例をいくつも紹介した。
 しかし厚労省は、被害事例が次々と報告されるまで頑なに否定し続けた。薬害エイズや薬害肝炎などの薬害と同じように問題が大きくなるまで、自分たちの早期認可の判断に間違いがないと言い張り、責任逃れで自己保身としか言いようのない対応を続けたのだ。

 ヒトパピローマウイルスワクチンを接種しなくても済む代替案(定期検診)を勧めなかったのと同様、大多数の病院では、タミフルと同等以上の効果があって副作用のない漢方薬の「麻黄湯(マオウトウ)」を選択肢として示してこなかった。
 都内の大病院。東京大学医学部出身の超有名な医師は、漢方薬の処方を希望した患者にこう言い放った。
 「何を言っているのだ。僕らは漢方なんか勉強していないのだから、処方なんかできない!」

 慶應義塾大学医学部の研究報告「漢方薬を積極的に利用した場合の医療費削減効果の試算」によると、インフルエンザ治療で6割程度(推定値)処方されるタミフルやリレンザが安価な麻黄湯に切替わると、1人当たり3,000円程度の薬代が節約される。インフルエンザ患者数は1シーズンで約1,100万人だから、タミフル等が処方された患者の半分(約300万人)が麻黄湯に置き換わった場合、「90億円強の医療費削減効果が期待できる」という。
 それなのにタミフルが圧倒的なシェアを誇っているのは、「インフルエンザの特効薬はタミフルしかない」と刷り込まれた有名医師の不勉強と厚労省の不作為の産物であるのは間違いない。これも外資系製薬会社への実質的な利益供与といえるのだ。
 なおタミフルを開発したギリアド・サイエンシズ社の役員はアメリカのラムズフェルド元国防長官。2000年に厚労省に承認させた後、すぐに保険適用承認されて、中外製薬(日本代理店)が販売する背景には、癒着があったとみられている。また中外製薬に天下った厚労省の官僚がタミフルの認可の担当者だったことが問題にもなった。

◆◆ 肺がん治療薬イレッサにも同じ構図が

 承認前から「副作用が少ない夢の抗がん剤」などと宣伝された肺がん治療薬イレッサは、慎重に処方しないと副作用を起こす恐れがあったのに、2002年7月に世界に先駆けて日本では申請から5カ月という超スピードで承認され、日本では安易に使用されることになった。
 その結果、2011年9月までに少なくとも834人が副作用の間質性肺炎で死亡した。この死亡者数は他の抗がん剤より著しく多く、日本最大規模の死亡被害を出した薬害事件となったのである。
 その後、患者の適否を判断して絞り込むなどの工夫をして死亡者が激減したが、それまでの期間、日本は〝人体実験場〟となったに等しいのだ。

 被害が拡大したのは、他の薬害事件と共通している。承認前の動物実験や国内外の臨床試験などで副作用による死亡者が出ていたにもかかわらず、製薬会社のアストラゼネカ社が利潤追求のために安全性を軽視、承認前から「夢の抗がん剤」などといった宣伝広告を行い、十分な警告をしてこなかったからだ。
 そんなイレッサに対して、チェックするべき厚労省がこうした状態を被害が広がるまで放置した責任も極めて重い。
 それなのにイレッサ訴訟では患者側が敗訴した。「外資系製薬会社にとって日本は“人体実験パラダイス”といえます。イレッサの訴訟がアメリカだったら、製薬会社が数百億円の損害賠償を支払うことになっただろうが、日本では一銭も払わなくて済んだからだ」(医療関係者)。
 またイレッサ訴訟の和解勧告について、厚労省の職員が学会やマスコミに対し慎重な見解を表明するように、働きかけてもいた。外資系製薬会社のために厚生労働省の役人が尽力したことを物語るものだ。

◆◆ 外資系製薬会社に「積極的勧奨」を求められている安倍政権

 「子宮頸がんワクチンは2013年4月、全額公費負担となりましたが、被害事例が相次いだため、2カ月後に厚生労働省は、積極的勧奨を中止しました。これに対しアメリカのシンクタンク『戦略国際問題研究所(CSIS)』は2014年5月、『日本におけるHPVワクチン接種状況』と題するリポートを出し、被害者救済のリーダー的存在の池田としえ日野市市議(『全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会』事務局長)を名指しで批判、『ワクチンの積極的勧奨の再開』を日本政府に提言しています」

 こう話すのは、ヒトパピローマウイルスワクチンの積極的勧奨に反対した唯一の国会議員、はたともこ・元参議院議員だ。
 薬剤師でもあるはた氏は、被害事例の詳しい説明をせずに、税金を使った半強制的な定期接種を問題視していたのだ。「接種しても全員に予防効果があるわけではなく、定期検査や早期治療でも十分に対応できます。副作用についてきちんと説明をしたら、接種を受ける人が激減するのは確実です。外資系製薬会社にとって日本は、効果不明で危険な新薬をテストするのに格好の国と映っているのでしょう」(はた氏)。

 一方戦略国際問題研究所は、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」事務局長の池田市議のことを、たしかに先の報告書で問題視していた。
 「日本のソーシャルネットワーク経由でも、HPVワクチンに関する懸念の声が広がっている。女性政治家の池田としえ議員は、被害者を支援する団体である全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の事務局長を務めている」「池田議員は、ツイッターのアカウントやフェイスブックのページを利用して、被害者団体の懸念に対して理解を求めている」
 また戦略国際問題研究所のリポートの結論を見ると、「解決には現政権の首脳陣による政治リーダーシップが不可欠」と安倍政権(首相)にはっぱをかけていた。こうした米国側の圧力に加えて、日本医師会や世界保健機関(WHO)もワクチン接種推進の立場。そのため、いつまで厚労省が積極的勧奨を中止し続けられるのかが焦点になっている。

 戦略国際問題研究所の目の敵にされた「子宮頸がんワクチン被害者連絡会」の池田氏は、森友学園問題で一躍有名になった安倍昭恵夫人と首相官邸で面談、被害実態を訴えたことがあった。
 昭恵夫人はフェイスブックにこう書き綴った。「『ワクチンを接種することがなければ、夢に向かって楽しい学生生活をおくっていたか』と思うと本当に胸が痛みます。激痛や麻痺、記憶障害等々の症状に苦しめられているにもかかわらず、医師達からの心ない言葉に打ちのめされてきたと言います。早く治療法が見つかり、元の生活に戻れるといい……」。
 しかし夫婦で一緒に称賛した森友学園と違って、昭恵夫人から被害実態を伝えられたはずの安倍首相は、日本が〝実験場〟と化している状況にメスを入れようとはしない。

 安倍政権はワシントンにある戦略国際問題研究所が出す政治提言報告『アーミテージ・ナイリポート』にある対日要求、具体的には安保関連法制・原発再稼働・TPPを忠実に実行したため、「報告書の完全コピー」と山本太郎参議院議員(自由党)に追及されたことがあった。
 戦略国際問題研究所はジャパン・ハンドラーと呼ばれる知日派の拠点で、米国政府に大きな影響力を持つ製薬会社に好都合な提言をしているといえる。
 米国最大のロビー団体である製薬業界の意向が、戦略国際問題研究所経由で日本に伝えられていた形になっているのだ。安倍政権がヒトパピローマウイルスワクチンをめぐる政官業の癒着構図に斬り込まないようでは、「日本の女性たちの健康よりも外資系製薬会社の利益を優先している」と批判されても仕方がないだろう。

<プロフィール>
横田 一 Hajime YOKOTA
フリージャーナリスト
奄美大島の若者たちのコミューンを扱った『漂流者たちの楽園』で90年ノンフィクション朝日ジャーナル大賞。その後、政官業の癒着、公共事業問題などを取材。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館2016)『徹底解剖 安倍友学園のアッキード事件』(共著、七つ森書館2017)など。

※この記事は著者の許諾を得て季刊「社会運動」427号(2017.7)から転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。

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