■参院選挙後の政治状況               太田 博夫

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◎ 参院選で負けても 「公明党との連立政権が信任された」と小泉首相の詭弁  参院選は、自民党が目標とした51議席が確保できず49で、民主党は50、比例 区の票数も、民主の2113万票に対し、自民は1679万票で、自民党は民主党に敗 北した。しかし非改選をふくめ、現議席与党の139に対し野党は96で、参院で 与党が過半数を制したので結果的に「国民の支持を得た」という言い分である。

 参院の青木幹事長は「自民が51議席をとれない場合、小泉総裁はじめ首脳部 は責任をとって総退陣すべきだ」と選挙前までは主張していたが、小泉首相と 同じように責任をとるどころか参院自民党議員会長へ昇格する有様で、自民党 は総無責任体制である。

 自民党敗因の主因は小泉首相の「人生いろいろ」の発言にみられるように思 いつきの言動が多く、小泉首相のいままでの威勢のいいアジテーションに国民 がソッポを向きだしたあらわれである。

 政策的には
 (1)社会保障制度の財政的な裏付けがなく、「納めるカネが多く、 受け取るカネが少なくなる。」という不公平な年金問題
 (2)それだけでも反対 の多いイラクの自衛隊を国民に十分説明しないまま多国籍軍に参加させる問題 をはじめ、経済政策、郵政民営化など、「小泉政策」はいまやボロボロである。

 自民党が負けても、その責任をとらず、"小泉退陣"がないのは、結局、適当 な後継者がいないことだ。いままで"ポスト小泉"と目されたのは麻生、平沼、 高村、亀井などの顔ぶれだったが、"帯に短し、襷に長し"で人材不足である。 新しい顔として年金問題でいち早く辞任した前福田官房長官や、一見、威勢の いい、安倍幹事長などが取り沙汰、されているが、まだ未完成で、一国を託す る人物ではない。  自民党はいまや組織といい、派閥といい、バラバラである。各派閥も「カネ が集まらない」「派閥内の順番で大臣のポストを獲得できなくなった」「ウラ の情報が集められなくなった」と派閥に属しているメリットがなくなったと派 閥の実質解体が進んでいる。田中―竹下派の遺産を継いだ自民党の最大派閥の 橋本派も例外ではない。歯科医師連盟から1億円の献金がありながら政治資金 規制法による届出せず、橋本会長が辞任する騒ぎで、後継総裁候補をもたない 橋本派も瓦解寸前である。辞める橋本前首相は「小選挙区では立候補しないが、比例区で推薦してもらいたい」と未練たっぷりである。

◎『勢いづいた民主党も内部は複雑』  
  さきの衆院選、参院選で躍進を遂げた民主党は、二大政党制の波に乗り、この次の総選挙で政権党になれると勢いづいている。
 "真面目"と"ひたむき"をスローガンにした岡田代表は、選挙戦で大いに活躍 し党の躍進に貢献したのは確かだ。しかし、九月の代表選で再選の切符を予約 することは時期尚早とストップがかかった。  民主党内では何といっても実力者は小沢一郎だ。その点、小沢は岡田代表の 後見者でもあり、幹事長に小沢の子分で大蔵官僚出身で政策マンの藤井裕久が ついている。
 しかし、民主党は旧社民、旧民社、それに新しく入党した松下塾出身の若手 など群雄割拠の状態で政策的に党内をまとめるのが困難で、岡田代表が最近、 渡米し、「国連の決議があれば自衛隊の武力行使はやむを得ない」という趣旨 の発言をし、党内に波紋を呼んでいる。
 参院当選者のなかには連合の労組幹部が多数当選し、労組と党独自の地方組 織の調整が今後の課題である。選挙では、"自民党政治に飽きてきた無党派の 支持で伸びたわけで、果して、民主党に政治を託するという意識で投票したか 疑問である。民主党が政権政党に成長するには人物、政策、組織の面でさらに 脱皮することが必要だろう。

◎ 公明党に「おんぶにだっこ」の自公連立政権の貧困
   小泉政権は公明党との連立によって生き長らえている。公明党は創価学会に よる宗教政党である。公明党は創価学会の会員のような庶民に視点をおいた政 策を行おうとしていることも事実だ。しかし、もともと、池田大作氏の国会喚 問を阻止することが第一のネライであった。自民党も各候補者が選挙区で当選 するために、自らもつ基礎票に対し、あと上乗せの二・三万票が欲しく、その 二・三万票を創価学会に依頼しているのが現実である。  公明党も与党となり、政権党としての利権の分け前をもらっている。地方自 治体でも公明党は殆んど首長側を選挙で応援し、地方議会でも与党として予算 の配分に大きな影響をもっている。  公明党は総資産が10兆円という「大財産政党」で、ソニーや日立などよりも 大きく、年間収入も4000億円といわれている。貧乏世帯の共産・社民党などと はケタ違いである。
 信濃町一帯は、創価学会関係のビルが占拠し、街角は監視カメラや監視員が おり、不審なものが侵入しないかと警戒厳重である。まさに"創価学会王国"で 一種の「租界」でさえある。学会の池田大作氏は私たちにとっては雲の上の存 在である。創価学会の雑誌には、外国の著名な文明家と対談した記事がのって いるが、日本の文化人と対談した記事は殆んどない。池田大作氏も老齢化し、 その後継者に誰がなるか、影響が大きいだけに注目される。
 公明党の人事も池田大作氏によって決められるようだが、神崎代表、冬柴幹 事長は辞め、浜四津敏子女史が代表に、幹事長には太田昭宏現幹事長代理がな ることが予想され陣容が一新されるから、自公の連立の透明さが期待される。 自民、民主両党とも公明党に頼らない政治を目指し、党の独自性を強めること が日本政治の貧困を防ぐ唯一の方法である。    

※太田 博夫 略歴  大正5年広島県生まれ、昭和16年早稲田大学政経学部卒朝日新聞社入社  応召・復員24年から政治部勤務、38年東京12チヤンネルTV報道部長、編成局長  TV朝日夕刊ニュースのキャスターなど歴任。