【「労働映画」のリアル】

労働映画のスターたち(90)若尾 文子

清水 浩之

《「男に勝る」したたかさ… 昭和ひと桁ヒロインのクールな闘い》

 2025年6月から全国各地で巡回上映されている「若尾文子映画祭」。若尾さんが昭和20~40年代に大映で出演した36作品を、《Side-A》として『青空娘』(1957/監督・増村保造)や『浮草』(1959/小津安二郎)など明るいキャラクターの18作品、《Side-B》は『妻は告白する』(1961/増村)、『しとやかな獣』(1962/川島雄三)など、影のあるキャラクターの18作品に分けて紹介している。 
 清純な「お姫さま」から妖艶な「悪女」まで演じるのは若尾さんならでは。特に20代後半から積極的に取り組んだ「ファム・ファタル」…運命的な恋愛の相手、もしくは男を破滅させる魔性の女は、若尾さんと大映の名匠・鬼才監督たち、そして練達のスタッフが、時には将棋のように火花を散らしつつ、力を出し合ったからこそ生まれたと思う。

「やっぱり一種の闘いだったんですよ。“先手、何とか”でね」(1992年のインタビュー)

 「男女共学」にはなったが「男女同権」にはまだ程遠い戦後の日本。進学、就職、人生…様々な制約を課せられていた昭和ひと桁生まれの女性はどう闘ったか。テレビの普及に押された映画の斜陽期にも拘わらず、若尾さんの主演作が、男性客はもちろんのこと女性客にも根強く支持されたのは、したたかに、そしてしなやかに世を渡り、「男に勝る」痛快な悪女が支持されたから、という気もする。『座頭市』や『悪名』の勝新太郎のように「ワルかっこいい」若尾流ヒロインは、今見てもすこぶる魅力的だ。

 1933年、東京・荒川区の生まれ。戦争中に仙台市に疎開。高校1年のとき、巡業中の長谷川一夫に会ったのがきっかけとなって俳優を目指し、大映の第5期ニューフェイスに合格。「(ミス日本出身の)山本富士子さんが高嶺の花なら、私は“低嶺の花”ですから」と自己分析したように、新人の頃から自身の素質を見極め、研究と努力で役柄を広げていった。

 青春スターとして売り出したところで、巨匠・溝口健二監督の『祇園囃子』(1953)に抜擢される。売春禁止法施行前の吉原を舞台にした溝口最後の作品『赤線地帯』(1956)では、同僚の女たちにも高利の金を貸してしっかりと稼ぐ「新世代」の娼婦をクールに演じた。この時、演技とは「本人になりきること」という発見に至る。

 溝口から、女優には「ただエロティシズムがあればいい」と教えられ、先輩女優を熱心に観察して、可憐なお嬢さんから、色っぽいお姉さんへと変化。市川雷蔵と共演した時代劇『安珍と清姫』(1960/島耕二)のように、勝気で積極的なヒロイン、いわゆる「肉食系女子」がサマになっていく。現代劇でも、ジャズ界のプロモーター・渡辺美佐をモデルにした『女は抵抗する』(1960/弓削太郎)、デパートの店員に扮した『閉店時間』(1962/井上梅次)、青果市場を舞台にした『やっちゃ場の女』(1962/木村恵吾)など、様々な職場で颯爽と働く女性たちを演じる。

 30歳間近、「娘役」からの卒業を迫られた時期に起用された増村保造監督『妻は告白する』で、夫殺しの疑惑をかけられた妻の破滅的な愛情を演じ、《Side-B》が一気に花開く。160本余りの出演作のうち、増村とは合計20本で協働しているが、特に後期は、日露戦争に召集されようとする夫の眼を釘で刺す(!)『清作の妻』(1965)をはじめ、愛情を突き詰めた結果「一線を超える」ヒロイン像を次々に生み出していく。

 谷崎潤一郎原作の時代劇『刺青』(1966)では、商家の娘が騙されて芸者に売り飛ばされ、背中に女郎蜘蛛の刺青を彫られたことで妖婦に変貌。男たちに復讐していく「ダーク・ヒロイン」を鮮やかに演じた。『兵隊やくざ』で知られる有馬頼義原作の『赤い天使』(1966)は、中国大陸の激戦地で働く従軍看護婦が、男だらけの荒野で血まみれ、泥まみれになりながら転戦していくハードボイルド活劇。松山容子(『めくらのお市』他)は剣術で、志穂美悦子(『女必殺拳』他)はカンフーで闘ったが、若尾さんは「女」を武器に男どもと闘い、荒くれ者もインテリも完膚なきまでに屈服させる。

 「エロかっこいい」30代を務め上げた後、1970年以降はテレビドラマや舞台に転身。2010年のソフトバンクCM「白戸家」シリーズでの“生涯現役”のおばあちゃん役など、息の長い活躍を見せてくれた。

参考文献:『若尾文子 “宿命の女”なればこそ』 若尾文子・述 立花珠樹・著 ワイズ出版 2015年 ほか

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。

第115回テーマ ~「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて~
日時:2026年5月14日(木)18時から(17:45開場)
上映予定作品:『〈主婦〉の学校』
2020年/78分/アイスランド/監督:ステファニア・トルス
内容:『女性の休日』で知られるアイスランド発のドキュメンタリー。舞台は首都レイキャビクにある小さな家政学校。そこは1970年代に男女共学となり、性別に関係なく「いまを生きる」ための知恵と技術を求める学生たちが集まってきている。現代の暮らしや家事のあり方を問う映画。
作品公式サイト https://kinologue.com/housewives/
会場:連合会館 2階 203会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口)
働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島! 4月~5月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/

◇新作ロードショー
オールド・オーク 《4月24日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 イギリス北東部の寂れた炭鉱町。シリア難民を受け入れ始めたことで住民との間に諍いが起きるが、ひとつの出会いが「連帯」を生み出していく。(2023年 イギリスほか 監督/ケン・ローチ)

LOST LAND ロストランド 《4月24日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 『海辺の彼女たち』の藤元明緒監督最新作。故郷を追われたロヒンギャ難民の幼い姉弟が密航船でマレーシアへ。過酷な道のりを必死に乗り越えていく。(2025年 日本ほか 監督/藤元明緒)

プラダを着た悪魔2 《5月1日(金)から 東京 TOHOシネマズ日本橋ほかで公開》 「働く女性のバイブル」と呼ばれた2006年のヒット作の続編。ファッション誌の編集長と元アシスタントが、雑誌存続の危機に再びタッグを組む。(2026年 アメリカ 監督/デヴィッド・フランケル)

旅立ちのラストダンス 《5月8日(金)から 東京 日比谷 TOHOシネマズシャンテほかで公開》 コロナ禍で負債を抱えたウェディング・プランナーが葬儀業界に転身。中国の伝統的な葬儀を取り仕切る「道士」と衝突を繰り返すが…。(2024年 香港 監督/アンセルム・チャン)

◇名画座・特集上映
▼全国
【札幌シネマフロンティアほか全国68館】 5/1~14 「午前十時の映画祭16 オードリー・ヘプバーン 唯一の西部劇」…許されざる者(1960 監督/ジョン・ヒューストン)
【東京 Morc阿佐ヶ谷/他】 5/22から 「TBSレトロスペクティブ映画祭 第3回 石井ふく子特集」…東芝日曜劇場 愛と死をみつめて/みれん/廃市/秋津温泉/時間ですよ/女と味噌汁/他

▼北海道・東北
【浦河 大黒座】 3/29~4/25 サムシング・エクストラ!やさしい泥棒のゆかいな逃避行 4/19~ 5/16 ペリリュー 楽園のゲルニカ 4/26~5/23 誰がために憲法はある
【八戸クリニック 街かどミュージアム】 5/23~8/22 「街かど名画座&ポスター展」…エデンの東/お茶漬の味/禁じられた遊び/丹下左膳餘話 百萬兩の壺/他(ポスター展は4/25~6/21)
【宮古 東屋の蔵】 「シネマ・デ・アエル」…5/16・17 今日からぼくが村の映画館/佐藤忠男、映画の旅/あの夏、タイムマシーンに乗って

▼関東・甲信越
【高崎電気館】 5/1~10 「インド映画特集2026」…ツーリストファミリー/花嫁はどこへ?/きっと、うまくいく
【与野 彩の国さいたま芸術劇場】 5/13~17 「第366回彩の国シネマスタジオ」…天国の日々 4K
【東京 早稲田松竹】 4/25~5/1 「早稲田松竹クラシックスvol.251 水俣病公式確認70年によせて」…水俣 患者さんとその世界/不知火海/海とお月さまたち/石川さゆり水俣熱唱/阿賀に生きる/他
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 5/10~6/13 「自主映画の黄金時代」…バイバイ・ラブ/青春散歌 置けない日々/パン屋襲撃/歌姫魔界をゆく/SPh/夢で逢いましょう/いとしの配偶者/大感傷仮面/他
【鎌倉市 川喜多映画記念館】 4/14~6/14 「シネマティック・ジャパン 世界を魅了した日本映画たち」…羅生門/乱/座頭市と用心棒/修羅雪姫/刺青一代/十字路/裸の島/Love Letter/(ハル)/他
【上野原 CineYama】 3月15日開館 4/12~23 パスト ライブス 再会 4/23・30 インランド・エンパイア 4/24~ ショート・パルス 5つの鼓動

▼東海・北陸
【金沢 シネモンド】 5/9~22 「藤元明緒監督特集」…LOST LAND ロストランド/僕の帰る場所/海辺の彼女たち
【ナゴヤキネマ・ノイ】 5/2〜8 「追悼/フレデリック・ワイズマン」…ナショナルギャラリー 英国の至宝/ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス/ボストン市庁舎/至福のレストラン 三つ星トロワグロ

▼関西
【舞鶴 Cine Grulla】 4/22~5/11 響け!情熱のムリダンガム 4/22~5/12 エリス&トム ボサノヴァ名盤誕生秘話 4/22~5/10 ミシェル・ルグラン 4/29~5/19 1975年のケルン・コンサート
【串本 田並劇場】 4/26 落下の王国 5/2 キリクと魔女 5/17 ピアノフォルテ
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 4/25~6/12 「没後60年 映画監督・清水宏」…岐路に立ちて/港の日本娘/有りがたうさん/按摩と女/子供の四季/暁の合唱/蜂の巣の子供たち/もぐら横丁/他

▼中国・四国
【総社 円結 marumusubi】 「シネまるむすび」…5/1~11 金子文子 何が私をこうさせたか 5/15~25 ネタニヤフ調書 汚職と戦争
【YCAM 山口情報芸術センター】 5/4 「山口市最古の記録映画」…甦生の大山口(1929年 監督/藤井薫)
【高知 喫茶メフィストフェレス】 「ゴトゴトシネマ」…4/25・26 愛がきこえる/水になった村 4/26 キース・へリング 5/9・10 君と私/長安のライチ/黒の牛

▼九州・沖縄
【福岡市総合図書館 映像ホール シネラ】 5/4~30 「インドの南へ/ケーララ州の映画作家たち&映画批評家・佐藤忠男の旅」…佐藤忠男、映画の旅/サーカス/魔法使いのおじいさん/対面/従属する者/シャドー・キル/神の戯れ/他
【那覇 桜坂劇場】 「毎月上映!女性のためのロマンポルノ」…4/27~ 女教師 私生活 5/23~ 恋人たちは濡れた 6/20~ 赤線玉の井 ぬけられます

◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view

(2026.4.20)
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