【「労働映画」のリアル】

労働映画のスターたち(89)

高倉 健 

 《「不器用ですから…」 中国大陸も魅了した 現場の側に立つリーダー》

 窓辺に立つ男性。Tシャツの上に丸首のセーターを着ようとして、前と後ろがわからなくなったところで一言、「不器用ですから」。1984年に放送された日本生命のCMにより、「不器用」は高倉健さんの代名詞となった。今では「不器用」は愚直な誠実さにも通じる、肯定的な言葉として使われている。

 劇画『ゴルゴ13』をはじめ、健さんをモデルにした作品は数多い。少々ぶっきらぼうに歌う《♪義理と人情を秤にかけりゃ …》(『昭和残侠伝』主題歌「唐獅子牡丹」)は、全共闘から楯の会にまで愛唱された。特に戦後生まれの世代が大きな影響を受け、見習いたいと考えた「昭和の兄貴」。彼の役柄が一貫して「現場の側に立つ」リーダーだったことも、人気の源なのかも知れない。

 1931年、福岡・中間市の生まれ。父は炭鉱の労務管理者。英語とボクシングに熱中した少年は、大学を出ても勤め人になる気が起きず、「食べるために」東映の俳優となった。

 身長180センチ、鋭い目つきのお兄さんは沖縄空手映画『電光空手打ち』(1956・監督/津田不二夫)で初主演。美空ひばり作品の相手役、ギャング映画の主人公などを演じ続け、ようやく適役に恵まれたのが96本目の『日本侠客伝』(1964・マキノ雅弘)だった。

 深川木場の材木運送業界を舞台に、昔気質の組織に属する健さんが、強引に仕事を横取りする新興組織と対決する。第2作は大阪の港湾荷役、第3作は築地の魚河岸と、ブーム初期の任侠映画には業界内で繰り広げられる「忠臣蔵」的要素があり、義理と人情の狭間で葛藤する主人公は、日本のサラリーマン社会に生きる観客の共感を集めた。

 続いて『網走番外地』(1965・石井輝男)、『昭和残侠伝』(1965・佐伯清)もシリーズ化され、毎月必ず健さんがスクリーンにいる状態が続くが、同じような役を演じ続けることに疲れ、さらには自分の映画を観終わった客の目つきが変わっているのを目撃して、その影響力を「怖い」と感じる。

 40代からフリーランスとなり、自分がやりたいと思う仕事に打ち込む姿勢を貫く。1902年の雪中行軍遭難事件を描く『八甲田山』(1977・森谷司郎)では、冬山に3年通った苦労が実を結んで大ヒット。以後、『海峡』(1982・森谷)、『南極物語』(1983・蔵原惟繕)などの超大作とともに、『幸福の黄色いハンカチ』(1977・山田洋次)、『駅 STATION』(1981・降旗康男)など、名もなき庶民の人生を見つめる秀作にも出演。憧れの存在だったフランスの名優、ジャン・ギャバンのような味わいを発揮していく。

 ちょうどその頃、文化大革命から「解放」された中国大陸でも熱狂的に支持され、それまでの悪役的「小日本人」像を一新する。

 1978年、北京で開催された「第1回日本映画祭」で『君よ憤怒の河を渉れ』(1976・佐藤純彌)が紹介され、その後『追捕』のタイトルで一般上映された。中国での観客動員数は8億人と言われ、当時を知る張芸謀監督(『あの子を探して』1999 ほか)は、

 「野外に巨大なスクリーンが張られ、その正面の一等席に一万人が陣取り、さらに八千人ほどの人々がスクリーンの裏側から裏返しの画面を観ていました。」

 と証言している。高層ビルからファッションまで、当時の日本の姿が「別世界」として中国各地の人々の眼を惹きつけたのはもちろんだが、無実の罪で列島各地を逃走する主人公を演じた健さんのキャラクターも観客を魅了した。愚直な男が正義を貫き、遂に「懲悪」を果たす展開は、貧農の娘が悪徳地主を打倒する革命歌劇『白毛女』(映画は1950年制作)のようでもある。「寡黙で謙虚な日本人」高倉健は、男女を問わない憧れの対象となった。

 海外の映画人からのオファーも相次いだが、陳凱歌監督(『さらば、わが愛 覇王別姫』1993 ほか)には「歴史上の大人物の役は、僕にはできません」と語っている。その言葉の通り、『鉄道員 ぽっぽや』(1999・降旗)、『単騎、千里を走る』(2005・張芸謀)、そして最後の出演作『あなたへ』(2012・降旗)まで、「現場に生きる」人物にこだわり続けた。

 参考文献:『日中映画人インタビュー 映画がつなぐ中国と日本』 劉文兵 東方書店 2018年

 (しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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 ●労働映画短信 
 ◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。

 第114回テーマ ~水は人権、自治の基本~
 日時:2026年4月9日(木)18時から(17:45開場)
 日本の水道が抱える課題は、政府の推進する「民間からの投資」で解決するのか?「自治」をキーワードに、私たちの「水の未来」を考えます。上映後のコメンテーターとして全水道・古矢武士委員長をお招きし、水道の現状とこれからについてお話しいただきます。

 上映予定作品:『どうする?日本の水道―自治・人権・公共財としての水を―』
 2019年/41分/製作:PARC アジア太平洋資料センター/監督:土屋トカチ
 内容:日本の水道は今、多くの課題を抱えている。人口減による自治体の財政難、老朽化した水道管などのインフラ、職員の高齢化・減少。こうした課題の解決策として、政府は水道事業の運営権を民間企業に売却するコンセッション方式を推奨している。「民間からの投資」は、本当に「苦難を乗り切る万能薬」なのか?全国でも率先してコンセッション方式導入を進める静岡県浜松市、宮城県での課題や市民の動き、専門家のお話や水道労働の現場から、「自治」をキーワードに私たちの「水の未来」を考える。
 作品情報・予告編 https://parc-jp.org/product/suido/
 コメンテーター:古矢武士氏(全日本水道労働組合 中央執行委員長)
 会場:連合会館 2階 203会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口)
 働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

 ◎【上映情報】労働映画列島!3月~4月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/

 ◇新作ロードショー 
 Riceboy ライスボーイ 《4月3日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 韓国からカナダへ移住した母と息子。母は工場で働きながら懸命に子育てをするが、やがて帰郷する日が訪れる。(2022年 カナダ 監督/アンソニー・シム)

 サトウキビは知っている 《4月10日(金)から 東京 シネマート新宿ほかで公開》 東ジャワ州の製糖工場。季節労働にやって来た若者たちが、過去の火災事故に纏わる怪現象に巻き込まれる。(2025年 インドネシア 監督/アウィ・スルヤディ)

 万博追跡 2Kレストア版 《4月10日(金)から 東京 シネマート新宿ほかで公開》 1970年の大阪万博会場で撮影。中華民国パビリオンのコンパニオンに選ばれた在日華僑女性が主人公のミュージカル映画。(1970年 台湾 監督/リャオ・シャンション)

 今日からぼくが村の映画館 《4月17日(金)から 東京 新宿武蔵野館ほかで公開》 アンデスの小さな村に住む少年が巡回映画隊と出会い、観た映画の内容を村人たちに伝える役を担う。ところがある日、映画は村を去り…。(2022年 ペルー=ボリビア 監督/セサル・ガリンド)

 ◇名画座・特集上映 

 ▼北海道・東北 
 【東川町 ル・シネマ・キャトル】 2月27日開館 2/27~ ヤンヤン 夏の想い出/冬冬の夏休み/さよならはスローボールで/クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント(水・木定休)
 【札幌 サツゲキ】 3月29日閉館 3/6~29 「サツゲキ クロージングセレクション」…女神の継承/コット、はじまりの夏/無名/ちょっと思い出しただけ/ロボット・ドリームズ/RRR/JUNK HEAD/他
 【山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー】 4/17 「金曜上映会 ミャンマー/ビルマより」…山の医療団/負け戦でも/心の破片/船が帰り着く時

 ▼関東・甲信越 
 【高崎芸術劇場/他】 3/20~29 「第39回 高崎映画祭」…中山教頭の人生テスト/見はらし世代/宝島/ハーヴェスト・ムーン/Mr.キム、映画館へ行く/スピリット・ワールド/金子文子 何が私をこうさせたか/榎田貿易堂/家族のレシピ/他
 【東京 渋谷 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下/他】 3/19~22 「第33回フランス映画祭2026」…A Private Life/A Missing Part また君に会えるまで/君の見る世界をなぞる/ママと神さまとシルヴィ・バルタン/そして彼女たちは/他
 【東京 TOHOシネマズ大井町】 3月28日開館 3/30 「第19回 TOHOシネマズ学生映画祭」
 【東京 京橋 国立映画アーカイブ】 4/7~5/10 「発掘された映画たち2026」…お天氣学校/農村振興副業奨勵 村の榮光/一粒の麦(原作:賀川豊彦)/暖流(1939)最長版/男子有情/美しい人/アサンテサーナ わが愛しのタンザニア/真夜中の河/他
 【横浜西口 ムービル】 9月30日閉館予定 3/27~4/9 「ムービル タイ映画特集」…(LOVE SONG)/2gether THE MOVIE/女神の継承/おばあちゃんと僕の約束

 ▼東海・北陸 
 【金沢 シネモンド】 3/28~4/3 「ポーランド暗黒SF 文明の終焉4部作」…ゴーレム/宇宙戦争 次の世紀/オビ・オバ 文明の終わり/ガガ 英雄たちに栄光あれ
 【静岡シネ・ギャラリー】 4/10~16 「フレデリック・ワイズマン監督追悼上映」…ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス/ボストン市庁舎

 ▼関西 
 【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 3/21~4/10 「なめたらいかんぜよ 脚本家高田宏治 東映五十年の狂熱」…鬼龍院花子の生涯/資金源強奪/北の螢/忍者狩り/日本の首領/十兵衛暗殺剣/他
 【大阪 新世界国際劇場】 3月31日閉館 3/25~31 パンダプラン/アバター:ファイアー・アンド・アッシュ/28年後… 白骨の神殿(3本立・一般1,000円)

 ▼中国・四国 
 【広島市映像文化ライブラリー】 4月1日移転オープン 4/18 「ATCM (南極条約協議国会議) 広島開催記念 プレイベント」…日本南極探検(1912年) ピアノ伴奏付き上映会&講演
 【鳥取 シネマドア】 4月3日開館 4/3~14 Good Luck/どうすればよかったか?/女性の休日 4/17~29 かもめ食堂/黒の牛/ナースコール
 【徳島市シビックセンター】 「徳島でみれない映画をみる会」…4/19 私たちが光と想うすべて 5/17 ひとつの机、ふたつの制服 5/24 揺さぶられる正義 6/21 プラハの春 不屈のラジオ放送

 ▼九州・沖縄 
 【福岡市総合図書館映像ホール シネラ】 4/2~29 「日本映画1979-1989/昭和の終わりと新たな風」…太陽を盗んだ男/四季・奈津子/青春の門(1981)/泥の河/さらば愛しき大地/家族ゲーム/玄海つれづれ節/他
 【石垣 万世館/他】 3/20~22 「島んちゅぬ映画祭」…ルオムに黄昏て(中国)/猫を放つ(日本)/ミリタントロポス(ウクライナ)/少女は月夜に夢をみる(イラン)/月のささやき(カンボジア)/他

 ▼海外 
 【ニューヨーク Japan Society】 3/27~4/4 「梶芽衣子レトロスペクティヴ」…修羅雪姫/女囚701号 さそり/やくざの墓場 くちなしの花/曽根崎心中/銀蝶渡り鳥/怪談昇り竜/新仁義なき戦い 組長の首/他

 ◎日本の労働映画百選 
 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

 『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
 https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view

(2026.3.20)
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