【「労働映画」のリアル】
労働映画のスターたち(88)髙石あかり と 森七菜
《21世紀生まれのヒロイン、ここから始まる「一代記」を生きる》
去年の秋から暮れにかけて毎日楽しみにしていたのが、NHKの朝ドラ『ばけばけ』と夜ドラ『ひらやすみ』。どちらもヒロインが2000年代生まれなのは時代の流れというか、21世紀も1/4が終了したことを実感させられた。彼女たちが今から50年以上活動していくのであれば、私たちはその一代記の序章を見た、とも言えそうだ。
連続テレビ小説第113作『ばけばけ』は、明治時代に日本に移住した作家・小泉八雲=ラフカディオ・ハーンと、松江藩に仕えた家で育った妻・セツをモデルに、100年前の国際結婚をほのぼのと描く。従来の「スタジオ収録ドラマ」とは一線を画したリアルでシャープな照明が目を惹くが、一方で、お話の展開や言葉のやり取りはユーモラスな脱力系、という不思議な組み合わせで、今までになかった面白さ、「居心地の良さ」を生み出している。
明治維新で没落した一家を支えるため、紡績工場で働き、しじみ貝を売り歩き、やがてヘブン先生(トニー・バストウ)の女中となるヒロイン・松野トキを演じるのが、2002年生まれの髙石あかりさん。映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズ(2021~、監督/阪元裕吾)の、女子高校生殺し屋コンビの一人を演じたことで知られているが、『ばけばけ』で初めて観るという視聴者も多いのではないか。
ところが、脚本のふじきみつ彦氏が「オーディションの時にこんなにすごい方だとは思っていなかった」(1月23日放送・NHK『あさイチ』)と語ったように、シリアスからコミカルまで起伏するドラマ展開を、写真で言うなら「解像度が高い」、絵に喩えるなら「描き込みが多い」佇まいで見事に表現している(朝ドラの前作『あんぱん』、前々作『おむすび』と比較すると……)。
怪談を語る場面でのロウソクに照らされた妖しい表情から、英語がわからず「聞き違いコント」と化していく場面のポーカー・フェイスまで、変幻自在の演技を繰り出す髙石さんを知った後に、配信で過去の出演作を辿ってみると、オセロゲームの駒がひっくり返るように― 『御上先生』(2025・TBS)、『わたしの一番最悪なともだち』(2023・NHK大阪)、『墜落JKと廃人教師』(2023・MBS)などがすべて「おトキちゃんが出てくる物語」として楽しめる― そんな副産物まで生み出している。
11~12月に放送された夜ドラ『ひらやすみ』は、東京・阿佐ヶ谷を舞台にした日常群像劇。山形から上京したなつみ(森七菜)は、従兄(岡山天音)の住む平屋建て一軒家に下宿し、大学生活とアルバイトを経験しながら、漫画家を目指して投稿に励む。
なつみを演じる森七菜さんは2001年生まれ。映画『天気の子』(2019・監督/新海誠)や 『ラストレター』(2020・岩井俊二)に主演した若手のスターということは知っていたが、今まではコンビニ・チェーンのスイーツ開発に抜擢されるアルバイト店員を演じた『この恋あたためますか』(2020・TBS)などしか観る機会がなかった。
ところが『ひらやすみ』は、森さんの登場が毎晩楽しみな15分間となった。地元の高校を卒業して東京に出て来た若者の、ある意味無防備なまでの「子どもらしさ」が一挙一動に現われていて、親戚の子の成長を観察するような楽しさがあった。実在の街や商店をそのまま使ったロケ場所で、「解像度が高い、描き込みが多い」なつみが東京生活に一喜一憂する姿は、ドキュメンタリーのようなリアリティを生み出した。
是枝裕和監督は「森七菜の中に小さな樹木希林がいる」と評したそうだが、むしろ大竹しのぶや田中裕子のようになる俳優の「若い頃」を観ている ― そんな気もする。
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
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働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。
第113回テーマ ~雇用と自営のはざまで~
日時:2026年3月12日(木)18時から(17:45開場)
上映予定作品:『Amazon配達員-送料無料の裏で』
2024年/45分/製作:PARC アジア太平洋資料センター/監督:土屋トカチ
内容:Amazon配達員の1日の稼働時間は約12時間。荷物は200個以上にもおよび、昼食やトイレ休憩もままならず、怪我や事故のリスクも常にある。こうした状況を改善するため、2022年、横須賀市・長崎市でAmazon配達員による労働組合が結成された。配達員はAmazonに直接雇用はされていない個人事業主であるにもかかわらず、仕事の指示は同社のアプリを通して行われていることから、下請け会社およびAmazonに対し適正な荷量や労働環境を求めている。
会場:連合会館 2階 203会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口)
働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
◎【上映情報】労働映画列島!2月~3月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/
◇新作ロードショー
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しあわせな選択 《3月6日(金)から 東京 TOHOシネマズ日本橋ほかで公開》 製紙会社で堅実に働いてきた男に突然告げられた解雇。彼は家族の幸せを守るため、衝撃的なアイデアを思いつく…。(2025年 韓国 監督/パク・チャヌク)
ナースコール 《3月6日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 人手不足の満床病棟で看護師に絶え間なく降りかかる激務と不測のトラブル。スイスで大ヒットを記録した社会派ヒューマンドラマ。(2025年 スイス=ドイツ 監督/ペトラ・フォルペ)
花緑青(はなろくしょう)が明ける日に 《3月6日(金)から 東京 新宿バルト9ほかで公開》 創業330年の花火工場を舞台に、幻の花火作りに情熱を注ぐ若者たちを描く長編アニメーション。(2025年 日本 監督/四宮義俊)
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view
(2026.02.20)
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