【沖縄の地鳴り】

先住民族をめぐる政府見解—欺瞞の核心は?

<沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ:第33号 2016年4・5月合併号>

辺野古・大浦湾から 国際法市民研究会


 外務省は、4月27日衆院内閣委員会で、先住民族問題を取上げた宮崎政久議員(自民)に次のように答弁。(1)「先住民族」は沖縄の人々ではなく、アイヌだけだ(外務省・飯島参事)。(2)これまでの国連勧告は、アイヌ・琉球両民族を「先住民族」としているが、撤回・修正を求めていく(同・木原外務副大臣)。以上は、従来の見解の繰返しである。

●踏まえるべき3つの事実

 この問題を理解するためには、3つの基本的な事実を踏まえる必要があるが、政府はいずれにも否定的である。
(1)明治政府が「琉球処分」によって独立の琉球王国を破壊・併合したとき、そこには琉球人民が「先住」していた。
(2)独自の「民族」か否かは、先住者またはその子孫の自己決定権によるべし—というのが国際人権法における一般的な理解だ。
(3)国連が判断できるのは客観的な先住性だけで、自己決定権に基づく民族性に介入すべきではないから、国連の決議や勧告などの indigenous people は「民族」ではなく「人民」「人々」と訳すべきである。

●国連が先住性を認めたのはなぜか

 国際人権規約人権委員会の2008年勧告が、琉球・アイヌ両人民の先住性を認めた根拠として、下の3点が指摘されている(琉球新報・新垣毅記者—2016年4月28日2面)。しかしこれにも政府は、すべて否定的。
(1)米仏蘭と修好条約を結び(1850年代)、独立琉球が証明されている。
(2)琉球王国は1879年日本に併合され、抵抗空しく「沖縄県」にされた。
(3)その後、日本に支配され、さまざまな差別の対象とされた。

●政府が3つの事実を認めないのはなぜか

 2007年「先住人民(外務省訳では先住民族)の権利宣言」は、その後の勧告の根拠となった。政府にとっては、沖縄人民の先住性は「不明」、独自の民族性は「ない」のだから、沖縄は「宣言」の対象外。賛成しても不都合はなく、圧倒的多数国とともに賛成した[註1]。逆に、3つの事実に基づいて先住性を認め、民族性については当事者にお任せすることによって、沖縄の人々が「宣言」対象と解釈すれば、賛成できなくなってしまう。それは、主として次の理由による。(以下すべて「先住人民」と訳す。同じ理由で minorities は「少数民族」ではなく「少数人民」。ただし、もともと日本語の判決文は原文のまま引用。)

(1)「琉球処分」が植民地主義によるものだったと認めることになる:「宣言」前文=「先住人民が…植民地化され、土地、領域および資源を収奪され…発展する権利を行使することを妨げられてきたことの結果…歴史的不正義を被ってきた」。
(2)自然資源(土地・領域・水域・沿岸海域など)に対する沖縄の人々の「格別の精神的関係」を尊重し、それを「維持・強化する権利」を認めることになる=同第25条。
(3)沖縄を非軍事化しなければならなくなる:同前文=「先住人民の土地および領域の非軍事化」。同第30条=「軍事活動は…先住人民の土地または領域において行われてはならない」。

●日本政府はなぜ「民族」と訳すのか

 国連の宣言・勧告などの indigenous people を政府が「先住民族」と訳すのは、意図的な欺瞞によると考えられる。その理由は、
(1)沖縄の人々の多くは日本人と考えているから「民族」と訳しておけば、政府が勧告などを否定しても、反発は少ない。
(2)政府は、沖縄の人々が先住者かどうか「不明」としているが、「民族」に否定的な世論を「先住」問題からそらしやすい。
(3)琉球王国の独立性とその人々の先住性を認めると「琉球処分」が植民地主義による侵略だったことを認めることになる。

●先住人民の土地で軍事活動はなぜ禁止されるのか

 沖縄では「宣言」第30条が注目される。先住人民の土地で軍事活動はなぜ禁止されるのか。それは支配民族側(沖縄の場合、日米)の軍事活動が「先住人民のアイデンティティや文化享有権」を破壊してきたからである。このことをとくに重視する法的根拠を2つ紹介する。政府がこれを無視し続けているのは「継続的差別」であり、国際法上、日本は主権独立国家の要件を欠くとみなされ[註2]、当該地域の独立に根拠を与える可能性さえある。
(1)少数人民固有の文化享有権は、国際人権規約(自由権規約第27条)で保護されている。しかも同規約の自由権は、公共の利益(たとえば政府のいう日米安保や軍事抑止力)といった抽象的・一般的制約によって制限されることがあってはならない、とされている[註3]。
(2)1997年札幌地裁判決(確定判決)は、先住民族を「多数民族と異なる文化とアイデンティティをもつ少数民族が…その後その多数民族の支配を受けながらもなお従前と連続性のある独自文化およびアイデンティティを喪失していない社会集団」と定義した(二風谷ダム事件)。

[註1]国連総会における「宣言」の採決結果:(日本を含む)賛成143:反対4(アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド):棄権11。
[註2]1970年国連総会「友好関係原則宣言」、1993年世界人権会議「ウイーン宣言」など。
[註3]自由権規約に基づく政府の第4回・第5回報告に対する「日弁連報告書」各第1章冒頭、および桐山孝信「二風谷ダム事件」—『判例国際法第2版』東信堂2006年p300など。

 (文責:河野道夫/読谷村 international_law_2013@yahoo.co.jp 080-4343-4335)


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