【新刊紹介】
優れた民衆史としての『韓国協同組合運動100年史』
原著が、韓国で出版されたのは2019年のことだが、その記述は「3.1独立運動」が起きた1919年から始まる。まさしく『100年史』である。Ⅰ・Ⅱ巻(合本)合計で約500ページにもなるこの大著は韓国協同組合研究に携わる大学教授や研究所所長、研究員等の専門家18名が2年をかけて執筆・編纂し、さらに当機構が9名の翻訳チームの協力を得て4年がかりで翻訳し、出版にたどりついた。
第Ⅰ巻「第1部 日帝下、協同組合運動の思想と実践(1919~1945年)」では、消費組合の出現、キリスト教界における協同組合運動、朝鮮農民社による農民共生組合運動、協同組合運動社、労働運動・農民運動と社会主義協同組合など、多種多様なルーツの人々が、朝鮮半島における民衆の暮らしを少しでも良くするため、協同組織の形成を試みた。ところが日帝の徹底的な弾圧によってことごとく解体を余儀なくされる。そして朝鮮民族を日本国民として一体化させる「皇国臣民化政策」が徹底されて以降、朝鮮人の自律的な活動は一切、禁止され、何の記録も残されていない。こうして、本書の年表でも1938年から1945年までは、ただ「暗黒期」と記載されて空白になっている。
1945年に朝鮮半島はようやく日本の植民地支配から解放されたものの、南北に分断された。「第2部 協同組合運動の再出発、試練と克服(1945~1970年代)」では、解放後における協同組合運動の復興が始まるが、左右の対立や1950年には朝鮮戦争が勃発するなかで、大きな影響を受けた。その後、再び協同組合運動が始まって信用協同組合や農業協同組合などが設立されるが、独裁政権による介入・統制により、試練は長く続いた。
第Ⅱ巻「抵抗と代案」では、民主化運動が進む韓国で、統制と抵抗を超えて代案の模索が進んだ。農業協同組合や信用協同組合の改革である。1987年に韓国が民主化されたことで、労働者協同組合、消費者協同組合、医療協同組合、共同育児協同組合、マウル共同体運動など様々な協同組織が誕生する。そして2012年には「協同組合基本法」が施行されて「社会的経済」が一挙に花開く。2014年にはソウルで「GSEF(グローバル社会的経済フォーラム)」が開催された。20世紀初頭の日本を含む海外の協同組合モデルや思想を受容していた時代から、新たな韓国モデルへと発展したのである。
協同組合運動が、民主化運動、社会運動、政治運動、社会的経済と重層的に連携しながら、短期間で広がり、思想的に深化した事例は、世界的にも類のない興味深い「事件」である。
多数の協同組合人の思想と実践を丹念に綴った本書を読み込むためには時間を要する。しかし100年もの歴史を俯瞰して一挙に読むことは、感動的な民衆史を学ぶかのようである。協同組合運動とは挑戦と挫折を繰り返しながら、こうした無数の民衆によって綿々と続けられてきたことに改めて気づかされる。
また賀川豊彦、内村鑑三や、現代日本の様々な協同組合関係者と韓国の協同組合が深く交流してきたことも言及されている(電子書籍なので固有名詞の検索も可能である)。現代韓国の協同組合と交流する私たちにとっての必読書である。
発行:一般社団法人市民セクター政策機構
発売:株式会社ほんの木
電子書籍として発売中。Ⅰ・Ⅱ巻セット 5,000円(税別)
全章の試し読みと購入方法は、当機構HPの「特設ページ」をご覧ください。
https://cpri.jp/korea100years/
*この寄稿は『協同組合研究』第44巻第2号(日本協同組合学会編集)に掲載していただいた【図書紹介】の原稿に大幅に加筆したものです。
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『韓国協同組合運動100年史』目 次
Ⅰ 理想と試練
日本の読者へ
(キム・チャンジン 聖公会大学社会的経済大学院教授)
『韓国協同組合運動100年史』翻訳出版2つの目的
(白井和宏 市民セクター政策機構)
序文 『韓国協同組合運動100年史』の編纂にあたって
(イム・チェドモシムとサリム研究所所長)
総論 試練のなかでも折れない協同組合の理想
(キム・ソンボ 延世大学史学科教授)
第1部 日帝下、協同組合運動の思想と実践(1919~1945年)
歴史の窓1 1919年、韓国協同組合運動史の元年
(キム・ヒョンミ アイコープ協同組合研究所所長)
1 消費組合の出現と協同組合論の勃興――1920~30年代の『東亜日報』の議論を中心に
(ユン・ドギョン 国史編纂委員会編史研究官)
2 キリスト教界における協同組合運動の歴史と理念
(チャン・ギュシク 中央大学歴史学科教授)
3 朝鮮農民社による農民共生組合運動
(チョン・ヨンソ 延世大学医学部東隠医学博物館学芸研究室室長)
4 協同社会の実現に向けた協同組合運動社の挑戦期
(チョ・ヒョンヨル 延世大学近代韓国学研究所HK研究教授)
5 日帝下の労働運動・農民運動と社会主義協同組合
(イ・ギョンナン 共同育児と共同体教育事務総長)
第2部 協同組合運動の再出発、試練と克服(1945~1970年代)
6 解放後における協同組合運動の復興と左右の対立
(キム・ソンボ 延世大学史学科教授)
7 朝鮮戦争後に再び始まった協同組合運動 洪城プルム学校、協同教育研究院
(ヨム・チャニ 聖公会大学社会的企業研究センター研究教授)
8 信用協同組合の初期段階における成長と政府の介入による変化
(チェ・ジンべ 元・慶星大学教授)
歴史の窓2 信協人の目で見た初期信用協同組合活動
(イ・ヒョンベ 住民信用協同組合常任理事)
9 原州地域の協同組合運動と生命運動
(キム・ソナム 国史編纂委員会編史研究官)
10 無教会の信仰と協同組合の精神――声命運動と共同体の生産様式
(ハン・ソンフン 延世大学国学研究院歴史と空間研究所専門研究員)
11 日記資料に示された1960~70年代の農民の生活と農協
(キム・ヨンミ 国民大学韓国歴史学科教授)
Ⅱ 抵抗と代案
総論 統制と抵抗を超え、代案を模索する協同組合運動
(キム・チャンジン 聖公会大学社会的経済大学院教授)
12 農協改革運動̶農業協同組合の民主的改革に向けた粘り強い熱意
(キム・ギテ 韓国協同組合研究所所長)
13 1980年代以降における信用協同組合の成長と新たな模索
(イ・ヒョンベ 住民信用協同組合常任理事)
(キム・チャンジン 聖公会大学社会的経済大学院教授)
14 1970年代以降の労働者協同組合運動の軌跡
(キム・ヒョンミ アイコープ協同組合研究所所長)
15 消費者生活協同組合の発展と社会的連帯経済
(シン・ヒョジン アイコープ協同組合研究所協同研究員)
16 医療協同組合の過去と現在
(パク・ボンヒ 治癒空間心の森センター長)
17 共同育児協同組合とマウル共同体運動
(イ・ギョンナン 共同育児と共同体教育事務総長)
18 韓国協同組合の国際交流と連帯の活動――20世紀初頭の外国モデルの受容から21世紀の国際協力まで
(キム・イギョン モシムとサリム研究所研究員)
19 社会運動史としての韓国協同組合運動100年――国家主導の近代化と自主的近代化、そして協同経済システムという選択肢の模索
(キム・チャンジン 聖公会大学社会的経済大学院教授)
資料 協同運動100年史 年表
韓国の協同組合・共済組合に関する通史一覧
(一社)市民セクター政策機構
(2025.1.20)
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