【コラム】神社の源流を訪ねて(87)

伽耶88

◆歓迎型と平定型
栗原 猛

 神話、伝説は民俗文化の根本であり、人々の国に対する理想を描いているとされる。朝鮮半島の神話には、卵から生まれた始祖が養育されて、王に擁立されるのが好まれるという。また伝説の英雄も人々と苦境をともにしたり、人々の苦難を救ったりするものが受けるようだ。神についても同じことが言えそうだ。
 古事記、日本書紀の神話と、金官伽羅国の降臨神話などには似たところもあるが、根本のところで違いもある。例えば首露王神話は、人々の方から自分たちを治めてくれる王を授けてほしいと、天に向かって祈ると、ある時、亀旨峰に6個の金の卵が天から降ってきて、その卵の一つから首露王が生まれる。その年は西暦42年3月3日だったとされる。
 首露は大駕洛の王になり、他の5個の卵からは5人の王子が生まれ、それぞれ5つの伽耶国の王に就き、生誕の経緯から首露王を中心にして6伽耶連合が発足した。王と人々の関係は征服非征服者という関係ではなく、一種の話し合いの政治が行われたようだ。

 ところが記紀神話になるとがらりと様相が異なる。先住者を後から来た勢力が詐術を使って倒すというケースがある。記紀神話には、葦原の中つ国は治めるにはいい国だが、混乱しているので平定しなければということで、武力をもって降りてくる。この神話は神武東征の神話に通じたものが感じられる。神武一行は大阪湾から上陸しようとして失敗する。この戦いで長男、五瀬の命は戦死したとされる。そして神武一行は紀伊半島に多く大きく迂回して上陸に成功する。ここでまた同じ勢力に悩まされたが、天照の御子が差し出した三本足の八咫烏の案内で無事に大和に入ったといわれる。
 新羅の神話は神が卵で降ってくる卵生神話が中心で、慶州にある有名な天馬塚古墳では、副葬品から鶏卵が発掘されている。武力ではなく、卵から王が生まれたという神話になっている。またそのきっかけは住民たちが熱心に統治者が欲しいと祈ったからだと言われる。住民と天孫の話し合いが大事にされたことがうかがえる。

 余談になるがこの八咫烏は中国の碑林にある石碑の中で見つけたことがあるがその関係はどうなっているのか興味がある。新羅王家の朴(ぼく)氏の祖赫居世(かく・きょせい)や、同じく金氏の祖の金閼智(きん・あっち)、首露王などが下りて来る場所は、山上や古木の多い聖林とされる林である。村民たちに請われて天下った卵から生まれる。少し変わったところでは新羅王家の祖、昔(せき)氏の祖、脱解(だっかい)も、母から卵の形で生まれ、箱舟に入れられ流され着いた先で、人々に大事に育てられて成長する。
 高句麗の始祖王朱蒙(しゅもう)の伝承は、朱蒙の母柳花(りゅうか)が日光に感精して生まれる。始祖伝説は人々が求める願望に応える筋になっている。人々は天から神を迎えて「歓喜踴躍」したと語られている。きわめて平和的な雰囲気の中での為政者の誕生である。
 記紀神話の天孫降臨は、天から神々が見ていて、(「故(かれ)、此の国に道速振(ちはやぶる)荒ぶる国つ神等(ども)の多在(さはな)りと以為(おも)ほす」(古事記)とか、「残賊強暴(チハヤフル)、横悪(あや)しき神者(かみとも)有り」(日本書紀)とか、「蠅声(さばえ)なす邪(あ)しき神」を「ことむけやはす(言向和平)」などと、記述されている。住民側の求め応じたということではない。平定そのものが本来の目的であるように思える。
 詐術や武力などを使って後から来た勢力が、先住者を倒すという筋立てになっている。大和武尊や、神功皇后の話も先住者やライバルたちを策をめぐらして倒すという話になっている。大和政権の誕生の秘密にも投影されているのではないかという指摘のあるところだ。

◆以上

(2026.02.20)
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