【オルタの視点】

今こそ原発ゼロへ

阿部 知子?
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◆◆ 福島第一原発視察

 10月3日、超党派議員連盟「原発ゼロの会」(阿部とも子事務局長)は福島第一原発を視察しました。毎年の視察はこれで4回目となります。まず驚いたのは装備が軽くなったこと。全面マスクから半面マスクへと軽くなってきましたが、今回は使い捨てのDS2というマスクに。また防護服の着用もなく、そのままの格好(ただし長袖)で原発構内に入りました。とは言え、それは全体的な線量が下がってきたというだけのこと。バスで3号機建屋(写真)の横を通過した際は、閉め切った車内でさえ毎時0.3ミリシーベルト近くの線量に達しました。

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  福島第一原発3号機(10月3日、「原発ゼロの会」視察)

 今後、核燃料取り出しに向けた作業などでは高線量箇所に作業員が入ることになり、被ばく管理との両立が課題となるはずです。また、東電から順調で安全になったかのようなメッセージが発せられたことにも、一同、違和感を覚えました。見かけ上は片付いてきましたが、相変わらず汚染水に悩まされ、切り札とされる凍土壁も成否がはっきりしません。もちろん、溶け落ちた核燃料の回収・処分のメドは立っていません。1日約6,000人が現場で働いていますが、8月には、事故収束作業に従事し3年9ヵ月で54.4ミリシーベルト被ばくして白血病を発症した男性が労災と認定されました。事故収束作業での被ばくによる労災認定は2人目です。外国人に偽装請負させていた事例も最近明らかになりました。労働者の安全・健康を守りながら、長期的にどう作業員を確保していくのかは大きな課題です。「原発ゼロの会」では定期的に視察し、提言をしていきます。

◆◆ 原子力延命・推進策を問う

 国民負担の下に原子力を延命、優遇する政策の策定が、国民的議論も国会関与もないまま一気に進もうとしています。「もんじゅ」は廃炉が決まる見通しですが、政府は核燃料サイクルには固執しています。経産・文科両大臣、電事連会長、日本原子力研究開発機構理事長、三菱重工社長からなる「高速炉開発会議」を設置し、高速炉開発方針案を策定、年内に決定する予定です。フランスの高速炉計画「ASTRID」に参画しつつ、国内に「もんじゅ」の後継の高速実証炉を建設することを目指すようです。

 また、電力システム改革を貫徹するとの名目の下に経産省に「貫徹小委員会」が新設されました。「ベースロード電源市場」を創設して新電力が「安い」原発の電力にアクセスできるようにするのと引き換えに、原発の廃炉費用を託送料金(送電線の利用料金)に乗せる仕組みなどが提案されています。廃炉費用の負担を新電力の利用者、つまり原発の電気を使っていない利用者に求めることは、「原発は安い」という宣伝と矛盾しますが、納得のいく説明はありません。この小委員会は2つのワーキング・グループに分かれてスピード審議、年内に中間とりまとめを行ないます。

 さらに、福島第一原発事故の費用について、政府・東京電力が公表している見積りは従来、賠償(除染・中間貯蔵施設含む)で9兆円、廃炉・汚染水対策で2兆円の計11兆円でしたが、経産省がこれが現時点での試算で21.5兆円になると明らかにしました。もちろん、ここからさらに上振れすることは確実です。政府は東電を破綻させない方針ですが、東電が巨額費用を賄うことは困難です。賠償には電力会社が原賠・廃炉支援機構に支払う一般負担金が事実上充てられていますが、政府はこれらの費用は3.11以前から確保されておくべきだったが電気料金に含まれていなかったと言います。そして、これを遡及して徴収する代わりに電気利用者があまねく負担する託送料金に上乗せする案が示されました。事故リスクを過小評価し備えを怠った責任を抜きにして、負担論が先行することは許されません。また、廃炉費用は東電が捻出するとされていますが、そこで充て込まれているのは柏崎刈羽原発の再稼働と送配電部門の合理化です。前者は米山隆一知事誕生で示された新潟県民の意思に反するものですし、後者は東電管内の託送料を下げずに廃炉費用に充てることを意味しており事実上の託送料金上乗せです。

 今後の原発事故に備える賠償制度の見直し論議も原子力委員会の専門部会で進んでいます。電力業界が求めている「有限責任」(電力会社の賠償責任に上限を課すもの)は見送り「無限責任」が維持される方向ですが、専門部会の報告が出た後の展開は予断を許しません。
 このように同時並行で、拙速に検討が進む原発推進政策に対して、「原発ゼロの会」では毎週定例の世話人会議、そして有識者や省庁を交えた公開の議論の場である「国会エネルギー調査会(準備会)」で徹底追及をしています。最新情報はブログ(genpatsu0.cocolog-nifty.com/blog/)をご覧下さい。

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  国会エネ調「正当性なき原子力延命策を問う」(10月18日)

◆◆ 原発ゼロに向けて

 一たび原発事故が起これば生活が根こそぎ破壊されることを私たちは学びました。今なお9万人が避難生活を強いられていますし、甲状腺がんまたは疑いと診断された子どもは175人に上ります。「過剰診断」との指摘もありますが、被ばくとの関連性は明らかです。阿部とも子は7月に福島県立医大を訪ね、福島県民健康調査についてヒアリングをしてきましたが、引き続きしっかりフォローをしていきます。

 そして、東京五輪が意識され賠償抑制意図もあるのでしょう、被災者の帰還強制の方向に政策が進み、「安全神話」が復活しつつあります。福島第一原発事故の解明が果たされぬまま急がれる原発再稼働では、福島での大混乱の教訓があるにも関わらず机上の避難計画でよしとされています。同時に、処分のメドが立たない核のゴミを増やし、使う当てのないプルトニウムを抱え国際社会からの疑念も高まっています。
 阿部とも子は、原発ゼロしかなく、原発を着実に廃炉することに注力しようと訴えています。原発のような大規模電源依存から省エネと再エネを軸とする小規模・地域分散電源の仕組みに転換しなければ未来は開けません。これこそが「電力システム改革の貫徹」です。

 (衆議院議員・小児科医・「原発ゼロの会」事務局長)

※本稿は阿部知子衆議院議員の後援会報「ともことかえる通信」2016年11月号所収の記事に加筆したもので文責はオルタ編集部にあります。


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