【社会運動】

予防接種に行く前に ― 知っておきたいワクチンのこと ―

母里 啓子
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子どもの予防接種の種類は増え、「母子手帳の予防接種の記録はスタンプラリー!?」と言われるほどだ。
このような状況に「科学は進歩し、医学も目覚ましく進歩しているのにワクチンを取り巻く世の中の情勢はどんどん悪くなっています」と、母里啓子さんは警鐘をならす。
予防接種のワクチンとはどういうものなのかを知り、子どもの健康を守るための考え方を整理したい。
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◆◆ 予防接種は「誰のため」なのか

 1961年にインターンを終え、大学院生として伝染病研究所(現・東京大学医科学研究所)に入った私は、すぐにワクチン問題に遭遇しました。戦後の予防接種の歴史は、副作用という大きな問題を抱えながらスタートしていたのです。

 1954年から接種の勧奨が開始された日本脳炎ワクチンには、不純物であるマウスの脳物質が混入していて、その副作用で目が見えなくなったり、半身不随になる急性散在性脳脊髄炎(ADEM)(注1)等を発症する人が多く出ていました。私は伝染病研究所の研究員として日本脳炎のウイルスの純粋な抗体を作るため、その不純物を取り除く研究に携わりました。様々な試みを行い、1963年には不純物の少ないきれいなワクチンができあがりました。しかし、このワクチンが使われ始めたのは1965年でした。国は不純物の残る汚いワクチンの在庫が1年分もあったので、切り替えは完成後の次の年からとしたのです。予防接種行政は副作用の発症防止より在庫処分を優先した先例です。
 当時私ができたことは、周囲の人に「日本脳炎ワクチンを接種するなら、きれいなワクチンが出てくる来年からにしなさい」ということくらいでした。日本中でどれほどの人が副作用で苦しむことになったのかを思うと、忸怩たる思いです。あの時の悔しさは忘れません。

 子どもたちを感染症から守るための予防接種について問題提起した「予防接種は誰のため」という原稿を30年以上前に書いて以来、予防接種を打つ前に知っておきたいことなどの情報を発信してきました。また、予防接種の知識や情報を専門家だけなく、みんなで共有する「ワクチントーク全国」の活動にも取り組んできました。
 しかしながら、ワクチン接種を取り巻く近年の社会状況は、「ワクチンで病気を防ごう」(VPD(注2))というかけ声の中で種類・回数が増えていく傾向にあります。「予防接種は誰のため」なのかが本当に伝えきれていない状況に、今も悔しさを感じている、その思いが私の原点になっています。

(注1)感染後やワクチン接種後に、脳や脊髄などの中枢神経の全体を急性に侵す、まれな炎症性の神経疾患。麻痺やけいれん、失調や知覚障害などの中枢神経症状が生ずる。
(注2)VPDは、Vaccine(ワクチン)Preventable(防げる)Disease(病気)の略で、文字通りワクチンを接種することによって防げる病気のこと。「ワクチンで防げる病気は防ぐべき」という推進派の標語となっている。

◆◆ ワクチンとは何か

● ワクチンは薬ではない
 人がかかる病気の中には「一度かかれば二度とかからない」という現象があり、一度感染したウイルスや細菌等に対しては抵抗力がつくことが知られていました。ワクチンは、イギリスの医学者であるエドワード・ジェンナーが人体を使って実験的に種痘を行い、天然痘にかからないことを発見したことが始まりです。
 人の体は病原体が入ってくると、対抗する細胞が取り囲んで、その病原体に対する免疫抗体を作ります。抗体があれば、次に同じ病原体が入ってきても、闘って病気にならないようにできます。ワクチンは、そのメカニズムを利用して、病気にかかる前に病原体を弱めたり殺したものを意図的に体の中に入れ、免疫抗体を作ろうというものです。ですから、ワクチンそのものは薬ではありませんし、ワクチンそれ自体が病気を防いでくれるわけでもありません。
 多くの人が薬、健康食品、サプリメントなどを摂取して、少しでも健康になろうとする健康志向が強い時代です。しかし、ワクチンはウイルスや細菌などを元に作られている、言わば「病気の種」ですから、ワクチンで健康にはなりませんし、そもそも体に良いものではありません。

● 不自然な形で病気の種を体に入れる
 自然に病気にかかる場合、病原体は口や喉、鼻、皮膚の粘膜など、様々なバリヤーを通って体の中に侵入していきます。花粉が鼻に入ってくると、くしゃみをして出そうとしますし、腐ったものを食べた時は吐き出すこともできます。人の体は、異物が入ってくると排除しようとする働きをします。
 しかし、ワクチン接種では病原体を注射器で強引に体の中に入れてしまいます。とても不自然な形で病気の種が体内に入ってきますが、体は拒否することができません。体にわざと異物を入れ、病気と闘うということは本来リスクの大きいことです。

◆◆ ワクチンを打っても、病気にはかかる

● 高い免疫状態を保つと言われる「生ワクチン」
 ワクチンには病原体を弱らせて作る「生ワクチン」と、病原体を殺して作る「不活化ワクチン」があります(注3)。
 生ワクチンは体内に入った後にウイルスや菌が増殖し、病気にかかったのと似た状態になり、病原体に対する免疫抗体が作られ、ワクチンの効果が発揮されます。麻疹(はしか)、風疹、BCGなどが生ワクチンです。

 麻疹の生ワクチンは、ワクチンの中でもしっかり免疫抗体を作ることができ、高い免疫状態を保つと考えられてきました。作られた抗体は、再び病原体と出会うことで増加します。ところが麻疹ワクチンが徹底されたおかげで、麻疹が流行しなくなり、ワクチン接種で作られた免疫抗体が使われないで消えてしまうことになりました。そのため、抗体が減らないように、今の定期接種では麻疹・風疹(MR)ワクチンを2回接種することになっています。
 また、麻疹ワクチンを接種しても、個々人のその日の体調や、ウイルスを排除しやすい体質のために免疫抗体が作られない人が10%くらいいるのです。中には「2回打ったのに、かかってしまった」という人もいます。
 ワクチンは打てば安心というものではありません。効果も不確実なものなので
す。

(注3)最近は遺伝子組み換えワクチンが出てきているが、不活化ワクチンの一種。

● 「不活化ワクチン」の効果は長持ちしない
 不活化ワクチンの病原体は、体内で増殖しません。異物が入ってきたことに反応した免疫細胞がごくわずかな免疫抗体を作るだけなので、何度か打たなくてはなりません。それでも、効果は持続しません。インフルエンザワクチンを毎年打たなくてはならないと勧められるのはこのせいでもあります。インフルエンザに毎年かかる人はめったにいませんが、毎年ワクチンを打ち続けると生涯で何十本も打つことになります。その方が問題だと思います。

 四種混合ワクチン(注4)の中の破傷風は、空気に触れないところで破傷風菌が体に入った場合に発症する病気です。自然感染では免疫抗体が作られないので、ワクチンの効果が期待できます。不活化ワクチンですから、生後3カ月から3回接種し、1歳でワクチン接種を追加、11歳ではジフテリアと破傷風のみ追加のワクチン接種が必要になります。こうして作った免疫抗体も、大人になるころには減ってしまっています。
 しかし、ワクチンの免疫が切れてしまってもあわてることはありません。破傷風は怖い病気ですが、発症するまでに数日かかりますので、大きなケガをした時は外科で破傷風の追加のワクチンを打てば良いのです。また、獣医など破傷風の危険にさらされる職業の人は定期的にワクチン接種をしています。
 四種のうちのジフテリアとポリオは今の日本では患者が出ていない病気です。百日咳は1歳前後の乳幼児がかかるとひどくなるので入っていますが、大きくなれば免疫抗体が消えてしまっても問題はありません。

(注4)ジフテリア、百日咳、破傷風、不活化ポリオの混合ワクチン。

◆◆ ワクチン接種のリスク

● アジュバンド(免疫増強剤)の副作用
 前述したように不活化ワクチンは強い免疫抗体を作りにくいので、接種回数が多く、効果も持続しません。そこで、効果を高めるためにアジュバンドという添加物が使われているものがたくさんあります。
 人間の体には異物を排除するメカニズムがあり、水溶性の死んだ病原体を入れても、免疫抗体ができる前に排出してしまいます。そこで、体の中に病原体を長く留め免疫細胞が寄ってくるように、アルミニウムや油など不溶性の物質=アジュバンドに死んだ病原体をくっつけるのです。異物を排除する自然な行為を邪魔するのですから、副作用が多くなります。日本では、ワクチンにアジュバンドを使わないようにしていましたが、2009年に新型インフルエンザワクチンを輸入してから、アジュバンド入りの不活化ワクチンがたくさん輸入されています。

● 副作用のないワクチンはない
 ワクチンを作るには、病原体を培養するための生物の細胞が必要です。薬機法では「生物由来製品」「劇薬」に指定されています。インフルエンザワクチンのウイルスは鶏卵で培養しています。日本脳炎のワクチンは、以前はマウスの脳を使って作り、精製をしても不純物が残り、副作用の多いワクチンでした。生き物の組織を体内に強制的に入れるのですから、毒性を回復したり、活性化する場合もあり、人体で何が起こるかはわかりません。どんなに研究・開発を続けても、生物由来のワクチンから副作用の恐れを取り除くことは不可能です。

◆◆ ワクチンの普及で乳幼児死亡率が低下した?

● 予防接種開始以前から乳幼児死亡率は激減
 終戦後の日本は焼野原で食料もありませんでした。そのような状況で、1947年には1万4,000人の子どもが麻疹(はしか)で死んでいます。怖い病気ですからワクチンの開発も望まれました。その後、1950年代半ばには、麻疹による死者は1,000人を切り、ワクチンが開発されたのはその後です。1978年、ワクチンが定期接種化される前には麻疹による死者は100人以下になりました。
 麻疹に特効薬はありません。高い熱が数日続きますから、子どもの体力を奪い、衰弱すると肺炎などの合併症を起こし、死亡していたのです。子どもたちが麻疹で死ななくなったのは、栄養事情が良くなり、衛生状況が改善し、医療にかかれる環境になったことによるものです。麻疹のウイルスを退治したわけではありません。
 麻疹だけでなく、コレラ、赤痢など、かつては子どもの命を奪っていた感染症は、抗生物質など効果の高い医薬品の普及もあり、怖い病気ではなくなりました。

● 自然感染による免疫は強力
 確かに麻疹ワクチンは効果が高いので、医療機関や行政から接種を勧められます。39℃以上の熱が続く麻疹は子どもにとってはつらいですが、決して怖い病気でも、死ぬ病気でもありません。
 自然に麻疹にかかって作られた免疫抗体はきわめて強力で、めったなことでは2回かかることはありません。さらに母親になった時に赤ちゃんに渡せるほど、強固な免疫になっているのです。それに比べて、麻疹ワクチンの効果は確実でもなく、長続きもしません。今の子育て世代は、麻疹の流行にさらされていない、ワクチンで免疫を得ている言わば「ワクチン世代」です。自然感染に比べて強固な免疫がついていない母親から移行される抗体では、乳幼児を守れなくなっていると言えます。

 ワクチン接種とは、「どのように子どもを育てたいかを判断すること」だと私自身は考えています。ワクチン接種をしなくて、子どもが麻疹にかかった時、親は子どもの病気を受け止めて一緒に心配し、仕事を休んで、おいしい食事を作り、子どもの看病ができるかどうか、ということをいったん考えてみるのも大事なことではないでしょうか。自分のためだけに親がいてくれるということは、子どもにとって最高の経験です。親にとっても子どもと向き合う貴重な時間です。
 もっとゆったりと構えて、安心して子育てができる社会であってほしいものです。親が病気の子どものために仕事も休めないような状況の方が問題ですし、ワクチンに疑問をもったり、躊躇する態度を見せる親を育児放棄のように言うのはいかがなものでしょう。

◆◆ 予防接種で気をつけること

● 続く予防接種の被害
 この20年間で予防接種の種類が増えました。これからも増えていくと考えられます。その背景には少子化と子どもの感染症の減少があります。人口の少ない子どもたちがあまり重い病気にかからなくなった今、小児科医の仕事が治療よりも予防接種で子どもを診るということになってきているのです。
 私は微生物学を専攻し、免疫学も専門的に学び、ワクチンを作る側にもいましたから、ワクチンの本質もちゃんと見抜けていて、はっきり意見が言えます。多くの医師は膨大な医学教育の中で「予防接種というのは、病気を予防するために、毒性を弱めた病原体を体内に入れて、免疫をつけておけばその病気にならない」という程度にしか学びません。ワクチンの知識を深くもっているわけではなく、病気にかからない方が良いからと、ワクチンを勧めているのです。

● 子どもの体のことを第一に考える
 一度に2種類以上のワクチンを別の腕や同じ腕で約2.5cm離れたところに2回以上打つことを同時接種と言います。実際には子どもが同時に二つの病気にかかることはありません。同時接種は自然には絶対ありえない状況なのです。
 2011年にヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンを含む同時接種による死亡例が報道されました。その後も同時接種後の突然死が起きています。何種類ものワクチンを同時に打っているので、何による副作用かもわかりにくく、ワクチンとの因果関係は不明となっています。ワクチン接種のスケジュールが過密になってくると、同時接種を勧められることがあります。時間と手間を節約したい医師と親の都合しか考えていない行為です。子どもの体のことを考えたらできることではありません。

 何度も言いますが、ワクチンは体にいいものではありません。熱があったり、鼻水が出ている時は、体調が悪いのですからワクチンが体にダメージをあたえるかもしれません。そういう時は打ってはいけません。
 もし、接種後に子どもにいつもと違う様子があったら、それは副作用だと考えてください。体調を詳しくメモして、症状が長引く時は医療機関で診察を受けます。副作用はすぐに出るとは限りませんから、1カ月は様子を見ることも必要です。予防接種の歴史はせいぜい50年で、まだまだわからないことがたくさんあります。慎重に取り組んでも慎重すぎることはありません。
 現代の子どもは昔よりずっと健康で、ずっと強いのです。病気への不安に脅かされて、健康を損なわないようにしてください。
 最後に一言、私はワクチンを打たずに今も元気です。[構成・中野寿ゞ子]

<プロフィール>
母里 啓子 Hiroko MORI
医学博士、元・国立公衆衛生院(現・国立保険医療科学院)疫学部感染症室長。
伝染病研究所(現・東京大学医科学研究所)でウイルス学を修め、愛知県がんセンター研究所に勤務。在職中に留学。帰国後、東京都がん検診センター検査課長、横浜市衛生研究所細菌課長。B型肝炎母子感染予防事業を立ち上げた後、国立公衆衛生院 疫学部感染症室長、横浜市の保健所長を歴任。著書多数。

<参考図書>
『子どもと親のためのワクチン読本』母里啓子/著 双葉社(2013年)
『もうワクチンはやめなさい』母里啓子/著 双葉社(2014年)
画像の説明
  医療機関で勧められる予防接種スケジュール 2016年10月1日現在

※この記事は著者及び「社会運動」の許諾を得て『社会運動』427号(2017・7)から転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。関連記事は季刊社会運動をお読みください。(civil@cpri.jp http://www.cpri.jp

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