■北から南から

中国人の日本観・日本人感(下編)       佐藤美和子

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オルタ35号『中国人の日本観・日本人の中国観』(後編)
〔2001年~・広東省など〕
                 佐藤 美和子
 二度目の留学からこれまた偶然キッカリ5年後、今度は就職のために広東省
東莞市へやってきました。この東莞市というのは、ほんの30年ほど前にはライ
チ(茘枝=楊貴妃が好んだと言われる果物で、東莞はその産地として有名)畑、
住人の殆どがライチ農民だったという農村です。それが香港と広州市の中間に
位置するという立地条件のお陰で、今や「世界の工場」と言われるまでの急激
な発展ぶり、現在も飛ぶ鳥落とす勢い、という工場だらけの街です。あ・・更な
る発展のために野放しにされている公害垂れ流し工場のせいで、ホントに大気
汚染で空飛ぶ鳥が落ちてきかねない街でもあるかも…。
 
 このとき、私はとある日系工場に勤務していたため、北京留学時には知り合
う事のなかった、農村などから出稼ぎにやってきた二十歳前後の若いワーカー
さん達に囲まれることとなりました。
 私が日本人であることは社内であっという間に知れ渡り、社内を歩いている
と珍しがられて声を掛けられるのですが、意外と「日本人男性は見たことがあ
っても、日本人の女性と話すのは生まれて初めて!」という子が多いのに驚き
ました。よって、彼らの日本人観は、ほとんどが駐在日本人男性によって作り
上げられたものと言えると思います。
 
 ところがこれが問題なんですよ・・・もちろん全部とは言いませんが、特に
広東省にいる駐在員男性、会社や仕事はよく管理すれど、ご自身の下半身管理
がなってない方が多い。治安があまりよくない広東省のことですから、ほとん
どの方は家族を内地に置いての単身赴任です。日本では限られたお小遣いでや
りくりしていた人も、給与以外に駐在手当てが付き、さらに現地の物価安とく
れば日本でより“お大尽”な暮らしができます。その上単身なのだから妻や上
司やご近所の目を気にする必要もない。身も財布の紐も解き放たれた男性、家
族と離れて寂しく人肌恋しくなっちゃった男性もしくは出張者の接待で無理に
付き合わされ…理由は様々でしょうが、一部の殿方、“小姐(シャオジエ=若
いお嬢さん)遊び”に走っちゃうんですよねぇ。
 
 遊び方は、まぁ様々です。カラオケ、ピンク床屋、サウナ、色んな所でそう
いったサービスは提供されていますし、繁華街でスケベそうな日本人に声をか
ける、その筋の女性もいます。そういう女性には往々にして筋モノの中国人男
性がバックについており、天国を見た後日、身包み剥がれたり脅迫されたりと
いう殿方もいるのですが、皆さん「明日はわが身」という言葉は学校で習われ
なかったようで・・・。
 
 そういったお遊び方面では、台湾・香港人駐在員の方がはるかに賢いです(い
え上手下手ではなく、遊びおいたは絶対にイケマセンよ断固として!)。彼ら
は一人か二人の、野鶏(=売春婦。但しひどく下品な言い方らしいので、使用
にはご注意)さんではない、農村から出てきたばかりの女性を囲うのです。野
鶏さんではないので、中国全土で爆発的に増えているエイズ等の感染症やバッ
クの黒社会男性は心配無用ですし、台湾よりはるかに安いマンションを買い与
えれば、料理洗濯もやってくれる。家事労働込みで雇っているようなものです。
女性にしても、いずれ男性が帰国しても、マンションという財産が残るので安
心。トラブルは起きにくいのです。
 
 しかしなんとも遊び下手な日本人男性は、お気に入りのカラオケ小姐に通い
詰めたり、挙句は日本人駐在員同士で“オキニ”の取り合いで喧嘩をやらかし
たりもする。○○社と△△社の駐在員が◎◎っていうカラオケでバッティング
し、オキニの小姐を巡って刃傷沙汰やらかしたらしいよ~なんて噂がちらほら
入ってくるんですよね・・・あぁ情けないったら。
 
 さらに時には、公安(=警察)のお世話になる方もいらっしゃいます。そう
いうことになった方は、二度と中国には入国できません、裁判が済みしだい強
制送還です。ある日突然日本人上司が出社してこなくなるのですから、どんな
にひた隠しにしても、中国人社員だって事の次第を察してしまいますよねぇ。
 そうでなくともスキの多い日本人男性、怪しいお店に出入りしているところ
とか、ひと目でそれとわかる若い女性と腕組んで歩いているのを自社のワーカ
ーさん達に目撃されているものです。おかげで我々日本女性、しょっちゅう中
国人に、「日本人男はどうしてあんなにスケベなのか?」という情けない質問
を受ける羽目になっております。こればっかりは、弁護の余地ナシ!
 
 先ごろ、イギリス留学中の親しい知人のお嬢さんと話す機会がありました。
 「日本人の男と女って、同じ民族だとは思えないわ。日本人の知り合いがい
なかった頃は、日本人にいいイメージってなかったの。でも今、イギリスでの
私のルームメイトは日本人女性だし、クラスメートにもたくさん日本人女性が
いるんだけど、みんな礼儀正しいし、ルールは守るし、いい人ばっかり。でも
ね、ウチの学校の日本人の男の子、この間下着泥棒で捕まったのよ!勉強もせ
ずに買春宿に出入りしている子もいるし、あなたたちって、よく日本人男に我
慢できるわねぇ!」
だそうです。日本人男性の不名誉は、もはやアジア圏のみならず、世界レベル
で有名になりつつある模様・・・。
 
 実を言うと、ここであまり赤裸々に語ってしまうと(実態はもっとひどく
て・・・以下自粛)、中国赴任中の方の家族を疑心暗鬼に苛ませるかも、そして少
数ながら品行方正な日本男児の名誉を損なうことになるやも、という危惧があ
りました。しかし、やはりここは現地の状況を広く知ってもらい、世の日本婦
人にもしっかり御夫君を遠隔操作して頂くのが、中国人の日本人男性に対する
“色狼(=スケベ)”イメージ回復の助けになるだろうと思いまして・・・。もう
手遅れかしらん?(笑)
 
 話は変わりますが、いまだに中国の教科書を見る機会がなく、実際の教育現
場がどうなっているのかはわからないものの、おかしな歴史教育をしているの
は確かだと、私は考えています。だって、自国の輝かしい歴史である三国志の
英雄の名前すら言えない人が、近現代の歴史だけはみっちり習って知っている
のって、かなり不自然ですよねぇ?「桃園の誓い」は知らないのに、学校の課
外授業で見学した歴史博物館のロウ人形や写真で得た日本軍によるおどろおど
ろしい拷問の手口など、尋ねれば詳しく説明してくれます。しかし、彼らはそ
の写真自体が偽造捏造疑惑をかけられていることは知らないし、教えても「そ
れは日本が中国を陥れるためにでっち上げた嘘だ」と頑なに言い張るのみ。普
段はどんなに冷静な知識人であっても、この手の話題になると途端に盲目的に
なり、絶対に違った見方を受け入れようとはしません。
 
 中国人が好んで日本人を攻撃するネタに、「ドイツは潔く謝罪したのに、日
本はいまだに謝罪しない」というものがあります。慣れっこなので、私は即座
に「ドイツのどの首相が、何年何月にどこで謝罪したの?それは中国訪問時の
こと?」と質問し、ついで日本歴代首相や現天皇が公式に謝罪した年月日やシ
チュエーションをネット検索して見せます。するとみな、それには目を瞑り、
しどろもどろで「いつかはわからないが、ドイツは謝った」を繰り返すんです
よね・・・こういうのは一人や二人ではないので、残念ながら学校で洗脳されてい
るのだとしか思えません。
 
 また、テレビ番組も問題です。96年当時は目立たなかった抗日戦線ドラマが、
今では毎日必ずどこかのチャンネルでやっているからです。どれもこれも判で
押したように、「メシ、メシ(食事のことを言っているらしい)」「バカヤロ
ー」と怒鳴りまくる極悪非道のチョビ髭日本軍人が出てきて、虐げられた中国
人が一致団結するとか、わが身を犠牲にして云々・・・といった、感動ドラマ
に仕立てられています。古い抗日ドラマをリメイクしたり、よくも飽きずに・
・・と思うのですが、見ている人もけっこういるんですよねぇ。
 
 ドラマといえば、反日運動前は日本の現代ドラマやアニメも人気で、あのこ
ろは韓流に押され気味だったものの、どこかのチャンネルで途切れず放映され
ていました。それが反日運動を境に、しばらくぴたっとなくなってしまったの
には驚きました。その後、少しずつ復活していますが、政府筋による何らかの
操作がされていたのは間違いないと思います。
 また、アニメではやはり日本のものが子供たちにも人気なのですが、先ごろ
夜7時以降は国産アニメしか放送してはならないという、妙な規則ができてし
まいました。中国の子供たちがそれをどう思ったのかはわかりませんが、「日
本のアニメは暴力シーンが多い。うちの子が残酷な日本人のようになるのは困
る」という中国の母親の意見は、いろんな意味で見過ごしてはならないと思い
ます。
 
 今の中国人の日本人観は、私の見るところ、日本人駐在員・出張者の不品行
と、あとは反日教育でほぼ成り立っていると言えると思います。抗日ドラマで
は、日本人のことを「日本鬼子」と呼んでいます。戦時中、日本人が「鬼畜米
英」と言っていたのと同じでしょう。問題は、中国人が今もその「日本鬼子」
という言葉を使っていることです。日系企業に勤める中国人によく見られるの
ですが、「昨日、日本鬼子のヤツがさぁ~」と、日本人上司や日本人の取引先
担当者の呼称に使っているのです。時には中国に赴任していてもまったく中国
語を学ぼうとしない日本人駐在員の目の前で、どうせ中国語がわからないのだ
からと、ニコニコ笑顔を見せて「この日本鬼子野郎!」と罵っている輩もいる
のです。これはもう、単なる悪ふざけでは済まないでしょう。
         

 救いは、実際に日本人の友人知人がいる人は「日本政府は許せないが、日本
人が嫌いなのではない」と言って、個人と国家は別だと考える人もいることで
しょうか。過激な反日思想を持つ人は、往々にして実際に親しく日本人と話し
たこともないような人に多く見られるようです。
 また、中には中国人に対する言動にも注意を払い、真面目に仕事に取り組む
駐在員の鑑といった日本人もいます。そういう人と共に働く中国人には、日本
人独特の熱心な勤労態度や繊細な気配りを見て、また日本に対するイメージを
新たにする人もいます。

 中国人は、割と思い込みの激しい民族です。情報操作を受け、長らく事実を
知る方便を持たなかった時代のせいで、偏った意見がはびこるのは、戦時中の
狂った日本と同じで、無理もないことなのかも知れません。しかし我々が情報
だけを出して見せても、頑固な中国人、なかなか我々日本人があっさりアメリ
カを受け入れたようにはいきません。ひどく悠長で成果が見えにくい方法です
が、やはり“草の根”しかないのかな、と最近、思うようになりました。
 
 私が中国と関わるようになってから15年、今が一番対日感情が悪化している
と感じます。昔、中国に赴く日本人は、多かれ少なかれ中国人に対する言動に
気を配っていました。しかし中国どこにでも日本人がいるようになった今、ビ
ジネスマンでも旅行者でも、多勢に無勢で自分の言動に注意を払わない日本人
がとても増えています。レストランで傍若無人に振舞う日本人、横柄な態度で
中国人社員に接する日本人、土産物屋で安い安いを連発し、店員が解するかど
うかも考えずに日本語でまくし立てる日本人旅行者。
 
 中国の反日教育対策については、政府に任せるしかありません。でも、残り
半分の日本人に対する悪いイメージは、やっぱり我々日本人が作り出してしま
ったものです。中国を訪れようとする人、中国人と付き合う人(特に訪中する
殿方!笑)、いつ何時、反日デモが再発するやも知れない事を、肝に銘じてお
きたいものです。
           (筆者は在中国・深せん市・日本語教師)
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