【オルタの視点】

不健全さ極まるアベノミクス
― 金融危機起きれば、日本経済は破綻 ―

早房 長治


 安倍晋三首相は選挙中の遊説でアベノミクスを自画画自賛し、「この道を進めば遠からず賃金も上がり、国民が生活向上を実感するようになる」と叫んでいる。しかし、これは間違いだ。自分でも分かっているのに、意識的に嘘をついているといった方が正しいかもしれない。アベノミクスの中身を調べてみれば、これほど不健全な経済政策はないことが一目瞭然であるからだ。

◆◆ アベノミクスで国民生活は向上せず

 安倍首相は、安倍内閣がスタートした2012年12月から景気拡大が続き、「いざなぎ景気」(1965年11月~70年7月)に並んだことを誇らしげに語っている。しかし、この発言はナンセンスだ。景気拡大期間は同じだが、内容が全く異なるからである。「いざなぎ景気」の約5年間でGDP(実質)は11.5%伸びたが、今回はたった1.4%。賃金(名目)は15.4%に対して0.3%、消費(実質)も9.6%に対して0.6%に過ぎない。これでは「いざなぎ景気」当時と違って、国民の生活が向上するはずがない。
 安倍内閣は異次元の金融緩和と財政出動で経済成長を図ろうとしたが、2つの手法とも行き詰まり、今後は使えない。

◆◆ 雇用改善もアベノミクスの功績ではない

 もう一つ、首相がアベノミクスの成功物語として繰り返す雇用状況の改善は事実である。有効求人倍率は1.5倍を超え、正社員の求人倍率も1倍を上回った。しかし、これもアベノミクスの功績ではない。少子高齢化に伴う労働人口の先細りが原因の当然の現象に過ぎない。むしろ不自然であったのは1997年から2005年までの「就職氷河期」だ。21世紀に入ってからの労働人口の減少は1990年代初めから予想されていたのだから、企業は遅くも20世紀末から雇用を多めに確保すべきであった。ところが、バブル崩壊で超弱気に陥った企業経営者が、専ら目の前の人件費減らしのためにリストラと雇用縮減に走った結果である。その誤りに遅ればせながら気づいた経営者が、今度は、極端な雇用拡大路線に転じたのが今の姿である。

◆◆ 労働生産性、潜在成長力とも低迷したまま

 アベノミクスの原点に立ち戻ってみると簡単にわかることだが、アベノミクスがスタートした12年12月以来、目標を達成したことは一度もない。失敗の連続なのである。

 最初に掲げた「3つの矢」は異次元の金融緩和、財政出動、成長戦略であった。初めの2つ矢が一時的な手段であることは明らかで、アベノミクスの主目的は民間企業が生産性を高め、持続的成長を果たすことによって、日本経済全体の持続的成長を実現することであった。ところが、5年間を経た今日も、成長戦略は全く成功していない。その結果、日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟35か国中19位(G7参加国中最下位)、潜在成長率は年率1%程度にとどまったままで上がらない。

 アベノミクスは2年目から迷走状態に入る。GDP600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロの「新3本の矢」を掲げたが、これは最初の3本の矢とまったく整合性がない。その後は「女性が輝く日本」「人口1億人維持」「1億総活躍社会」などの脈絡のない目標を次々と打ち出した結果、アベノミクスが何を目指しているのかさえ分かりにくくなっている有様である。

◆◆ アベノミクスの実態は「財政ファイナンス」

 アベノミクスを経済政策と考えれば、現在の実態は、事実上、「財政ファイナンス」(中央銀行による国債などの直接引き受け)という不健全極まりないものである。これは今月(17年10月)中旬開かれた主要20か国(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも批判された。しかし、安倍政権は今回の総選挙における最大の公約として、2019年の消費税増税による増収分の約半分のバラマキと、2020年の基礎的財政収支の黒字化の先送りを平然と打ち出した。

 今日、最も危惧されるのは、リーマンショック(2008年)のような世界的金融危機が起きた場合、日本経済が被る大打撃である。金利が高騰しても、経済がマイナス成長に陥っても、対策を打つ能力を政府・日銀が持っていないからだ。吉川洋・立正大教授ら識者が警告するように、一刻も早くアベノミクスを健全な経済政策に転換すべきである。転換のポイントは財政再建策の再構築、超金融緩和の中止、貧富の格差是正の3点である。

 (元朝日新聞論説委員・編集委員)

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