ミャンマー通信(22)

初の民主的労働組合ナショナルセンター

                       中嶋 滋


 今回の報告は、ミャンマーで初めて民主的な労働組合ナショナルセンターが確立されたことに関するものです。去る11月29−30日、FTUM(Federation of Trade Unions - Myanmar)の第2回大会(国内第1回)が開催され、CTUM(Confederation of Trade Unions - Myanmar)が結成されました。前身のFTUB(2012年にFTUMに改称)は、2009年、亡命先のタイ・メーソッド(国境の町)で結成されました。1988年の民主化闘争を闘い軍事政権による厳しい弾圧によって亡命せざるを得なかった労働組合活動家らが結集して結成して以来5年目の大会でした(規約により大会は5年毎に開催)。

 大会は、FTUB/FTUMの活動報告およびCTUM結成に向けた準備活動を承認した後、CTUM結成大会に移行しました。特筆すべきことは、CTUM結成が全登録労働組合1,227(6万人強)の過半数を超える627組合(4万人強)が結集してなされたことです。ミャンマーの労働組合組織法は、非常に厳しい条件を伴う登録制度をとっています。企業・事業所毎に組織される Basic Union、その産業別組織 Township Union、State/Region Union、National Federation(いずれのレベルでも同一産業労働者の10%以上の結集が条件)、そして Federation の連合組織としての Confederation という5層の組織構造が強制されています。しかも産業別の区分が23に細分化されているのですから、労組の組織化は極めて困難なわけです。

 そうした状況下で、2年余りの間に、1,227労組の結成と、その内の過半数が参加したナショナルセンター確立を、どう評価するかは単純には判断できない問題かも知れません。組織人員6万人強が示すことは、労働人口が約2千5百万人から3千万人といわれていますから(正確な統計数字はない)、推定組織率は0.2%程度に過ぎないということです。CTUMが過半数組合を結集したと言っても、推定組織率からすると0.1%台に止まっているわけです。余りにも低いという評価はあり得ます。しかし、ミャンマーの労働組合活動家たちの組織化の苦労を目の当りにしている私は、彼らの活動結果に肯定的な評価を与えたいのです。

 加盟基本組織たる全国産業別組織(Federation)は、農業(AFFM= Agriculture and Farmers Federation of Myanmar)、交通運輸(MTLTUF= Myanmar Transport & Logistics Trade Unions Federation)、鉱業(MWFM= Mining Workers Federation of Myanmar)、製造業(IWFM= Industrial Workers Federation of Myanmar)、建設木材(BWFM= Building and Wood Workers Federation of Myanmar)の5組織です。それとともに登録制度の制約下で Federation 結成に至らなかったメディアなどの組合が過渡的な暫定組織を通じて加盟しました。

 この加盟組織実態は、先に説明しました細分化された産業別区分とはことなります。厳密な解釈からすれば法違反の状況でしょう。CTUMは Confederation としての登録を申請していますが、それが通らなければ法外組合となり、活動することができなくなります。これに関しては、結成大会に政府代表として労働省の幹部が出席して祝辞を述べたので、CTUC幹部のほとんどすべてが楽観視しています。来年の総選挙の実施に関連して政治状況に流動化する兆しが感じられるとする意見が生まれているだけに、一抹の不安がないわけではありません。

 CTUM大会の代議員は、改正された規約に従って、組合費納入人員250名につき1名が加盟組織に割当てられ、その総数は104名でした。基礎労働組合(Basic Union)レベルの組合員総数は4万人を超えていますから、少なくとも150名程度の代議員構成になってもよいはずですが、組合員の現金収入が少ない農民組合や賃金水準が低く組合費が低い組合が少なからずあるため、人員削減して加盟手続きをとった組合も少なからずあり、CTUMの組合費納入人員が実際より少なくなって代議員数が減ってしまいました。1人当りの月額組合費が50チャット(約5円)という低額であるにもかかわらず、こうした実態を生み出したことは、出発当初からCTUMが深刻な財政問題を抱えていることを明らかにしました。財政問題が自立に向けた最重要基盤であるだけに、解決に向けた努力が強く求められます。

 ミャンマー政府代表、ILOヤンゴン事務所やITUC、ITUC−APをはじめ多数の海外代表が来賓として参加し、祝辞と連帯の挨拶を贈りました。日本からは、吉田連合総合国際局長、郷野UAゼンセン国際局長、狩野日教組国際部員が参加し、岡本EI−AP委員長、逢見UAゼンセン会長、眞中JAM委員長、加藤日教組委員長、野田NTT労組委員長からの連帯メッセージが披露されました。こうした中で、与党USDP代表が来賓参加したもののNLDからの参加はなかったことが大いに気に掛かりました。このことに象徴されるCTUMとNLDの関係が、来年秋に実施予定の総選挙に悪影響を及ばさないよう早急な調整を期待するものです。

●民主化運動の継承発展

 CTUM結成大会の冒頭に、FTUB結成以来、軍事政権による厳しい弾圧下でビルマ/ミャンマーの民主化と自由で民主的な労働運動の実現を追求する闘いを一貫して主導してきた歴史的役割を引き続き果たしていく決意を表明する「ヤンゴン宣言」が採択されました。これを基礎に、CTUMは、団結権・交渉権の確立強化、労働関係法の改正、最賃制度確立、労働安全衛生活動強化、移民・出稼ぎ労働者対策強化、児童労働・強制労働廃止、ジェンダー格差撤廃、職業訓練強化などに積極的に取り組んでいくとしています。

 役員選挙は、規約に従い民主的な手続に沿って実施されました。中央執行委員会を構成する委員長、副委員長、書記長、副書記長、財政局長(登録制度の下でナショナルセンターの中央執行委員会構成は5名とされている)の選挙は、全てのポストの立候補者が定数内であったため、出席代議員(95名)の挙手によって満場一致で信任されました。

 委員長マウンマウン氏、副委員長タンスエ氏、書記長タンルイン氏、副書記長サンダー氏、財政局長カイザー氏という布陣で、5名中2名(副書記長、財政局長)を女性が占めました。彼女たちは若く世代間バランスからも評価されます。執行部全員がFTUM書記局の常駐メンバーだった者で、企業籍を持ったものは1人もいません。現在のミャンマーの実情からして、企業を休職して専従役員になることなどは全く考えられませんので、この人選は当然な帰結であったのでしょう。

 中央委員の選挙が大変でした。20人定数に37人が立候補し、95名の出席代議員による不完全連記制の選挙でしたから投開票に3時間以上もかかりました。しかし多くの代議員にとっては初めての経験だったようで、興奮状態というか一種の「お祭り」状態で過ごしていました。当選した20人の内訳は、AFFM10人、MTLTUF3人、MWFM3人、IWFM3人、BWFM1人で、基礎組合レベルの加盟組合比率でAFFMが全体の約8割を占める組織実態を考えると、Federation 間のバランスもうまく保たれた結果であったといえます。しかし、20名中に女性はAFFMとIWFMからの各1名に止まり(そもそも立候補者が2名しかいなかった)、ジェンダーバランスに欠ける結果となったことは残念というしかありません。

●万感の思い

 今後5年間のCTUM運動は、マウンマウン委員長を中心とする5人の中央執行委員会、20人の中央委員会、女性委員会代表2人(委員長と事務局長)、青年委員会代表2人(委員長と事務局長)で構成される指導部が、中心的な役割を担って進めていくことになります。新しく確立された指導部を代表して、マウンマウン委員長が決意表明を含めた挨拶を行ないましたが、彼は、冒頭部分で一瞬、声を詰まらせました。何回か咳払いをして発声しようとしていましたがうまくいかず、こみ上げるものを押さえるかのようでした。

 感極まったのだと思います。顧みれば1988年の民主化闘争以来25年にわたった亡命生活下での活動、帰国後2年間余の組合組織化活動、気を休める暇もなかったに違いない厳しい時を乗り越え、ミャンマー初の民主的な労働組合ナショナルセンター結成を成し遂げたのですから、その感動は想像するに余りあるものであったと思います。労苦をともにした人々の表情もまた同様に感動に満ちたものでした。 

 数呼吸おいた後、声を整えたマウンマウン委員長は、「新しい第一歩が踏み出された。私たちはここから前へ進む」と力強く決意を述べました。CTUMがミャンマーの全労働者の利益を代表する力強いナショナルセンターとなるためには、達成しなければならない幾つかの重要課題があります。彼はそのことを充分に承知していて、CTUM結成をスタート地点に立ったに過ぎないと表現していました。
 達成しなければならない重要課題の第一は、労働関係法の国際労働基準への適合を基本にした抜本改正です。労働関係法はミャンマー政府によれば18だとされているが、専門家からは25あるという指摘もあります。これらのほとんど全てが改正の途上にあるといわれていますが、進行具合は明らかにされていません。まずは労働組合組織化と団交権行使に大きな制約を課している労働組合組織法や労働争議解決法の改正です。その他にも改正待ちであるとして事実上適用がペンディング状態になっている「基準法」をはじめ多くの関係法の早急な改正が必要です。

 第二は、組織拡大強化の課題です。ほとんど未組織状態にある公的部門が特に重要で、郵便・通信、教育、中央・地方政府、医療・福祉の分野での組織化を促進しなければなりません。また、低いレベルにあるレストラン、ホテル、スーパーマーケットなどサービス部門の組織化も重要です。それとともに、既に組織化されているがCTUMへの結集が過半数に至っていない分野での多数派の確立が重要課題です。これらについて関係GUFの協力が必要ですが、それへの調整はITUCの果たすべき役割です。

 第三は、脆弱な財政基盤を強化することです。低所得農民を基盤とする農民組合と低賃金水準の故に組合費も低い水準に止まっている縫製業などの組合は、それぞれ抱えている課題達成に向けた運動の組織的展開に必要な財政確保が困難な状況にあります。相互扶助活動の取り組み強化などを通じて、財政基盤確立強化を意識的に追求していく必要があります。この点に関しては、日本の全労済や労金の活動が大いなる参考になりうるので、連合等の協力を得ながら対策を進めたいと思っています。

 CTUMには、概略以上のような重要課題に早急に取り組み、成果を上げながら、強靭なナショナルセンターを建設することが期待されています。
             (筆者はヤンゴン駐在・ITUC代表)


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