【オルタの視点】

フランス大統領選・アモン候補の政策を検証する

                           藤生 健


 本年4月23日に行われたフランス大統領選挙は、主要4候補が得票率19~24%の中にひしめくという大混戦に終わり、マクロン候補とルペン候補の2者が決選投票に進出した。だが、決選に進んだ二候補が獲得したのは全票のうち45%に過ぎなかった。中でも興味深いのは、当初「泡沫」扱いで「極左」とされるメランション候補が得票率19%、706万票を獲得した点にある。1位のマクロン候補の得票は865万票に過ぎないことを考えても、フランス政治の複雑さが垣間見える。

 なお、社会党のアモン候補は229万票、6.3%の得票、主要4候補からに大きく離されて終わっている。これは、フランス社会党のエリート化と、政権慣れして行政官僚との一体化が進み、保守党派との違いが殆ど見いだせなくなったことに起因していると考えられる。他方で、社会党員だったマクロン氏が無所属で出馬、より親EUと新自由主義色を前面に打ち出しており、エリート層を中心にかつてのサルコジ支持層や無党派層を取り込んで勝利を収めている。

 フランス社会党の凋落は、新自由主義的要素を取り込んだ「第三の道」路線の限界を示すものと考えられるが、マクロン氏の勝利は、同時に新自由主義がいまだ色あせていないことを意味している。今回の大統領選に続く国民議会選挙でも社会党は歴史的敗北を喫し、定数577中わずか30議席になってしまった。社会党が大敗した理由の多くは、オランド政権の新自由主義への傾斜と、それに伴う政権内の内紛に帰せられようが、大統領候補予備選を戦ったアモン氏とヴァルス氏はともに離党を宣言、社会党は今も遠心力が働いており、再建の道は果てしない。

 前号では「不服従のフランス」のメランション候補の政策を概観したが、今回は社会党アモン候補の政策を見てみよう。

◆◆ 1.アモン氏の経歴

 Benoît Hamon、ブノワ・アモン。1967年、サン=ルナン(ブルターニュ)生まれ。両親はブレストの造船局(準国営企業)勤務。ブルターニュ=オクシデンタル大学(ブレスト)で歴史学を学ぶ。
 19歳で社会党に入党、学生運動を経て自ら「青年社会主義者運動」を立ち上げる一方、ピエール・ブラナ議員(ジロンド県)の秘書を務める。2001年にブレティニー=シュル=オルジュ市(パリ郊外)の市会議員。08年より社会党本部広報官。12年にイヴリーヌ県から国民議会選挙に出馬して当選、オランド政権下で経済・財務・貿易大臣、社会的・連帯経済担当大臣に就任、後に教育相に移るも、2014年に労働法改正や緊縮財政に反対して更迭される。
 17年の大統領選では、まず社会党内の予備選でマルティーヌ・オブリーら党内左派の支持を受けて右派のヴァルス候補を破り、社会党候補となるも、4月の本選第1回投票で得票率6.36%にとどまり、決選投票に残れず敗退した。7月1日に離党を宣言、新たな左翼勢力の結集を目指して「7月1日運動」(仮)を立ち上げた。
 なお、趣味はラグビー、好きな音楽はラップで反体制的で攻撃的な歌詞が人気のNTMを好む。

◆◆ 2.アモン氏の政治的スタンス

 アモン氏は社会党系の学生運動に参加してから一貫して党内左派のロカール派に属す党人派と言える。ミシェル・ロカールは、フランスにおける「第三の道」路線の先駆者で、非マルクス主義の市場経済を重視する社会民主主義を主張した。予備選に出馬したヴァルス候補も「ロカールの後継者」を自認したが、オランド路線を支持する新自由主義色の強い主張を行い、予備選後も「アモン氏を支持しない」旨を表明した。アモン氏の主張は、週32時間労働制、月額750ユーロのベーシック・インカム、地方選挙における外国人投票権、大麻の合法化などで、党内でも急進派と見られている。ただし、EUに対しては肯定的で、ロシアに対しては厳しい姿勢を取っている。

◆◆ 3.大統領選挙パンフレット「フランスの魂をつくるための計画」より

[情報公開]内部告発制度のさらなる充実。政治献金者の氏名公開の促進とロビー活動規制。

[交通政策]公共交通の整備、カーシェアリングの充実。鉄道(貨物と旅客)の再建。

[司法]再発防止に重点を置いた刑務所、保護観察制度の充実。被害者の権利創設。未成年者の更正制度の充実と少年刑務所における人間の尊厳の確保。

[エネルギー]2025年までに50%を再生エネルギーに。今後25年かけて脱原発に移行する。2025年までに廃棄物の50%をリサイクルする計画。

[公共サービス]公共サービスのユニバーサル性の護持。医療過疎地対策。郵便、水道、鉄道などの公営企業の早期再建策の提示。

[対テロ]対テロ部門に9千人の増員。「国土安全保障計画法」を制定、警察と憲兵の装備と機能を強化しつつ、その労働条件を改善する。

[健康]ディーゼル規制の強化。有害農薬の禁止。医療過疎対策の充実。未成年者に対する酒、タバコ販売の罰則強化。酒類の広告規制。最新薬価の引き下げ。

[高齢者]年金格差の是正。農業者年金の補強。2020年から1,200ユーロの最低保障年金。

[子ども]5年間で25万人の保育定員増。育児休暇を6週間に増加。

[労働]最低賃金の引き上げ。無収入者に対して月額600ユーロのベーシック・インカムの支給。過労対策の強化。

[住宅]年間15万戸の社会住宅の建築、うち13万戸は低所得者等用。2022年までに6万戸の若年者用社会住宅。「スラム・ゼロ化」計画。

[金融の公平]脱税、金融詐欺対策の強化。資産逃避対策の強化。資産課税の強化。

[農業]農産物価格の保護。学校等の公共機関で提供する食事の50%を有機産物に。有機農産物の低減税率適用。

[税制]公正な税制、法人税の条件付き段階的引き上げ。ディーゼル課税の強化。低炭素製品に対する軽減税率適用。環境税の地方税化。

[中小企業]公共調達の50%を中小企業に。

[ジェンダー]男女同数を実現しない政党に対する罰則強化。DVシェルターを4,500箇所増設。同一賃金に違反した企業への罰則強化。

[教育]2歳から無償就学権利と3歳からの義務教育。25人学級。教員の研修権の保障。教員の待遇改善。職業専門学校への支援強化。

◆◆ 4.評価

 アモン氏の政策は大統領選挙用のホームページ(https://www.benoithamon2017.fr/le-projet/)を参照した。非常に細かく分かれており、自分が知りたい政策や情報がどこに書かれているのか探すのが難しい作りになっている。個々の政策も、短くまとめられている一方で、前提知識が無いと分かりづらいものが多く、ハードルが高いように思われる。

 全体を特徴づけるならば、積極財政、反規制緩和、自由貿易、自由主義、反民族主義、やや介入路線(親EUと反ロシア)という感じになる。「不服従のフランス」メランション候補との大きな違いは、ベーシック・インカム、親EU、自由貿易などが挙げられる。だが、EUは構造的に常に緊縮財政を要求してくるため、親EUと積極財政は本質的に相性が悪い。これは規制緩和についても同じことが言える。同時に、親EUと自由貿易を主張することと、国内の労働者の権益を保護し、大衆の最低生活の保障することを両立させられるのか、課題があることを示している。そして、大統領選の結果は、EU懐疑論や保護貿易が相当数の支持を受けていることを証明した。

 フランス社会党の再建はまだ始まったとすら言えない段階だが、90~00年代の「第三の道」に象徴される社会民主主義のテーゼが転換を求められていることは確かであり、今後どのような方向性を打ち出すのか、見守ってゆきたい。

 (政治評論家・オルタ編集委員)

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