【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】

(33) サングルポットとカッドゥルパイの冒険㉘

吉川 佐知子

 小さな可愛い赤ちゃんを一緒に乗せて、帰って行った人達を覚えているでしょう。サングルポットとほぐれ花は、かわりばんこに抱いて行きます。フリーリーはとても気位の高い魚ですからそんな事はしません。

 “どこで彼女をみつけたか知っているの、フリーリー?”とカッドゥルパイが聞くと
 “それは秘密よ。私に聞かないで、あなたに喋る気はないわ”
 “だけど、あのおそろしいジャイアントはどうしていたの?”とほぐれ花が聞くと
 “黙って! 私はその事については何にも云う気はないんだから”
 “おー”ほぐれ花はオベーリアを抱きしめて“彼は悪い気質なのよ。そしてずーっと何年も彼女をとらえているのよ”
 “多分そうよ”とフリーリー“それから今は死んだようよ。マッコウクジラは強いジャイアントですもの”

 やっと彼等が家に着いた時、アンチョビーが泣き崩れています。
 “おー私の大事なナッツさん。あなたが亡くなったと思ったのよ”
 それからほぐれ花が赤ちゃんを抱き上げます。
 それを見たアンは両手を上げて喜び、そして驚くばかりです。そしてすぐにおしゃべり屋さんを近所に報せ走らせます。それで魚族は大喜びをします。

 さて、今はジョンドーリィが旅に出ていますからチャンスです。子供達は安心して楽しみがいっぱいで、魚族村は喜びに溢れています。旗がひらめき、バンドの演奏、そして誰もが楽しんでいます。子供達は休日をもらったし少年達はあばれ放題です。
 ほぐれ花とサングルポットは、スポーツの仲間入りをします。立て網に突っ込んだり飛び魚の背中に乗って駆けまわったりと、魚族はスポーツがとても好きなのです。
 毎日彼等はアンの馬車に乗ってドライブをしました。ほぐれ花はいつもオベーリアを連れて行きます。みんなにオベーリアはほぐれ花のものだと知らせるためです。

 何日もの幸せな日々に、暗い影が忍び寄ります― ジョンドーリィが帰って来たのです。
 彼は青い顔をして疲れているようです。そして怒り出しそうな顔で黙っています。魔法にかかったように楽しみは終わってしまいました。みんな小さな声で、これから何が起こるのかしらと囁きました。

 或る日アンがとても気落ちした様子でほぐれ花の所へ来ました。
 “可愛いほぐれ花さん、あなたとサングルポットは出て行かなくちゃならないのよ、それも今すぐ。それでないととても酷い目に合うことになりそうなの”
 そう云ってアンは泣きながら彼女の手を握ります。
 “なんと! アン”ほぐれ花も泣きながら“でも何処へ行けばいいの?”
 “何処でも、何処でもいいのよ。ただ早く行って隠れて、フリーリーがこっそり、あなた達が何処へ行ってそれから何処へ行ったか私に報せてくれるわ”
 “でもそれじゃ赤ん坊のオベーリアはどうしようかしら?”とほぐれ花。
 “私が面倒をみるわ”とアン。
 “でも私はオベーリアを置いて行けないわ”とほぐれ花が云います。

 そうしてほぐれ花とサングルポットは魚族村を出て行き、大好きなアンを残して小さなオベーリアとフリーリーと一緒に旅をします。
 ずっと遠くまで旅をして小さな村に着いた時、彼等はそこで自分達の家を作りました。そこの魚族は彼等にとてもやさしくしてくれるので、安心して住むことが出来ました。ほぐれ花がオベーリアの世話をしている間に、サングルポットとフリーリーは食物を探しに出掛けます。

 しばらく後で彼等に幸運が舞い込みます。うろうろと見回りしている中にフリーリーが大きな釣針にきれいな肉片がついているのをみつけたのです。清潔な砂地の上にぶら下がっています。しかもいつもそこにあるのです。フリーリーがその事を話した時、サングルポットが
 “それじゃ肉屋を始めようよ”と云うと
 “わぁ素敵! たくさんお金が儲かるわ”とフリーリー。
 そこで小さな彼等の家をそのそばに引っ越してお店を構えました。素晴らしい事でした。大急ぎで肉を切り取ると釣針は引き上げられ又新しい肉片がつけられておりて来ます。いつも同じ場所にです。

 (詩人)

(2022.2.20)
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