【メイ・ギブスとガムナッツベイビーの仲間たち】

(19)サングルポットとカッドゥルパイの冒険⑭ 小さなほぐれ花

吉川 佐知子

 もう少しサングルポットとカッドゥルパイのことをお話しましょう。
 意地悪な蛇夫人を殺したことを覚えているでしょう。そしてみんな喜んだこと。女優のリリーピリーのお父さん金持ちのピリー氏はガム宿で夕食会をして、その後ピリー氏の新しい劇場で開かれるガム花バレーの切符をみんなにくれました。
 とてもよかった。
 しかしとかげさんも蛙さんも彼らの友達はみんな、バンクシャー達がサングルポットとカッドゥルパイそれにほぐれ花に復讐してくるだろうと思って怖がって逃げていきました。

 『それで我等があの馬鹿なナッツをやっつけたら、友達のとかげなんか苦痛で死んでしまうだろう。あいつが一番の敵なんだ』
 『我々のにくらしい仇だ』と一人が云うと
 『煙と火でやき殺せ』もう一人がうなる
 『落としておぼれさせよう』とどなります。
 『はーそれがいい。あいつらをおぼれさせよう。ははー聞いたか』

 そこでバンクシャー達は頭を寄せ合って悪だくみの相談を始めました。
 たまたまとかげさんの友達がその木の下のしげみの中に隠れていましたが、とかげさんの名前が出たので、頭をもたげて聞いていました。そしてナッツをおぼれさせようとしている事を知ると、そっと気付かれないように這ってその場を出て、一目散に走ってとかげさんを見付けてその事を話そうとしました。

 ところがなんと、彼の忠告は伝わりませんでした。
 あの“たのしみ会”の後の事だったのです。あの夕食会に出た人達は、おいしいお酒を飲めるだけ飲み、おいしい料理をうんと沢山食べてしまったんです。
 とかげさんもその“たのしみ会”に行っていました。ですから、翌日は一日ベッドの上に寝込んでしまいました。頭は痛いし蠅がきてうるさいしでとても機嫌が悪く、誰もそばに寄れません。友達がきても
 『出て行ってくれ、おれは病気なんだから。出ていけ。』
 そう云って尻尾を振り回して一言も話を聞こうとしません。それで当然その友達は嫌になって行ってしまいました。

 そんな事があって、とかげさんが苦しみながら寝ている間に、いろいろな事がどんどんとみんなの知らない間に進んでいきました。
 大きな船が港に着きました。そして船長が岸に上って来て、ほぐれ花とサングルポットとカッドゥルパイを招き、長い旅をして新しい国を一緒に見に行こうと誘います。
 とてもたくさんの他のナッツや花たちが私達も行きたいと寄って来て、スナッグ(木の切り株のような船)はすぐに出航となり、みんな大急ぎで荷造りをしました。そんな間もとかげさんはベッドでぶつぶつ云いながらのたうち回っていました。

 みんな興奮していてサングルポットとカッドゥルパイはとかげさんの事をすっかり忘れていました。ところが船が動き始めた頃、岸辺のみんなの大騒ぎにとかげさんは飛び起きました。そして無茶苦茶な勢いで駆け下りて叫びます。
 『ストップ!ストップ!おれを待って!』
 岸辺のみんなも叫びます『ストップ!』

 サングルポットとカッドゥルパイはとかげさんの姿を見て、船長の所へ駆け寄り戻ってくれるよう頼みます。
 しかしひげも眉毛ももじゃもじゃの毛でおおわれた大男の船長は嫌な顔をして
 『潮の流れに乗って今出ないと駄目なんだ』と云います。
 サングルポットとカッドゥルパイはとても悲しく、ほぐれ花は船縁で下を覗き込みながら海へ涙をこぼしています。

 『どうして彼を忘れたんだろう』とサングルポットは残念がります。
 『彼はとても優しくしてくれたわ』とほぐれ花が震えます。
 『我等の古い友達よ』カッドゥルパイもすすり泣きます。

 とかげさんは絶望して狂ったように小さなボートに飛び乗り彼等を追いかけ力のかぎり漕ぎ出します。
 ナッツは船の上から『早く来て!』と叫びます。
 岸辺の人達も小さなボートが大きな船にだんだん近付いていくのを見て
 『フレー!フレー!』と応援の声を上げます。

 (詩人)

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