■【北から南から】北の大地から

その後の夕張と夕張現象の拡散(続)        南 忠男


  ◇あれから一年


  3月6日、夕張市が「財政再建団体」になって1年を迎える。想定外の人口流
失と高齢化が進み、
計画の抜本的見直しが迫られているが、国は依然として傍観している。前号でも
紹介したように、今国会で、野党議員から、夕張市に対する支援策について質し
たのに対し、所管の総務大臣が「地方自治の根幹は自主自立だ。借金を背負った
自治体に特別の配慮をすることが国民の理解を得られるか」と半ば開き直った答
弁をしているが、こんな官僚的答弁しかできない元岩手県知事を情けなく思う。
知事は「一国一城の主」であった筈、その気概や如何に。大臣になったとたんに
「官僚の操り人形」に過ぎないとは情けない話である。


  ◇見せしめ・さらし首


  夕張のこの一年は何だったのだろう?「見せしめ・さらし首」の一年だっ
た。それにしてもなんで罪のない住民がこんな惨い仕打ちを受けなければならな
いのだろうか?日本という国は依然「東洋の島国・野蛮な国」なのだ。
  ~もう見えてきた再建計画の破綻。想定外の無視は見せしめ、夕張いじめに
映る。住民職員なくして自治体もなし。国は不作為責任を問われよう。~
これは、夕張市の現状を一口で語る北海道新聞のコラム(3月6日夕刊「直線曲
線」)の引用である。


  ◇「自治体財政健全化法」とは


  昨年「自治体財政健全化法」が制定された。これは、全国の自治体の08年度
決算から適応されるので、今年が正念場となる。これは、夕張現象を早期に発見
し、対策を立てようとの意図から制度化されたものであると云われている。字面
から読むと「自治財政を健全化」するために国が新しい施策を講ずるように見受
けられるが、実際は似て非なるものである。夕張のような「財政再建団体」にな
る前に、夕張現象に近い、財政の悪化した自治体に「財政再生団体」という網を
架け、国の監督・規制を強化しようというものである。

  夕張の実態に見られるように、「財政再建団体」とは、その住民が「全国最
高の負担と、全国最低のサービス」を強いられ、鉛筆一本・消しゴム一個も国の
承認を得なければ購入できないという、国の管理下に置かれることである。

  「財政再生団体」とは如何なるものか。夕張市は「財政再建団体」である。
「再建」と「再生」は同じ意味だと思う。ちなみに広辞苑で調べると、「再建」
(1)たてなおすこと(2)一度衰えたもの、すたれたものをもりかえすこと、団体など
を再び組織すること」。「再生」(1)一旦死にかけたものが生きかえること。また、
生きかえらせること。とある。

  「一度衰えたもの、すたれたものをもりかえすこと」(再建)も「一旦死に
かけたものを生きかえらすこと」(再生)も同じ意味ではないだろうか。


  ◇夕張の現実


  前号で紹介したように、夕張では当初予算の補正のため4回国(総務省)の承
認を求めている。第一は庁舎の修理、第二は市長の旅費、第三は職員の残業手当、
四度目は職員の新規の採用と老人の集会所の再開の問題である。最後の問題は未
だペンデイングになっている。いずれも、夕張にすれば死活の問題であるが、事
柄の性質は「鉛筆一本・消しゴム一個」の類である。
  常識では考えられないことであるが、夕張市の年間予算には「予備費」は計
上されない仕組みになっているようだ。


  ◇新たな「財政再生団体」指定の指標


  総務省は「財政再生団体」指定の要件とし四つの指標を準備しているようであ
る。
  第一は、普通(一般)会計の実質赤字比率
  第二は、連結実質赤字比率
  第三は、実質公債費比率
  第四は、連結将来負担比率
  である。

  そして、この4指標のいずれかに該当すれば、「財政再生団体」に指定され、
夕張市(「再建団体」)と同じように国の規制と監督のもとにおかれる。また、その
予備軍として「早期健全化団体」の指定を受ける。しかし、「再建」「再生」「健
全化」いずれの段階においても国の特別の支援策があるわけではない。
  国の支援でなく、国の直接管理下に置いて「財政再建」の名のもとに、住民の
負担増と福祉・教育・医療の切捨てを強行しようとするものである。


  ◇北海道の自治体の過半が危険水域


  上記の四指標が示されたことにより、北海道の自治体の過半は「赤信号」「黄
信号」に該当し、どの自治体も新年度予算の編成で大ナタを振るっている。結果は
「住民負担の増と住民サービス(福祉)の切捨てである。
  「第二の夕張」として警戒されていた旧産炭地の、歌志内市が昨年春、職員の
給与の3割カットなどの行政改革により、辛うじて「再建団体」転落の危険水域を
脱したが、今年は赤平市が、夕張・歌志内両市と同じ手法~職員給与の3割カッ
ト・市長の報酬の5割カット、市民会館・スポーツ施設など公共施設の休止、水
道料金など公共料金の住民負担の増大により危険水域脱出に懸命の努力をして
いる。<無理をしてこんなことをしなければならないのなら「再建団体」の指定
を受けたほうが気楽だ>との声まで聞かれる。
  これは赤平市だけではなない。
  「職員給与の大幅カット」「住民負担の増大」「住民福祉の切捨て」が際限なく
続くことが「自主・自立」への道だと云えるのだろうか。


  ◇自治体財政の危機の要因


  自治体財政の危機の主要な要因が、小泉内閣以来、現在も続いている地方交付
税の減額にあるが、国の失政の尻拭いに負うところも大である。石炭政策は云うに
及ばず、国の不況対策のために受け入れた公共事業の自己負担、省庁縦割りで押
し付けられた奨励的補助事業の自己負担が「起債」という借金として残り、自治
体財政の重圧として、「実質公債費比率」を高めている。

  また、さきに述べた、新4指標の一つである「連結実質赤字比率」の問題が、
北海道では深刻な問題になっている。従来「赤字比率」の指標は一般会計のみで、
病院・水道等の企業会計は除外されていたが、「連結実質赤字比率」として病院
事業などを含むこととなり、赤字を抱えた自治体病院は撤退・縮小・診療所化(民
営化)の道を選択せざるを得なくなっている。夕張市は病院会計が40億の負債
を抱え、病院事業の廃止・民営による「診療所化」となった。

  自治体病院の赤字は、根の深いものであるが、近年の医師不足は益々深刻に
なり、赤字の増大に歯止めをかけるとすれば、病院事業の縮小(産婦人科、小児
科、その他医師の不在による診療科の廃止)病院事業からの撤退(民営による診
療所化)により住民の生命までが危なくなって来ている。


  ◇こんなことで良いのか?~道路特定財源に固執する知事たち


  「道路特定財源」の問題で国政は混乱しているが、全国知事会をはじめ地方
六団体までが「道路」「道路」と騒いでいる。道路以上に重要な緊急課題が山積
しているのにこんなことで良いのだろうか。医療・福祉・教育・地場産業育成な
どの課題が放置され、道路で金縛りになるのは自治の放棄だ。国に集中される道
路財源が、配分の段階で、夕張市の市道の維持管理(冬季の除・廃雪等)に廻さ
れる保障はない。

  道路網が整備されても過疎化で地域が崩壊したのでは意味はない。救急車の
走る道路があっても、急病人を受け入れる病院がなくてはどうしようもない。
  東京都を除いてはどの自治体も予算カットで縮小財政が続いているが、せめ
て「道路」だけはと「道路特定財源」に酒色の手を伸ばしている。ゼネコンあっ
て住民不在。地方六団体も、道路官僚・族議員の提灯持ちになったとは情けない
話である。(筆者は旭川市在住)


  ◇道路にムラガル「官僚」「族議員」「首長」


  公共事業をめぐる贈収賄はあとを絶たないが、いずれも建設官僚・自治体職
員・族議員・自治体首長がかかわっている。算定根拠も曖昧でズサン、旧態依然
の丼勘定になっている道路計画が悪の温床になっている。更に道路特定財源から
職員住宅が建設され、不当に安い料金で職員に貸与されたり、職員の福利厚生と
称してマッサージチエアやカラオケセット、アロマ器具等々常識では考えられな
いことに流用するなど、ムダズカイとそれを超えた悪用が平然と行われているこ
となどは許せることではない。道路特定財源はただちに廃止し、自治体の自主財
源となる地方交付税の拡大を図るべきである。
                       (筆者は旭川市在住)

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