【書評】回想のライブラリーを読んでー書評・感想・想い出
『回想のライブラリー』出版を祝う-国際人の半生記-
卒寿の年齢ともなると、人間は自分の歩んできた半生を振り返ることが多くなる。また、これまでの想い出や経験、楽しかったこと、辛かったこと、苦労したことなどを子や孫や、関係のあった人びとにそれとなく伝えたい、または書き残しておきたい気持ちも湧いてくる。
けれども、その年齢になってから書き残そうと思っても、大抵は記憶も体力も落ちていて、その思いを実行できないで終わってしまう。
そのことを初岡さんは早くから考えておられたのか、知っておられたのだろう。数年前からあちこちに活動記録や報告、評論などの形で書き残して来られた。今回、幼少期の事などを新たな章として書き加え、一冊の本『回想のライブラリー』として纏め、出版された。
同年生まれの友人の一人として羨ましく思うと同時に、心からお祝いしたい。
実は私達は同じ昭和10年(1935年)生まれで、同年の仲間達には、政・労・使の諸団体・諸機関の国際関係部署で活躍してきた人が多い。その仲間が、「いのしし年」生まれに因んで「いのしし会」と名付けた懇親会を今から30年以上も前に設けて、長く交流してきた。メンバーの幾人かは残念ながらこの間に亡くなられ、または病気で欠けたが、この会は細々ながらも今も続いている。
「いのしし会」の仲間に国際関係を担当してきた人が多いのは、恐らく戦後の教育制度や、当時の時代状況と関係があるのではないかと思う。
私達の小学生時代の大部分は戦争中で、国粋・愛国教育の時代であり、私達もいわゆる「軍国少年」の教育を受けた。
戦後、新制中学校が発足して全生徒が義務教育として3年間通うことになり、それまでは、いわゆる「敵性外国語」などと言われた英語が必修となった。私達はこの新制中学の第2期生で、今度は懸命に英語を学ぶために、戦後大勢来日したキリスト教の牧師さんなどの元へ英語勉強に通ったりするようになった。そこでは英語だけではなく、キリスト教とも出会うことになった。今振り返って思うと、こうした事情が後の私達の人生に少なからず影響したように思う。
『回想のライブラリー』が出版された事情は、同書の「あとがき」で初岡さんが詳しく述べているが、この本は決して単なる通り一遍の「自分史」ではない。この本は、私達が生きてきた約一世紀の政治・経済・社会の縦断面の記録であり、そこで生き、活動した人々の人物記録でもある。
初岡さん自身の学生運動の時代に始まり、労働運動の世界、PTTI(国際郵便電信電話労連)やILOなど国際組織での経験、資本主義や社会主義、共産主義など異なった社会体制下での生活体験、またキリスト教やイスラム、儒教など様々な宗教の人々との交流経験など、思想・行動・生き方の面でも非常に幅広く、また深い人生の記録である。初岡さんと交流のあった登場人物たちも、世界的に著名な政治家や学者、ジャーナリスト、社会運動家、外交官など、驚く程多彩で幅広い人びとである。
私はこの本を、今年大学を卒業して国際関係の仕事に就く孫娘の一人にぜひとも読ませたいと思っている。きっと彼女にとって良い教科書になると思う。
(2026.02.20)
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