【北から南から】■深センから 

『中国人男性受難の日』   佐藤 美和子

───────────────────────────────────
昨日2月14日、買い物に行った香港からの帰りがすっかり遅くなってしまっ
た私は、相方と街中で落合って、外で夕食を済ませてから帰ることにしました。
そう、中国的バレンタインデーの恐ろしさをころっと忘れていたのです・・・・・。
見せられるこっちがこっぱずかしいよ、勘弁して!な光景があちこちで繰り広げ
られておりまして、ロマンティックなるものが苦手な男らしい?!私にとっては
これってなんかの羞恥プレイですか?!な状態でした・・・・・。

中国ではバレンタインデーが、なんと年二回もあります。一つは日本と同じく
2/14、もう一つは旧暦の七夕です。七夕のほうは、チャイニーズ・バレンタイン
といったところでしょうか。
日本と違う点は、とにかく「中国人男性に生まれたらとっても大変!」という
ことです。だってどちらのバレンタインも、男性→女性へ、ロマンティックな演
出を考え出したり花束やプレゼントを用意したりしなきゃならないんですもの。

 その割に、日本のホワイトデーのようなお返しの日もないので、中国人女性は
(1)誕生日、 (2)2/14のバレンタイン、 (3)旧暦の七夕、 (4)クリスマス
と、年に4回も花束やプレゼントを貰ったりご馳走してもらったりの一方通行、
とってもラッキーな状況です。中国では一人っ子しか産めないのならぜひ跡継ぎ
になる男児を!と、法で禁じられている男女産み分けをする人がいまだに後を絶
たず、男性人口が女性のそれをはるかに上回っているため、結婚できずにあぶれ
る男性が増え続けています。さらにお金持ちの外国人と結婚したがる中国人女性
が増えていることが追い討ちをかけ、中国人男性はやっとのことでつかまえた恋
人をべったべたに甘やかさざるを得ないことが、こういった事情に関係している
のかも知れませんね~。

中国人男性受難の日であるバレンタインは、まず花束で始まります。どんなに
懐が厳しくとも、最低でも美しくラッピングされた真紅のバラ一輪なりとも恋人
に贈らねばなりません。ちなみに当日、うちのマンションのお花屋さんでは、バ
ラやカーネーション、カスミソウで作られた花束ひとつが300元(約4600円)
~で売られていました。普段なら30元程度だそうで・・・・・。ケチな私なら、
翌日10束貰ったほうがお徳なのに、と考えちゃいます(笑)。

さらに便乗商法?ついでに花瓶も負けずにどーんと値上がりします。で、男性
は色とりどりな花束を抱えてデート先に赴き、恋人と会った後は彼女が花束を抱
えて通り行く人に存分に見せびらかせるよう、自分は彼女のバッグを持ってやら
ねばなりません。そしていつもよりうんと奮発して、オシャレなレストランでの
ディナーと張り込みます。ところがですね、上に挙げた(2)~(4)の日は、ちょっと
したレストランではどこもスペシャルメニューなるものを作り出すのですよ。カ
ップルに合わせてお二人様用メニューなのですが、往々にして普段その店で食べ
るより、ぐっとお値段がアップ!中身は大して変わらないのに、ちょっと演出を
変えただけで普段の1.5倍~2倍の出費は覚悟しなければなりません。そして注
文するとき、店員さんがオシャレなグラスワインかカクテルはいかが?スペシャ
ルメニューと一緒に楽しめば、もっとロマンティックになりますよ~と勧めてく
るので、彼女の手前、断れずに更に消費額はアップしてゆきます・・・・・。

バレンタイン商戦でキレイに飾りつけされたショッピングモールや公園などで
の、彼女との記念撮影も忘れちゃいけません。昨日とあるショッピングモールで
見たものは、お店側が用意して貸してくれる大きな中抜きハート型の模造紙の、
中抜き部分から2人くっつけた顔を覗かせ、更にハートの矢も持って彼女のハー
トを射抜いた格好???にして写真を撮ることができる、というものに順番待ち
している山ほどのカップル・・・・・。大きく引き伸ばした結婚写真を寝室に飾
るのが普通という中国人ですから、こういう節目節目の記念写真はとっても大事
です。

もちろん、余裕のある男性は花束とディナー以外にも、プレゼントもしなくち
ゃなりません。
昨日なんとなくスワロフスキーのお店を覗いてみたら、たくさんのカップルが品
定め中でした。普段はお客さん、あんまりいてないのに・・・・・。恋人の腕に
絡みついた女の子たちが、数百~数千元するネックレスや指輪をおねだりしてい
ました。スワロフスキーだけでなく、アクセサリーショップやブティックなど、
どこもカップルでごった返していました。ふぅ、中国人男性にだけは生まれるも
んじゃないですね~。

昨日のラジオで聞いたのですが、昨日はどこのホテルも稼働率100%!いつも
より、平均30%ほど値上がりしているのにもかかわらず、ですって。もしかした
ら今年の中国、年末辺りに出産ラッシュ現象が起きるかもですね~(笑)。人口減
に悩む日本にとっては羨ましいハナシ???
そうそう、ホテルを取るほど余裕のない若いカップルは、食事のあと、公園に行
くんだそうですよ。もちろん夜の公園はとっても薄暗いですから・・・・・ええ
と、その先はワタクシ、存じ上げません・・・・・。

昨日はそんなこんなでとにかく街中カップルだらけ!レストランもどこも満員
で、うっかり外食しようとしてしまった我が家はよく行く和食レストランで30
分も待たされ、帰り道ももう22時過ぎだというのに大渋滞、普段なら20分余り
の距離に小一時間もかかってしまい、本当にエライ目に遭っちゃいました。いつ
もよりみんな興奮状態にあるのか?その普段は車でたった20分の距離で、追突
事故が3件もあったんです。どれも幸いオカマを掘った程度だったのですが、物
見高い中国人、後続車が事故現場を通るときはことさらゆっくり運転して事故車
見物?するため、渋滞がよけいにひどくなっていたんですね・・・・・。

ちなみに、これだけバレンタインデーがお祭り騒ぎになったのは、ここ数年の
ことです。私が初めて中国にやってきた91年なんて、バレンタインデーどころ
かクリスマスですら、認知されていませんでした。何気なく中国人の友達にクリ
スマスカードを送ったら、「あなたは一体何の宗教を信じているのですか?」と真
顔で質されたり、とある日本人がお世話になった人にクリスマスプレゼントを贈
ったところ、誕生日でもないのになぜいきなりプレゼントをくれたのか?と相手
を大変いぶかしがらせてしまい、英文科卒で多少、欧米の習慣に知識のある兄弟
にクリスマスプレゼントについて相談したらしく、後日立派なお返しを頂いてし
まった・・・・・というような状況だったのです。

そういえば、今は旧暦の七夕にも男性は恋人に花束をプレゼントすることにな
っているようですが、昔はそんな習慣、ありませんでした。日本のバレンタイン
がお菓子屋の陰謀なのと同じく、中国の花屋業界の陰謀か?!でも、元々ロマン
ティックなことが大好きな中国人には、誰の陰謀だってどうでもいいんでしょう。
しかしながら、年4回も大出費となる中国人男性には、なんとも気の毒なハナシ
です。中国人男性、ガンバレ~!
                (筆者は在中国・深セン日本語教師)

                                                  目次へ