中国・深セン便り
『中国・頂き物あれこれ』 佐藤 美和子
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かつて90年代の留学生時代は、誕生日プレゼントやお餞別などに記念品的なも
のを頂くことが多かったのですが、中国に住んで長くなると、頂き物の内容がず
いぶん様変わりしてきていることに最近気がつきました。
留学生時代に私が恩師や友人知人から頂いたものは、たいていが大きくて嵩の
高い飾り物でした。私、40センチ四方のずっしりと重い銅版の彫り物を、すっか
り荷造りを終えた帰国日当日出立間際に頂いたこともあります。彼女の民族を象
徴する伝統的彫り物だとのことだったので、頑張って背負って持ち帰り、今も実
家に飾っています。道中は死ぬほど重かったけれど、きっと彼女のことやあのお
餞別の品のこと、このエピソードのお陰で一生忘れないと思います(笑)。
とある友人は、大きくて壊れやすい素焼きの兵馬俑レプリカを貰ってしまって
大変困ったとか(西安から壊さないよう運んできてくれた中国人の友人も、さぞ
かし大変だったことでしょう)、訪日してきた中国人客に、「自分はこの紙袋い
っぱいの手土産を中国から持参したので、返礼として同じくこの紙袋いっぱいの
お土産を自分が中国へ帰国するときに下さい」と言われてあきれ返ったとか、第
104号に書いたプレゼントの渡し方やそのプレゼント内容一つ取っても、日中文
化の差異は事例に事欠きません。
私は、インテリな友人や恩師からは、中国語の勉強にと中国四大奇書の『西遊
記』、『三国志演義』、『金瓶梅』、『水滸伝』の児童書版や紙芝居などをよく
頂きました。これからも中国語が上達するようにとか、もっとこの国のことを勉
強して欲しいという気持ちがこめられているのが分かるので、本もやっぱり重い
のですが気持ちはとても嬉しいものです。
余談ですが、留学当時は私自身も中国語の勉強のために、童話やコミック本を
買い集めていました。例えば『ドラえもん』などに出てくる単語は日常に良く使
われるものが多く、ずいぶんと語彙力や読解力強化の助けになったものです。日
本のコミックだとすでに内容を知っている上に、『ドラえもん』のような平易な
ストーリーだと、多少知らない単語が出てきてもおおよその意味は推測できます。
いちいち辞書を調べる手間がかからないため継続につながり、外国人向けのテキ
ストで勉強するより、よほど語学力アップの役に立ちました。
当時買い集めたそれらの大量の本は、わざわざ日本へ郵送して持ち帰り、時々
取り出しては読み返していました。しかし、今は私自身が中国に舞い戻ってしま
っています。せっかく集めた中国語本、実家に残しておくだけでなく何か有効活
用するすべはないかと考え、数年前に何軒かの図書館に問い合わせてみましたが、
どこも中国語本の需要はないと断られました。
ところが最近、実家周辺でも中国人家族や日本に嫁いできた中国人女性が増え
てきており、近くの小学校にも中国人児童が複数いることをご近所さんから耳に
しました。
そこでその小学校に問い合わせ、中国語児童書やコミック本の寄贈を申し出て
みたところ、受け入れるとのことですべて持参してきました。中国から転入して
きたばかりの子供達、最初の何週間かは日本語も分からず孤独な思いをするはず
です。もし図書館に中国語の本があれば、友達ができるまでの放課後の孤独感を
少しでも癒すことができたり、もしくは『ドラえもん』や『ドラゴンボール』と
いった中国語版の日本コミックを通して、日本人児童たちと交流を持てれば早く
溶け込むきっかけになるのでは、と考えたのです。
海外に住むと、それほど本好きな人でなくとも母国語の活字に飢える事があり
ます。また、母国語なのにとっさに適切な単語が出てこなくなるなど、言語力の
退化もよくあることです。中国人の子供たちが、中国語をきれいさっぱり忘れて
しまわないよう助けにもなればと思い、その辺の事情もお話して寄贈してきまし
た。小学校側の対応からは、こちらの希望や意図はさほど汲み取っていただけた
ようには感じませんでしたが……まぁ、実際に海外生活経験がなければ、そうい
う感情は理解されにくいのかも知れません。
そんな風に、かつて中国での頂き物といえば、記念になるような飾り物がほと
んどでした。ところが最近は、食品がとても多いのです。とはいえ日本のような、
綺麗に箱詰めされた菓子折りや観光地でお土産用に売られているような品物では
ありません。大抵が、自家製だったり自分の故郷で採れた天然物などなのです。
例えば、第79号に書いた果物のライチ(〓枝)です。知人がライチの山を所有
しており、こだわりの完全無農薬で育てたライチを毎年たっぷり分けてくれます。
やはり東莞市郊外に住む地元出身の知人は、卵と鶏肉の自宅消費用にとニワトリ
をたくさん飼っています。吟味した無農薬飼料を与え、庭に放し飼いで育ててい
て、味が濃くて新鮮な卵を時々分けてくれます。
また、東莞名産の自家製中国サラミを毎年分けてくれる知人がいます。先月号
にもチラッとご紹介したこの(月+昔)腸という中国サラミ、イタリアンサラミ
とは違い、お砂糖がたっぷり入っていて甘く、独特の風味があります。昔はこの
甘いお肉に慣れず嫌いだったのですが、今ではすっかり大好物です。
この中国サラミ、蒸してふっくらさせて食べます。冷たいままでは固くて食べ
られません。例えばご飯を炊くときに、上に斜めにスライスしたサラミをのっけ
て炊くと、油がご飯に回って美味しくなります。私はざく切りにした大根や白菜
の上にこのサラミを乗せ、シリコンスチーマーに入れて電子レンジでチンして塩
で調味しただけの、簡単な蒸し料理にして食べるのが好きです。
その東莞の知人、毎年大量の豚肉塊で餡を作り、ソーセージを作るのと同じ要
領で腸詰器を使って腸詰めし、それを何日も天日に干して手作りしています。最
近では、本場東莞でも手間のかかる(月+昔)腸を手作りする家庭も少なく、工
場で生産される市販品を買うことが多いそう。
そして数年前までは、出来上がったそれを直接レジ袋にどさっと入れてくれて
いたのですが、ここ数年はジップロック入りに、そして昨年は機械を買ったのか、
真空パックにしてくれました。年々、進化しています(笑)。
この知人が毎年手作り品を分けてくれるのは、市販品にあまりに酷いものが多
いからです。市販品は、防腐剤や化学調味料がてんこ盛りなのは当然で、ひどい
のになると身元が分からない食塩(例えば食塩より激安の工業塩)だの古くてカ
ビた豚肉だの、もしくは病死肉を使っていたりするそうなのです。機械で乾燥さ
せてぎゅっと固いサラミに加工してしまえば、どんな材料を使っているかなんて、
そうそうバレやしません。そのため知人は、足りなければ言えばまた追加であげ
るから、市販品なんか絶対買っちゃダメよ!と言ってくれています。ありがたい
です。
毎年このサラミをくれる知人ですが、年によって出来が微妙に違います。実は
ここだけの話、この知人よりも彼女のお姉さんのほうが断然腕がよく、時々分け
てくれるこのお姉さん製のほうが美味しいんです(笑)。知人がくれるのは、昔
ながらの製法で添加物ゼロのホームメイド、品質は安全安心なんですが、でも出
来ればお姉さん作のほうがよりいっそう嬉しいなぁと言ったら、罰が当たります
よね(笑)。
そういえば、かつての教え子から、天然モノの上海ガニを貰ったこともありま
した。人気食材の上海ガニは、これもやはり中国の食の安全問題のご他聞に漏れ
ず、市販品は養殖モノで薬漬けだといわれています。量り売りの上海ガニ、少し
でも大きく育てて儲けを増やすために、成長ホルモン剤を投与して育てているの
です。本来、上海ガニとはチュウゴクモズクガニという品種を指すのですが、産
地の湖は水質汚染が進み、獲れる数が減っています。そのため、上海ガニと偽っ
た近縁種も多数出回っています。
そこでその教え子は、当日の早朝湖に行き、上海ガニ漁に出る漁船に乗り込み、
獲れたカニの足を縛って生きたまま、飛行機に持ち込んで持ってきてくれたので
す。市場やスーパーで売られているのは養殖でクスリ漬けの可能性が高いですが、
漁師と一緒に漁に出て獲れたてを買えば、少なくとも薬に漬けたりはされておら
ず安全と、そんな手間ひまをかけてお土産にしてくれました。
もう一つ付け加えれば、上海ガニの調理法を知らないガイコクジンの私のため
に、教え子のお母さんが蒸して調理をすっかり済ませた状態にして、持ってきて
くれました(笑)。本当に、至れり尽くせりです。
さて、そろそろこれら中国での頂き物の共通点が見えてきませんか? そう、
どれもこれも『安全・安心であること』が理由で選ばれた品々なのです。ネズミ
やゴキブリの出る汚い町工場で作られたのかも知れない市販品ではない。商売と
して儲けることが目的ではないので、粗悪な素材を使って作ったものではない。
健康に害を及ぼすような化学薬品などは一切添加していない。
翻してみれば、彼ら中国人の友人達が、いかに市販品を信用していないかとい
うことが見えてきます。だからみな、春節などで故郷に帰省したときなど、農業
を営む実家で作った作物などをたくさん持ち帰り、そんな中国では貴重な安全な
食品を私にも分けてくれるのです。分けてくれるときはみな一様に、これがどう
いう由来の品で、いかに安全であるかを伝えてくれます。
「これは実家で自宅消費用に育てている野菜でね、他の畑とは別に作っている
の。だから絶対に安全だし、スーパーで売っているのよりずっと美味しいわよ!」
と。
(筆者は中国・深セン在住・日本語教師)
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