■【北から南から】
深センから 『ショートショート』 佐藤 美和子
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最近、面白かったことや驚いたことなど、ちょっとした話題を並べてみます。
◇とある広東省出身の知人夫婦の話です。
どこの国でも嫁姑問題は同じようで、そこのご家庭でもやはり嫁姑間はうまく
行っていません。共働きのその夫婦、夏休みで家にいる子供の世話を夫の母に頼
んだのですが、姑はすでに娘のところの孫の世話を頼まれていました。あんたた
ちの子はもう小学生だが、娘のところは未就学児、小さい子のほうの世話を優先
すると断られてしまったのです。さらに、あなたの母親に頼んでみては?と姑に
提案されたお嫁さん、激怒!曰く、
「うちの子は'袁'姓なのよ!なんで李氏であるうちの母が面倒みなきゃならな
いのよ。夫の姓を継いだうちの子は袁家の子、だったら袁家の祖父母が世話をす
るのが当然でしょう!?義妹ところの子は違う姓なんだから、大きかろうが小さ
かろうが、うちの子が優先よ!!!」
日本にも内孫外孫という区別があるにはありますが……うちの相方に尋ねてみ
たところ、田舎には今でもそういう考え方をする人は多いとのことでした。へ~。
◇34歳大卒エリート銀行マンの知人と一緒に食事をしたときのことです。
他のテーブルのお客さんの携帯が鳴り出したのですが、この着メロがジャッキ
ー・チェンの歌う、『紅太陽』という古い歌でした。そこから話題が派生してい
き、なんとこのエリート銀行マンの彼、紅太陽の意味を知らないことが判明!紅
太陽って、毛沢東を指すのですが……。
まさかと思いつつ、毛沢東の故郷はどこでしょう?と問うてみれば、
「えーっと、どこだっけ?江西省あたり?」
絶句です。湖南省出身の毛沢東が、激辛で有名な地元料理を愛していたことか
ら、湖南料理は『毛家菜(毛家の料理)』とも一般に呼ばれるほどなのです。そ
こからも分かりそうなものですが……。80后や90后(1980年代や1990年代生まれ
の若者のこと)ならともかく、34歳の彼の時代は、学校で共産党や中国近代史を
みっちり仕込まれているはずなのですがねぇ。
イマドキの中国人は生活向上に忙しくて、歴史どころではないのでしょうか?
◇これも、知人たちと外食したときのことです。
食後、お会計するときに領収書を頼みました。すると、ちょうど広東省規定の
領収書用紙を切らしていて出せない、というのです。ありえません。
実はレストランとしては、納税額を少しでも抑えるために、領収書を出したく
ないのが本音なのです。領収書をきれば、売上額がごまかせなくなりますから
ね。とりあえず用紙がナイと言ってみて、仕方がないと客が引き下がってくれれ
ばラッキー!なのです。
私たちの場合は、店長をここに連れて来るようにと引き下がる意思がないこと
を告げると、
「額面が10元の領収書ならあるんですよ。でもそれでお客さんの1000元近
い領収書をきるとすごい枚数になっちゃいますが、いいですか?」
なかなか考えたものです。すごい枚数をうっとうしがって、ここで引き下がる
人も居るかも知れませんしね。すると同行の一人が冗談めかして、
「面倒だな、じゃあ領収書は勘弁してやるよ。代わりに、俺たち全員にジュー
スを一本ずつサービスするってのはどう?」
なるほど!レストラン側にしたら、ジュースの方が納税額より安くつきますも
んね、私にはそんな交渉術、到底思いつきもしません。中国人って、機転がきく
というか何と言うか(笑)。
結局、額面10元の分厚い領収書を貰って帰りました。
◇広東省では多くのレストランで出前サービスがあり、電話一本で発泡スチロー
ル容器に詰めた料理を届けてくれます。近場の出前なら徒歩で、少し距離がある
なら自転車で届けてくれます。中国では、マクドナルドやケンタッキーも宅配サ
ービスをしており、初回利用時に電話番号が登録されるので、二度目からは住所
も言わずに済むようになっています。ケンタッキーやピザハットなら、ネット出
前注文もできます。
先日、うちのマンション内で、自転車で出前配達中の人を見かけました。中国
の自転車には荷物かごが付いていないので、片手漕ぎで、左手にレジ袋に入れた
発泡スチロール弁当をぶら下げています。そして彼はその同じ手に、三股(竿上
げ棒、洗濯物を干すときに使う先がY字型になった棒)も握っているのです。
なぜ?と思ってみていると、彼はうちのマンション敷地内にある高校のそばで
止まりました。そして学校周辺にめぐらされた鉄柵の隙間から、中にいる高校生
と代金をやり取りしたのち、三股の先にお弁当入りレジ袋を引っ掛け、鉄柵の上
まで持ち上げて高校生に渡していました。なるほど~、このために三股が必要
だったのね。
最近この高校、学校を囲む屏の鉄柵を強化工事していました。前は十数センチ
間隔のごく普通の鉄柵だったのですが、その鉄柵を覆うように、さらに目の細か
い鉄条網がぐるりと張り巡らされたのです。マンションの各ゲートには24時間警
備員がいるし、その中にある学校にだって専門の警備員さんが常駐しています。
そんな警戒するほど、高校が強盗に狙われやすいのか?!と不思議に思っていた
のですが、恐らくこの出前が原因なのだと思われます。
こういう出前をするお店には、不衛生な店や営業許可を得ていないような個人
経営だったりすることが多々あります。酷いのになると、薄汚いバケツに汲んだ
水一杯ですべての野菜や調理器具を洗い、卓上ガスコンロを持ち出してきて、ト
ラックが行きかう道路わきにて調理しているのもよく見かけます(何故わざわざ
路上で?!)。
出来上がった料理はホーロー引きの洗面器に入れておき、注文が来ればそれを
(最近発ガン性物質混入が指摘されている粗悪品の)発泡スチロールに詰めて出
前するのです。
以前は、出前配達人と高校生たちは十数センチ開いた鉄柵の隙間から弁当や代
金のやり取りをしていたのですが、学校はそういう高校生目当ての商売人が群が
るのを良しとしなかったのでしょう。やり取りできなくするために目の細かい鉄
条網を張り巡らしたのに、三股持参で対抗とは、さすがです(笑)。
◇上記の三股と似たような使い方なのですが、広東省の駐車場や高速道路の料金
所では、金魚すくい屋のおじさんが持つタモを常備しているところがあります。
中国の車は左ハンドルです。しかし広東省には、香港から越境してきた香港人
運転の右ハンドル車もたくさん走っています。すると、助手席に誰かが乗ってい
ない限り、料金所で料金や領収書のやり取りが遠すぎて届きません。それに、車
が爆発的に増えだしたばかりの中国では、まだまだ運転技術が未熟な人もいます。
料金所で上手く車が寄せられずに、手が届かないからと車を降りるハメになっ
ている人がちょくちょく居るのです。そうすると時間がかかり、イライラした後
続車が一斉にビービーとクラクション……。
そんな状況を避けるために、右ハンドル車や車寄せに失敗した人には、係員が
タモを差し出してやり取りするのです。そうすれば、いちいち下車せずに済みま
すもんね。
洗面器に料理を入れたり、物の受け渡しに三股やタモを使うなど、本来とは違
う使い方をされている光景を中国ではよく見かけます。物品が不足する時代が長
かったせいもあるでしょうが、きっと、発想が柔軟な人も多いのでしょうね。
(在中国・深セン日本語教師)
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