【沖縄の地鳴り】

「抑止力」の欺瞞
〜日米同盟にいま何が求められているか

沖縄の誇りと自立を愛する皆さまへ 第24号・2015年6月より

辺野古・大浦湾から/国際法市民研究会


 名護市の19歳の学生(小波津義崇さん)が、琉球新報6月18日「論壇」に寄稿し、軍事力を「抑止力」というが「どのようにそれを測るか不確か」ではないか。また「抑止力」は、軍事以外にも開発援助などがあるではないか、と提起しました。
 学者の多くはこの「不確か」を認めながらも、状況証拠からアメリカによる「抑止」効果を推定しています。たとえば、同盟関係が有事の際、機能するかどうか「試されたことはない」が、「おもだった紛争がない」から「抑止力」が働いた。「新ガイドライン」や「周辺事態法」によって「中国への抑止効果が高まった」—などとされています(植木(川勝)千可子・本多美樹編著「北東アジアの『永い平和』—なぜ戦争は回避されたのか」勁草書房 2012年)。
 これらは状況証拠だけで判断する“推理”にすぎず、学問的ではなく政治的見解といわねばなりません。それでよいなら、小波津さんの提起の方により大きな説得力があるでしょう。以下は、その理由です。

◆「抑止力」による不信増幅スパイラル(螺旋形の繰返し)

 安倍総理は「安全保障環境の変化」を強調しています。それをいうならまず、ソ連の崩壊によって中国・北朝鮮は軍事大国のバックを失う一方で、米韓・米日同盟と米台関係に依然として包囲され続けているため、相対的に弱い立場に陥った事実を指摘すべきでしょう。つまり中国・北朝鮮にとってはソ連崩壊後、アメリカ中心の諸同盟が脅威となり、対抗上、独自に軍事大国をめざさねばならなくなったのです。
 そもそも「抑止力」は、対立緊張関係にある相手にとっては脅威です。なぜなら、抑止効果は「武力による威嚇」によって発揮され、相手にとって脅威にならない威嚇は無意味だからです。しかし「武力による威嚇」は周知の通り、国連憲章にも日本国憲法にも違反しています。
 「抑止力」は軍拡競争を促進し、一触即発のリスクを高めますが、先制攻撃(これも国際法違反)を「抑止」するためには、それをやめることができません。文明病というべきこの現象は国家間の相互不信を増幅するため、さらに強力な「抑止力」が求められることになります。つまり関係国は<抑止力⇒脅威⇒軍拡⇒不信⇒高度の抑止力>という不信増幅スパイラルに陥ります。

◆東アジアの軍縮と相互の理解と信頼

 このように、違法なばかりか非理性的で愚かな政策は、けっして私たち主権者の意思ではありません。その証拠に、いよいよ日本も“産軍政複合体”に支配される時代になったと感じる人がふえています。また緊張関係の国にあっても、人々は非軍事の多彩な分野で交流・交易を黙々と重ね、草の根レベルで信頼醸成に努めているではありませんか。主権者はどこの国でも、このような感性と経験を基本に生きているのです。
 政府間にあっても、緊張緩和の努力をしていないわけではありません。しかしそれは、このスパイラルを恒久的に「断絶」する決意のもとに行われるものではなく、当面の危機回避や短期的な緊張緩和の効果を求めてのことです。そうではなく、「断絶」のための政策として「東アジアの軍縮」を提起し、日米・韓米同盟において「隗より始める」努力をすべきではないでしょうか。そして、非軍事の多彩な手段によって相互信頼を高める計画を策定し、草の根の「抑止効果」を促進する責任もあるはずです。

◆多極態勢による平和創出の時代

 「安全保障環境の変化」をいうならもう一つ、世界の多極化が指摘されなければなりません。アジアにおいても、ヨーロッパ安全保障協力機構の全アジア版といわれる「アジア相互協力信頼醸成措置会議」(1993年)、南北朝鮮・日米中露などが参加する「ASEAN地域フォーラム」(94年)、中露が中心の「上海協力機構」(96年)と同機構による「長期善隣友好協力条約」(2007年)などは、ASEAN諸国と中国のイニシアチブによるものでした(「信頼醸成措置会議」はカザフスタンと国連)。
 つまり米日韓が軍事同盟に固執している間に、世界は着々と多国間の平和創出システムを整備し、アメリカのイニシアチブによる「抑止力」から多極態勢による「平和創出」の時代に移行しているのです。

◆核攻撃と島嶼防衛の大ウソ

 「安全保障環境の変化」には、核攻撃を受ける恐れが大きくなったこともいわれています。それならば、目標となりやすい原発を中止するとともに、米中露および北朝鮮に対し核兵器全廃を求め「東アジア非核地帯条約」の唱道者になるべきでしょう。そうでなければ「核の脅威から国民を守る」というのは、大ウソです。 
 安倍総理は、中国から尖閣諸島を守る必要も示唆しています。しかしこれも欺瞞です。なぜなら、現場海域がどんなに緊迫しても両国は軍隊を出さず、海上警察(日本では海上保安庁)だけで対応している理由が明白だからです。それは、1972年、日中共同声明で「両国は一衣帯水の間にある隣国であり、長い伝統的友好の歴史を有する」ことを確認し、中国は「中日両国民の友好のために日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」と宣言。また両政府は「相互の関係においてすべての紛争を平和的手段により解決し、武力または武力による威嚇に訴えないこと」を約束し、1978年日中平和友好条約でそれは再度、確認されているからです。

 (文責:河野道夫、読谷村)


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧