【コラム】ドクター・いろひらのコラム(23)
「安心社会への処方箋」とは? 財政を重視することである
色平 哲郎
イラン危機による物価高騰、原油やナフサなどの供給不足が全世界に打撃を与えている。皮肉なことに、紛争やパンデミック、金融恐慌などの国際的危機は、億万長者(ビリオネア)の支配力を一段と強め、貧富の格差を拡げる。イラン戦争が始まってからの株価の上昇ぶりを見れば、富裕層への富の集中が察せられよう。これまた由々しき問題だ。
今年1月、国際NGOオックスファム(Oxfam)は、トランプ米政権による富裕層優遇策などで、2025年に億万長者が凄まじい勢いで資産を増やしたとする報告書を発表した。保有資産10億ドル(約1580億円)以上のビリオネアのうちトップ12人は、人類の貧困層=約40億人超の総資産よりも多くの富を持っているのだという。
超富裕層への富の集中は社会を不安定する。こうした新自由主義の暴走に警鐘を鳴らしたのが、今年2月、91歳で亡くなった政治経済学者のスーザン・ジョージだった。
彼女は、国際通貨基金(IMF)や世界銀行が進める、破壊的な「構造調整政策」とグローバリズムを痛烈に批判してきた。
2014年に出版した『金持ちが確実に世界を支配する方法』(荒井雅子訳・岩波書店)では、〈歴史上、公的支出の総額の増加と、経済的・社会的生活の向上とが密接に並行していることがわかる、、、「世界の全雇用の約半分は公的支出によって支えられている。その三分の二は、直接の契約および波及効果を通して、民間部門で創出されている」〉と述べている。
公的支出が多ければ多いほど、社会保障は充実し、国民の生活は豊かになり、格差の少ない、安心な社会が作られる。ところが、世界で猛威をふるう新自由主義は、公的支出を減らし、民営化(私営化)を推し進め、労働の非正規化に走って生活を壊す。たとえば、イラン危機に際し、公的な石油備蓄の少ない国々では、市民生活や労働環境に法的制限がかけられている。
スーザン・ジョージは、この本で、あえて世界を牛耳る富裕層の側の視点を取り入れた。そのうえで富裕層が支配を強めるための目標として、次のような項目を並べている。
〈混乱を生み、今日の世界では時間ばかりかかる民主主義を弱体化させる〉
〈高くつく、行き過ぎた福祉国家を解体する〉
〈複雑系を管理する必要十分条件として階層を維持する。ただし下層民が報復を受けずに「権力に対して真実を語る」ことは認める〉
おそらく医療は、超富裕層が支配する新自由主義的社会では、もっとも「解体」の標的にされやすい分野だろう。
「権力に対して真実を語る」ことも、世界各地で危うくなっている。アメリカでは、ICE(移民・関税執行局)が移民の取り締まりを過激化させ、射殺事件も起きた。日本の「報道の自由度ランキング」(国境なき記者団発表)は主要7か国のなかで相変わらず、最低だ。同調圧力と、忖度がメディアのなかに巣くっている。
イラン戦争の一日も早い和平と、民主主義の再興を願わずにはいられない。
色平 哲郎(いろひら てつろう)
JA長野厚生連・佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長
大阪保険医雑誌2026年6月号掲載
(2026.6.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ/掲載号トップ/直前のページへ戻る/ページのトップ/バックナンバー/ 執筆者一覧