【コラム】酔生夢死

「同質一体」幻想から目覚めよ

岡田 充

 「若い記者たちとやり取りすると、『冷戦』というタイトルが出てくるだけでドン引きする。『昭和の左翼がガード下で議論しているイメージで論理的な感じがしない』と連中は言うんです」とぼやくのは40歳代の編集者。
 記者ですらそんな意識なら、「ヤフコメ」(Yahooニュースのコメント欄)で「極左老人」という称号をいただいた筆者の記事など、多くの若者から何度ドン引きされていることやら。「ドン引き」とは「しらける」、「気持ち悪い」などの意味で使われる若者用語です。

 その編集者から「安全保障も経済も周囲で起きていることに恐ろしいほど無関心な日本の状況が心配。今の日本の民度や知識層の厚みは60、70年代と比べ劣化したのだろうか」という質問が飛んできたので、苦手なスマホを使って次のように打ち返した。
 ――私には「民度」なるモノサシはありません。帰属から人を類型化するのは誤りでしょう。

 時代変化の要因の第1は、東日本大震災で「Line」通信回線が「威力」を発揮しSNSが若者に急速に浸透拡大したこと。それに伴い情報の個人化(個化)が進み、情報源の世代間格差も広がりました。若者の新聞離れが進み、TVのニュース・ワイド番組を観るのは主として家にいる時間が長い高齢者です。「嫌中、嫌韓」が売りの番組を観ていれば、高齢者にも嫌中・嫌韓意識が広がるのは当然です。 
 新聞やTVが多くの人の情報源だった時代は去り、国民「共通の前提」がどんどん失われています。これは世界共通の現象だけど、「失われた30年」によって経済衰退が深まる日本では、世界情勢を我が事としてとらえる「モチベーション」が希薄だと思います。
 大学生から「国際情勢を論じるだけで、“意識高い系”とイジられる」と聞いたことがあります。国際情勢の変化が、自分の生活や「生死」を左右しかねない国は多く、それはウクライナだけではありません。

 第2に指摘したいのは、小さな島で「ニッポン人は同質で一体」という幻想を共有する特殊性です。「同質一体」意識は、高度成長期には集団主義メリットを発揮し成長エンジン役を果たしてきた。でも衰退期のいま、同質一体幻想が支える終身雇用、年功序列システムは「おじゃま虫」でしかない。
 東芝、日立など日本が誇った製造業も凋落した。製造業を先頭にアジア展開し「アジアの盟主」を目指したのは40年以上も前です。いまや製造業に代わってアジア展開が目立つのは、特殊詐欺グループになった。
 カンボジア、タイなどを拠点に詐欺電話をかけまくり大金をせしめる対象は、日本の年金暮らしの老人ばかり。まさに「タコの足食い」ですが、同質一体幻想に浸かっている日本人にしか通用しない犯罪でもあります。この幻想から早く目覚めること、政府も社会も守ってくれません――

画像の説明
同質一体の象徴「金太郎アメ」

(2023.5.20)
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