【自由へのひろば】

「ポデモス(PODEMOS)」の動向と可能性について

齋藤 保男?


 スペインに、「ポデモス(PODEMOS)」という名前の、2014年に結成された比較的新しい政党があるのをご存知だろうか。急進左派、左派のポピュリズム政党などと冠されることが多い同党だが、そのイメージや実像はなかなかつかみづらい。そこで今回、同党の動向や今後の可能性について、スペインの政治状況なども踏まえながら簡単にまとめてみることにした。ちなみに筆者はスペイン関係の専門家ではなく、学生時代スペイン語を2週間かじって挫折した人間なので、文章には同党の web サイトなどやスペイン政府選管等のスペイン語資料のほか日本語の論文・論説資料などを参照している。そのため、いささか伝聞のような内容になってしまっている感があることをあらかじめご容赦いただきたい。

 ポデモスがどのような政治状況から出てきたのかを語る際に外せないのが、2011年5月に起こった、15-M運動(キンセ・デ・エメ)である。スペインではユーロ圏に加盟した2000年代前半、住宅需要の拡大などで経済状況が好調だったが、リーマン・ショックを境に急激に悪化した。サパテロPSOE(スペイン社会主義労働者党)政権による緊縮策の採用により、労働者の権利が縮小し若年層の失業率が上昇した。また、住宅ローンが払えなくなった住民は住居から強制的に追い出され、その数は30万世帯に及んだという。そんな中、2011年5月15日(日)に、インターネットでの呼びかけにより行われたデモ行進で逮捕者が出たことをきっかけに、釈放を求めたデモ隊の座り込みからマドリードの中心広場の2ヶ月に及ぶ占拠行動に発展したのが、15-M運動(キンセ・デ・エメ)である。
 参加者は「インティグナドス(怒れる者)」と呼ばれ、福祉削減の拒否・政治腐敗の追放・二大政党制からの脱却・金融機関の権力打破などを主張した。座り込みは他の都市にも広がり、警察発表で6万人(主催者発表:13万人)が参加した。この運動は、後にアメリカのウォール街を占拠した「オキュパイ」のモデルとされ、台湾の「ひまわり運動」や香港の「雨傘運動」にも影響を与えている。この運動での要求は直接的にはスペイン政治には影響を及ぼさなかったものの、市民が一人ひとり何かを考え、身の回りで実践していく意識を高める契機となった。

 ポデモスは、こうした既存政党による政策実施を拒否し身の回りの政策を考え行動しようとする市民の受け皿を目指して結成されたのである。中心となったのは、政治学を研究していた知識人のグループで、2014年1月に結成され、4ヶ月後の欧州議会選挙でスペイン割り当ての57議席中5議席を獲得して注目を集めた。翌年5月の統一地方選挙では、ポデモスの支持する候補がマドリード・バルセロナで市長に選出されるなどさらに躍進し、その後の一部の世論調査では二大政党のPP(国民党)・PSOEを抜いて支持率が1位になるなど、同年末に予定されていた総選挙の台風の目になると見られていた。結局2015年12月の総選挙では41議席を獲得し、系列の地域政党を含めて69議席の第3会派となった。同総選挙で首班選出ができず2016年6月に実施された再選挙では、IU(左翼連合。旧共産党を母体とした政党連合)と選挙連合「UNIDOS PODEMOS」を結成して45議席を獲得、会派としては71議席を獲得し、第3会派を維持し現在に至っている。

 このような政治背景から生まれたポデモスは、既存の大政党とは異なる性質を持っている。まず、ポデモスという党名について。これは、スペイン語の poder(できる、の意の動詞)の1人称複数形から付けられたものである。スペイン語は英語と違って、主語を必ず表さなくても、活用形で誰が主語かが分かるようになっている。そしてこのことばは、オバマ前米大統領の選挙キャンペーンのキャッチフレーズ“Yes, we can.”に相当するスペイン語のフレーズであり、ポデモスの行動理念を表していると言えるのである。

 ポデモスは、選挙政策など党にとっての重要事項の意思決定には、登録された約35万人の党員一人ひとりの意思を、インターネットまたは集会を通じて直接討議し平等に反映させようとしている。とはいえ、党運営のすべてを直接全党員で決めるわけにはいかないので、執行幹部として書記局を選出している。

 党代表としての書記長は、1978年生まれのパブロ・イグレシアス(Pablo Iglesias Turrión)である。彼は、マドリードにある伝統校のコンプルテンセ大学で政治学を博士号を取得し教壇に立つかたわら、地方放送局での討論番組「ラ•トゥエルカ」の司会を皮切りにテレビ局の政治討論番組に出演し、知名度を上げていった。2014年には大学を辞め、ポデモス結成時の中心メンバーとなり、欧州議会議員を経て下院議員となり現在に至る。ポデモスの顔として、長身・ノーネクタイ・ラフに後ろで結んだ長髪で、激しい口調で論争相手を挑発したり聴衆に語りかけるスタイルが、良くも悪くもポデモスを印象づけている。もう一人、ポデモスの顔として知られているのは、幹事長(政策委員長)を務めるイニゴ・エレホン(Íñigo Errejón Galván)である。エレホンは1983年生まれでイグレシアスの大学の後輩であり、同じように政治学徒から下院議員に転じている。イグレシアスと違い眼鏡をかけたギーク風な風貌である。

 市民の政治参加を促し重視するポデモスは、どのような政策を掲げているのだろうか。ポデモスは「デモクラシー(民主化)と人権」の促進と防御に焦点を当て、結党初期の2014年欧州議会選挙では「コマを進めて、怒りを政治改革に!」というスローガンのもと、政治を政界・財界・金融界の癒着した特権階層(カースト)から取り戻すことを掲げた。そして、彼らが実施する緊縮策が唯一の解決手段のように思い込まされている現状から、他の選択肢があることも含めて議論することを呼びかけている。

 具体的な政策としては、1)憲法135条改正の廃止(公的債務削減の基準と緊縮策の実行)、2)年金支給開始年齢の引き下げ(65歳→60歳)、3)ベーシックインカムの保証、4)正当とみなされない債務の返済拒否、5)君主制の廃止、6)新憲法制定議会の開催、7)地域の自己決定権、8)妊娠中絶の解放、9)移民の国際監視の撤廃、を提示した。反緊縮や君主制廃止を掲げていることから、急進左派と目され、特にイグレシアスが激しい口調で既存政党を攻撃し市民に直接呼びかけるスタイルから、反EUのポピュリズム政党と位置づけられるようになった。

 2016年の総選挙でIUと結成した選挙連合「UNIDOS PODEMOS」では、6つの項目(経済の民主化、社会の民主化、政治の民主化、市民の民主化、国際的な民主化、地域的・地方自治的提案)において394の政策を発表した。君主制の廃止などの急進的な政策は出さずその半数以上は最低賃金の引き上げや累進課税の強化といった、経済・社会の民主化に関する伝統的な左派的な公約であるが、中には「科学博物館の月1回無料開放」、「音楽・ダンス・スポーツなどの文化政策拡充によるいっそうの普及」、「子どもの宿題をなくすことによる、家庭での時間の充実」、「軍隊・警察組織における女性へのセクシャル・ハラスメント防止」など、市民目線での内容も含んでいる。これは、党活動の中で、地域単位または特定の専門的テーマ単位でメンバーの自発的な活動であるシルクロ(サークル)の考え方を反映させているものであり、既存政党にはない特色を表していると言える。

 このようにポデモスの躍進や政策を書いていくと、とても理想的な組織・政党であると感じられるのではないだろうか。実際、日本でも日本版ポデモス待望論を唱える論者もいる。しかしポデモスもスペインの政治的現実の中に存在する組織であり、様々な問題を抱えているのである。

 一つには、党内対立である。強烈な個性を持つイグレシアスの路線に対し、議会での多数派形成などをもとに政策実現と勢力拡大を図るエレホンとの意見の相違が、双方の支持者による鋭い党内対立を生んでいる。今年2月の党大会では、イグレシアス書記長の再任とイグレシアス派の方向性や人事案が多数として承認されたが、15-M運動や地域のシルクロなどの「下からの」草の根の活力と、個性の強いリーダーによる「上からの」集権型運営は相性があまり良くない。

 もう一つの課題は、他党との連携である。イグレシアス派とエレホン派の対立は、2015年総選挙後の政権構想を巡る意見の相違も一因である。PSOEに連立を拒否され同党をより批判し直接的な意見を基にした政策実現を強調するイグレシアスに対し、エレホンは政党間の政策協議をより重視している。

 現在スペインの世論調査では、政権与党であるPPが支持率1位だが、その支持率は25%前後であり、20%強のPSOEとポデモス、20%弱のシウダダーノス(Ciudadanos 、「市民」。2006年に結成されたカタルーニャ語優先政策に反対する地域政党が、2015年総選挙から全国政党化。2015年総選挙後PSOEとの連立を試みるも失敗。2016年の再選挙後、PPと連立与党となり初めて政権に参画している)の四つ巴の状態である。
 スペインはフランコ死後の民主化した約40年あまりの間、初期の中道政権を除いては、PSOEの左派政権とPPの右派政権が続いており、これに新興全国政党のポデモスとシウダダーノスをそれぞれ左派・右派に位置づけると、支持率では左右がここ3年あまりの間拮抗している状態と言える。4党の組み合わせ次第で政権交代がありうる状況下で、他の3党との対立が激しいポデモスは攻撃対象にもなりやすく、自ら選択肢を狭めているようにも見えるのである。もっとも、与党PPからは「ポピュリズム」「党内が紛争でバラバラ」「南米の極左独裁政権の手先」「 カタルーニャ独立を扇動しスペイン分割を促進し混乱に陥れようとしている」など事あるごとに攻撃され、同じ左派ブロックと目されるPSOEからは同族嫌悪的な反感も買っており、他党の関係構築は難題である。

 それでは、ポデモスは今後どうなっていくのだろうか。政権参加を狙うには、次の総選挙で単独過半数を得るか、他の3党いずれかとの連立政権樹立かの選択肢しかないと思われる。仮にポデモスの支持率が世論調査で1位になったとしても、スペインの総選挙は地域ブロック比例代表制であることや、4党の団子状態からしてもまず単独過半数は望めないだろう。そうすると連立政権参加となるが、日頃批判している既存政党のうちPPはまず政策的に無理で、できるとすればPSOEとの連立であるが、これも「下からの」草の根の政治参加を是とする党員の支持を失いかねない選択となりうるだろう。
 ただ、連立の是非や協力地域政党の意思決定を完全にガラス張りにし、「意思決定と政治参加の仕方では党内がまとまっている」という印象を強く見せつけられれば、総選挙まであと3年近くあると思われるので、息の長いPSOEとの連携・協力体制構築を図っていくべきではないかと、筆者は思っている。ただそれも、カタルーニャ「独立」などこれまでのスペインの政治状況を一変させかねない出来事が控えているので、3年後はなんとも不透明ではある。

 フランコ時代の幹部が結成しスペイン経団連が支持する右派のPP、地域政党から全国展開し改革政党として実力は未知数ながら支持が伸びているシウダダーノス、元与党の左派PSOEと、ここまで日本の各政党に似たポジションの政党が存在する中、さらに別のポジションの有力政党が存在するスペインの政治状況は、民主政としてはかなり活性化されたものだと言えるだろう。
 もっとも、民主化以降のスペインの首相はほとんどが40代前半で選ばれており、現在の党首もPSOEのペドロ・サンチェス(Pedro Sánchez Pérez-Castejón)が45歳、ポデモスのイグレシアスが39歳、シウダダーノスのアルベール・リベラ(Albert Rivera Díaz)が37歳、IUのアルベルト・ガルソン(Alberto Carlos Garzón Espinosa)に至っては31歳と、若さが支持獲得には重視される傾向にあり、PSOEのサンチェスやシウダダーノスのリベラはイケメンとしても有名である(ポデモスのイグレシアスも日本ではイケメンとして紹介されることがあるが、ご判断はお任せします)。
 スペインも日本もそうそう変わることはなく、違いは一人ひとりの政策実現に向けた意識と行動なのかもしれない。そうした意味では、ポデモスを注目したい支持する草の根の活動や活力が今後どう動くかいていくのか、引き続いて注目していきたいと思う。

 (プログレス研究会員・大学職員)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧