【コラム】風と土のカルテ(18)

「ヘルプマン!!」が問題提起しているもの

色平 哲郎


 くさか里樹さんの介護コミック「ヘルプマン!!」の連載が昨年末、週刊朝日で再スタートした。出版社は講談社から朝日新聞出版に移ったけれど、その問題提起力は少しも色褪せていない。「ヘルプマン!!」ファンとしては嬉しい限りだ。

 再スタート後の単行本 vol.1、「“胃ろう”になった高齢者が経口食に復帰できる確率6.5%。日本は胃ろう大国なんだよ。」という長い題名の「介護蘇生編」が先月末に発行された。

 主人公はフリーランスのホームヘルパー、恩田百太郎。チラシに「介護保険じゃやってくれないこともできます」「どんなじじばばもたちどころに笑顔にします」と書いて各戸に配布するが、怪しがられて仕事はこない。

 そこに、母娘家庭でお祖父ちゃんが施設に入っている昇子から電話が入る。お祖父ちゃんは認知症でほぼ寝たきり、誤嚥性肺炎を起こす危険があるからと医師の指示で胃瘻で栄養補給をしている。

 昇子はお祖父ちゃんを少しでも元気にしたい。できることなら、もう一度、一緒に暮らしたい。しかし、母親、つまりお祖父ちゃんの娘の千代は、自身が癌にかかっており、とてもお祖父ちゃんの世話は背負いこめない。

 さまざまな事情が錯綜するなかで百太郎は、お祖父ちゃんは胃瘻を外せる、口から食事がとれると確信し、走り回る。家族とぶつかり、病院の方針とも対立する百太郎。お祖父ちゃんの病室で胃瘻をとるかどうかの激論の途中で百太郎は、こう叫ぶ。

 「じっちゃんの命だ! じっちゃんの人生だ! 何をどうやって食うか……決めんのは医者でもオレらでもない……じっちゃん本人だ!」

 現実の医療、介護の現場では、こうはいかないかもしれない。しかし、百太郎のスタンスこそ今後の超高齢社会に求められているものだと感じる。

 (筆者は長野県・佐久総合病院医師)

※この記事は著者の了解を得て日経メデイカル6月号から転載したものです。


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