■【北から南から】

深センから 『24 時間断水・・・・勘弁して!』  佐藤 美和子

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  今月2日の事です。お昼頃、ふと気づくと断水していました。
   朝食の後片付けやなんやらをしていた時は、お水、問題なく出ていました。
その後、12時過ぎに手を洗おうと洗面に立ったとき、断水に気づいたのでした。

  うちのマンションでは半年に一度くらいのペースで、マンションの水槽タン
ク清掃のために半日ほど断水します。しかし困った事に、いつもやっとギリギリ
前日に、各棟一階ロビーの掲示板に断水の通知が張り出されます。ギリギリにし
かお知らせされない上に、個別通知もないため、一日外出をせずロビーを通らな
ければ掲示板に気づく事もなく、そして突然断水や停電に遭遇してしまうのです

  そういえば昨日は全然出かけなかったんだっけ、あーあ、掲示板を見逃しち
ゃったんだわ・・・・・と、汲み置きの水で苦労して手を洗いました。最近はず
いぶん減ったものの、以前は理由の分からない突然の断水も何度かあったため、
私は3.5リットル容量の大きなペットボトルに3本ほど、水道水の汲み置きを常備
していたのです。

  3本の汲み置きペットボトルをキッチン・洗面・トイレそれぞれに1本ずつ配
置し、断水中はそれでなんとか凌ぐ事にしました。いつもなら朝8時から断水が
スタートして、みんなが夕飯の支度にかかる夕方5時過ぎには終わります。今日
はなぜだかスタートが遅かったけれど、まぁ夕飯の時刻には出るだろうとたかを
くくっていました。

  しかし、11月中旬まで夏の気候が続く深センでは、9月はまだまだ連日32~3
4度もの真夏の暑さ。じっとしていても汗ばむほどですし、おまけに私は『手洗
い魔』なのです。何かを触るたびに、或いは何を触っていなくても、頻繁に手を
洗いたくなる癖があるのです。汲み置きの水をチョロチョロこぼしながら手を洗
っても何だかスッキリしませんし、これ以上汗をかいてシャワーを浴びたくなっ
ても困るしと、お昼寝してしまうことにしました。真ッ昼間から贅沢ですが、ク
ーラーをつけてお昼寝してしまえば、手を洗いたくなることもトイレに行く回数
も減りますもんね~。

  そして昼寝から目が覚めたらもう外は真っ暗、すでに夜の8時でした・・・
・・うっかり目覚ましつけるのを忘れて寝てしまったみたいです。幸い相方は出
張中だし、晩御飯はレトルトのカレーかなんかで済ませるかな、と起きて手を洗
いに行くと、あれっ、まだお水が出ない???

  これは困った、今日は断水スタートが遅かったからいつもより回復も遅いの
だろうけど、汲み置きの水も念のためにもっと大事に使った方がいいかも知れな
い・・・・・という事で、洗面に洗面器をおいて手洗いで流す水を受け、それを
さらにトイレを流す水に再利用することにしました。こんな事をしていると、昔
、チベット研究家のアメリカ人の友人に聞いた話を思い出します。チベット奥地
の高原では水が貴重なため、そこの人々は洗顔や長い髪のシャンプーを、洗面器
たった一杯の水で済ませてしまうのだそうです。まずタオルを洗面器の水につけ
て濡らし、その濡れタオルで顔や髪を湿らせて洗顔とシャンプーをします。手で
しっかり髪を絞ってシャンプーの泡をできるだけ取ってから、さっきの濡れタオ
ルで顔と髪に残った石鹸を丁寧に拭き取ります。最後に洗面器の残りの水を少し
ずつ髪にかけて、髪をゆすぎ洗えば完了。達人になると、最後に少しだけ水を残
しておいて、それでさっき使ったタオルの洗濯まで済ませてしまえるのだそうで
す。

  そんな暮らしをしている人たちのことを思えば、僅か半日の断水でこんなに
困ってしまうなんて、普段いかに自分が感謝の念もなく当たり前のように水を使
っていることかと反省させられます。よし、他の住人たちだって我慢しているの
だし、お皿を洗わずに済むように晩御飯はカップラーメンで済ませちゃえ。お風
呂に入れないなら、体はウェットティッシュでごしごし拭けばいいんだ、と知恵
と気合でなんとかその晩は乗り切りました。

  で、翌朝。
   さーて、昨日はお風呂に入れなかったから、まずシャワーでも浴びてこよう
とお風呂場へ行くと・・・・・うそっ、まだお水が出てない!一体どうなってる
んだー!と、ここで初めてなんだかおかしい事に気づきました。いつもなら、断
水だの停電だのがあるたびに、ご近所の中国人が大騒ぎしているはずなのです。
だけどこれだけ長時間断水が続いているというのに、今回はみんな大人しい・・
・・・もしかして、断水してるのはウチだけなのー?!

  出張中の相方の携帯にやっと連絡がついたのが、10時過ぎ。それから相方に
マンション管理事務所に問い合わせをしてもらったところ、「え?どの棟も、断
水なんてしてませんよ?」と言われた、と言うのです。てことは、やっぱりウチ
だけだったのかぁ~。だったら管理事務所に、原因を調べるように頼んで!と、
もう一度電話をかけてもらいました。だって、私はすでに家中の水道の元栓を確
認して回っていたのですが、どこかで水漏れしていたり何かが壊れたりしている
様子もないし、水道料金の払い忘れでもないんですもの、絶対におかしいです。

  それから更に1時間後、原因がやっと判明しました。
   管理事務所が言うには、うちと同じフロアの住人に、長らくマンション管理
費を滞納している人がいるのだそうです。いくら督促しても払う様子がないもん
だから、制裁として、管理事務所でその家のライフラインの元栓を締めちゃうこ
とにしたんだけどね、どうやらウッカリ間違って、お宅の元栓しめちゃったみた
い。これから係員にお宅の元栓開きに行かせるから、あと30分くらいで水は出る
と思うよ、いやぁ悪かったね、アハハ~
・・・・・なんですとーっっっ!

  いやぁ、久々にブチ切れました。どこの誰だかズボラな他人のせいで、私が
この24時間ものあいだ、チベットの水不足に思いを馳せつつ反省までしたりなん
かして、訳の分からない目に遭わされたんですもの(いや、反省は必要なんです
が)。だいたい管理事務所にしたって、それが何号室の元栓かもよく確認もせず
に閉めちゃうだなんて、なんてマヌケなの!ウチは滞納どころか、毎月数日の余
裕をもって管理費や電気ガス水道代をそれぞれキチンと振り込んでいるというの
に、それを「悪かったね、アハハ~」で済ませるなーっ!

  しかし何より汗でべたついた体があまりに気持ち悪いので、「何の落ち度も
ない無関係の私がどれだけ苦痛を蒙ったか、管理事務所に電話してうーんと苦情
言っといて!」と相方に押し付け、私は2日ぶりのシャワーを浴びにお風呂に直
行しました。お風呂でスッキリしたあとは、水道水汲み置きのペットボトル、さ
らに3本増やしてこれまでの倍の体制で備えることにしましたよ。お陰で我が家
のキッチンのシンク下、ペットボトルで満杯です(笑)。

  今回、水を大事に使う事のほかに、もう一つ、中国で暮らしていくための教
訓を得ました。
   いつもは私、非常事態に遭遇するたびに、「そんなに騒いだって仕方ないじ
ゃん」と冷めた目で中国の人々を見るところがあったのですが、これからは何か
があったら、私もまず騒いでみることにします!

  例えば停電が起こったとき、私はとりあえず懐中電灯やロウソクをつけて、
本でも読みつつ電気がつくのを静かに座って待ちます。しかしうちの相方もそう
なのですが、中国人はまず停電の範囲を確認しようとするので、各部屋の玄関が
一斉に開き、ドアからみなが一様に顔をのぞかせます。次に、マンション管理事
務所にクレームの電話をかけるのですが、みんながいちどきに電話をかけようと
するので、なかなか繋がらなくてイライラしています。

  飛行機の、天候によるフライト遅延や欠航の場合もそうです。去年の春節、
北京から戻る時に霧のせいで遅延騒ぎに遭遇した話を書いたことがありますが、
天候が理由でも、お陰で予定が狂った、どうしてくれるのだ、早く何とかしろ!
と、航空会社係員に食ってかかる人々が少なくありません。

  しかし今回の事で、中国の人々がとりあえず騒いですぐにクレームをつけよ
うとするのは、実は発表されたものや見掛けの原因を信用しておらず、苦情を言
えば何とかなるケースが多々あるための知恵だったのかもしれない、と思い至り
ました。今回の断水だって、私が勝手に水槽タンク洗浄のための断水だと思い込
んだのも悪いのです。中国人のようにまずそれが起こっている範囲を確認し、関
連部門へ苦情の電話の一本も入れていれば、すぐに原因が知れて丸一日も我慢せ
ずに済んだわけです。これまで大騒ぎする人々を否定的に見ていた私ですが、こ
んなヘンテコな理由で断水になることがあるお国柄(笑)、利益を自分で守るため
にも騒いでみることも必要なのだなぁと悟りました。やはり郷に入っては郷に従
え、ですね。

                    (筆者は在深セン・日本語講師)

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