【マスコミを叱る】(31)

2016年6〜7月

田中 良太


[カンパのお礼]
 前号でお願いしたカンパですが、多数の方々からご送金いただきました。お礼を申し上げます。メールなどで個々にお礼しなければならないのですが、アドレスなど不明の方も多く、このスペースを借りさせていただきました。

◆◆ 【本号の主テーマ=参院選結果をつくったのは誰?】

 第24回参議院選挙が7月10日投票で行われた。各紙はそろって11日付朝刊などで開票結果を報じたが、その見出しは驚くほど一致していた。

◆「改憲3分の2」で一致した報道
 一覧表風にすると以下のようになる。

▼朝日=改憲4党、3分の2に迫る 自公、改選過半数 民進11減、共産伸び悩む 参院選
▼読売=与党大勝、改選過半数…改憲派3分の2超す
▼毎日=2016参院選:改憲勢力3分の2超す 自公、改選過半数
▼日経=参院選 改憲勢力3分の2 与党で改選過半数 民進苦戦、共闘及ばず アベノミクスを継続
▼産経=改憲勢力3分の2超 発議可能に 現職2閣僚落選受け、安倍首相は8月に内閣改造へ
▼東京=改憲勢力 衆参で3分の2超 景気「未来へ投資」前面 改憲 民進にも議論促す 首相、会見で意向
▼中日=参院選 改憲勢力3分の2 首相「国会で議論」 自公 アベノミクス加速 改選過半数を確保
▼北海道=参院 改憲4党で3分の2*平野氏入党届*自民、単独過半数
▼西日本=改憲勢力 3分の2超 参院選 国会発議可能に 自公勝利 改選過半数 アベノミクスに信任
 (一部、号外や12日以降の見出し)

 キーワードは「改憲勢力3分の2」であり、「自公勝利」である。10日夜、テレビ各局はそろって開票速報を兼ねた特集番組をオンエアしていた。私自身はチラ見を重ねていただけだが、そこで出てきていたキーワードも同じことだった。

◆「改憲勢力」とは何か?
 しかし「改憲勢力」とは何か? という疑問が浮かぶ。「改憲勢力」という言葉自体、「昭和時代」に政治記者だった私にはなじみがない。私は新聞記事をデータベースなどでダウンロードし、パソコンに記憶させて、スクラップブック代わりに使っている。「改憲勢力」という言葉が初登場したのは、2002年の毎日新聞社説2本であることがわかった。

 日付の前後とは逆順だが、1件は11月2日付<考えよう憲法 古い対立の枠超えた集約を>である。その前日の1日、衆院憲法調査会(中山太郎会長)が中間報告をまとめ、発表した。
 2000年の第147通常国会は1月20日召集されたが、招集当日衆参両院に憲法調査会が設置された。衆院は自民党の中山太郎氏(当時の肩書きが「元外相」)参院は村上正邦氏(当時自民党参院議員会長)をそれぞれ会長に選出。「今後5年間かけて報告書をまとめる」ことを決めた。以下、衆院憲法調査会については「中山調査会」と表記する。
 中山調査会は、02年11月1日、中間報告を発表した。それについて論評したのが翌2日付毎日の社説<考えよう憲法>だったのだ。

 その中で「改憲勢力」が登場する。以下に記述を引用する。
<改正すべきテーマがたくさんあるといって、一つ一つ取り上げたら議論が拡散してまとまるものもまとまらない。狙いは第9条改正一点に絞りたい——。自民党内にこんな有力意見がある。

◆改憲勢力は衆参とも80%を超える?
 一方、護憲派と言われる人たちの間に「一里塚」論がある。環境権や地方分権を明記すべきだと考えるが、それを言うと改憲勢力と見なされ、改憲派が狙う第9条改正への一里塚に利用されるので言わない方がいいというのだ。>

 毎日の社説は、その7カ月前4月1日付でも中山調査会をテーマとした。タイトルは<改憲規定 「開かずの扉」のカギは民意>だった。「改憲勢力」が登場するのは、以下の文章だ。
<国会でも民主党の改憲容認派を加えると改憲勢力は衆参で80%を超えている。国民投票は現実の課題となり、国会の憲法調査会では「もはや不磨の大典ではない」という表現が枕ことばのように繰り返されている。>

 02年の段階で毎日の社説が使った「改憲勢力」という言葉は、自民党議員に改憲容認の民主党議員を加えた集団ということになる。それが「衆参(両院)で80%を超えている」という認識は正確だったのだろうか? 
 2002年だから小泉純一郎政権の最盛期ともいえるころ。中山調査会のリーダー中山太郎会長も、小泉氏と同じ旧福田(赳夫)派だった。改憲派の活動が活発だったことはわかるが、「80%超」という認識に驚く。
 当時すでに「護憲」をタテマエとする政党の中で最大のものは民主党(現民進党)となっていた。その中には後に首相となる野田佳彦氏がいた。松下政経塾出身者のリーダーであり、「戦後日本」についての基本認識として「東京裁判A級戦犯無罪論」を展開し続けていた。父親が自衛官だったということもあり、現行憲法についても「無効」がホンネだろう。民主党の中の「護憲派」は旧社会党左派の一部にすぎない。その他では共産党だけが「護憲派」と考えれば、「改憲勢力80%」という認識が成り立つ。

 毎日の社説2本の主張のポイントは、112日付の以下の文章だろう。
 <保守派にとって長い間の念願である第9条見直しは、検討対象の一つだろうが、「まず第9条改正ありき」の態度はとるべきではない。国会に出来上がった論憲の場を大切にしてほしい。
 9月の毎日新聞世論調査で、憲法を見直すべきだとする意見は過去最高の半数近くに達した。しかし、その対象に第9条を考えている人は少数派である。
 「一里塚」論は、過去自民党が改憲・護憲の二分論から、まず改憲派を増やす戦略を立てたことに対する警戒心に根差しているが、率直な議論を展開すべきだ。最終的に改正の是非を決するのは国民である。主権者に対し素直に訴える努力を怠ってはいけない。論憲を第9条改正のみにわい小化する考え方とともに、思考停止ともいえる古い殻から脱却すべきだ。>

 「主権者に対し素直に訴え」「率直な議論を展開」することを呼びかけている。「改憲勢力80%」という状況認識が、改憲・護憲の二分論否定、思考停止からの脱却論に直結したと言えるのではないか?

◆朝日での初登場は共産党の言葉
「改憲勢力」が朝日に初登場するのは、その4年後、06年05月03日付朝刊政治面である。<憲法記念日、各党が談話・アピール>という見出しで、各党の談話などを紹介した記事。その中に
<●共産、「改悪」阻止する
 改憲勢力の狙いの中心は9条改悪で、中身は「海外で戦争できる国づくり」だ。「九条の会」が5千近く結成されるなど国民のたたかいは広がりつつある。憲法改悪を阻止するため、全力で奮闘する。>
 という記事がある。共産党の談話(あるいはアピール)の中に「改憲勢力」が登場しただけだ。

◆本格登場は前回参院選報道から
 朝日の認識として「改憲勢力」が登場するのは前回=2013年7月参院選の記事を待たなければならなかった。
 公示を伝える7月5日付1面トップ記事は<与党過半数が焦点 改憲、3分の2めぐり攻防 参院選公示>が見出し。前文は
<第23回参議院選挙が4日公示され、433人が立候補を届け出た。21日の投開票に向け各党の論戦がスタート。自民、公明両党は安倍政権の経済政策アベノミクスの実績と衆参両院のねじれの解消を訴え、改選議席の63議席以上を確保して過半数獲得を目指す。民主党や日本維新の会など野党は与党の過半数阻止を狙う。憲法改正に必要な3分の2の議席をめぐる各党の議席数も焦点だ。>
 となっている。

 「改憲勢力」が登場するのは、以下の文章である。
<公明党は連立政権内での影響力確保に懸命だ。山口那津男代表は4日、東京都内で演説し、「中国や韓国と対話を長く続けてきた信頼関係がある。時々政府と政府の間は悪くなるが、公明党の役割が必要だ」と訴えた。公約では憲法96条改正について賛否を明確にしていないが、選挙結果次第で自民、維新など改憲勢力に公明党を加えると3分の2に届く可能性もある。選挙後の公明党の改憲への対応が注目される。>
 この文章で「改憲勢力」には公明党は含まれていない。「改憲勢力+公明党」が3分の2に達するか否かが焦点というわけだ。

◆「安倍首相主導で確保できるか?」
 この選挙で開票結果は、<自公圧勝、衆参過半数 自民1強体制に 参院選>(22日付朝日朝刊1面トップ見出し)となった。総合面の関連記事として<安倍色、問われる真価 くらしや経済の政策はどう動く? 憲法、外交にも課題>を掲載した。
<安倍政権の経済政策「アベノミクス」の真価がいよいよ問われる。経済成長を軌道に乗せ、大企業だけではなく、働く人のくらしを豊かにできるか。一方、来年春に予定する消費増税や社会保障の見直しなど「負担増」は家計を厳しくする。憲法や外交とともに安倍色の政策の行方には多くの課題が待ち受ける。>
 という前文の下、<景気・成長戦略 賃上げ・雇用増、見えぬ道筋>などの小見出しをつけ、分野ごとの課題を列記している。<憲法 国民投票法の見直し目指す>の項目は、以下の記述となっている。

<安倍晋三首相は、持論の憲法改正に向け本格的に動き出す構えだ。焦点は、改憲案の発議要件となる衆参両院の「3分の2以上」の改憲勢力を、首相主導で確保できるかどうかだ。
 与党は衆院では3分の2以上の議席を持つが、参院の事情は複雑だ。首相は参院の改憲勢力積み上げを目指し、発議要件を過半数に緩和する96条改正先行について各党の賛同を求める構え。日本維新の会は参院選で同じ公約を掲げ、みんなの党も考えが近く、民主党内にも同調意見がある。
 ただ、連立を組む公明党は慎重だ。報道各社の世論調査で96条改正に反対が多いのも不安材料で、首相は参院選の街頭演説で改憲にほとんど触れなかった。
 憲法改正の方向性について、首相は選挙期間中、テレビ番組で「9条を改正して(自衛隊の)存在と役割を明記していく」と表明。国防軍創設などを盛り込んだ自民党の改憲草案をベースに議論する考えだ。9条改正を見据える首相に対し、維新やみんなは道州制導入など統治機構改革に軸足を置き、公明は環境権などの「加憲」を主張。首相が連携先と見る各党の足並みはそろっていない。
 こうした状況を踏まえ、首相はまず改憲手続きを定める国民投票法の付則の見直しを今秋の臨時国会で目指す。付則では、18歳以上としている投票権を公職選挙法などと整合させるよう求めているが、調整は難航。これを棚上げして改憲の環境整備を進め、3分の2確保を探る構えだ。
 ただ、首相は周囲に「気楽に発議はしない」と漏らし、政権幹部も「首相はゆっくりやるつもりだ」と解説。政権内には「2〜3年後に発議し、衆院も解散して総選挙と国民投票を同時にやればいい」(自民党幹部)という意見もある。
 一方で、改憲を待たずに首相が取り組むのが集団的自衛権の行使容認だ。同盟国などが他国に攻撃された際に共同して対処する権利で、歴代政権は9条との関係で「違憲」としてきた。
 首相は私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)で検討を進めさせる方針。政権内では、秋に提言がまとまり首相が年内に憲法解釈変更を閣議決定、来年の通常国会で自衛隊法改正など関連法の整備に乗り出すとの「最速シナリオ」も語られる。ただ、「戦後の秩序を大きく変える」(自民党閣僚経験者)取り組みだけに、政治情勢を見極めながら進める考えだ。>

 参院で改憲勢力3分の2を達成するためには、安倍首相主導の努力が必要だという認識だ。連立与党である公明党の慎重姿勢を理由にしているのだから、端的に言えば、公明党に「改憲」姿勢を鮮明にするよう働きかけることが必要だというのが。この記事の主旨だと言える。

◆改憲勢力をホントに勝利させたメディア
 今回参院選の結果を「改憲勢力3分の2」とする認識は、前回のときと大きく異なっている。選挙の結果決まった議席数だけで「改憲勢力3分の2」が達成されたとするのである。タテマエ「護憲」であるはずの公明党を改憲勢力に入れているという問題があるだけではない。「おおさか維新」が主張する改憲は、現行憲法の「地方自治」規定をより強め、自治体を「地方政府」と言えるほどに強化しようという点に限られている。憲法についての論議を肯定する政党、あるいは個々の議員はおしなべて「改憲勢力」という認識は、あまりに極端であろう。

 以上「改憲勢力」について「言葉の歴史」を振り返ることになった。中山調査会が改憲に熱意を熱意を示したことによって誕生した。安倍政権の改憲肯定姿勢により、一般の政治論議に使われる言葉となり、その政治的意味も膨らんだ。今回参院選の結果を「改憲勢力3分の2超」と特徴付ける認識が一般化したことこそ、改憲勢力の勝利ではなかろうか?

◆「KY=空気が読めない」と「逆KY=空気を読むだけ」
 「KY=空気が読めない」という言葉が一般化している。中学校などで「あいつはKY」と言われると、いじめの対象になるとも言われている。朝日新聞記事データベースで「空気が読めない」を検索すると、初めて出てくるのは週刊誌「アエラ」の記事で、03年6月2日付。連載していた「石原慎太郎の作られ方」の第5回「美濃部トラウマ」と題する記事中だった。編集部記者の執筆で、石原知事のある行動について「(都)庁内の反発の空気が読めないまま」という形容詞をつけたのである。

 07年8月10日夕刊2面のコラム「窓・論説委員室から」が<安倍首相は「KY」?>というタイトルだった。
<最近、中高校生の間では「KY」という言葉がはやっているらしい。
 「K」とは「空気」、「Y」は「読めない」。仲のいい友人同士の間で、周囲の雰囲気(ふんいき)に気づかず身勝手に行動する級友がいたら、「あの子はKY(空気が読めない)だ」という使い方をする。
 この若者言葉が安倍首相を評する時にも使われている。
 参院選での自民党の惨敗(ざんぱい)を話題に、友人の大学教授と雑談していた時だ。
 「安倍さんは、世間の空気が読めてないのかあ」と言う私に、教授は「彼は『KY』なんですよ」と笑った。中学生の娘さんから教わったのだという。>
と説き起こしている。後半は
<安倍首相が、そんな批判に動揺する気配は見られない。著書「美しい国へ」では、困難にあたっては、「千万人といえども吾(われ)ゆかん」という孟子(もうし)の言葉をあげて、信念を貫く大切さを説いている。
 確かに、いつの世でも、時代の「空気」にただ流されてはなるまい。だからといって民意を読み間違えては安倍政権の傷は深くなる。
 「KY」ほど広がっていないが、面白いのが「ND」だ。広告業界の知人が中学生の娘さんから聞いたところによると「N」は「人間として」、「D」は「どうも」。眉をひそめるような行動をする相手に「彼女はNDね」という具合に使う。
 安倍首相への逆風が強まっている。判断を誤って、「ND」の声を浴びせられないように願うばかりだ。>
 となる。

 このコラム以降、「KY=空気が読めない」が、政治論議の中でも一般化したように思える。それだけならまだマシなのだが、政治記事をつくる記者たちが「KY=空気が読めない」という批判・非難を恐れているように思えてならない。「改憲3分の2」と「与党勝利」で一致した報道となるウラには、記者たちのKY真理があるのではないか。
 このコラムでも何回か書いたが、「KY=空気が読めない」はすぐに「逆KY=空気を読むだけ」に転化してしまうのである。

◆◆ 【関連サブテーマ 参院選結果づくりに協力したメディア】

 参院選が公示されたのは6月22日だったが、2日後の24日付朝刊で、主要紙がそろって「序盤情勢」を大々的に報じた。1面トップなどの派手な扱いで、関連記事も賑やか。地方版は選挙区情勢で埋められた。

 1面の大見出しを並べると以下のとおりだ。
▼朝日=改憲4党、3分の2うかがう 参院選序盤情勢・朝日新聞社調査
▼読売=改憲勢力「3分の2」巡り与野党攻防…序盤情勢
▼毎日=2016参院選:序盤情勢・毎日新聞総合調査 改憲勢力、2/3うかがう 自民、単独過半数の勢い 態度未定4割
▼日経=1人区、自民が堅調 野党共闘の効果は「東高西低」
▼北海道=改憲勢力3分の2うかがう 未定半数、参院選序盤情勢

 日経を除く4紙が「改憲4党(あるいは「勢力」)3分の2」をキーワードにしている。北海道は共同通信の記事を使っているのだが、それを含めた「情勢調査」は、22・23の両日行ったことが明記されている。有権者に投票する候補者名・政党名を聞く世論調査は、公示当日でも可能なのだろうか?
 私が電話を受けたなら、「まだ候補者の氏名も知らないから」と回答を拒否する。政党名の場合も同じことで、「候補者一覧も公約も見ていない」と言う。公示日の22日なら、候補者一覧や公約の内容を新聞でじっくり読んだ人はごく少数だろう。調査にマジメに答えようとする人ほど、まともに答えられない。
 調査の電話をかけるのは、各社共通して学生アルバイトのはず。少額の日当で「数をこなせ」と命じられる。「無回答は避けよ」「投票する候補者名、政党名ははっきりさせよ」という指示も重なる。
 アルバイト学生にとっては政党名で「自民党」、候補者名で自民党推薦候補と書いておくのが無難な道だ。こうした事情は、新聞・通信社が異なっても共通している。だからそっくり同じ調査結果ができあがるのではないか。
 「それでも当たるからいいじゃないか」というのが、新聞社の論理である。私は毎日の記者だったときから、新聞社の世論調査には批判的。このセリフは何回も聞いた。さらに反論したいときは、以下の論理を展開した。

 現代マスコミ論に「予言の自己成就」という言葉がある。多くの人が信じる「予言」は、予言であることそのものによって的中するという「法則」である。典型的なのは、ファッションの世界。ある年の夏のファッションについて、高名なデザイナーたちの予言が「シンプルで活動的な装いになる。色調は明るいものが好まれる」という内容で揃うと、必ずそれは的中する。デザイナーたちは「先見の明」を持っているのではない。「強い影響力」を持っているのだ。「予言」は予測ではなく、影響力を発揮するための言葉なのだ。
 Aデザイナーがまず発言する。Bデザイナーはまったく逆の「予言」を選ぶことも可能だ。しかしその場合、AとBとどちらの影響力が強いのか? 血みどろの争いを展開しなければならない。同じ内容でそろえる方が、デザイナー業界全体の利益につながる。
 情勢調査結果と銘打つマスコミの選挙結果「予言」も、このデザイナー業界と同じこと。同じ内容だからこそ、影響力は強くなる。

 テレビ・新聞がそろって自公など与党の圧勝を予測した。自公の支持者は「みんなもオレ(ワタシ)と同じ」と考え、胸を張って投票する。民主・共産両党などの支持者は「投票してもどうせ死票になるだけ」と棄権するケースも多い。マスコミもまたデザイナーと同様、予知能力を持っているのではなく、影響力が強いだけ。影響力を発揮する手段が「情勢調査」報道なのだ。
 24日付朝刊は、この「改憲勢力3分の2」紙面だったが、翌25日付朝刊は「英国 EU離脱」紙面だった。世界の構図が一変するのだ。それでも参院選結果予測は生き続けるというマスコミの論理は不思議というほかない。
 マネー市場は激変し、円高・株安の「EUショック」に襲われた。安倍晋三政権は「対応に全力を挙げる」と急きょ動き出した。マスコミはこの動きを報道し、「ともかく一所懸命やっている」という与党支持は強まっていった。
 新聞各紙・テレビキー局は投票直前に「終盤情勢」を報じたが、それも「序盤情勢」とおおむね同じ内容だった。「予言」を強めただけなのだ。序盤情勢▼終盤情勢▼開票結果が完全一致しているだけの選挙報道に、「何の意味があるのか?」と問いたい。これでは「安倍1強」政治と「翼賛メディア」の癒着ではないか。

  ×  ×  ×
(注)
 1.2016年7月15日までの報道・論評が対象です。
 2.新聞記事などの引用は、<>で囲むことを原則としております。引用文中
  の数字表記は、原文のまま和数字の場合もあります。
 3.政治家の氏名などで敬称略の部分があります。
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 (筆者は元毎日新聞記者)


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